なるほう堂の開設にあたって

 コンテンツと文章が溢れる時代になりました。Netflix や U-Next には大量の最新映画が配信され、Twitter や読書メーターには短い文章が毎日投稿されています。これらのものに囲まれた現代を我々はとても豊かになったと感じています。しかし本当にそうでしょうか。流れてゆくコンテンツの波は、我々が立ち止まって考えることを許してはくれません。次から次へと提供される新たな興奮に駆り立てられているというのが正確な気がします。考えることや長い文章を書くことに不慣れになった我々は短い文章をバズらせることしかできないのです。

 この現状に多くの人が不満や物足りなさをうっすらと感じているはずです。趣味や消費は時間をかけることで豊かになるものです。文章も長いものを書こうとすれば必然時間がかかるでしょう。しかし書くことに時間をかけることも、またその作品を味わうことなのです。

 大量のコンテンツの流れ(フロー)はネット技術の大きな成果ですが、もう一つ、ネットは貯める(ストック)という能力も持ち合わせています。コンテンツの激流を目の前に、文化がたまり繋がる場所を作ること、その先に豊かな文化の本来の形が見えてくるはずです。

                       なるほう堂運営委員会一同

投稿方法

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投稿者

 短い感想や溢れんばかりの投稿に憂いている人たちに利用してもらいたいです。時に書き手、時に読み手となり、相互に入れ替わりながら知識を貯めつつ味わうことを理想とします(図1)。

図1. 一方通行の関係から相互変化の関係へ

1. 映画・小説・美術・芸術を嗜む趣味人

 140字の感想では物足りない、作品の良さを言葉にして伝えたい、そう感じているかたも多いのではないでしょうか。現在はコンテンツを消費することに慣れすぎて、じっくり味わうことが少なくなりました。言葉を交わしても、短い文章で非常によかったくらいしか書けない人も多いのです。書けないからといって感想が貧しいわけではなく、技術と習慣がないのです。書くことは訓練でも身につけることが可能です。ちょっと長い文章を書きたいという意欲のあるかたをお待ちしています。

2. 教養を身につける大学人

 大学で学んだ知識は大抵、生かしたり披露したりする機会になかなか恵まれません。時間を費やして作成したレポートは、教員が読むだけで日の目をみることはありません。けれど閉じた空間に消えていくレポートや知識は、本来価値があり蓄積していくべきものなのです。個人のパソコンに埋もれたレポートや勉強した知識をここに投稿してみませんか。

3. 秀でた専門知をもつ文化人

 一つの分野に突出した素養をもつ人がどの分野にもいるものです。彫刻や絵画、源氏物語や漢詩、マニアックな小説、映画史に詳しい人のもつ知識は、しかしながら、なかなか共有される機会に恵まれません。そのような知って楽しくなる知識や感性を有しているかたの研究や知識は社会的に望まれているはずですし価値のあることです。ぜひこのサイトに知識を貯めて日本の文化を豊かにしませんか。

 この3種類の書き手に読み手を加えた4層構造をイメージしています。読み手がある分野では書き手になり、書き手がある分野では読み手になる、そして少しずつ知を貯めていくのです。

目標

1. 全分野に及ぶページの充実と投稿コミュニティーの形成

 古典から新しいものまであらゆる範囲の研究・批評・感想を充実させます。読む人が投稿する人になり、投稿する人が読む人になる循環が起こればいいと思っています。懸賞論文や100周年などの記念日にあわせたキャンペーンなども企画する予定です。

2.新たな形式の本の出版

 新書がもつ豊富な内容でありながら比較的簡単に読めるという形式は、日本の文化資本を支えてきました。しかし本は売れず苦境に立たされているのも事実です。そこで我々で、noteと新書の間のページ数で充実した内容の一つの問題に絞った、新しいタイプの書籍を発行したいと考えています。

思想的背景

 コンテンツと文章にあふれた時代は、危機でもあり希望でもあります。流れてくる140字の感想に埋め尽くされているという点においてはあまりに貧困な時代だと言わざるを得ませんが、裏を返せば心の内を表現したいという欲望に満ちてもいるのです。そして「面白かった」「傑作です」などの淡白な文章に、もしかしたら書き手ですら飽き飽きとしているのかもしれません。

 書くことは表現の一種であり、表現は相手がいることで成り立ちます。つまり書くことはコミュニケーションの一種であり、誰もが日常的にできることなのです。そうであるならばよりよく相手に伝えたほうがいいでしょうし、繰り返しているうちに上達もするでしょう。

 ここではこのような現状認識のもと、社会状況、学習、実践に役立つ三冊の本を紹介します。どの本も現代の社会状況に応答して執筆された良書です。この三冊の特徴は、想定される読者の射程の広さであり、その中の一冊の言葉を借りるならば「入門の入門」といえるでしょう。つまりこの三冊はコンテンツにあふれ疲弊した社会における、社会状況、学ぶこと、書くことをそれぞれ主題に据えて、現代に蔓延する閉塞感からの突破口を開く手助けをしてくれるのです。

社会状況

宇野常寛『遅いインターネット』幻冬舎、2020

学習法

千葉雅也『現代思想入門』講談社現代新書、2022

実践法

北村紗衣『批評の教室』ちくま新書、2021

投稿者が執筆or関わった書籍

中井久夫 増補新版』 (KAWADE夢ムック)

マルク・リシール現象学入門-サシャ・カールソンとの対話から

あえて左翼と名乗ろう: 34の「超」政治批評

音声DL BOOK 『不思議の国のアリス』で深める英文解釈12講: 「ナンセンスの王国」に英文法で迫る