『容疑者Xの献身』堤真一の演技が光る|あらすじ解説|内容考察|感想

『容疑者Xの献身』堤真一の演技が光る|あらすじ解説|内容考察|感想

概要

 『容疑者Xの献身』は2008年公開の日本映画。 監督は西谷弘。主演は福山雅治と堤真一。ドラマ「ガリレオ」シリーズの続編である。

 原作は東野圭吾の同名小説。「ガリレオ」シリーズの第3弾にあたる。2005年、文藝春秋から出版。直木賞受賞。

 日本アカデミー賞で堤真一は優秀助演男優賞、松雪泰子は優秀助演女優賞を受賞している。

登場人物

湯川学(福山雅治):大学教授。

石神哲哉(堤真一):高校数学教師。年齢の割に老けている。湯川の同期。靖子と同じアパートで、隣の部屋に住んでいる。靖子に恋をしている。

花岡靖子(松雪泰子):弁当屋「みさと」の店長。美人。美里と仲良く暮らしているが、元夫慎二に付き纏わられる。慎二殺害後は、石神の指示に従う。ホステス時代からの友人である工藤とも親しくする。

花岡美里(金澤美穂):靖子の最初の夫との娘。中学生。慎二とは血がつながっていない。優しい性格で、石神にも話しかける。慎二を置物で殴打する。

富樫慎二(長塚圭史):靖子の元夫。DV夫。美里とは血がつながっていない。靖子と別れてからも、金をせびりに家に現れる。殺害される直前には復職したと嘯いていた。

あらすじ

 花岡靖子はシングルマザーで、一人娘の美里とアパートで暮らしながら、弁当屋を営んでいた。湯川学の大学の同期で天才と称される石神哲哉は、高校の数学教師をしていた。彼は靖子の弁当屋の常連であり、また彼女の隣に住んでいた。

 ある日、靖子の元夫の富樫慎二がアパートに現れ、言い争いになる。美里が置物で慎二の頭を殴打し、怒った慎二が暴力を振るったため、、靖子は衝動的に彼の首をロープで締め殺してしまう。物音に気づいた石神は、すぐさま状況を把握し、彼女たちのために隠蔽工作をする。

 顔面は潰され指紋は焼かれた遺体が、河原で発見された。自転車に付着した指紋と焼け残った衣類から、遺体は石神と断定され、靖子に容疑がかかる。しかし靖子は完璧なアリバイがあり、厳しい捜査にも動揺せずに対応する。

 行き詰まった警察は、湯川に協力を依頼。湯川は当初事件に興味を示さなかったが、靖子が美人であることと石神が関わっていることを知って調査を開始する。石神は湯川の大学の同期で、湯川が認めるほどの天才だった。湯川は石神と接触し、石神の天才ぶりを再確認し、靖子に対する態度から彼を疑うようになる。

 石神は家の外の公衆電話を通じて、靖子と連絡を取り合っていた。靖子は石神の指示のおかげで、逮捕を免れていた。湯川が捜査をしていると知った石神は、アリバイを補強する情報を小出しにするよう指示する。しかし湯川はトリックを見破り、靖子の殺人を確信する。

 そんななか石神が、慎二を殺害したと自首する。石神は靖子のストーカーで、元夫を殺し、その後靖子に近づく男性にも脅迫の手紙を送りつけていた。物的証拠が石神の部屋から発見されたことで罪が確定する。しかし湯川は、石神が靖子の追求を逃れるために、慎二を殺害した翌日にホームレスを一人殺し、慎二とすり替えていたと推理する。発見された遺体はホームレスであり、靖子たちにアリバイがあったのも、殺害の翌日のアリバイを調査していたからだった。

 その事実を靖子に伝え、石神と話す。石神は湯川の推理を認めないが、連行途中に靖子が現れ、自分も罪を償うと訴える。それを聞いた石神は「どうして?」と叫びながら泣き崩れる。のちのち慎二の遺体が見つかり、靖子を罪を償うのだった。

解説

堤真一の演技が素晴らしい

 石神哲哉を演じる堤真一の迫真の演技が光る。石神は今風に言うと「非モテ男性」というやつで、苦労が多かったためか歳の割に老けて見える。独身でアパート暮らし、仕事も上手くいっておらず、猫背で前屈みに歩く姿は、如何にも幸薄そうだ。

 だが、彼は不幸に浸かりきっているわけではない。毎日通う弁当屋「みさと」の店長で、アパートで隣に住む花岡靖子に恋心を抱いているからだ。石神が弁当屋に顔をだしすと靖子は声をかけてくれるのだが、その些細な出来事でも石神に充実感を与えてくれる。猫背であることには変わりがないが、心の内でほのかに満足げであることが、堤真一の絶妙な演技によって醸し出される。日本アカデミー賞で優秀助演男優賞を受賞したのも肯けるだろう。

 しかしこの恋心が一方的であることは、花岡靖子を演じる松雪泰子の、これまた素晴らしい演技によって判明してしまう。殺人を犯した靖子を石神が庇うのは、もちろん恋心故なのだが、そうとも知らずに靖子は石神に「どうして助けてくださるのですか?」と真剣に質問してしまう。このときの石神の形容し難い表情が印象的だ。助けてもらったとしても好意を抱くかは別問題。最後に靖子は石神の前で泣き崩れているが、これも恋心のためではないと思われる。恋心はないが恩や信頼があり、工藤を慕いながら石神を恐れる、そのアンビバレントな感情を松雪泰子は巧みに表現している。こちらも日本アカデミー賞で優秀助演女優賞を受賞した。

 二人の間に挟まれて、引き裂かれながら仲を取り持つのが、靖子の娘の花岡美里である。美里だけが、石神の靖子への恋心と、靖子が工藤に魅かれていることに勘付いている。これまた難しい役だろう。

 慎二を殺害するシーンはかなりの迫力だ。抵抗する慎二の腕を美里は咄嗟に掴み、母娘二人がかりで元夫の束縛から解放を勝ち取る。死体となった慎二を前にして、咄嗟に仕方なくという受け身の感情と、慎二への憎しみと解放の喜びが、混ぜこぜになって滲み出る。流石の演技である。個人的には金澤美穂も優秀助演女優賞に値すると思う。

考察・感想

石神と湯川の非対称性

 石神と湯川はコインの裏表、お互いがあり得た可能性であり、双子の片割れである。湯川はドラマ『ガリレオ』の時から一貫して天才、イケメン、変人、高収入、不自由のない生活と、わずかな助言で快刀乱麻の活躍で事件を解決する頭脳明晰を持ち合わせいた。ようするに欠けている点は一切なかったし、変人行為も好意的に受け止められた。

 石神は人生の途中まで、湯川と同じ道を歩いていた。湯川と同じく、天才、イケメン、変人、高学歴。学部生にして四色問題の証明の美しさに疑問を呈し、みずから美しい証明を試みるのは、言うまでもなく天才の証である。しかしある時を境に、外的要因によって湯川とは別の道を歩むことになる。母親が病気になり看病のために、大学進学を諦める。高校教師に就職するも、職場環境は最悪。生活のようを見るにお金も少なそうだ。

 二人の非対称性は、そのまま言葉の重みの差に繋がる。

なあ湯川。あの問題を解いても、誰も幸せになれないんだ。もう忘れてくれ

石神のセリフ

真理を探求する数学者にとって、誰も幸せにならないことは、解かない理由にはならない。しかし、石神はこれまでの人生の重みによって、この言葉を湯川に投げつける。翻って湯川は苦労の少ない人生だったに違いない。悔しそうにしながらも、結果的には「あの問題」を解かずにはいられない。また湯川は石神が見栄えを気にしていたことを思い出してこう回想する。

驚いたよ。石神という男は、自分の容姿を気にするような人間ではなかった。その時、僕は気付いたんだ。彼は恋をしていると。

湯川のセリフ

 この洞察は正しかったのかもしれないが、とても薄っぺらく聞こえてしまうのは、私だけではないはずだ。石神の「恋」は、見栄えを気にするような、そのような次元に重きを置いてない。彼は人生の虚しさに疲れて自殺を図ろうとしたとき、偶然彼女たちに救われたのだった。石神の「恋」は彼の人生の重さのぶんだけ深くなる。石神の表層を眺めてついて出た湯川の言葉が薄っぺらく聞こえたのは、彼の人生が軽かったからである。

 とはいえ、ロマンチックを強調するのは正しくなくて、石神は見方によっては演技ではなくストーカーである。石神は靖子に恋心を抱いているが、その逆はない。そのことを知っているから、石神は靖子を騙すしかない。それもストーカーを演じることで、ストーカー(=好き)ではないと伝えようとするのだ。

 だが石神が変わることができたとしたら、ここだったのではないか。環境が悪かったせいで冴えない人生を歩む石神は、自分の意思で這い上がるしかなかったのではないか。石神が靖子を前にして号泣したとき、そこに石神の変化の兆しが現れている。

主題歌「最愛」がすばらしい

 この映画のために作られた主題歌「最愛」がとても良い。福山雅治の作詞作曲で、映画と完全にマッチしている。

 歌詞にある「愛せなくていいから ここから見守っている」というのは、結局は「男」の「ロマン」というやつなのかもしれないが、そうだとしも好きだ。「最愛」という題名も超ベタなのだが、それが福山っぽくていい。福山は演技は芳しくなかったが、曲で十分挽回している。

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