概要
『ハリー・ポッターと死の秘宝PART2』は、2011年に公開されたイギリスのファンタジー映画。監督はデヴィッド・イェーツ。原作は2007年に発表されたイギリスの作家J・K・ローリングの同名小説の後半部分。前作は『ハリー・ポッターと死の秘宝PART1』。
ニワトコの杖を手に入れたヴォルデモートとの最終決戦に向けて、ハリーたちはスネイプの過去と真実、分霊箱の場所、そしてハリーの運命を知る。
「ハリポッター」シリーズはほかに『ハリ・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』『ハリー・ポッターと謎のプリンス』『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』などがある。
登場人物・キャスト
ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ):額に傷をもつ。ヴォルデモートとの最終決戦に向け分霊箱を破壊する。
(他の出演作:『ガンズ・アキンボ』『スイス・アーミー・マン』)
ハーマイオニー・グレンジャー(エマ・ワトソン):ハリーの親友。ロンのことが好き。ハリーと共に旅をする。分霊箱であるハッフルパフの金のカップを破壊する。
ロン・ウィーズリー(ルパート・グリント):ハリーの親友。ハーマイオニーのことが好き。ジニーと再会したさい無視される。
ヴォルデモート卿(レイフ・ファインズ):闇の帝王。ニワトコの杖の保持者。分霊箱が破壊されていることに焦り、ハリーを殺害しようと躍起になる。
アルバス・ダンブルドア(マイケル・ガンボン):史上最強の魔法使い。スネイプに殺害された。
セブルス・スネイプ(アラン・リックマン):ダンブルドアの後を継いだホグワーツの校長。裏でハリーたちを見守る。
ホラス・スラグホーン(ジム・ブロードベント):ホグワーツの魔法薬学の教授。最後の戦いに参戦する。
(他の出演作:『クラウド アトラス』)
ドラコ・マルフォイ(トム・フェルトン):ハリーの同級生。両親に安否を心配されている。
ベラトリックス・レストレンジ(ヘレナ・ボナム=カーター):ヴォルデモートの副官。最後までヴォルデモートに付き従う。
(他の出演作:『レ・ミゼラブル』『ファイト・クラブ』『オーシャンズ8』)
ナルシッサ・マルフォイ(ヘレン・マックロリー):ドラコの母。ドラコの安否を心配して、ハリーの安否つにいてヴォルデモートに嘘の証言をする。
シリウス・ブラック(ゲイリー・オールドマン):蘇りの石でハリーの前に現れ、側にいることを伝える。
(他の出演作:『レオン』、クリストファー・ノーラン監督『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイト ライジング』)
名言
ダンブルドア:リリーの・・・これほどの時がたっても?
スネイプ:永遠に
ダンブルドア:わしらには救えぬものじゃ
ダンブルドア:死者を憐れむでない、ハリー。生者を、とりわけ愛なき生者を憐れむのじゃ
ハリー:アルバス・セブルス・ポッター。ホグワーツの2人の校長の名前を取ったんだ。1人はスリザリンだった。そして、たぶんその人は私が知る中で最も勇敢な人だ
ダンブルドア(原作):興味深いことじゃが、ハリーよ、権力を持つのに最もふさわしい者は、それを一度も求めたことのないものなのじゃ。
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あらすじ・ネタバレ・内容
ヴォルデモートはダンブルドアの墓を暴き、ニワトコの杖を獲得する。グリフィンドールの剣を見たときのレストレンジの反応から、彼女の金庫に分霊箱が隠されていると予想する。グリンゴッツ銀行で働くゴブリンのグリップフックに話を聞くと、レストレンジの金庫にあった剣をスネイプが取り替えたと言う。グリップフックはゴブリンが製作したグリフィンドールの剣と引き換えに、レストレンジの金庫に入る協力をする。
またオリバンダーから、杖は主人を選ぶこと、主人は入れ替わることを教えられる。ハリーは奪ったマルフォイの杖を使って、グリンゴッツ銀行に侵入する。服従の呪文でゴブリンを従わせたあと、レストレンジの金庫に入る。そこで分霊箱であるハッフルパフの金のカップを発見するが、触ったら増殖する双子の呪文で危機に陥る。グリップフックの裏切りで剣を強奪されるも、門番のドラゴンを利用して、なんとかグリンゴッツ銀行から脱出する。
ヴォルデモートはハリーたちが分霊箱を探し破壊していることを察知し、グリンゴッツ銀行を襲撃する。ヴォルデモートの心を読んだハリーは、彼に自分たちの目的がバレたことを悟る一方で、もう一つの分霊箱がレイブンクローに関係するものであることを知る。そして分霊箱が隠されているかもしれないホグワーツへと向かう。
警戒していた死喰い人に捕まりかけるが、ダンブルドアの弟アバフォースに助けられる。シリウスの鏡から覗いていたのはアバフォースで、ドビーを向かわせたのも彼だった。妹を亡くしたことやグリンデルバルトとの関係といったダンブルドアの黒い過去を知るアバフォースが、何故彼の遺志に従うのかとハリーに問うと、ハリーは先生のことを信じると答える。
ハリーの覚悟を認めたアバフォースは、壁画のアリアナに指示し、ホグワーツにいるネビルを呼んでくる。ネビルたちはホグワーツで、アバフォースと協力しながら、スネイプに対抗していた。ホグワーツに入ったハリーはそこで戦う仲間たちに、レイブンクローに関係する品に心当たりがないかを聞くと、ルーナがレイブンクローの髪飾りの存在を教える。
ハリーの侵入を知ったスネイプは、全校生徒を集め情報を聞き出そうとする。そこにハリーと不死鳥の騎士団のメンバーが現れ、さらにマクゴナガルが参戦して、死喰い人を倒した後スネイプを追い出す。歓喜したのも束の間、ヴォルデモートは一時間以内にポッターを差し出せばホグワーツは攻撃しないと、すべての人の頭に直接話しかける。ハリーを差し出そうとするスリザリン生は、マクゴナガルの命令で地下牢に送られる。
ハリーたちは分霊箱の探索、他はホグワーツの防衛に時間を捧げる。秘密の部屋に向かったロンとハーマイオニーは、バジリスクの牙でハッフルパフの金のカップを破壊する。それを察したヴォルデモートは、防御壁を破壊しホグワーツに進軍する。
ルーナはレイブンクローの娘でレイブンクロー寮の幽霊ヘレナをハリーに紹介し、彼女から必要の部屋にレイブンクローの髪飾りがあると教えられる。破壊しようとしたそのときドラコたちに襲撃されるが、ロンたちも駆けつけ混戦になる。しかしゴイルが放った悪霊の火が暴走し自らは死亡、ハリーはマルフォイを助けた後、バジリスクの牙で髪飾りを破壊する。
分霊箱の一つナギニを破壊するために、ヴォルデモートの心を読んで、その場に向かう。そこでヴォルデモートはスネイプに、ニワトコの杖が思い通りに動かないこと、杖の主人がスネイプの可能性があることを伝え、ナギニを使って殺害する。息を引き取る直前、駆けつけたハリーにスネイプは自分の記憶を託す。ヴォルデモートは一時撤退し、禁じられた森に一人で来るよう要求する。ハリーは大広間に向かうと、ルーピンやトンクス、フレッドの遺体をみて悲しみに暮れる。
校長室の憂いの篩で、ハリーはスネイプの記憶を見る。そこでは妹ペチュニアに化け物呼ばわりされていたリリーに恋をしていたスネイプが映し出される。スネイプはリリーがジェームズと付き合った後も、ずっと恋い焦がれていた。スネイプは帝王を破る力を持つものが現れるという予言をヴォルデモートに密告するが、彼がリリーを殺害しようとしてることを知ると、ダンブルドアに助けを求める。しかしピーターを信じたせいで、リリーは死んでしまう。ヴォルデモートの復活を予感していたダンブルドアは、リリーへの愛が本物ならリリーと同じ目を持つハリーを見守るよう、スネイプに要求する。
ほかに、ダンブルドアはドラコに下された命令を引き継いで、スネイプが自分を殺害するように頼む。さらにヴォルデモートの魂の一部がハリーに入っているため、ハリーは死なねばならないということを、ヴォルデモートが弱った時にハリーに伝えてくれと言う。スネイプはリリーと同じ牝鹿の守護霊をだし、リリーへの愛が永遠であることを示す。ダンブルドア亡き後、スネイプは守護霊を使ってグリフィンドールの剣をハリーに渡すなどの手助けをしていた。
すべてを知ったハリーは、一人で禁じられた森に入る。スニッチに口を付けると、中から蘇りの石がでてきて、幽霊となったリリー、ジェームズ、シリウス、ルーピンが現れ元気付ける。ハリーは蘇りの石を落として、ヴォルデモートの前に現れ、彼から死の呪文を受ける。ハリーは生と死の狭間でダンブルドアと再会し、ヴォルデモートが殺害したのはハリーの中にあった彼の精神の一部だと告げる。
翌朝、ハリーはハグリッドに抱かれホグワーツに運ばれる。ヴォルデモートは勝利を宣言するが、ネビルは抵抗する。さらに死んだふりをしていたハリーがナギニを攻撃し、再び戦いが始まる。
ドラコは両親に連れられて戦線を離脱。ハリーはヴォルデモートと戦闘を繰り広げ、ハーマイオニーとロンはナギニと戦う。ハーマイオニーたちがやられそうになるところで、ネビルが駆けつけ、グリフィンドールの剣でナギニを倒す。
ヴォルデモートはハリーと一騎討ちになり死の呪文を放つ。しかしニワトコの杖の主人は、ダンブルドアからドラコへ、そしてハリーへと移動していた。したがってヴォルデモートの呪文は自らに跳ね返り死亡する。ハリーはニワトコの杖を折り捨てる。
19年後、ハリーたちはキングス・クロス駅に子供達と共に現れる。次男のアルバス・セブルス・ポッターは、スリザリンに選ばれるのではないかと不安を覚えるが、組み分け帽子は意見を聞いてくれると教える。ハリーたちは子供達を見送り、幕を閉じる。
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解説
ヴォルデモートとハリー・ポッターの最終決戦
「ハリ・ポッター」シリーズの第一作『ハリ・ポッターと賢者の石』の原作が出版されたのが1997年。そこから最終巻の『ハリー・ポッターと死の秘宝』が出版されたのが2007年なので、この壮大な物語が完結するまでに約10年の歳月を要したことになる。第一作の映画化は出版から4年後の2001年で、完結作にあたる本作の公開が2011年なので、こちらも約10年の歳月をかけて完結するに至った。この完結までの歳月は、毎年原作か映画、あるいはどちらもが公開されていたため、ハリー・ポッターファンにとって至福の10年であった。
本作は「ハリ・ポッター」シリーズの最終巻の後半部分、つまり、ハリ・ポッターの本当のラストである。このラストの対決に向けて、ハリーたちだけでなく、敵のヴォルデモートも準備を整える。ヴォルデモートは、オリバンダー、グリンデルバルドを次々と襲い、最後にはダンブルドアの墓を暴くことで念願のニワトコの杖を手に入れ、ハリーとの最終対決での勝利を確信する。ニワトコの杖は死を制すると噂される死の秘宝のうちの一つで、闇の帝王ヴォルデモートが用いれば、鬼に金棒、向かう所敵なしである。
それとは対照的に、ハリーたちの陣営は疲弊している。アルバス・ダンブルドア、マッド・アイ・ムーディー、シリウス・ブラックといった強力な魔法使いを失っていた不死鳥の騎士団は、抵抗どころか団結すらままならない。それぞれがヴォルデモートに居場所がバレないよう息を潜めている。状況はヴォルデモートが闇の支配を広げた第一次魔法戦争の時とさほど変わらない。日々、ヴォルデモートに抵抗する誰かやマグル生まれの魔法使いが、失踪または投獄され命を落とす。もはやヴォルデモートの完全支配まで一刻の猶予もない。
絶体絶命の魔法使いたち。しかしそれでも僅かだが希望が残っている。その希望こそハリーたちだ。ハリーたちはヴォルデモートの追ってから逃走を図りながら、謎に包まれた死の秘宝の秘密の解明と分霊箱の破壊のために尽力する。ヴォルデモート勢力の圧倒的な優勢のなかで死の危険と隣り合わせになりながら、ヴォルデモートが気づかぬうちに徐々にヴォルデモート(の分霊箱)を破壊する。ハリーたちに魔法界の未来は託された。だからこそ、ハリー、ハーマイオニー、ロンの責任は極めて重い。ダンブルドアが言うように「失敗は許されぬ」のだ。
ヴォルデモートにとってのホグワーツ
ヴォルデモートはコンプレックスに駆動された人物である。父トム・リドルはマグル、母メローピー・ゴーントはスリザリンの子孫で、半純血だからこそ純血思想に目覚める。父の名であるトム・リドルを捨てヴォルデモート卿へと改名し、スリザリンの後継者であることにアイデンティティーを見出す。
そのためヴォルデモートは、血脈や伝統、歴史的なものに特別に魅了される。特にホグワーツの創設者、サラザール・スリザリン、ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクローの四氏には強い想い入れがあり、四氏のゆかりの品に自分の魂の一部を憑依させ分霊箱にする。両親も帰る家も持たないトム・リドルにとってホグワーツこそが家であり、ホグワーツを誰よりも理解することが彼の喜びだった。
したがって分霊箱の一つ、レイブンクローの髪飾りはホグワーツに隠す。しかも、自分以外誰も発見できないと確信していた必要の部屋に。この運命的な隠し場所が、ハリーたちをホグワーツへと導く。ホグワーツが大切なのはヴォルデモートだけではない。両親を亡くしウィーズリー家で迫害されるハリーにとっても、ヴォルデモート同様、ホグワーツが唯一の家なのだ。ハリーは、ヴォルデモートの魂の一部が憑依しているだけでなく、置かれた境遇も似ていた。だからハリーはヴォルデモートと共鳴するだけでなく、彼の考えることがうっすらと理解できる。そしてハリーとヴォルデモートは、魔法使いとしての始まりの場所で、最後の対決を迎えるのだ。
考察・感想
最強で孤独なヴォルデモートと、弱く助けられるハリー・ポッター
ハリーとヴォルデモート。二人の対決は、ハリーの勝利で幕を閉じる。ニワトコの杖の主人がダンブルドアからドラコへ移り、さらにハリーへと移行していたのは、ダンブルドアが意図せぬ単なる偶然だった。ハリーは偶然の力でヴォルデモートから勝利を掴み取ったのだ。
だが勿論、ハリーが勝利できたのは偶然のおかげだけではない。ハーマイオニーとロンと共に旅をし、ネビルを含め多くの生徒がホグワーツで抵抗運動を続け、ドラコ・マルフォイとナルシッサ・マルフォイが嘘を付き、アバフォースがハリーたちを見守り、屋敷しもべドビーが命をかけて戦ってくれたおかげでもある。すべての犠牲と助力がハリーを勝利へと導いた。
その点、ヴォルデモートのほうはどうだったか。ヴォルデモートは、ハリーとは対照的に、ニワトコの杖の探索も一人で行う。彼は最強であるが故に、助けてくれるものは誰もいない。マルフォイ一家を始め多くの者が恐怖で支配され、副官ベラトリックス・レストレンジですら金庫に入られたかと心配で怯える始末である。彼は孤独であったが故にホグワーツを愛し、孤独であったが故に孤独に生きる以外の術を知らない。
ダンブルドア:わしらには救えぬものじゃ(There is no help possible.)
ヴォルデモートは何故、孤独から逃れることができなかったのか。それは彼が人を頼ることができなかったからだ。彼は他人を頼る代わりに、殺人を犯し、魂を分裂させる。そして切り裂かれた魂をもって、より孤独を深めていく。その魂はダンブルドアですらも救うことができない。
スネイプの愛よ、永遠に
ハリー、ヴォルデモート、そしてダンブルドアは物語で重要な役割を果たしてきた。だが本作の主人公を一人挙げるなら、それは間違いなくスネイプである。ダンブルドアを殺害することでヴォルデモートの信頼を勝ち取ったスネイプは、逆に不死鳥の騎士団やハリーからは裏切り者として見做される。ニワトコの杖の主人と疑われてヴォルデモートに殺されるスネイプは、生前誰にも真の姿を見せず、誤解され続けた人物である。
そうまでしてハリーを見守り続けたのは何故か。それは彼がいまなおリリーを愛していたからに他ならない。
ダンブルドア:リリーの・・・これほどの時がたっても?(Lily… after all this time?)
スネイプ:永遠に(Always.)
ハリーの目は愛するリリーと同じ目をしていた。自らの過ちで愛する者を失ったスネイプは、愛する者(リリー)が愛する者(ハリー)を愛そうとする。ハリーに恋敵であるジェームズの影がチラつくにもかかわらず。リリーに対する「永遠に」続く愛のために、スネイプは死を恐れないばかりか、彼の行いが誰からも知られることがないのも厭わない。ダンブルドアに「君の最も良い部分で決して明かすなと言うのかね、セブルス?」と問われても、「誰にも知られないように……」というスネイプの想いが変わることはない。
誰にも知られることがなくても、恨まれようとも、永遠の想いに身を捧げるのは、愛の行為だ。スネイプの愛の行為は、ハリーを守ったリリーと同等のものである。彼は、リリーが自分を犠牲にハリーを守ったように、自分を犠牲にしてハリーを守る。スネイプは作中で最も気高い愛にあふれた人物なのである。