主人公の条件——トールキン『ロード・オブ・ザ・リング』

主人公の条件——トールキン『ロード・オブ・ザ・リング』

概要

 『ロード・オブ・ザ・リング』は、2001年に公開されたファンタジーアドベンチャー映画。原作はJ・R・R・トールキンの『指輪物語』の第1部の『旅の仲間』。監督はピーター・ジャクソン。

 アカデミー賞で13部門にノミネート、撮影賞、作曲賞、メイクアップ賞、視覚効果賞の4部門を受賞。

 冥王サウロンの指輪を巡って、主人公と八人の仲間たちが壮絶な戦いを繰り広げる物語。

 Amazonプライムビデオでは過去編である「ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪」を放送。映画は他に『フォレスト・ガンプ/一期一会』『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』『レオン』『グラン・トリノ』などがある。

登場人物・キャスト

フロド・バギンズ(イライジャ・ウッド):主人公。ホビット。指輪の誘惑に惑わされづらく、指輪を滅びの山に捨てるべく、八人の仲間とともに旅に出る。
(他の出演作:『エターナル・サンシャイン』)

サムワイズ・ギャムジー(ショーン・アスティン):愛称はサム。ホビット。フロドの庭師して親友。

ペレグリン・トゥック(ビリー・ボイド):愛称はピピン。ホビット。

メリアドク・ブランディバック(ドミニク・モナハン):愛称はメリー。ホビット。

ガンダルフ(イアン・マッケラン):魔法使い。灰色のガンダルフと呼ばれる。賢者としてみんなから尊敬されている。

アラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン):人間。北方王国アルノールの王位を継ぐもの。

レゴラス(オーランド・ブルーム):エルフ。フロドたちと共に旅をしている。アラゴルンを慕っている。ギムリと名コンビを築いている。

ギムリ(ジョン・リス=デイヴィス):ドワーフ。フロドたちと共に旅をしている。お茶目でギャグ要員の要素も兼ね備えている。

ボロミア(ショーン・ビーン):人間。王国ゴンドールの出身で、執政デネソール2世の長男。欲に目が眩み、指輪を得ようとするも、自らの過ちを認める。

ガラドリエル(ケイト・ブランシェット):エルフ。ロスローリエンを治める。夫はケレボルン。
(他の出演作:『オーシャンズ8』)

サルマン(クリストファー・リー):白の魔法使い。ガンダルフの師匠であったが、サウロンの配下になっていた。

エルロンド(ヒューゴ・ウィーヴィング):裂け谷の領主である。半エルフのエルロンドと呼ばれる。
(他の出演作:『トランスフォーマー』)

アルウェン(リヴ・タイラー):エルフ。アラゴルンのことが好き。永遠の命を捨ててでもアラゴルンと共に生きる覚悟をしている。兄にエルロンドがいる。

ビルボ・バギンズ(イアン・ホルム):ホビット。『ホビット』の主人公。語り部としてホビット庄で暮らしている。

ケレボルン(マートン・チョーカシュ):妻はガラドリエル。ガラドリエルと共にロスローリエンを統治している。

あらすじ・ネタバレ

 遠い昔、冥王サウロンは、自らの残虐さ、残酷さを注ぎ込んだ指輪を作り出した。その指輪を使って中つ国を支配し始めるサウロンに、人間、ドワーフ、エルフの連合軍は戦いを挑み、人間のイシルドゥアがサウロンの指を切り落とすことに成功する。しかし彼は指輪を破壊せず持ち去ってしまう。だが指輪の力で目が眩んだ人にイシルドゥアは殺され、指輪は所有者を変えながら、いつしか伝説となっていく。

 中つ国第三紀。ビルボ・バギンズの111歳の誕生日がホビット庄で行われていた。旧知の中であるガンダルフも駆けつけるが、ホビットは誕生日スピーチの途中で不思議な指輪はめ消えてしまう。異変に気づいたガンダルフはビルボに指輪を置いていけと説得し、指輪は養子のフロドが譲り受け、ビルボは旅に出る。

 その指輪を暖炉の火に掛けると、闇の国の文字が浮かび上がる。これはサウロンの指輪だったのだ。指輪を破壊するためには、指輪をモルドール国の滅びの山の火口に投げ込まなくてはならない。指輪を奪うため敵が迫る中、ガンダルフはフロドに裂け谷の館に旅立つよう指示する。フロドは三人のホビットの仲間と旅に出る一方、ガンダルフは白の賢者サルマンに助けを求める。村の宿舎でアラゴルンと名乗る放浪者に助けられたフロドたちは五人で裂け谷に向かう。

 旅の途中、黒の乗主ナズグルに襲われたフロドは左肩を負傷する。エルフの薬でしか治せない傷を負ったフロドの元に、エルフのアルウェンが駆けつけ、ナズグルの追撃を振り解いてエルロンドの館に向かう。

 目が覚めたフロドは、ガンダルフとビルボと再会する。ガンダルフはサルマンの裏切りに遭い、どうにか逃げ延びてきたのだった。サルマンは新種のオーク、ウルク=ハイの軍隊を作り、指輪を狙っていた。

 エルランドは全種族を集めてこの危機に対抗するための会議を開く。議論は紛糾するも、アラゴルンが責任を持ってモルドールに指輪を捨てにいくと宣言すると、ボロミア、レゴラス、ギムリ、フロド含めた四人のホビット、ガンダルフが共に旅することになる。

 サルマンの妨害にあった旅の一行は、かつてドワーフの宮殿であったモリアを通ることにする。しかし、オークの急襲にあい、トロルと対戦することになると、仲間たちは次第に疲弊していく。さらに悪鬼バルログが現れたことで、ガンダルフは一騎打ちの形に持ち込み、両者とも崖から落ちてしまう。

 悲しみに暮れる暇もなく旅を続ける一行は、エルフの森ロスロリアンにたどり着く。統治者であるガラドリエルは、不思議な水鏡を使ってフロドに残酷な未来を見せるが、未来は変えられると勇気づける。

 フロドたちはエルフの小舟で大河を下り岸辺で野営する。ボロミアはフロドに近づいて来ると、指輪の魔力で次第に正気を失い指輪を奪おうとする。フロドが指輪で透明になり逃げると、ボロミアは冷静になり謝罪する。

 そこにアラゴルンが駆けつけるも、相手に信頼が置けなくなったフロドは警戒する。だがアラゴルンは指輪の誘惑を跳ね除け、フロドが単独で旅にでるという決意を受け入れるのだった。その瞬間フロドの剣が光っていることに気づいたアラゴルンは、オークの頭領ラーツが率いる敵襲があることを知る。

 激戦の中、フロドを逃すために囮となったメリーとピピンはオークに捕まり、ボロミアはラーツに殺害される。アラゴルンはラーツを倒し、ボロミアの最後を看取る。サムはフロドと共にいると決意し、二人で旅に出る。アラゴルン、レゴラス、ギムリらメリーとピピンを救うため、新たな旅に出るのだった。

解説

戦争、平和、そして冒険へ

 牧歌的な音楽と風景、ゆったりと進む時間が、ホビットの街が平穏であることを告げている。ビルボ・バギンズが経験したあの大冒険のあと彼がお爺さんになるまでの間、この世界は平和に包まれていたのだ。

 冒険譚を語るビルボの周りに子供達が集まるのは、子供が刺激を求めているからではなく、この街が平和だからである。戦争のあとには平和が訪れ、平和のあとには戦争が起こる。そして冒険とは、平和とそれの正反対にある戦争との間にある過程である。

 主人公のフロドが冒険に出ようとするのは、ビルボの冒険譚に魅せられたからでも、ホビット庄に飽きたからでもない。平和が壊され始めたからである。悲しいことに、平和な時代には胸躍る物語は存在せず、戦争の時代にこそ冒険があるのだ。

アカデミー賞四部門を受賞

 本作は興行的に成功を収めるだけでなく、アカデミー賞の撮影賞、作曲賞、メイクアップ賞、視覚効果賞の4部門を受賞した。2024年現在の目から見てもド迫力で圧倒されるので、映像系の受賞が多いのも納得である。

 『ロード・オブ・ザ・リング』はこのあと二作の続編を加えた三部構成で、どれも映像の迫力は一級品である。また後に制作された『ホビット』三部作も、細部にまでこだわりを持って製作されている。映画が見せる冒険はこうでなくてはならない。

考察・感想

欲がないことが主人公の条件

 アクションもさることながら、サウロンの指輪の誘惑に惑わされる仲間たちの葛藤も上手に表現されている。指輪に魅せられて多くの仲間たちが態度を急変させた。それは灰色の賢者ガンダルフとて例外ではない。

 主人公を教え導く老人が誘惑に駆られるという構成は、『ハリー・ポッター』シリーズに登場するハリーとダンブルドアの関係に似ている。『ハリー・ポッターと死の秘宝』で明かされる欲深きダンブルドアの姿に、人間の醜さを憂いながらも、賢者にもこのような一面があるのだと安堵したものである。

 それでもダンブルドアやガンダルフが賢者と呼ばれる所以は、彼らが欲に溺れる手前で、その原因から遠ざかろうとするからである。ダンブルドアは死の秘宝から、ガンダルフはサウロンの指輪から距離をとろうとする。ここにこそ賢者に比して能力的に遥かに劣る主人公の出番がある。彼らには欲がないのだ。欲なき人という特性こそが、この世界を救う主人公の条件である。ダンブルはこう言っている。

ダンブルドア(原作):興味深いことじゃが、ハリーよ、権力を持つのに最もふさわしい者は、それを一度も求めたことのないものなのじゃ。

ガンダルフよ、魔法を使え

 ところで、一つだけ不満を述べておきたい。ガンダルフは賢者であり魔法使いであるのだから、魔法を使ってほしい。確かにいくつかの魔法は使っている。サルマンとの戦いでも使用していた。だがそれは単なる吹き飛ばしの魔法であって、大魔法使いが真剣勝負で乱発していいものではない。

 極め付けは大量のドワーフに襲われたシーンである。彼は魔法を捨てて剣で戦っているのだ。もちろん剣術が強いくことに文句があるわけではない。だが、もう少しだけ魔法を、それも周りが驚くような魔法を使ってほしいのだ。私が想定しているのは『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』のダンブルドアとヴォルデモートの対決のような戦いである。カッコいい魔法こそ、ファンタジーの冒険映画に必要である。

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