『小部屋』 創作小説

『小部屋』 創作小説

 路地の奥に小さな四角い建物がある。なかには1畳半の暗い小部屋が3個ならび、各部屋の真ん中には部屋を二つに分ける薄い壁がある。そこには横8センチ、縦3センチの窓と、親指大の丸い穴があけられている。

 壁のこちら側で、一人の男が向こうにいる女を食い入るように見ている。

「あとちょっとだけ見てもいいかな」

 きつい赤色のビロードを貼り、見かけばかり膨らんだソファの上で、ピンク色のスリップは動作を停止した。黄ばんだ二つの乳房はすでにボロリと下着から飛び出ている。

「あとちょっとだけ見てもいいかな」

 暗い部屋に唯一開いた穴に入れた眼をずるりと抜いて、かわりに皮のむけた太った上唇をねじ込みながら、男はくり返した。女もそれに答える。

「追加でお支払い頂く必要がございます」

「うん、いいよ。んん、なんでも」

 穴に詰め込んだ上唇の先を、数匹のハエが掠め、その一匹が皮を持ち去ろうと留まる。しかしそれには誰も気づかない。女が青白い足を左右に開くと、黒々とした大きな目がのぞいていた。立派な銀の鼻輪をした牛の顔が見える。

「ああ、いいな。すごくいい」

 ハエは飛び立ち、男は小さな穴に自分の男根を喜んで差し出し、開かれた口にすり潰されるのを待ち侘びた。しかし困ったことに虫に驚いた牛は、今やうさぎに変わっていて、口に入らない。うさぎがしゃべるために口を開くと、男は怒り狂い、壁を激しく叩き始める。ドシンドシンというその振動で、かわいそうに、うさぎは死んでしまった。

 男は泣いたが、だらりと垂れたうさぎを眺めながら女はずるりとそれを引き抜く。ぽっかりと開いたこぶし大の暗闇を、泣き止んだ男とスリップの女は眺めた。女は手を大きく上に振り上げ、その顔を天井裏に潜む大きな芋虫に向けて、それを真似るように体を左右にくねらせる。男はそれに慄き、自分のものを引き抜いてしまおうと腰をこちらにぐいと引くが、収縮し切った穴にある木が剥けてできた棘と、四肢とうすい羽を左右に踊らせながらとびさかるハエたちに驚いて、もうそれは叶わない。女が肩の筋肉を出したり引いたりしながら腕を回すと、男はもう一度泣いたが、今度は世界の何もかもがそれを無視できるようだった。

 建物から出てきた男は、もちろん支払いを済ませていた。

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