東京オリンピック2020/開会式で私たちは何を見たのか①

東京オリンピック2020/開会式で私たちは何を見たのか①

「ここから始めましょう イチから―― いいえ、ゼロから!」 ー『Re:ゼロから始める異世界生活』

 2020…いや、2021年の7月23日。新型コロナウィルス感染症の流行や数々の醜聞など、逆風吹き荒れる中での開催ではあったが、そうは言っても一大イベントであるオリンピック。カレンダーには反映されていなかった祝日を自宅で楽しみながら、画面の前で開会式の始まりを待っていた人も多かったのではないだろうか。

 二年近くたった今、開会式の内容を忘れてしまったという人も多いに違いない。特にこの二年は時間の進み方が独特で、「あれ?これは一年前の話?二年前?それとも三年前?」と、忘却が加速している可能性も考えられる。ピクトグラム?ドローン?聖火リレー?・・・いや、それだけではなかった。

 この記事では、東京オリンピック2020の開会式で私たちが何を見たのか、各セクションを5つの観点から評価し、改めて振り返ってみたいと思う。

①技術点…パフォーマンスに優れた技術が使われているか。
②演出点…パフォーマーやコンテンツの魅力が十分引き出されているか。
③構成点…開会式全体の流れや、調和が取れたものになっているか。
④独自点…世界の中で日本の固有性を伝えられるものになっているか。
⑤ゼロ点…0(ゼロ)をアピールできているか。

ポイントは5(とてもよくできている)4(よくできている)3(少しできている)2(普通)1(全くできていない)の五段階とする。
 読者の皆さんも、記憶の引き出しを開けて、あるいは映像をもう一度確認して、「何を見たのか」をこの機会に、印象から確かな歴史へと変えてほしい。

 なお、各セクションの開始時間やスクリーンショットはyoutubeにアップロードされている、Olympics.”The Tokyo 2020 Opening Ceremony-in FULL LENGTH!”.による。

1.幾何学形態とスタジアム(0:13:00〜0:14:31)

【内容】

 黒板に引かれた一本の線から、いくつかの形態が展開され、抽象的なドーナツ型からスタジアムの形態が浮かび上がる。空中からスタジアムにどんどん近づいていく。近づいていく途中で、画面にCGの鳩三羽、バッタ、ダンゴムシが登場する。(図1,2)

 映像はさらにミクロな世界になり、スタジアムの芝生と土の粒が顕微鏡で見るように、または宇宙空間の中のように、大きく映し出され、その後ろに光るスタジアムが浮かび上がる。土に水が撒かれ、何かの種から芽が出る。
 ここでスタジアムのパフォーマーにカメラが移る。最初は蹲っていたパフォーマーの影が芽吹く双葉となり、影は大きく伸びていきパフォーマーはどこかに向かって走り出す。暗転。

【講評】

①技術②演出③構成④独自⑤ゼロ
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 このセクションは、今回のオリンピックスタジアムの魅力をアピールする目的で作られたと考えられる。

 オリンピックスタジアムは当初国際コンペが行われ、現在とは異なる複雑な構造の設計案が採用されるはずであった。だが、紆余曲折の後、シンプルな“0(ゼロ)“の形をした現在のスタジアムとなった。神々しく光るスタジアムは、シンプルな形状の良さを見せているのではないか。

 次に、コロナ禍で無観客となってしまったスタジアムには、パッと見では分からなくても、人間以外の小さな生命が暮らしていることが描かれている。天然芝のスタジアムであることを背景に、多様性の尊重が示唆される。多様性の尊重を裏付ける演出はもう一点あり、種(ひまわりに見えるが何の種か不明)から出る芽は双葉、すなわち双子葉類である。しかし、芝はイネ科の単子葉類であり、明かに違う植物が生えてきている。美しく画一的に揃えられたように見える芝生であるが、異なる植物を排除するわけではない。ということが言いたいのだろう。

 ただ、いずれの演出の意図も一見してわかるものではない。これは、シンプルなゼロの話をしたいのか、自然讃美をメインに多様性の尊重の話をするのか、選手たちと小さくても力強い生命を関連づけていくのか、メインストーリーと呼べるものがないことによる。開会式は通常何度も見返すものではないので、演出点と構成点は低い評価をつけざるを得ない。

2.2013年からのカウントアップと開催へのカウントダウン(0:14:37〜0:18:11)

【内容】

・選手たちの道のりカウントアップ 2013→2020(0:14:41〜)
 ※()内の西暦は、映像に大きく表示されていた数字を示す。

 開催地東京に決定。東京タワーのドローン撮影。車窓から見た工場の風景。
 体操競技の練習場(2013)。練習に向かう選手の後ろ姿。つり輪の練習風景。背筋トレーニング。テコンドーの練習風景(2014)。ウェイトリフティングの練習風景。バレーボールの練習風景(2015)。短距離走スタートの練習風景。横跳びの練習風景。ボクシングの練習風景。フェンシングの練習風景。ハードル走の競技風景(2016、リオオリンピック)。シンクロナイズドスイミングの競技風景。陸上競技中、選手が他の選手を助け起こす様子。シャトルラン?の練習風景(2017)。背筋トレーニング。ソフトボールの練習風景。アメフトの練習風景(2018)。体操競技の練習風景(2019)。パリ凱旋門と花火(2020)。
 カメラが引いてパリ凱旋門と花火は画面に映されている。六つの画面が暗転。

・コロナ禍の世界パート(0:15:32〜)

 無人の渋谷・スクランブル交差点。ほぼ無人のNY・タイムズスクエア。無人のミラノ・ドゥオモ大聖堂広場。暗い匿名的な空間の奥にフェンシング選手、手前を走る選手の足元。
 画面左から右へと走る選手(バスケ、幅跳び、ボクシング、水泳、バドミントン、フェンシング)たち。
 選手が大きなプラグをさす。再び六つの画面が通電し、選手たちが各々の自宅(と思われる)で練習する風景が映し出される。画面の手前に山間の湖のような地形。集まって競技を観戦し、歓声をあげる人たち。競技を見守る人たちの表情。選手へ手を振る様子。
 画面の前に立つ選手(正面から映す)が歩き出す。カメラ位置が変わり、選手たちの後ろ姿と立ちはだかる壁が映る。

・カウントダウン 21→0(0:16:38〜)
 ※()内の数字でカウントダウン。

ジャージの上着を脱いだ選手の背中の背番号(21)。バスケの24秒スコア(20)。体重計の目盛り(19)…ただし直前に映っている女性の横顔との関連は不明。水泳選手の後ろ姿。赤い旗(18)…水泳競技に使うものか。立ち上がる卓球選手のペア後ろ姿。スイッチ(17)。赤い丸。赤いグローブを身につけたボクシング選手。手を振る人たちの画面前に正座する柔道選手。赤い靴の長距離走選手。黒板に書かれた数字(16)。ソフトボールの選手。スコアボード(15)。柔道選手。赤い丸。サッカー選手の足元。陸上競技のタイム計測器(14)。壁に突っ込んでいく、クラウチングスタートする陸上選手。丸いシート(13)…芝生で行う競技に使うものか? アメフト選手。スコアボード(12)。野球選手。ホッケー選手。赤い丸。ゴルフボール。壁を超えようとする棒高跳び選手。メジャーの目盛り(11)。スケートボード選手。壁の上を飛び越すハードル走選手。卓球選手。壁の破片? 赤の線と三角(10)。壁を突き破ってきた高跳び選手。壁を突き刺すフェンシング選手(9)。壁にスパーリングするボクシング選手(8)。壊れる壁(7)(6)。壁にタックルするアメフト選手。(5)ソフトボール選手。(4)壁に蹴りを入れる空手?選手。(3)壊れる壁。(2)壁の壊れた隙間から選手たちがオリンピックスタジアムへ向かおうとする(1)。空中から俯瞰したスタジアムの花火。

【講評】

①技術②演出③構成④独自⑤ゼロ
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 このセクションは、3つのパートに分かれてはいるが、東京オリンピック2020の開会式へと向かう経過を振り返る動画である。

 2013年からの西暦カウントアップについて、表示されている西暦は、とても上手く合成されていると思う。筆者は本物かどうか正直わからなかった。しかし、カウントアップの始めと終わりには疑問が生じる。2013から始まり、2020で終わるのである。2013が印象的なのは日本のオリンピック組織委員会のメンバーの方以外にそう多くないと考えるし、2021がカウントされないのは、いくらTOKYO2020と言われても違和感を覚える。次のパートで画面が暗転し、2021年は一見失われたように見えるが、それでも、選手たちは歩みを止めていなかったことを映すのだから、このどこかに2021を入れても良かったのではないだろうか。

 また、コロナ禍の世界パートの薄暗い匿名空間でフェンシング選手の手前を複数の選手が走り抜ける場面が挿入される効果が筆者には分からなかった。見えない出口を探してみんな全力で走っていた、という演出かとも思ったが、それならばフェンシングの選手も仲間に入れてあげてほしい。

 カウントアップと似たように見えるが、今度は少し違う手法を使い、20ではなく21からカウントダウンが始まる。

 カウントダウンパートでは、21→11までは、競技に使う実際の道具に記される数字(スコアボードの数字など)を使い、10→1までは単純に新規レイヤーで上に合成された数字を使い、0はスタジアム自体を0の数字に見立てる、という3つの方法を使っている。

 また、映る映像も12までは、日の丸を思わせる赤い丸(図3)と丸い形の器具(球技のボールやボクシングのグローブなど)を重ね合わせているものが多いが、14のあたりから、コロナ禍の世界パートの終わりで出てきた「立ちはだかる壁」が再登場し、競技をしながら、壁を飛び越えたり、突き破ったり、ぶち壊したりする。

 そして0のオリンピックスタジアムはどの分類にも当てはまらず、特別感が出されている。(図4)

 いずれのパートもさまざまな工夫がされていることは分かるが、工夫が細かすぎる。特にカウントダウンパートは工夫が入り混じりすぎている。一つ目のセクションと似たようなまとめになってしまうが、各種競技の裏方である道具を紹介しながらカウントダウンするのか、日の丸と関連付けながらカウントダウンするのか、各競技それぞれに壁と向かい合っていることを描きながらカウントダウンするのか、何回か出てきただけのモチーフをテーマとして受け止めるのは難しい。こうなるとスタジアムの0(ゼロ)の潔さが目立つ。

 まだ二つのセクションを振り返ったのみだが、すでに共通点のようなものが見え隠れしている。

 開会式の動画を見返すのに思ったよりも時間がかかってしまうので、不定期連載で7月23日に書き終わることを目標としたいと思います。

<参考>Olympics.”The Tokyo 2020 Opening Ceremony-in FULL LNGTH!”.YouTube video,.2022/4/14.(参照2023/5/7)

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