『人間失格』解説|恥の多い人生だった|あらすじ感想・伝えたいこと考察|太宰治

『人間失格』解説|恥の多い人生だった|あらすじ感想・伝えたいこと考察|太宰治

概要

 『人間失格』は、1948年に発表された太宰治の中編小説。『走れメロス』『斜陽』に並ぶ太宰の代表作の一つ。

 新潮文庫版の累計発行部数は、2021年の時点で720万部を突破しており、一位の夏目漱石の『こころ』に次いで二位を記録している。

 人間を恐怖し道化として生きることで何とか他人と交流できた主人公が、女性や酒に依存しながら、自分が「人間、失格」だと確信するまでに至る過程を描いた物語。

 純文学はほかに、中島敦「山月記」、梶井基次郎「檸檬」、宮沢賢治「注文の多い料理店」などがある。

 本作は「日本純文学の最新おすすめ有名小説」で紹介している。

 

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登場人物

大庭葉蔵:主人公。東北地方の金持ちの末息子。他人の考えていることが理解できず、恐怖のためから道化を演じる。多くの女性と問題を起こし、ツネ子とは入水心中を図る。

竹一:中学校の同級生。貧弱な体格。葉蔵の演技を見抜く。葉蔵は、女に惚れられる、偉い画家になる、という二つの予言をする。

堀木正雄:葉蔵より6つ年上の画塾の生徒。葉蔵に「酒」「煙草」「淫売婦」「質屋」「左翼運動」などさまざまなことを教え、奇妙な交友関係を育む。遊び上手。色が浅黒く精悍な印象を与える美男子。下町・浅草で生まれ育っており、実家はしがない下駄屋。

ツネ子:カフェの女給。22歳。夫が刑務所にいる。葉蔵と共に入水心中をする。(第二の手記)

シヅ子:記者。28歳。葉蔵に漫画を寄稿するよう勧める。葉蔵と同棲する。夫とは死別している。

シゲ子:シヅ子の娘。5歳。葉蔵を「お父ちゃん」と呼ぶ。

マダム:バアの女主人。女性なのに義侠心のある人。転がり込んできた葉蔵を温かく迎える。目が細く吊り上がっていて、鼻が高く、小柄。のちに手記と写真が送られてくる。

ヨシ子:煙草屋の看板娘。18歳。処女。信頼の天才で、無垢な心の持ち主。

ヒラメ(渋田):古物商。葉蔵の父親の太鼓持ち的な人物。葉蔵の身元保証人を頼まれる。眼つきが鮃に似ており、ずんぐりとした体つきで独身。計算高く、おしゃべり。東北地方出身。40代。

「私」:はしがきとあとがきの作者。マダムから葉蔵の手記と3枚の写真を渡される。

名言

恥の多い生涯を送ってきました(p.9)

ワザ。ワザ(p.28)

けれども、その時以来、自分は、(世間とは個人じゃないか)という、思想めいたものを持つようになったのです。(p.101)

人間、失格(p.147)

あらすじ

はしがき

 「私」は、「その男」の幼年時代・学生時代・奇怪な写真の三枚を見比べている。

 幼年時代の写真には、見る人が見れば醜いと感じる不思議な子供が写っていた。学生時代の写真には、美貌だがどこか気味悪いものが感じられる青年が写っていた。奇怪な写真には、特徴のない歳もわからない不思議な男の顔が写っていた。

第一の手記

 「自分」は人間の生活がどういうものか見当もつかない。他人の苦しみや感覚を理解することができず、そのことで「自分」は発狂しそうになる。そこで考えだされたのが道化を演じることであり、それは人間に対する最後の求愛だった。

 幼い時から家族に対しても、本当のことを言わず顔を奇妙に歪めて笑っていた。自己主張できない「自分」は、相手が望むことを察して行為し、笑わせることに注力していた。学校でも「自分」が演じたお茶目さで、周りから可愛がられた。

 だが「自分」の本性はお茶目さから程遠く、女中や下男に犯されても誰にも訴えずに黙っていた。他人が理解できないことから、表面的には道化を演じ相手を欺きながら、孤独に生きていた。

第二の手記

 中学に入ると道化として、クラスの仲間達や先生から好かれていた。しかしクラスメイトの竹一に、「自分」が道化を演じていることを見破られて不安に苛まれる。その後は竹一に、惚れられると偉い画家になるという予言めいたことを言われる。

 旧制高等学校に入ると、画学生の堀木と親交を深める。そして人間恐怖を紛らわすために、酒や煙草、淫売婦や左翼思想に浸るようになる。それらは人間恐怖から一時的な解放をもたらすのだが、しかし、一人暮らしになりお金が不自由になると生活も破滅的になっていった。

 その後、3人の女性から好意を寄せられる。その一人で夫が刑務所にいる人妻のツネ子と親しくなったある夜、鎌倉の海で彼女と共に入水自殺をする。しかし「自分」は生き残り、彼女は死んでしまった。「自分」は自殺幇助罪に問われ、父と縁のある男が引受人となって釈放されるが、精神状態は悪くなる一方だった。

第三の手記

 学校を辞めさせられて、引受人の男の家に向かうが、結局家出をすることになる。そこでバーのマダムと親しくなり、記者のシズ子と同棲するようになるが、酒と金が原因で絶望に陥る。

 堀木との会話の中で、世間とは個人である、という思想めいたものを獲得し、心中穏やかになる。漫画家として生活しつつ、ヨシ子と出会い結婚して幸せを得る。

 しかしヨシ子は、商人に犯される。その時に感じた恐怖と絶望から、酒を飲むようになる。ある日、ヨシ子が用意していた睡眠薬を大量に服用して、自殺未遂を図る。それでも酒を飲み続けた結果、喀血する。

 そこで処方されたモルヒネによって気分が回復したため、何度も使用してしまい、モルヒネ中毒になる。モルヒネを大量に買うあまり、とてつもない金額となり、薬屋の妻と関係を結ぶ。

 罪の重さに耐えきれなくなると、実家に金をせびる手紙を送る。すると引取人の男と堀木がやってきて、脳病院に入院させられる。そこで狂人として認識されていることを知った「自分」は、人間失格なのだと確信する。

 数ヶ月のあと退院すると、故郷で廃人同然の暮らしをする。そこでの生活は、幸も不幸もなく、老婆に犯されるだけだった。実年齢は27歳だが、白髪も増えて、40歳以上に見られると語る。

あとがき

 「私」はマダムに会い、葉蔵の安否を尋ねるが、分からない告げる。マダムは「あのひとのお父さんが悪い」と言い、葉蔵のことを「神様みたいないい子」と語るのだった。

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解説

自伝的私小説とフィクション

 太宰治が山崎富栄と共に入水自殺を図ったのは、1948年6月13日、38歳のときだった。本作は入水自殺の一ヶ月前、5月12日に脱稿されていることから、遺書という側面をもった小説だと考えられてきた。実際、私小説の形式で書かれたこの小説は、太宰の生涯を色濃く反映している部分も多い。

 しかし従来考えられてきたように、入水自殺の前の昂った精神で書きなぐったわけではないことが、近年になって明らかにされた。1998年に遺族により発見された本作の草稿に、内容と単語の推敲を重ねた跡が見られたのである。他の太宰の文章からは、『人間失格』という題の小説を執筆しようと計画したのが、1940年代前半にまで遡れることも判明している。

 つまり、太宰の半生を綴ったかに見えるこの小説には、こう見られたいという太宰の欲望が反映されている。あくまでフィクションであるということ、突発的に書かれた遺書ではなく丹念に推敲された小説であることに、注意しなくてはならない。

恥の多い人生とは何か

 この小説は五つの章に分けられる。「私」が作者のはしがきとあとがきに挟まれる形で、幼少期、一回目の自殺未遂、それ以降を描いた大庭葉蔵の三つの手記が挿入される。はしがきとあとがきは、彼の三つの写真を評したり、その後を追跡することで、葉蔵を相対化する効果をもつと考えられる。「私」が葉蔵を評することで、彼はある種の実在を帯びているように見えるわけだが、それは太宰が意図したことであるに違いない。

 この小説の主人公は大庭葉蔵であり、「人間失格」と評される人物は彼である。なぜ彼が「人間失格」と言われるかは論を俟たない。入水自殺ののち精神は荒廃し、アルコールと女性に依存する葉蔵は、一言で言えば、大人になっても自立できずに周りの女性に依存するダメな人間である。その傾向は、家族と共に生活していた幼少期から続く、一貫した性質であった。

つまり、自分には、二者選一の力さえ無かったのです。これが、後年に到り、いよいよ自分の所謂「恥の多い生涯」の、重大な原因ともなる性癖の一つだったように思われます。(p.17)

「恥の多い生涯」とは、この小説の中でも最も有名な文句、第一の手記の冒頭にある「恥の多い生涯を送ってきました(p.9)」のことである。葉蔵によれば、その「恥の多い生涯」となる原因の一つが、選択する力の欠落、言い換えれば、主体性の欠如にある。

道化として生きることは、人間に対する最後の求愛である

 葉蔵は他人の考えていることが理解できず、自分と他人の違いに悩まされる。

考えれば考えるほど、自分には、わからなくなり、自分ひとり全く変っているような、不安と恐怖に襲われるばかりなのです。(p.13)

そこで考えだされたのが、「道化」である。葉蔵にとって「道化」とは、「人間に対する最後の求愛」(p.14)であり、他人と関わる唯一の方法であった。他人を笑わせること、人前で演技をすること、お茶目(p.22)であることが、「人間を極度に恐れてい」(p.14)る葉蔵の生き方になっていく。

 ところで、大庭葉蔵の生まれ育った境遇は、太宰治のそれとかなり似通っている。家父長的な父、兄や姉との家族関係、「金持ちの家に生まれた」(p.21)といった点は、太宰治の境遇と同じであり、自伝的小説と言われる所以がここにある。

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考察・感想

演技を見抜かれたことの衝撃

 葉蔵にとって「道化」であることは、他人と関わる唯一の術であった。この演技のおかげで、中学校に入ると、同級生と先生たちの間で人気者になる。だがこの平安を、竹一という名の生徒が、突然破ってしまう。

ワザ。ワザ(p.28)

葉蔵は周りを笑わせるために鉄棒の技で失敗を演じてみせるのだが、このとき初めて、他人に自分の行いが演技と見破られる。このことが葉蔵を、「世界が一瞬にして地獄の業火に包まれて燃え上るのを眼前に見るような心地」にさせたのだから、彼にとって如何に重要な出来事だったかが分かるだろう。

 竹一の他に葉蔵の演技を見破った者は、「第二の手記」の末尾に登場する刑事しかいない。刑事も竹一のときと同様、唐突に「ほんとうかい?」(p.76)という短い言葉で、大袈裟にみせていた偽の咳の正体を見破った。葉蔵はこのことを「あの馬鹿の竹一から、ワザ、ワザ、と言われて背中を突かれ、地獄に蹴落された、その時の思い以上と言っても、決して過言では無い気持」(p.77)だと言う。

「第二の手記」の冒頭と最後に置かれたこの2つのエピソードは、「恥」についての感覚を的確に表している。「ワザ。ワザ」や「ほんとうかい?」と言われた瞬間、葉蔵は道化としての「自分」と、それを演じていた「自分」に引き裂かれる。このような経験は誰にも心当たりがあるだろう。このように見られたいと取り繕った姿の裏に、「このように見られたい」という欲望のほうを嗅ぎつけられた瞬間の衝撃は計り知れない。そこには隠し続けていた、葉蔵の本性が現れている。

女性への依存

 竹一には二つの予言があった。「お前は、きっと、女に惚れられるよ」(p.31)と、「お前は、偉い絵画きになる」(p.41) という予言。前者は的中し、後者は葉蔵の生きる道を決定づけた。

 人間との分かり合えなさを克服するために、人間の外にいる「道化」を演じることで、辛うじて関わりを持つことができた。だが方法はそれだけではない。葉蔵は6つ上の堀木に教えられた、酒、煙草、淫売婦、左翼運動に浸ることで、人間に対する不安と恐怖から逃避する術を身につける。しかし、そのような刺激物が葉蔵を救うことはなく、状況は次第に悪くなるばかり。そこで彼が更なる依存先として求めたのが、女性である。

 だが依存先である女性ですら、彼を真っ当な道に進ませる力はなかった。葉蔵はその都度、ツネ子、シヅ子、ヨシ子と親しくなり、やがて敬遠するようになる。ツネ子とは入水心中を図り、シヅ子とは突然家を飛び出し、ヨシ子とは「わかれさせて」(p.139)とマダムに嘆願する始末である。幼少期から感じていた人間に対する恐怖と不安からは、「ヨシ子の無垢の信頼心」(p.130)を持ってしても解放されることはない。

世間とは個人じゃないか、という思想めいたもの

 女性への依存以外にも、彼の精神が好転する瞬間があった。

けれども、その時以来、自分は、(世間とは個人じゃないか)という、思想めいたものを持つようになったのです。(p.101)

彼はこのように考えることで、「いままでよりは多少、自分の意志で動くことが出来るようにな」(p.101)った。世間とは得体の知れぬ何かではなく、人格を持った個人であって、個人と接するように世間に接すればいい。この思想の転換は、彼に一時的な幸福をもたらした。葉蔵はその後、申し訳なさからシヅ子の家を出て、マダムがいるバーの2階に居候し、ヨシ子に勧められるままに酒をやめ、彼女と結婚するのである。

狂人の烙印——「人間、失格」の確信の行方

 だが、その幸福なひとときも、純粋無垢で信頼の天才であるヨシ子が、「小男の商人」に犯されることで終わりを迎える。葉蔵はヨシ子が犯される瞬間を目撃し、「怒りでも無く、嫌悪でも無く、また、悲しみでも無く、もの凄まじい恐怖」(p.128)であった。

自分の若白髪は、その夜からはじまり、いよいよ、すべてに自信を失い、いよいよ、ひとを底知れず疑い、この世の営みに対する一さいの期待、よろこび、共鳴などから永遠にはなれるようになりました。実に、それは自分の生涯に於いて、決定的な事件でした。(p.128-p.129)

この「決定的な事件」以後、彼は酒と睡眠薬とモルヒネに溺れることになる。最後には、引取人の男と堀木によって、脳病院に入院させられる。このとき彼は、他人から狂人のレッテルを貼られるのである。

そうしてここに連れて来られて、狂人という事になりました。いまに、ここから出ても、自分はやっぱり狂人、いや、癈人という刻印を額に打たれる事でしょう。
人間、失格。
もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。(p.147)

葉蔵が「人間、失格」を確信したのは、狂人と認められた時である。前述した通り、葉蔵はどのように見られるかに過剰な意識を注ぎ、お茶目だと思われようと道化を演じてきた。だから、お茶目ではなく、演じていると看破された時、あれほどの衝撃を受けたのである。だが、この地点においてはもはや、演者とすら認められない。葉蔵は他人によって、お茶目でも、道化でも、演者ですらなく、狂人として認定されたのだ。それは演じることの否定であろう。何故ならこれから演じる全ての行為が、狂人のそれとみなされてしまうのだから。この地点において葉蔵は初めて、「完全に、人間で無くな」ったと感じるのである。

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