概要
『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は、2003年に公開された日本の警察映画。前作は『踊る大捜査線 THE MOVIE』。
キャッチコピーは青島の「DANCE AGAIN.」 「He’s back」 「現場に正義を。」 、すみれ・和久の「所轄に愛を。」、 雪乃・真下の「捜査に信念を。」、 室井・スリーアミーゴスの「接待にモナカを。」。
2024年現在、実写邦画歴代興行収入第1位、邦画歴代興行収入第7位を記録している。
同時多発的に発生した奇怪な事件に取り組む青島たちが、組織の官僚的な側面の弊害を感じながらトップのいない新たな犯罪組織と対決する物語。
邦画は他に『怒り』、『告白』、『翔んで埼玉』、『君たちはどう生きるか』、『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』などがある。
登場人物・キャスト
青島俊作(織田裕二):湾岸署刑事課強行犯係・巡査部長。緑の上着がトレードマークの捜査官。所轄の刑事として、街の安全を守っている。
室井慎次(柳葉敏郎):警視庁刑事部参事官・警視正。警視庁に勤めるキャリア。役職や身分に関係なく捜査できる環境を作ろうとしている。
(他の出演作:『誰も守ってくれない』)
沖田仁美(真矢みき):警視庁刑事部捜査第一課強行犯担当管理官・警視正。捜査を取り仕切るキャリア警官。室井にも容赦ない命令を飛ばす。
恩田すみれ(深津絵里):湾岸署刑事課盗犯係・巡査部長。青島の同僚。
(他の出演作:『博士の愛した数式』)
柏木雪乃(水野美紀):湾岸署刑事課強行犯係・巡査。新米刑事。
真下正義(ユースケ・サンタマリア):湾岸署刑事課強行犯係長・警部補。青島の部下。
日向真奈美(小泉今日子):猟奇的な殺人犯。掲示板で自殺者を募り、殺人を決行している。警察を馬鹿にしているが、それに見合った能力を持つ。
(他の出演作:『センセイの鞄』)
和久平八郎(いかりや長介):定年退職した警官。指導員として若い者たちを導いている。
名言
和久:これからどういう世の中になるかわからねぇけどよ。自分の信念貫いて、弱い者の支えになってやれ。…なんてな。
和久:正しい事をしたければ、偉くなれ。
恩田:事件に大きいも小さいもない
室井:責任をとる。それが私の仕事だ
青島:室井さん聞こえるか。仲間が撃たれた。 どうして現場に血が流れるんだ
青島:リーダーが優秀なら組織も悪くない
室井:現場の君たちを信じる
青島:レインボーブリッジ封鎖できません!
あらすじ・ネタバレ・内容
冒頭、警視庁本庁の警官と湾岸署の刑事らはテロ対策訓練を行う。テロリストに扮する青島たちは本庁の刑事たちを逆に制圧してしまう。この事件をきっかけに青島らは本庁から顰蹙を買う。
その頃、湾岸署の管轄内で蜘蛛の巣に見立てて縛り上げられた死体が発見される。この猟奇的な殺人事件を捜査するべく、本庁と所轄の合同捜査が開始し、本部が湾岸署に設置される。本庁から派遣されてきた管理官の沖田は、所轄の刑事を軽視し、捜査の重要な部分は本庁のみで進めようとする。
所轄の刑事は捜査をできない中、青島らは管轄で発生したスリとかみつき事件の捜査を開始する。一方、捜査に行き詰まった沖田は、監視カメラを使った試験的な捜査を導入するために、室井が推薦した青島とすみれを呼びつける。
人権無視のこの捜査方法に反対をする二人だが、室井の顔を立てるために仕方なく捜査に加わる。ところがモニタリングの途中、スリとかみつきの犯人を発見してしまい、監視を解いて犯人を追ってしまう。犯人には逃げられ命令にも反いたため、室井は責任を取らされモニターチェックを一人で命じられる。
青島とすみれは蜘蛛事件の目撃者である、ある会社の秘書の護衛を任される。捜査が進むにつれ、犯人はその会社でリストラにあった人物であることがわかる。その頃、犯人から電話がかかり、アメリカで特殊な訓練を積んできた真下が対応する。
複数の犯人からの連絡を分析した真下は、他の事件の犯人もリストラにあっていたことが分かる。犯人を取り逃さないため、東京を封鎖しようと目論むが、様々な利権が絡んでいるレインボーブリッジだけ封鎖ができない。
すみれが犯人を追っていると、追い詰められた犯人が近くにいた女の子に発砲しようし、そこに割って入ったすみれが撃たれてしまう。焦る沖田は無理難題を押し付けようとするが、現場の責任を取らされ捜査の管理職を下される。
交代した室井は所轄の刑事に協力を仰ぎ、本庁と所轄の合同捜査が行われ、犯人の居場所が急速に突き止められていく。次々と犯人を捕まえていく中、封鎖が完了していないレインボーブリッジから残りの犯人が逃げだそうとする。そこに本庁の捜査官が独断でレインボーブリッジに向かい、犯人逮捕に成功する。
すみれもなんとか一名を取り留め、青島は警察庁から表彰される。だがその日は、表彰式に現れず、湾岸署の仲間と捜査をしていた。そんな状況を察して室井は笑みを浮かべるのだった。
解説
レインボーブリッジは封鎖できない
青島刑事の声が響く。
レインボーブリッジ封鎖できません!!
映画の副題「レインボーブリッジを封鎖せよ!」にもなっているこのセリフは、本作の世界観を、ひいては現代日本の現状を見事に言い表している。このセリフが名言として知られているのは、カッコよいからだけではなく、日本社会の官僚的かつ権威的で窮屈な部分を明快に描き出しているからだ。他の道路の封鎖はすんなり進んでもレインボーブリッジの封鎖が困難であるのは、この道路にさまざまな利権が関わっているからである。つまり、レインボーブリッジを封鎖するためには〇〇局やら〇〇庁に許可を取らなければならず、それには各省庁の調整が不可欠で、さらには上司や局長や庁長の判子が必要なのだ。もちろんこの判子を貰うために数日を要することは言うまでもない。
このクソみたいな状況は、日本の日常風景である。上司にへーこらペーこらしたものだけが昇進し、昇進した者は遜った者を好む。だから部下は上司のどんな理不尽な命令にも従うし、上司の命令がなければ行動することができない。
それと対極にいるのが、今回の犯罪者集団である。この集団はある会社にリストラされた者で構成されている。彼らはリストラされたことをトラウマになっているため、上司というものを嫌いトップを立てない。それぞれが独自に行動し、情報共有もほとんど行われず、それぞれが社会に怒りをぶつけていく。
そしてレインボーブリッジの上で青島と対峙した犯罪者は、勝ち誇りながらこう自説を述べる。
お前の組織は、橋一つ封鎖出来ないのか?リーダーなんかいると、個人が死んでしまう
この場面のリーダーとは組織と言い換えれるかもしれない。組織に入ると個人が死んでしまう。だから、我々は従来の組織を作らない。リーダーなき組織、そこでは「個人」が生きているのだ。
考察・感想
優秀なリーダーがいる組織では個人が生きる
それに対する青島の回答はこうである。
リーダーが優秀なら組織も悪くない
この言葉は、キャリアでありながら現場の力を信じる室井を念頭に置かれている。「リーダーが優秀なら組織も悪くない」、だが「リーダーが優秀」であることだけが組織の優劣を、そして「個人」の生き死にを決定づけるのだろうか。
この言葉の裏で暗に前提とされているのは、リーダーと部下の信頼関係である。しかし、信頼関係ほどややこしい概念は無い。信頼関係の別名はコネである。或人と信頼関係を築けるのは、他の人との不信頼関係があるからだ。人の数だけ思惑があり、それぞれの思惑は時に対立する。すべての人との信頼関係を結ぶことは難しいか、あるいは結んだとしても時に信頼を裏切ることになる。
思えば、リストラを強行し犯罪者たちの恨みを買ったある会社の決断は、残った職員にとっての信頼関係の証であったはずだ。青島のセリフでは、このことが見落とされている。
もしこの先、変革が訪れないとしたら
現場の独断で封鎖されたレインボーブリッジ。その後始末をするのが、現場を取り仕切る室井である。室井は「自由にやれ。失敗しても心配するな。謝るのが俺の仕事だ」と部下を庇う理想の上司に負けず劣らずの対応をする。青島が室井を念頭に「リーダーが優秀なら組織も悪くない」と言うのも頷ける。だが、このような上司は想像上の存在であって、現実では上を見てお手手をコネコネしながら下を気にかけることは無い。
本作が公開されてから約二十年経った現在を生きる私は、この思想的勝負に対して20年越しに、犯罪者の勝利だと言いたい。この二十年、室井のような上司が増えただろうか。日本は良い方に変化してきただろうか。既得権益を守るために奔走した失われた三十年は、優秀な上司を根絶やしにしなかったか。
室井には先人がいる。和久の友人、吉田副総監である。青島と室井が目指した理想は、和久と吉田が求めたものでもあった。しかし、吉田副総監は組織を変えることはできず、青島と室井に期待をかける。そうやって理想や想いが後世に引き継がれ、誰かが組織を変革に導くというロマンチックな夢。だがもし、どこまでいっても変革が訪れないとしたら?我々が直面しているのはそのような問題だ。
それならばいっそリーダーなき組織を作ってみてはどうか。そうやってでしか「個人」を回復できないのではないか。少なくともこの対決でラディカルなのは、名言を連発する青島ではなく、「バーカ」と遠吠えをあげる犯罪者の方である。