映画『告白』解説|子どもはどこに向かうのか?|あらすじネタバレ感想・伝えたいこと考察|湊かなえ小説

映画『告白』解説|子どもはどこに向かうのか?|あらすじネタバレ感想・伝えたいこと考察|湊かなえ小説

概要

 『告白』は、2010年に公開された日本のヒューマンサスペンス映画。監督は中島哲也。原作は湊かなえによる同名小説。出演は松たか子、岡田将生、木村佳乃。

 日本アカデミー賞で4冠を受賞した。原作は2009年の本屋大賞を受賞した。

 娘を殺された中学校教師の森口が、犯人を追い詰めていく物語。

 小説はほかに、森絵都『カラフル』、小川洋子『博士の愛した数式』『ことり』、乗代雄介『旅する練習』、本谷有希子『本当の旅』、村田沙耶香『コンビニ人間』、吉田修一『怒り』などがある。

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登場人物・キャスト

森口悠子(松たか子):教師。シングルマザー。桜宮との間に子供を産むが、彼がHIVに感染していることを知って結婚はしなかった。娘を殺され復讐を企てる。

寺田良輝(岡田将生):森口の代わりに来た担任。ニックネームはウェルテル。桜宮に影響されており、熱血教師として振る舞う。

下村優子(木村佳乃):直樹の母親。過保護で神経質。森口や愛美を気遣うのではなく、直樹のことを可哀想だと感じている。

森口愛美(芦田愛菜):森口の娘。生徒たちに可愛がられていたが、修哉と直樹に殺害される。

名言

森口:ここからあなたの更正の第一歩が始まるんです

森口:なーんてね

あらすじ・ネタバレ・内容

 ある中学校の1年B組で、終業式後に担任の森口悠子が生徒たちに静かに話しかける。森口はシングルマザーで、一人娘の愛美が数ヶ月前に事故死していた。だが、彼女は愛美の死が事故死ではなく、このクラスの生徒に殺されたと告げる。

 驚く生徒たちに、愛美の父親について語り始める。愛美の父は、熱血教師として有名な桜宮正義。森口は彼と出会い子供ができるが、その後に桜宮がHIVに感染していたことが判明する。二人は悩んだ末に、結婚しないという選択をする。

 森口は愛美を殺害した犯人を少年A・少年Bと呼び、少年Aが電気ショックで愛美を気絶させ、少年Bがプールに投げ入れたと言う。生徒たちは森口の話から少年Aが渡辺修哉、少年Bが下村直樹であることを知る。森口は少年法があるため二人を警察に突き出しはしないが、先程飲ませた牛乳に、HIVに感染した桜宮の血液を混入させたと告げる。

 修哉は自分を捨てた理工学者の母親に認められたくて、財布防犯用の電気ショック装置を発明し受賞するも、同時に起こった「ルナシー」と名乗る少女による殺害事件が、世間の話題を掻っ攫ってしまう。電気ショック装置は守口にも褒めてもらえず、森口の娘を標的にしたのだった。過去に真相を問われた修哉は、悪びれずに飛び降りるフリをして「なーんてね」と笑う。

 直樹は警察にお世話になった時に、森口が来てくれなかったことで彼女を恨むようになった。森口は学校のルールに従って直樹と同性の先生を向かわせただけなので、彼女に責任はなかった。新年度が始まると修哉はクラスで虐められるようになり、直樹は学校に来なくなる。担任は新たに、桜宮に影響を受けた熱血教師・寺田がつく。

 北原美月は修哉に好意を抱きいじめに加担しないでいると、北原もいじめられるようになる。ある日、修哉がキレるといじめはなくなる。北原と修哉は付き合い始めるが、修哉は「ルナシー」を信奉している北原を見下していた。寺田は北原を連れて、直樹の自宅を訪問するようになるが、その行為が直樹と母の優子を追いつめる。

 優子は森口が訪問した時も直樹のことを可哀想と弁護するほどに溺愛していたが、直樹がプールに愛美を投げ入れるときに彼女は死んでおらず殺意があったというと、心中しようと決意する。優子は直樹を刺すが浅く、逆に滅多刺しにされる。この事情聴取を受けた北原は、寺田が直樹を追い詰めたと述べる。

 北原は偶然、ファミレスと寺田と森口が話しているのを見かける。寺田が出て行くと、森口に修哉は母から承認されたいだけだと告げる。森口は寺田を裏で操り、直樹を追い詰めたと言い、修哉も許さないと宣言する。

 母に認められるために開いた修哉の個人ブログに、母の名前と連絡先が送られてくる。母の元に発明品を抱えて意気揚々と向かうと、旅行中でおらず、再婚し妊娠していることを知る。絶望した修哉は、終業式に受賞した「命」についての作文を読み終えたタイミングで、学校ごと爆発させる計画を立てる。修哉は北原に母への依存を指摘されると、逆上し殺害する。さらに爆発予告と殺害を告白した動画をサイトにあげる。

 終業式当日、作文を読み終えると共に起爆装置を押すが爆発しない。そこに森口から電話がかかり、爆弾は撤去し修哉の母の研究室に仕掛けておいたと告げられる。さらに、サイトに母の住所を書き込んだのは自分で、彼が母の再婚と妊娠にショックを受けそこで醜態を晒したのも目撃していた。

 母を失い絶望した修哉の前に森口が現れ、ここから更生の一歩が始まると告げ、なーんてねと彼の決め台詞を使うのだった。

解説

「告白」という形式

 薄暗く青みがかった教室がより一層不気味に感じるのは、友達とくっちゃべる生徒たちの間で、先生の森口が淡々と「告白」し続けているからだろう。森口は生徒にとっても自分にとっても深刻な問題を語りかけながら、生徒たちに無視されていることを全く意に介さない。この異様さ、あるいは不気味さは、森口の抑揚のない声によってさらに際立つ

 回想を含めながら30分も続くこの奇妙な冒頭の「告白」は、森口の語り口や画面の色味の違和感と相まって、観客の心を鷲掴みにする。実際、この冒頭で沸きたった期待感は、終盤になっても裏切られることはない。複数の登場人物による「告白」は、この物語を重層的にみる視点を供給する。ある「告白」はのちの人物の「告白」により意味をずらされ、どの「告白」も偏った見方であるとして相対化される。そしてこの意味のずれこそが、愛美の殺害から始まる悲劇の原因なのである。ルールを守った森口の行為が誤解され直樹の恨みを買い、優子には半狂乱に見えた直樹の行動が彼の優しさの現れであった。「告白」によって明かされる内面と、取り繕った外面の間には、悲劇を引き起こすに足る大きな差異がある。

 原作は湊かなえの第一作にして代表作の一つになった同名小説である。2009年には本屋大賞を受賞し、2023年の時点で文庫版の部数は300万部以上を記録している。

 この優れた原作に、映画監督の中島哲也が持つ映像に対する独特の美学が、見事に噛み合い名作が誕生した。中島はCMディレクター出身で、スローモーションやCGなどを多用することで知られている。また、新海誠の『秒速5センチメートル』や『君の名は。』を彷彿とさせるような、音楽を用いてストーリーを展開させる技法を得意とし、それもこの映画で有効に機能している。

 おかげで本作は、米アカデミー賞外国語映画賞のノミネートは逃したものの、選考された9作品には選ばれており、2010年度の日本アカデミー賞では4冠を達成した。加えて、2010年度の日本映画の興行収入では第7位を記録しており、興行的にも批評的にも評価されている。

考察・感想

いじめとキレる子供——当時の学校環境を反映している

 この小説および映画には、当時の学校環境が色濃く反映されている。1990年台から問題視されるようになった「キレる子供」と「学級崩壊」は、2000年代に突入しても解決されないまま引き継がれた。いじめや殴る子供とそれに病む教師と更生させようとする熱血教師。これらに似た話は、自分では体験してない場合もあるにせよ、隣の教室や近くの学校、あるいはテレビのドラマやニュースで目にする機会が多かった。

 そのような社会的状況は、2023年現在において改善されているのかを統計的に把握はしていないが、耳にすることは減ったような気がする。知り合いの教師は、子供たちは静かで真面目になった、と言っていた。「学級崩壊」が問題になっていた2000年台でさえ、最近の若者は従順になったと言われていた気がするから、地域にもよるだろうが、その傾向がより深まったのかもしれない。現在の学生がこの映画を見たらどう思うか、知りたいところである(筆者は、比較的平穏な学校生活を送っていた。教師が泣いて帰ったり、男子生徒が女子生徒を殴ったり、サバゲで警察沙汰になるというイベントは経験したが、周囲の状況はこんなもの屁でもなかった。隣町の学校は学級崩壊をし、従姉妹のクラスは学級崩壊で授業が行われなかったと聞いた。兎にも角にも、教師は大変な職業である。)

母性の喪失の克服は、喪失を認めたときに始まるのだ

 登場する子供たちは心に問題を抱えている。その内面の「告白」は、しかし、表面に現れる奇行と打って変わって純粋なものである。母親に愛されたい修哉、母親の過度な愛情から抜け出したい直樹。その方向は真逆であるが、母親の磁場に囚われているという点において、どちらも同じ問題を抱えている。その点、北原は母親の影響力下にあるかははっきりしない。だが、家族を毒殺したルナシーに憧れ、ナルシーを自らの分身だと強弁するからも判るように、彼女は家族関係に問題を抱えている。だからこそ、彼女は同じように家族に問題を抱える北原に好意を寄せ、修哉の隠された欲望に敏感になり得た。天才的な能力と輝かしい業績の影には、母親に愛されたい認められたいという願望が渦巻いている。彼女は似た境遇だったからこそそれを見抜いてしまい、修哉をマザコンと罵ったことで殺害されてしまうのである。

 母性は過剰でも不足していても問題になる。愛情が過剰にある直樹は、いい子を強制されてそれを演じることになるが、それにはもちろんのこと負荷が生じる。一度壊れた関係を、直樹も優子も修復する術を知らない。優子を愛しているからこそHIVの感染を恐れて遠ざける直樹にとって、直樹を擁護する優子の言葉は慰めにならず、むしろ罪を自覚させるほうに働いてしまう。直樹と優子は共依存関係であり、似たもの同士である。愛美に対する直樹のはっきりとした殺意の告白に心中を図ろうとする優子は、森口を信じるあまり他の男性教師がきただけで彼女に殺意を覚える直樹と何も変わらない。二人に共通するのは、相手への過度な愛情と信頼であり、いつでも反転しうる点において危険な依存と言える。

 更生のためには、母性を克服する他ないが、母に承認されることはあり得ない。修哉の母である美由紀は、自らの人生を自らの意思で選んでいる。その選択に修哉がいなかったからといって、彼女を責めるのは酷である。彼女も自分の人生を自由に選ぶ権利があるのだ。そもそも母性の喪失の克服の道は、母だけに与えられるものではない。他に承認を求めるのもよし、モノに没頭するのもよし、友達と深い関係を作るのもよし。喪失の克服は、喪失の対象の回復によるのではなく、代替による高次の回復しかあり得ない。だから巻き戻し時計を制作することで、虚構の中で幼少期に起きた母親との離別の瞬間以前に戻ろうとしても、修哉の傷が癒えることはない。「パチーン」という音が聞こえてしまった以上、なかったことにはできないのである。

森口:ここからあなたの更正の第一歩が始まるんです

 だからこそ、更生の第一歩は母の喪失を認めるところから始まる。それは母と共に巻き戻し時計を焼失することであり、言い換えれば、過去に戻ることも求めている対象を得ることも、不可能であると理解することだ。それを認めたとき、喪失の克服のための新たな可能性が開く。母性の喪失の克服は、母性の崩壊と共に始まるのだ。なーんてね。

P.S. この物語では父親の影がほとんど見られず、子供たちの非行の責任が母親にだけ負わされていることには注意が必要である。現実世界では、この問題に対処するのは母親だけでなく、そもそも親子関係が本人にとって重要な問題になることは稀である。

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評価(批評・評論・レビュー)

映画「告白」は大人たちによってねつ造された虚構としてのモンスター=子どもたちへの一方的な憎悪の映画だ。eiga.comの「告白」評を読んであ然としたので批判しつつ「告白」評を書く。まずはその批評を読んで欲しい。 …… 全文

ーー runsinjirun.seesaa.net(シンジの“ほにゃらら”賛歌)

後世になれば、この映画は松たか子の代表作にして最高傑作と呼ばれることになるかもしれない。現時点(2010年6月)における、私が見た中で本年度ベストといえるこの映画を、本サイトで公開前に紹介できなかった事をたいへん申し訳なく思う。 …… 全文

ーー movie.maeda-y.com(前田有一)

加筆中(おもしろい評論、または、載せてほしい論考などがありましたら、コメント欄にてお伝えください)

動画配信状況

『告白』配信状況比較

配信サービス配信状況無料期間月額料金
U-NEXT31日間2,189円
Amazon Prime30日間500円
TSUTAYA DISCAS30日間2,052円
Hulu2週間1,026円
dTV✖️31日間550円
FOD✖️976円
ABEMAプレミアム✖️2週間960円
Netflix✖️1,440円
クランクイン!ビデオ✖️14日間990円
mieru-TV✖️1ヶ月間990円
dアニメストア✖️31日間550円
◎☆:おすすめ、○:無料、☆:実質無料、△:別途有料、✖️:配信なし(2023年4月時点の情報。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください)*実質無料とは、無料ポイント付与により別途料金を払わずに視聴できるということ。詳細:『告白』おすすめ無料フル視聴方法

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