ryo『メルト』解説|普通にいい曲を超えろ|歌詞の意味

ryo『メルト』解説|普通にいい曲を超えろ|歌詞の意味

概要

 『メルト』はryoが作詞・作曲した曲で、音声合成ソフト「初音ミク」が歌った動画がニコニコ動画に2007年に公開された。使用して動画共有サイトのニコニコ動画にて公開された楽曲。

 音楽は他にきゃりーぱみゅぱみゅ『きゃりーANAN』くるり『奇跡』スガシカオの『奇跡』ラサール石井『おいでよ亀有』和田光司『Butter-Fly』、オフコースの『YES-YES-YES』『秋の気配』『言葉にできない』、米津玄師『地球儀』米津玄師『Lemon』RADWIMPS 『魔法鏡』などがある。

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歌詞解説・考察

「普通にいい曲」という評価

 2007年12月13日、メルトショックを起こした本曲「メルト」は、それ以降のボカロの潮流を決定づけた。甘酸っぱい歌詞にポップな音楽、そしてボカロ初音ミクの惹きつける声。15年以上経ったいまでも、この曲の魅力はまったく衰えていない。

 『君たちはどう生きるか』で『地球儀』を歌った米津玄師(代表作は『lemon』)はこの曲のよさについてこう言っている。

けど、Mr.Childrenやサザンオールスターズの音楽を紐解いていくとめちゃくちゃ複雑なことをやってるし、“ただ普通にいい曲”じゃないんですよ。ryoさんの曲もおそらく同じような構造で成り立ってるんだろうなっていうのを最初に聴いたときに思って。だから純粋に音楽に強度がある。すごく影響を受けました(引用:wiki

米津がいうようにこの曲は「ただ普通にいい曲」ではない。「普通にいい曲」には収まりきらない魅力があるのだ。

ピュアな恋愛歌

 この曲の「普通にいい」部分は、女子高生(?)のピュアな恋愛をテーマにしたその歌詞にある。数多くある恋愛曲の中でもピカイチにピュアであって、甘酸っぱい歌詞が視聴者の心を溶かしてくれる。

メルト溶けてしまいそう
好きだなんて絶対にいえない…だけど
メルト目も合わせられない
恋に恋なんてしないわわたし
だって君のことが…好きなの

「好きだなんて絶対にいえない」し「目も合わせられない」となると本当に何もできないのだが、「だけど」「好きなの」と本音が漏れるところにキュンキュンする。

 一番では学校に行く前の部屋で準備している時を歌っていたが、二番で歌われるのは相合い傘をする直前のドキドキの瞬間である。

そんなとき
「しょうがないから入ってやる」なんて
隣にいる君が笑う
恋に落ちる音がした

この歌詞の最後に聞こえる「チャポーン」という音が「恋に落ちる音」である。これか!!知らなかった!!こんなシチュエーションに巡り会えた人は幸運である。

時代を映す「なんてね…」

 という感じで、恋愛前の純粋なドキドキ感が率直に伝わる歌詞が「いい曲」の所以である。だがこれだけでは「いい曲」止まりである。その「普通」のラインを超えたのが最後の一節である。

もうバイバイしなくちゃいけないの?
今すぐわたしを抱きしめて!
…なんてね

別れ際、「もうバイバイしなくちゃいけないの?」からの「今すぐわたしを抱きしめて!」で、感情のボルテージが最高に上がった瞬間、「…なんてね」と照れがはいる。この照れこそが本曲のひいては時代の精神を表している。

 この曲が公開されたのは平成19年(西暦2007年)のことである。では平成とはどういう時代だったのか。『踊る大捜査線 THE MOVIE』や『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』で論じたように、平成とは真面目と不真面目が共存しマジになれば茶化そうとする相対化の時代である。この時代において純度100%の恋愛を歌うことは難しい。何故ならそのような恋愛にはいつも茶化しが入り熱が冷めてしまうからだ。

 『メルと』はそのような時代にあえて歌われたドッ直球の恋愛歌である。本気になれない時代に熱中の方向に振り切れたからこそ本曲は熱狂的に受容された。だが時代が強いる相対化の圧力はなくなったわけではない。本曲の主人公の最後の一言「…なんてね」という照れこそがこの時代精神を表している。

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