『ペリフェラル』解説|これはまだゲームに過ぎない|あらすじネタバレ感想・意味考察

『ペリフェラル』解説|これはまだゲームに過ぎない|あらすじネタバレ感想・意味考察

概要

 『ペリフェラル ~接続された未来~』(The Peripheral)はアメリカ合衆国のSFスリラードラマシリーズ。ウィリアム・ギブソンの小説”The Peripheral“が原作で、Amazon Prime Videoのためにスコット・スミスが創作したAmazonオリジナル作品。『ウエストワールド』を制作したジョナサン・ノーランおよびLisa Joyが製作総指揮として参加する。

 ジョナサンの兄、クリストファー・ノーラン監督は『メメント』『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイト ライジング』『インターステラー』『ダンケルク』などが有名。

 Amazonオリジナル作品には他に『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』などがある。

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登場人物・キャスト

フリン・フィッシャー(クロエ・グレース・モレッツ):主人公。ゲームの才能があり、最初兄の代わりに2100年世界に行く。

バートン・フィッシャー(ジャック・レイナー):フリンの兄で元海兵隊員。

エラ・フィッシャー(メリンダ・ペイジ・ハミルトン):フリンとバートンの母。

コナー・ペンスキー(イーライ・ゴリー):フリンとバートンの幼馴染で、戦争で左腕と両足を失い酒浸りとなった元軍人。

コーベル・ピケット(ルイス・ハーサム):町の有力者で権力を握っている。

ジャスパー・ベイカー(クリス・コイ):コーベルの甥。

トミー・コンスタンティン(アレックス・エルナンデス):町の保安官助手。

ウィルフ・ネザートン(ゲイリー・カー):レヴ・ズボフに雇われたトラブルを解決するフィクサー。

アリータ・ウェスト(シャーロット・ライリー):ウィルフの義理の姉。リサーチ研究所の職員。
(他の出演作『オール・ユー・ニード・イズ・キル』)

レヴ・ズボフ(JJ・フィールド):「クレプト」の有力者。

アッシュ(ケイティ・リューング):レヴ・ズボフの部下。

シェリス・ヌーランド(タニア・ミラー):リサーチ研究所幹部。

エインズリー・ロービア(アレクサンドラ・ビリングズ):ロンドン警視庁の警部補。

あらすじ・ネタバレ・内容

 テクノロジーが社会を変貌させた近未来、アパラチア山脈のふもとの田舎町で退屈な毎日を過ごす若い女性フリンは、仮想現実のゲームをプレイすることで現実世界の危機に巻き込まれる。

 仮想現実と思っていたのは実は70年後の未来であり、未来の勢力は量子トンネル効果により現在に繋がり影響を及ぼす。

長いあらすじはwikipediaを参考にしてください。

解説

2100年という未来

 2100年の未来がどのような状況になっているのか、思い描くのは非常に難しい。科学技術の発展によってどこまでのことができてるだろうか。AI技術の発達によってロボットが町中を闊歩するような状況になっているだろうか。様々な仕事を機会が代替することで我々の暮らしはよりよく快適になっているだろうか。

 あるいは逆に資本主義の行き過ぎにより世界は荒れ果てた荒野になっているだろうか。気候変動によりさまざまな災害や疫病の流行などにより人類は危機に瀕しているだろうか、またウクライナとロシアの衝突によりいわゆる第三次世界大戦のようなものを想像するのも容易になってきた。後何十年かしたら頭の上を核が飛び交うのであろうか。あるいはそんなことをしている間に突然巨大な隕石が衝突し一瞬のうちに人類が滅亡しているかもしれない。

 なんにせよ科学技術に発展によるユートピアのような世界を思い描く人は少なくなってきているのではないだろうか。未来はそんなに明るいものではない(とりわけ失われた云10年の日本の雰囲気はそんな感じである)、という見方を『ペリフェラル』は纏っている。2100年、なるほど科学技術は進展し近未来的な世の中になった。自律型ロボットが見廻りをしている。人類も滅亡しておらず、皆普通に暮らしている。しかしこの2100年で人口はだいぶ減ったらしい。建物の修理も実はできておらず、仮初のVRのようなものを見させられて暮らしている。極端に良い世界にも極端に悪い世界にもなっていない。しかし様々な問題を抱えそれを隠しながらなんとかやりくりしている。ある意味で非常にリアリティーのある世界が『ペリフェラル』にはある。

世界観と複雑な状況設定

 時間軸が複数あるのでかなり複雑なドラマだ。複雑すぎてうまく整理できない人もいるかもしれないのでここでおさらいがてら整理しておこう。時系列順に説明する方が良いかもしれないがとりあえず前提条件を押さえておこう。

 まず登場するメインの世界は2100年の世界と2032年の世界だ。ただし2032年の世界は2100年の過去の世界ではない。メインの2032年の世界はスタブ(枝)世界である。この世界はリサーチ研究所が実験のため(少なくとも4年以上前)作り出した世界である。元々の幹世界では全く別の現実となっている。

 技術としては幹世界では「ハプティック」が存在していない。そのため戦争ではコナーが無傷で生き残り、バートンが亡くなっている。さらに事象としてはその後ジャックボットと呼ばれる大規模な災害等が起こる。2039年にはなぞの世界的な大規模停電、2041年にはフィロウイルスによるパンデミック、その後は環境汚染や農業破壊などにより約40年間で70億人以上が死亡。そしてテロ組織による核爆発。要するに2080年頃の人類はぼろぼろだったということだ。

 そこに暴力と資本によって秩序をもたらしたのがクレプトという組織である。レブ・ズボフ曰く「団結」が強く支配が可能となったらしい。しかしクレプトによる安寧の背後には暴力がある。その暴力の行き過ぎを取り締まるのがロンドン警視庁である。ズボフもいうように警視庁には「何がしかの力」があり、クレプトもそこまで行き過ぎたことができない。実際クレプトのサムソノフ家は、その行き過ぎのせいでDNAレベルで地球上から抹消されたという過去がある。

 その仮初の秩序と安定の中で技術革新の研究を行うのがリサーチ研究所である。サムソノフ一族の抹消はこのリサーチ研究所も絡んでおり、彼らの秘密の技術はクレプトが狙うぐらい危険なものである。本作でもわかっているのはたとえば「ハプティック」の技術であったり「スタブ」の生成の技術であったりは彼らリサーチ研究所が特権的に保持しているものだろう。

 第4話でリサーチ研究所幹部のシェリス・ヌーランドがズボフに正解秩序の構図をパンで説明するシーンがある。そこではクレプト、警視庁、リサーチ研究所が三代権力として説明されていたが、さらにネオプリムという革命集団がいる。この集団は支配構造の転覆、つまりクレプトの排除を目論んでおり、そこにアリータも属している。第8話でわかることだが、クレプトは現実世界で大量虐殺の後記憶の改竄を行っている。インプラントと称して感染症対策として埋め込まれているのは実は記憶改竄装置だったのである。クレプトが支配を続けるためにはおそらく様々な悪行を行なっており、今後どのようにしてクレプトが世界を支配できたのかが明らかにされることだろう。

 主には4つの権力を持つ集団が2100年にはある。その中でスタブを扱っているのがリサーチ研究所で、2032年のメイン世界はハプティックの実験などのために作り出されたスタブ世界である。そこではその実験の成果としてコナーは負傷し、バートンは生き残っている。

 このスタブ技術の情報を盗むために、クレプトはアリータを雇ったようだ。しかし途中でリサーチ研究所にバレてしまったため、その全データをフリンの細菌DNAに隠すことになる。理屈はわからないが、データ情報だけは2032年から2100年に転送されるからそこに隠すことはできるということだろうか。なんにせよその技術を裏付けるような会話も第6話でなされる(フリンとネザートンとの会話)。またその細菌がフリンを犯し、ときに右手が制御不能になったりなど現実世界に影響を及ぼしている。

 最終話になるまでアリータが情報をどこに隠したのか、クレプトもリサーチ研究所も突き止められていない。だからその秘密を聞き出すためにフリンをどちらも利用していたわけだ。最終話になって様々なことが明らかになる。まずアリータ。彼女はクレプトに雇われていたはずだが、最初からクレプトを裏切る気だったのだろう。クレプト抹殺のためにそのデーターを使用しようとする。そしてズボフの部下であるアッシュ。これも謎の人物で、どうやらデータをネオプリムに渡そうとしてた影の暗躍者であった。ズボフにデータのありかが知れた後も、クレプトにデータが渡るのは危険だと判断し、研究所幹部のヌーランドにズボフの暗殺を依頼する。今後もさらに明らかにされるだろうが、なかなか複雑な状況設定である。

 原題と絡めて面白いと思うのはやはりジャックポットという事象だろう。2100年には科学技術も発達し人類もいまだ存在しているが、とてつもない人口減少に見舞われ、VRのような仮初の世界で暮らしている。人が歩いているように見えるがそれは虚構であり、建築物は新築のように見えるがそれも虚構である。そうなってしまったのがジャックポットという事象である。

 現代では資本主義による環境破壊などが指摘されている。このままではその環境破壊などにより人類は滅亡に向かうのではないかということである。そういった環境問題やパンデミックの一つの可能性について本作は示唆している。停電やウイルス、核爆発や環境破壊によって人類がこのような可能性を辿るのも確かになくはない。本作はそのような人類の未来に対して現実的になくはない結果を示していることで、考えさせられる作品である。

感想・考察

並行世界(パラレルワールド)について

 ジョナサン・ローランはクリストファー・ノーラン監督と同じく時間のずれを描くのを非常にこの人物だ。今作もそれが描かれているが、世界観としては『インセプション』『TENET テネット』のどちらも異なる。

 まず2032年のフリン・フィッシャーが時間をまたぎ越して飛んでいく先は未来の現実だ。ゲームの世界だと思っていたのが実は現実世界だったのである。どうやらそれは量子トンネル効果で可能となるものらしい。実際科学的にそれが正しいのかどうかは知る由もないが、本作の設定ではそのようになっている。

 さて時間軸上の未来に行ったり過去にいったりできるのは『TENET テネット』も同じだ。しかし異なる点がある。それがスタブの発生だ。

 『ペリフェラル』では未来が過去に接触した瞬間にスタブ(幹から分かれた枝)が生成される。そしてその世界がパラレルワールドとして進み始めるのだ。つまり接触すればするほどに過去が生成されることになる。『TENET テネット』の世界観では時間軸は一つしかない。過去にいくら遡ってもそれはそれまでにあった過去である。そういうわけで『TENET テネット』では運命論の問題が発生する。過去がいくら接触しても変わらないのだから、それは接触する前から決められていたのと同じことではないかということである。論考では、それに関してリアル(real)という言葉から考察しているのだが、『ペリフェラル』ではこの問題は発生しない。なぜなら接触した過去はスタブに、つまり別の過去になるからだ。

関連記事:10の謎と運命論の問題ーー『TENET テネット』論考

 実は2100年の「ペリフェラル」に入っていた主人公はスタブの並行世界から来ていることに途中で気づくだろう。2100年のみき世界では、スタブ(枝)世界とは異なり兄が戦争で亡くなっている。そして兵士たちの意識の共有を可能にさせる「ハプティック」も存在しない。(後にそれが実験のために未来から送られてきた技術だということが明らかになる)。厳密に言えばフィッシャーたちは過去から来たのではない。全く別の時間軸の世界から来た別の世界系の住人である。このパラレル世界という話が今作の一つの特徴を形作っている。

パラレルワールドだとどうなるのか?ーー倫理の問題

 パラレルワールドということは実はすごい可能性を秘めていることがわかる。それは、もしそのスタブ世界がどうなろうと自分の世界にはまったく影響を及ぼさないということである。というのも、自分の世界の過去はもうすでに決まっているからである。レブ・ズボフはスタブで一族を(自分を含めて)皆殺しにしたらしいが、それでも幹世界のレブ・ズボフは生きている。なんと、禁術「穢土転生」なみの何かなのである。

 そしてその可能性に気づき利用しようとしたのが研究所のメンバーである。簡単にいうと一般には倫理的に問題がある人体実験が可能となるのである。なぜなら自分たちには全く影響を及ぼさないからである(「ハプティック」はその成果である)。

 しかしそれでも人を殺したりすることには変わりはない。そんなことが許されて良いのだろうか。アリータは瞬間的に「ダメだ」という。そこではアリータの友人のグレイスに、「あなたは悪人ぶった善人、わたしは善人ぶった悪人」というようなことを言われることになる。仮にもしスタブのような世界が現実に存在したら、この倫理的な側面がおそらく問われることになるだろう。

作戦は失敗に終わる。ではゲームのリセットだ

 最終話の最初に2028年のコナーがフリンに向かってこんなことを言う。

ゲームならリセットしてやり直せる。そうしたいよ。あの犬のステージに戻って今度は犬を撃つ。チェスならありえない。チェックメイトで終わりだ。人生もそこがきつい。リセットできない(No rebooting)。

エピソード8

 ゲームならやり直しが効くがこれは現実だからやり直しが効かないという。しかし「ペリフェラル」はゲームなのだ。

 あなたにとっては現実でも、私にとってはゲームだという言葉が突き刺さる。2100年世界はヌーランドにとっては現実で、フリンにとっては結局のところ虚構だ。というのも、その世界がどうなろうが自分の世界とは何の関係もないからである。逆に2032年世界はヌーランドにとっては虚構でフリンにとっては現実だ。どちらも相手の世界は正直どうなろうが関係がない。つまりそこでのプレイはゲームに過ぎないのだ。

 これは現実に考えればちょっと面白いことだ。世界が分かれると、つまりパラレルワールドが生じると、その世界はゲームっぽくなる。そうするとその世界では現実の倫理などどうでも良くなる(実際ゲームの世界を現実の法で裁いたらスマブラなども何かしらの処罰が下されるだろう)。しかし本作はその先の未来を語っているることになるだろう。ゲームに現実感を感じることは現在の技術ではあり得ない。VRにしても現実のように感じることはないだろう。しかし「ペリフェラル」ではそれがいきつくところまでいき、もはや現実とゲームの区別がつかなくなっているのだ。おそらくゲームが最終的に行き着く先は、理念的にはここになるだろう。これはゲームではなく現実である。これはゲームの最終到達地点だ。それが我々人類の技術で可能になるかどうかわからないが、それが実現した世界を『ペリフェラル』は描いている。

 その意味では『インセプション』にも近い。『インセプション』との違いは未来なのか夢なのかの違いである。しかし未来だとそこでは倫理の問題が発生するのだ!

関連記事:二つの愛の物語ーー『インセプション』考察

 さて、もう一度ゲームの話に戻ると、仮に相手の世界がゲームだとしたら、自分は現実の世界を相手の世界を犠牲にしてでも守ろうとするだろう。では最終的に2032年のスタブ世界はどうなっただろうか。ジャックポットが早められ、フリンが犠牲にならなければならなくなる。また、仲間のリースは狂人の手によって命を絶たれ、トミーのシナリオ通りにはうまくいかずコーベルが生きており、ジャスパーは魔が刺してなんと仲間を殺してしまう。そして母は病気が再発する。なるほどジャックポットは消失し、人類の滅亡はなくなったかもしれない。しかしそれにはあまりにも犠牲が多過ぎた。もっと良い未来があったはずなのに・・・。もうこのスタブ世界はやり直しが効かない。しかし別のスタブ世界を作ればある意味でリセットが効く。そこでフリンは別のスタブをさらに作ることになる。シーズン2はリセット後の物語だ。結末はシーズン1よりも良くなるだろうか。

幹世界とスタブ。2028年から枝分かれしているスタブがフリンたちのスタブである。最終話でフリンはそのスタブの2032年のところからさらにスタブを作り出している。また2038年やその後の年にもスタブが生成されていることから、リサーチ研究所はすでにいくつもの並行世界を作り出していることがわかる。©️2022 / Kilter Films Copperheart Entertainment and Amazon Studios and Warner Bros. Television Studios

テーマは現実と虚構との差が限りなく消えた世界における現実と虚構の問題である

 シーズン1ではまだ全貌が見えていないため語り尽くすことはできないが、一つのテーマとしてこのようなテーマが問題になっているとはいえる。どこまでいってもフリンにとって2100年世界は虚構(ゲーム)世界でしかない。あの世界にはあるのはデータだけで痛みを感じても死ぬことはない。だから先ほどもいったように倫理の問題も発生する。そしてもう一つが愛の問題だろう。とりわけフリンとネザートンの関係はその問題をさらに発展させようとしているように見える。ゲームの世界の住人を愛することはできるのか。愛してしまうとすれば、そこにはさらに倫理の問題も介在してくるだろう。簡単にスタブ世界を抹消してしまうことはできなくなる。シーズン2はこの問題系も突き詰めていくのではないだろうか。

権力者の勿体ぶった態度は見事。しかしネザートンはフィクサーとしての役割を果たせず

 個人的に権力者のあのとりあえず自信満々、ユーモアに溢れ尊大な感じが好きである。ここでは基本的にズボフ、ヌーランド、ロービアのことを指しているのだが、上に立つものあれぐらい傲慢であっても良い気がする。あのとりあえずハッタリをかます感じがなぜ好きなのか自分でもよくわからなかったのだが、おそらくあの権力者たちはあの地位から落ちたら失脚するからだ。つまりあの自信と尊大な態度、その他もろもろの気品は表向きの権力と表裏一体であり、仮に失脚したら多分死が待っているだろうという感じがするからだ。何が言いたいかというと、大いなる権力にはそのぐらいのリスクも伴うという風なのが感じられるのが好みなのだ。御隠居みたいなのが嫌いなのかも知れない。失墜したのにのうのうと生きてもらっては困るということか。

 さて、ネザートンも役割としては好きな役割だ。彼に与えられたコードネームはフィクサーなのだが、シーズン一ではほとんど使い物にならない。それはズボフも指摘している通り彼の優しさに起因するのかも知れない。まだ過去にあったネオプリムとのいざこざやフリンへの過剰な愛着など明らかにされていない部分も多いので、単なるズボフの「ペット」で終わるような人間ではないと思うが、シーズン1ではまだ本領を発揮していない。「俺はまだ本気を出していないだけ」なのを期待している。

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