概要
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』は、2009年に公開されたイギリスのファンタジー映画。監督はデヴィッド・イェーツ。原作は2005年に発表されたイギリスの作家J・K・ローリングの同名小説。
前作は『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』、次作は『ハリー・ポッターと死の秘宝PART1』。ダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソンのほか、新たにジム・ブロードベントが出演している。
史上最悪の闇の魔法使いヴォルデモートとの対決に備え、ダンブルドアと協力してヴォルデモートの弱点を探るために奮闘する物語。
「ハリポッター」シリーズはほかに『ハリ・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』『ハリー・ポッターと死の秘宝PART2』『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』がある。
登場人物・キャスト
ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ):額に傷をもつ。選ばれし子と呼ばれる。
(他の出演作:『ガンズ・アキンボ』『スイス・アーミー・マン』)
ハーマイオニー・グレンジャー(エマ・ワトソン):ハリーの親友。知識が豊富で魔法も得意。ロンのことが好き。
ロン・ウィーズリー(ルパート・グリント):ハリーの親友。ハーマイオニーのことが好き。
ヴォルデモート卿(レイフ・ファインズ):闇の帝王。闇の力によって世界を支配しようと目論む。
アルバス・ダンブルドア(マイケル・ガンボン):ホグワーツの校長。史上最強の魔法使い。
セブルス・スネイプ(アラン・リックマン):スリザリンの寮長。不死鳥の騎士団のメンバー。
ホラス・スラグホーン(ジム・ブロードベント):魔法薬学の教授。過去にトム・リドルにも教えていた。ヴォルデモートに不死へのなり方を教えているが、それを恥じてダンブルドアに記憶を渡さないでいる。
アラスター・ムーディ(ブレンダン・グリーソン):通称マッド・アイ・ムーディー。不死鳥の騎士団のメンバー。
(他の出演作:『オール・ユー・ニード・イズ・キル』)
ドラコ・マルフォイ(トム・フェルトン):ハリーの同級生。ヴォルデモートから任務を授かり暗躍する。
ベラトリックス・レストレンジ(ヘレナ・ボナム=カーター):ヴォルデモートの副官。シリウスを殺害している。
(他の出演作:『レ・ミゼラブル』『ファイト・クラブ』『オーシャンズ8』)
ナルシッサ・マルフォイ(ヘレン・マックロリー):ドラコの母。ドラコを助けるよう、スネイプと破れぬ誓いをたてる。
名言
ダンブルドア:失礼じゃがどれも生半可で本気ではないと思うた(Forgive me, Doraco. I cannot help feeling these actions are so weak tha your heart can’t really have been in them.)
ダンブルドア:ドラコ。かつて、道を誤った青年を知っている。わしにおまえを助けさせてくれ(Draco, years ago I knew a boy who made all the wrong choices. Please let me help you!)
スネイプ:我が輩が考えた魔法を、我が輩に向かって唱えるとは。そうだ。我が輩が半純血のプリンスだ(You dare use my own spells against me, Potter? Yes. I’m the Half Blood Prince.)
ハリー:スネイプ!あの人はおまえを信じてたのに!(Snape! He trusted you!)
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あらすじ・ネタバレ・内容
ヴォルデモートの復活によって、不可解な事件が多発し、さらに人間界へも被害が広がる。その責任をとり魔法大臣のファッジは失職し、新たにルーファス・スクリムジョールが就任する。
夏休み、ハリーのもとにダンブルドアが現れる。二人はホグワーツの元教授、ホラス・スラグホーンのもとを訪れ、復職するよう説得する。
ルシウス・マルフォイが捕まり、ドラコはヴォルデモートから何かしらの任務を授かる。その任務が厳しすぎることから、母ナルシッサと姉のレストレンジは、スネイプのもとを尋ねる。スネイプにドラコを守ることを約束させ、レストレンジの提案で「破れぬ誓い」を結ぶ。
学校を退学していた双子のジョージとフレッドは、ダイアゴン横丁でを悪戯グッズを売っていた。彼らの店は多くの人で賑わっていたが、周りの店はヴォルデモートの影響で殆どが閉店しており、通りは閑散としていた。またハリーの杖を売ってくれたオリバンダーの店も閉店していた。そこでドラコを見かけたハリーたちは彼の後を追う。ドラコとナルシッサと死喰い人が、ボージン・アンド・バークスの店にはいり、何やら怪しい動きをしていた。
新学期が始まり、ホグワーツ特急でホグワーツに向かう。ハリーはドラコを疑い単身でドラコを調査するが、彼にバレてしまい石化され透明マントを被せられる。偶然現れたルーナに助けられ、ホグーワツに無事到着する。
魔法薬学はスラグホーンが、闇の魔術に対する防衛術はスネイプが担当する。ハリーが借りた魔法薬学の教科書には、半純血のプリンスと署名されていて、そこに書かれたメモに従って完璧な薬品を作る。スラグホーンはハリーの功績を称えて、「幸運の液体」を与える。
ハリーはダンブルドアのもとで、ヴォルデモートとの対決に備え、彼に纏わる過去を調査する。そして、ダンブルドアとトム・リドルの出会いや、彼の過去を知る。その中で、スラグホーンが過去にヴォルデモートの不死の秘密に関わる何かを、彼に教えていたことを知る。ダンブルドアはハリーに、その記憶をスラグホーンから貰う、という任務を与える。
ロンはクィディッチのキーパーし、ハーマイオニーの錯乱呪文のおかげで、そのポジションを獲得する。その後、3本の箒でハリーとハーマイオニーは、スラグホーンが主催する集まりに誘われる。その帰り、ケイティ・ベルが誰かに渡された首飾りを触り、呪いにかけられる。ハリーはマルフォイの犯行だと疑うが、証拠がないため誰も取り合わない。
スラグホーンの集まりに参加したハリーは、解散後に、トム・リドルとの過去に関して探りを入れる。しかし口が固く何も教えてくれない。クィディッチの試合当日、ロンは緊張で動けなくなる。それを見たハリーは、ロンが飲む液体に彼の目の前で幸運の液体を入れたフリをする。幸運の液体を飲んだと勘違いしたロンは、試合でファインプレーを連続し、その後ラベンダーと付き合う。
恋愛のいざこざでロンとハーマイオニーがギクシャクしたまま、ハリーたちはクリスマスにウィーズリー家に戻る。そこでアーサーから、ドラコが直そうとしていたのは「姿をくらますキャビネット」だと伝えられる。その夜、レストレンジが家を襲撃し、ハリーたちは何とか追い払う。
学校に戻ると、ハリーはスラグホーンから秘密を聞き出そうとするが、逆に怒らせてしまう。部屋に戻ると、ロミルダがハリーに食べさせようとした惚れ薬を、ロンが間違って食べてしまっていた。ロンを治してもらうために、再びスラグホーンのもとを訪れる。ロンは治るがスラグホーンが渡した飲み物に毒物が入っていて、機転を利かせたハリーによって間一髪で救われる。ロンは眠りながらハーマイオニーの名を呼んだことで、ラベンダーとは破局し、ロンとハーマイオニーは復縁する。
学校で不審な動きをするマルフォイを見かけたハリーは、彼の後を追う。マルフォイは女子トイレで泣いていて、ハリーを見つけると攻撃を仕掛ける。ハリーは半純血のプリンス蔵書に書かれていた呪文、セプタムセンプラを放ち、マルフォイは血まみれになる。そこにスネイプが現れマルフォイを介抱する。トム・リドルの日記で、それらの恐ろしさを知っていたジニーは、ハリーに半純血のプリンス蔵書を捨てさせる。
スラグホーンに過去を聞き出すのに運が足りてないと悟ったハリーは、幸運の液体を飲み、途中に出会ったスラグホーンにと共に、気の赴くままにハグリッドの家を訪れる。ハグリッドは大蜘蛛アラゴグの死を悼んでいた。スラグホーンは研究目的でアラゴグの死体から毒物を採取する。ハグリッドと飲んだスラグホーンはすっかり酔っ払い、ハリーの口車に乗せられて、トム・リドルとの過去の記憶を渡す。
ハリーとダンブルドアはその記憶を確認すると、ヴォルデモートの不死の理由は、魂を七つの分霊箱に切り分けていたからで、倒すためにはすべてを破壊する必要があることを知る。ハリーはダンブルドアと共に、新しい分霊箱があると思われる場所に向かう。それを手に入れるために闇の罠と戦ったダンブルドアは酷く衰弱する。
ホグワーツに戻ると、ドラコの手引きで死喰い人が侵入していた。ハリーに隠れていろと命令したダンブルドアは、死喰い人を引き連れたドラコと対峙する。ドラコはヴォルデモートの命令でダンブルドアを殺そうとするが怖気付く。そこに現れたスネイプが、ダンブルドアを殺害する。退散するスネイプにハリーは、半純血のプリンス蔵書に書かれた呪文で攻撃するが弾かれ、半純血のプリンスは自分だと告白される。
ダンブルドアの遺体の周りに、生徒と教授たちが集まり、杖を掲げて哀悼する。ダンブルドと共に手に入れたロケットの中には、「R・A・B」と署名された書き置きだけがあり、分霊箱は偽物にすり替えられていた。ハリーたちは残りの分霊箱を破壊するため行動することを決意する。
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解説
薄暗い雰囲気が魔法界を覆う
ここまで長らく続いてきた「ハリー・ポッター」シリーズも、本作『謎のプリンス』で六巻目を迎えた。6年間続いてきたハリ・ポッターたちの旅もついに最終盤へと突入し、物語はハリーとヴォルデモートの最終決戦に向けて加速する。
全部で7巻ある「ハリー・ポッター」シリーズは、4巻目『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』のラストにあるヴォルデモートの復活を境にして、前半と後半に分けることができる。前半では仲間との友情を育み魔法世界の豊かさを堪能できるのに対し、後半ではヴォルデモートによる悪の支配が広がり運命の対決が現実味を帯びてきてそれどころではない。ハリーはダンブルドアと共に、ヴォルデモートの不死の秘密の手がかりを探して、ダンブルドアとスラグホーンの過去の記憶を探る。ダンブルドア曰く、「真実の記憶がなければ目隠しされたまま戦うすべも分からぬ」のだ。
ハリーとダンブルドアの調査は着実に進展していくが、その一方で、魔法界全体には陰鬱な雰囲気が広がっていく。忍び寄るヴォルデモートの闇の力、仲間の死の影、そういった不穏な雰囲気は薄緑を基調とした風景によっても表現される。本作の特徴は、この薄暗い雰囲気といえるだろう。
第二の主人公、ドラコ・マルフォイ
ヴォルデモートの復活から一年、魔法省がその事実を認めてから数ヶ月、ヴォルデモートはより勢力を拡大し闇の力が魔法界を覆う。そんななか一際険しい表情を浮かべている人物がいる。ハリーの同級生、ドラコ・マルフォイだ。ドラコの父ルシウスはダンブルドによって逮捕されてしまい、その尻拭いとしてヴォルデモートからダンブルドア殺害の命を受けたドラコは、ありとあらゆる手段を用いて暗殺しようとする。
しかしその作戦のラストの段階に至って、ダンブルドアから「失礼じゃがどれも生半可で本気ではないと思うた」と言われてしまう。しかし少し考えればわかるように、ドラコが役立たずで中途半端であったとしても、それは彼だけの責任ではない。ドラコが殺害しようと目論んだのは史上最強の魔法使いであるダンブルドアで、そもそも彼は殺人を犯したことすらなかったのだ。
ハリーがダンブルドアと協力してヴォルデモートの強さの秘密を探る間、ドラコはスネイプに見守られながらダンブルドア暗殺のためにほぼ一人で行動する。その暗殺計画の傍ら、死喰い人をホグワーツに潜入させる経路を確保し、決戦の日に備える。ドラコは作中で最も頑張っている。彼は責任の大きさに押しつぶされそうになり、女子トイレで一人泣きながらも計画を着実に進めていく。本作の第二の主人公はドラコなのだ。
考察・感想
惨めな姿のダンブルドアが示すもの
ヴォルデモートの不死の秘訣、それは分霊箱による分裂した魂の保管であった。彼の魂は殺人を犯すことで分裂し、それぞれを異なる場所に分霊箱として保管することで、肉体が滅んでも魂は残るという状態にしていたのである。分裂した魂の数は七つ。したがってヴォルデモートを完全に殺めるためには、本人の前に六つの分霊箱を破壊する必要がある。
最終決戦を前にして、突然現れた超難題。だがそこまで悲観する必要もない。実は、ハリーが『ハリー・ポッターと秘密の部屋』で破壊したトム・リドルの日記が、分霊箱の一つだったのだ。それにダンブルドアが破壊した謎の指輪も含めれば、すでに二つ破壊しており、残る分霊箱はたったの四つ。ハリーとダンブルドアは残る分霊箱を求め、トム・リドルが生まれ育った場所に向かう。
この分霊箱を獲得するために、ダンブルドアが謎の液体を飲むところは名シーンの一つだ。止めてくれ、殺してくれと嘆願してもダンブルドアに飲ませ続けるハリーは、彼の惨めな姿を初めて目にする。これまで最強の魔法使いとして、安心の象徴として、いつでもハリーを守ってくれていたダンブルドアが、止めてくれとハリーに追いすがる。いつでも頼れる存在であったダンブルドアはもういない。そしてダンブルドアの象徴的な死は数時間後に現実的な死へとなってしまうのである。
死喰い人はホグワーツに現れ、何もせず立ち去った。
しかしこの映画には重大な欠陥がある。第二の主人公として活躍していたはずのドラコの成果が殆どない。何故ないのか。それは原作にはあるホグワーツでの戦闘場面が、ごっそり削られてしまっているからだ。
ダンブルドア:ドラコ。かつて、道を誤った青年を知っている。わしにおまえを助けさせてくれ
ドラコ:あんたの助けなど必要ない!わからないのか?やるしかないんだ。あなたを殺すしか・・・さもなければ、僕があの人に殺される
ドラコは分霊箱を獲得する過程で衰弱したダンブルドアから杖を取り上げる。だがドラコの最も重要な功績は、ダンブルドアを追い詰めたことではない。何故ならドラコは、ダンブルドアと対峙していた最後の瞬間、すでに殺すことを諦めていたからだ。ドラコは良心と恐怖心の間で大きく揺れ、ダンブルドアの声に導かれ杖を下ろそうとする。むしろ彼の功績として重要なのは、死喰い人をホグワーツに侵入させたことである。しかも、この一瞬を成功させるために、涙ぐましい試行錯誤をまる一年もかけていた。
問題は侵入してきた死喰い人である。彼女らはそこで何をしたのか。確かに死喰い人はドラコを鼓舞し、スネイプのダンブルドア殺害の場面に立ち会った。しかし、その後はハグリッドの小屋を破壊するだけで、実は何もしていない。確かに、ホグワーツに侵入してすぐ教師らしき人物に呪文を当て、大広間を滅茶苦茶にはしている。だが、それだけだ。死喰い人は、ホグワーツに現れ、ほぼ何もせず、ホグワーツから立ち去っている。ドラコが一年もかけて確保したホグワーツへの経路はほとんど無意味に終わったのだ。
勿論、原作ではホグワーツに不死鳥の騎士団があらわれ、壮絶な戦いが繰り広げられる。本作の最も重要な場面である。だが何故だが、原作にあったこの極めて重要な場面を、映画では削ってしまっている。薄暗い雰囲気が好きなだけに、残念な改変と言わざるを得ない。