その人は塔を作っていた。砂漠の中で一人、ずっと塔を作っていた。広大な何もない砂漠で、塔はその人の手で少しずつ高くなっていった。
ある時、私はその人に問いかけた。なぜあなたは塔を作っているのですか。
塔はもう大分高く、その人も作りかけの一番上にいた。私はもう見えない程に高くにいるその人に、塔の足元から声をかけた。霞む高さにいるその人は視認できず、その少しずつ成長する塔のてっぺんに向かって大声を出した。
少し経って空から声が降ってきた。この塔は誰にも壊せないから。
遠くから届く声はそう言っていた。あまりに高くにいて見えないから、いるのかいないのかわからないままに声をかけたが、その人はやはり存在し、今でも塔を高くし続けていた。
次の言葉を待って私は塔を見上げていた。見上げながら、声の主に思いを馳せた。その人が塔を作り始めた時に見たその人を思い出そうとしたが、うまくいかなかった。ずっと空で塔を作り続けているその人は、私の中でその人というよりはもう塔だった。
どういうことですか。見上げ続けても言葉がないので私は再び大声を塔に発した。
この塔は誰にも壊せないのだ。私はかつて自分の作った塔を壊されてきた。何度も何度も。だから私はここに来たのだ。この世界は私が作ったものだ。あちらの世界の私は今でも何も築けていないかもしれない。神は壊す。神がいる限り私は塔を作ることができない。だから私は私だけの世界を作り、塔を作る。ここでならどこまでも作っていくことができる。
そうだ、この人は、神のいない世界を作り、一人で塔を作り続けていたのだった。私は思い出した。砂だけの世界の塔の上で、彼は今何を見ているのだろう。遥か高くからの声が続いた。
この世界に君を呼んだのは、この塔のことを記憶していてほしかったからだ。この世界に私だけしかいないのなら、この塔について誰も知らないままになってしまう。君が見てくれているのなら、この塔は君にとっても存在する。私は自分だけの世界で自分だけの塔を作り続けるだけでいれるほど、強くはなかったのです。
「チュルリョーニス展」を観に行って、そんなことが頭に浮かんできた。どうしてだろう。朝でも昼でも夜でもない頃に、また考えてみることにする。そしてその物語を書こう。
目を閉じると、足元にさらさらとした砂を感じた。踏みしめようとしても崩れるような不確かさから、目を開ければどこまでも砂だった。何もなく、誰もいない。ここもまた砂漠なのだ。ならば、私も、塔を、作らねばならない。
「チョルリョーニス展」HP:https://2026ciurlionis.nmwa.go.jp/
※写真は写真素材なら「写真AC」無料(フリー)ダウンロードOKから ID:34411670(作者:YUGEN(幽玄))
