『オール・ユー・ニード・イズ・キル』考察|ゲーム的感性と時間のズレ|あらすじ解説|感想|ダグ・リーマン

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』考察|ゲーム的感性と時間のズレ|あらすじ解説|感想|ダグ・リーマン

概要

 『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、2014年に公開されたアメリカのSFアクション映画。監督はダグ・リーマン。主演はトム・クルーズ、エミリー・ブラント。原題は「Edge of Tomorrow」。原作は2004年に発表された桜坂洋のライトノベル『All You Need Is Kill』。

 強制的に戦場に送られた主人公ウィリアムが、偶然手に入れたタイムリープの力を使って、戦場を攻略する物語。

 トム・クルーズはほかに『トップ・ガン』『アイズ ワイドシャット』『宇宙戦争』『マイノリティ・レポート』『M:I-2』、ビル・パクストンは『アポロ13』、ブレンダン・グリーソンは『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』『ハリー・ポッターと謎のプリンス』『ハリー・ポッターと死の秘宝PART1』に出演している。

 アクション映画はほかに『アイアンマン』『ジュラシック・ワールド/炎の王国』、ガイ・リッチー監督『シャーロック・ホームズ』、『ブレードランナー』などがある。

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登場人物

ウィリアム・ケイジ(トム・クルーズ):少佐。米軍のメディア担当。戦闘が苦手で報道官として働くも、ブリガム将軍に目を付けられ歩兵に降格し、J分隊に配属される。最初の戦闘で「アルファ」と呼ばれるギタイの返り血を浴びたのが原因で、タイムループ能力を得る。

リタ・ヴラタスキ(エミリー・ブラント):軍曹。「ヴェルダンの女神」と呼ばれ英雄視されている。過去にウィリアムと同様、ギタイのタイムリープ能力を持っていたが、輸血をされたため今は能力が失われている。ウィリアムに稽古をつける。

ファレウ曹長(ビル・パクストン):上官。ウィリアムの警告を無視し続ける。ウィリアムがタイムリープで目を覚ますとファレウに話しかけられるところから始まる。

ブリガム将軍(ブレンダン・グリーソン):指揮官。戦場取材の命令に抵抗するウィリアムを拘束し戦場に送り出す。オメガの存在を逆探知する装置を保有している。

カーター博士(ノア・テイラー):リタのタイムリープ信じる唯一の人物。アルファやオメガの存在をウィリアムに教える。

グリフ(キック・ガリー):J分隊の隊員

あらすじ

 近未来、宇宙からきたギタイと呼ばれる侵略者によって、地球は滅亡の危機に瀕していた。人類は統合防衛軍を結成し抵抗を続けるも、圧倒的な兵力差に劣勢を強いられていた。だが英雄リタ・ヴラタスキの活躍により状況は好転する。そして機動スーツを着た大量の兵により、欧州における大規模な攻撃作戦が決行されようとしていた。

 報道官であるウィリアム少佐は、ブリガム将軍に前線で取材するよう命じられるが、職権を乱用してそれを拒否する。怒った将軍はウィリアムを少佐から歩兵へと降格にし前線に送り込む。弁解を聞きいられないままJ分隊に所属することになったウィリアムは、安全装置の外し方も教わらないまま戦場に送られる。敵の待ち伏せにあった統合防衛軍は壊滅的な被害を被り、J分隊はおろかリタも殺されてしまう。青白いギタイに襲われたウィリアムは、自爆用の地雷を使い相打ちで戦死する。

 目覚めるとそこは出撃の前日だった。繰り返される二日間に驚くも、同じように殺され目覚めたことから、殺されるたびにこの二日間をタイムリープしているだと悟る。死んでも体験した記憶が残ることに気づいたウィリアムは、敵の攻撃パターンの把握などの試行錯誤の末、リタから彼女を探すよう告げられる。

 目覚めたウィリアムはリタと接触し、彼女も過去にタイムリープをしていたこと、タイムリープの原因がアルファ・ギタイと呼ばれる青いギタイの体液を浴びたことであると教わる。ギタイはタイムリープを用いることで戦況を有利に運んでおり、それを止めるためにはオメガ・ギタイと呼ばれる親玉のギタイを破壊しなくてはならない。ウィリアムはリタおよびカーター博士と協力し、ループ能力を持つ人間が見る幻覚を頼りに、オメガ・ギタイがドイツににあるダムの地下であることを突き止める。

 タイムリープを利用しリタの特訓を何度も受けることで、戦場を徐々に攻略していく。次第にリタに想いが募っていくが、リタはある地点で死亡することが判明する。自暴自棄になり戦場から離れるも、人類が滅ぼされてしまう。すべて一人で行うことを決意したウィリアムは、オメガの場所に行き着くが、そこはウィリアムを誘き出すためにみせた嘘の情報だった。

 再びタイムリープしこのことをリタ達に説明すると、カーター博士はオメガを逆探知する装置をブリガム将軍が持っていると告げる。何度もタイムリープをしてブリガム将軍からその装置を奪い、オメガがパリのルーヴル美術館の地下にいることを知る。しかし逃走中に怪我をして輸血を受けたことで、タイムリープの力を失う。

 英雄リタの知名度を利用しJ分隊を仲間にひきいれ、航空機を盗みパリに向かう。J分隊は全滅しリタも倒れるが、ウィリアムはオメガと相討ちになる。死ぬ直言オメガの青い体液を浴びたことでタイムリープ能力を再び得て、ブリガム将軍に出会う前まで戻る。そこではギタイは全滅し人類の勝利が訪れていた。地位が少佐のままのウィリアムはその足でリタのもとに向かう。初対面の対応をするリタに、ウィリアムは再開の喜びをみせるのだった。

解説

タイムリープと日本のサブカル

 『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、タイムリープ能力を手に入れた主人公のウィリアムが、宇宙からの敵ギタイとの大決戦をリタとともに生き残るために、偶然手に入れたタイムリープ能力を駆使して戦場を攻略していく物語である。

 原作は桜坂洋のライトノベル『All You Need Is Kill』で、発表されたのは2004年。この時期日本のサブカルチャーは、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『時をかける少女』といったタイムリープものの傑作を数多く生み出しており、『All You Need Is Kill』もその系譜に連なる。これらは当時の日本の雰囲気に強く影響されていた。つまり、さらに遡って『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』から始まるタイムリープものの作品の主題の一つは、90年代からゼロ年代の日本を覆う日常の微睡からの脱出である。

 そのような状況の中で生まれた作品が、普遍性を獲得し世界的な共感を得ようとしている。ゼロ年代に大きく花開いた日本のサブカルチャーが、大俳優トム・クルーズを主人公にしてついにハリウッドに上陸したのだ。

反復する時間の重みとズレ

 何度も死んではタイムリープをするしかない蟻地獄のような戦場を抜け出すために、かつてウィリアム同様タイムリープの能力を獲得し戦場で英雄と称されたリタに接触するのが、最初の転機となる。死の直前ウィリアムに「私を探して」と告げた彼女とその協力者カーター博士は、この世界に存在する唯一の仲間だ。リタにタイムリープの仕組み、敵の倒し方、戦い方を学び、厳しい訓練に耐える日々は、身体的には失われてしっても記憶の中に蓄積される。

 そこに本作におけるタイムリープの悲哀がある。ウィリアムにとってリタとの記憶はタイムリープするごとに積み重なっていくものである一方、リタにとっては一回きりの出来事である。タイムリープを重ねるごとにリタに惹かれていくウィリアムと違い、リタはこの世界を次の世界で生き残るための手段としかみれない。ウィリアムとリタで時間の流れがズレていくのだ。

 だからこそリタの生の終着地点において、ウィリアムはそこに留まろうとする。積み重なったリタへの想いは、わずかでもこの和やかな時間を過ごしたいという望みに変わり、彼の足を進動かなくさせる。此処より先に進むことは、リタを失うことと同義なのだ。コーヒーの砂糖の数を当てたことでこの地点を何周もしているとリタが気付くとき、観客もウィリアムに騙されていたことを知る。カズオ・イシグロの『日の名残り』の語り手同様、本作の視点も信用できない語り手であると示されたいま、彼がタイムリープをどれほどの回数重ねたのか、どれくらい長い時間リタと共に過ごしたのかを想像する。彼はこの二日を過ごす間に、永遠ともいえる時間をリタと共に生きたのだ。

考察・感想

ゲーム的感覚を輸入した映画

 ところで本作が描くのは、殲滅作戦の前日と当日のたったの2日だけということは注意すべきかもしれない。リタとの訓練、殲滅作戦、オメガ・ギタイを倒すためのドイツのダムの地下とルーブル美術館での闘い。わずか2日間でこれほど多くのことを成し遂げられたのは、言うまでもなくタイムリープのおかげである。

 このタイムリープの特徴の一つは、身体的な影響の欠如と経験値の蓄積であろう。ウィリアムはリタとの特訓に励むが、それは決して肉体強化を目指すものではなく、攻撃のタイミングや回避の方法など記憶に定着させるためのものだ。そのためウィリアムは戦場やブリガム将軍に接触するなどの場面において、6歩進んで止まり回転してなどの詳細で具体的な指示をだし目的を達成する。彼は死亡した地点まではそれまでと同じ行為を繰り返し、そこから分岐して違う動作にチャレンジする。失敗すればまた他のを試し、成功すればこの地点は攻略されたことにになる。

 これは我々現代人にとっては馴染みの深いゲーム的な感覚である。ある種のゲームでは死が訪れるとセーブ地点まで戻され、そこから再スタートをきり、次は死なないようにある地点でこれまでと違う動きをしてみて、それが上手くいけば次のステージに進める。これはそのまま本作の設定に使われているゲーム「マリオブラザーズ」に代表される死=タイムリープの設定が、本作にも受け継がれているのだ。したがって本作はゲームを主題にした映画といえるだろう。

ウィリアムの成長とトム・クルーズの人生

 ウィリアムはこのゲーム攻略のために、身体的な強化は望めないが、記憶と精神において成長をする。冒頭、戦闘は苦手だから報道部署に所属したというウィリアムは、職権を乱用しブリガム将軍を脅してまで戦場に出ることを拒み、戦闘が始まっても安全装置の外し方すらわからない。そのような余りにひ弱で余りに逃げ腰な彼も、タイムリープを繰り返すことで徐々に強靭な精神を身につけていく。

 このとき彼の輝かしい成長に、ウィリアムを演じるトム・クルーズの経歴を想起せずにはいられない。本作はトム・クルーズの経歴の「トム期トム」に属するのだが、そこに到達するまでには前期トム、中期トム、後期トムの三つの時期を経ており、この地点においてトム・クルーズの男らしさは頂点に達している(この区分の詳細な説明は『トップ・ガン』論のコメント欄に記載)。このトム自身の成長と栄光への軌跡は、そのまま本作のウィリアムの成長に重なるのだ。ひ弱なウィリアムが自信に満ちた英雄へ。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のトムが、『ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル』のトムへ。オメガ・ギタイを倒すためにリタと共にルーブル美術館に突っ込む姿は、『ミッション・インポッシブル』のイーサンの勇姿そのものである。

 だから本作はトムの人生の軌跡をウィリアムの成長に透かし見ることで、二重に楽しむことができる。ゲーム的感覚とトム・クルーズの人生。どちらの観点から読み解いても面白いだろう。

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