ホームレスと科学者——エメリッヒ『デイ・アフター・トゥモロー』

ホームレスと科学者——エメリッヒ『デイ・アフター・トゥモロー』

概要

 『デイ・アフター・トゥモロー』は、2004年に公開されたアメリカのSF映画。監督はローランド・エメリッヒ。エメリッヒ監督はほかに『ムーンフォール』がある。

 地球温暖化によって突然訪れた氷河期に混乱する人々を現実味を持って描いたパニック映画である。

 映画はほかに『ダークナイト』『ジョーカー』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』『ワンダーウーマン 1984』などがある。

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登場人物・キャスト

ジャック・ホール(デニス・クエイド):気象学者。過去の気象を研究しており、いずれ氷河期が訪れることを予想している。

サム・ホール(ジェイク・ジレンホール):ジャックの息子。高校生。秀才。高校生学力コンテストにローラとブライアンと参加する。南に向けて避難しようとする人々を止めようとした。ローラのことが気にかかっている。
(他の出演作:『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』、デヴィッド・フィンチャーゾディアック』)

ローラ・チャップマン(エミー・ロッサム):高校生。サム、ブライアンと一緒に高校生学力コンテストに参加する。

テリー・ラプソン教授(イアン・ホルム):スコットランドの海洋学者。海洋の温度のデータを持つ。周りから無視されるジャックの警告に耳を傾け支援する。
(他の出演作:『ロード・オブ・ザ・リング』)

ルーシー・ホール(セーラ・ウォード):ジャックの妻。医師。障害を持った子供のために避難せず病院に残る。
(他の出演作:『ゴーン・ガール』

ジェイソン・エヴァンス(ダッシュ・ミホク):気象観測士。ジャックとフランクと同僚。サムがいるニューヨークにジャックと共に向かう。

フランク・ハリス(ジェイ・O・サンダース):気象観測士。ジャックとジェイソと同僚。ジャックと共にニューヨークに向かう。

J.D.(オースティン・ニコルズ):ニューヨークの高校生。資産家の息子。高校生学力コンテストに参加したさいにローラに好意を持つ。

ジャネット・タカダ(タムリン・トミタ):NASAの研究者。ジャックに協力する。

レイモンド・ベッカー副大統領(ケネス・ウェルシュ):アメリカの副大統領。環境問題に無関心で対応が遅れる。災害で亡くなった大統領に代わり、大統領として災害対応にあたる。

ルーサー(グレン・プラマー):ホームレス。ブッダという犬と共に行動する。

チョー トム・ゴメス(ネスター・セラーノ):アメリカ気象庁の職員。ジャックの上司。

あらすじ・内容・ネタバレ

 地球温暖化が進み、南極大陸の氷が溶け始める。南極に調査に来たジャックは、溶けた真水が海洋に流れることで塩分濃度が変化し、海洋循環に影響を及ぼすことで、将来的に氷河期が訪れると予想する。

 氷河期到来は遠い将来の予想であったが、世界各地で異常気象が発生する。近々氷河期が訪れると予想したジャックは副大統領に警告するも無視されてしまう。

 世界各国で発生した異常気象に世界中の人々が戸惑う中、ジャックの息子サムも学力コンテストに参加したニューヨークで災害に見舞われる。寒波から図書館に避難したサムたちはそこに留まることを決意し、ジャックが助けに来るのを待つ。

 異常気象がますます悪化し、氷河期が訪れることが確実視されるようになる。危機感を募らせたアメリカ政府は南に避難することを選択し、メキシコに移動するよう促す。

 人々が南に避難するなか、ジャックはサムたちを救うため、チームを組んで北へと向かう。

解説

氷河期はすぐそこまできている

 氷河期という設定は間接・直接を問わず多くのフィクションに取り入れられてきた(例えば、スピルバーグ監督の『A.I.』やポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』)。氷に襲われるという状況は人類絶滅や終末を容易に想像させるから、SFや黙示録的映画(黙示録的映画とは例えば『ミスト』、『ムーンフォール』、『宇宙戦争』のような作品)で多用されるのも納得である。

 しかし氷河期とは決して今現在とは関係のない、遠い未来に起こるかもしれない現象というわけではない。そもそも北極と南極に氷床が存在している現在は、260万年前から始まった第四紀氷河時代の一部である。地球温暖化という人新生に特有の現象とは別に、氷河期と温室期は交互に現れる地球表層の一般的な現象である。暖かくもなれば冷たくもなる、ある幅をもって寒暖を往復するのが地球本来の形なのだ。

 ある時期には地球全体が凍結したスノーボールアースという状態もあったとする研究もある。それは確かに終末論的でSF的ではあるが、遠い未来ではなくすでに過去に現実にあったことなのだ。

 本作はだからこの地球の現実の延長線上に氷河期の到来をみる。史実を交えている点からも監督の意図が透けて見えるように、我々の現実と映画の世界はほとんどパラレルワールドのような関係にある。そして氷河期は数万年後という時間スケールの学説レベルの話ではない。まさに今日、この瞬間に訪れるかもしれないのだ。

考察・感想

科学者に騙されるな

 SF作品において最も正しい考えを持つのは科学者である。主人公のジャックは堅物の気象学者で早い段階で警告を発する。それを無視するのは副大統領のベッカーである。有能な科学者と無能な政治家、この対立は定型化されている。

 だが震災やコロナを経験した我々は、科学者が如何に政治的であるかをよく知っている。御用学者は政治家にとって都合の良い主張を発信するし、世論を誘導したい学者は大衆を騙そうとする。ここで重要なのは科学者か政治家という対立ではない。ひとえに善意と悪意が存在しているのである。

 さらにいえば、科学を齧っていれば誰でも知っているように、シミュレーションはあくまでシミュレーションであってここまで正確に予測することはできない。なにも科学者を神のように崇める必要はない。また科学者の意見が当たっていたとしても全部を聞き入れる必要もない。科学者の意見は決して人間の感情や行動を考慮に入れいない。科学者と政治家の共存が必要なのだ。

ホームレスは生き延びる

 この世界ではノアの箱舟=船ですら人々を救ってはくれない。ファザコンのサムは父ジャックの言葉を信じて、仲間たちをニューヨークの図書館に留まらせる。南に避難しようとした人々は寒波に巻き込まれてしまった。ラストで建物に残った多くの人々が生き延びていたことからも、本作は焦らず行動しようというメッセージが読み取れる。パニックになって逃げれば死を招く。情報を得られるまではそこに留まり助けを待つのだ、と。

 この留まるというほとんど無謀な行動に救いの手を差し伸べるのが、留まる場所をもたぬホームレスである。ブッダという犬を連れたホームレスのルーサーは、特殊な感覚を持って危機を察知する。ホームレスとは逆説的にどこでもホームにできる者を指す。過酷な状況に置かれたとき最も順応できるのが、つまり最後まで生き延びることができるのがホームレスである。

 災害は強き者に死を、弱き者に生を与える。あるいは誰にでも平等に死をもたらす。大統領といえども災害の前には無力である。では生き残るためには何が必要か。留まるか、避難するか、ホームレスと行動を共にするか。災害に遭遇したその瞬間、選択の一つ一つが生き延びるために決して間違えることのできない大きな決断になるのだ。

 

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