『クラウド アトラス』考察|愛で繋がる壮大な物語|あらすじ解説|感想|トム・ティクヴァ

『クラウド アトラス』考察|愛で繋がる壮大な物語|あらすじ解説|感想|トム・ティクヴァ

概要

 『クラウド アトラス』は、2012年に公開されたドイツ・アメリカ合作のSFドラマ映画。監督はトム・ティクヴァとウォシャウスキー姉妹。原作は2004年に発表されたデイヴィッド・ミッチェルの同名小説。1849年、2144年、2321年の物語はウォシャウスキー姉妹が監督、1936年、1973年、2012年の物語はトム・ティクヴァが監督をしている。

 19世紀末から未来までの、時代と舞台が異なる6つの物語をランダムに描く。

 ラナ・ウォシャウスキーはほかに『マトリックス レザレクションズ』を監督している。

 トム・ハンクスはほかに『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『ターミナル』『アポロ13』、ジム・ブロードベントは『ハリー・ポッターと謎のプリンス』『ハリー・ポッターと死の秘宝PART1』『ハリー・ポッターと死の秘宝PART2』に出演している。

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登場人物

アダム・ユーイング(ジム・スタージェス):1849年の主人公。奴隷貿易をする青年。胸に彗星型の痣がある。

ロバート・フロビシャー(ベン・ウィショー):1931年の主人公。作曲家志望の青年。背骨の辺りに彗星型の痣がある。

ルイサ・レイ(ハル・ベリー):1973年の主人公。女性ジャーナリスト。鎖骨の辺りに彗星型の痣がある。

ティモシー・カベンディッシュ(ジム・ブロードベント):2012年の主人公。老編集長。右足首の辺りに彗星型の痣がある。

ソンミ451(ペ・ドゥナ):2144年の主人公。労働専用のクローン人間。首の辺りに彗星型の痣がある。

ザックリー(トム・ハンクス):2321年の主人公。崩壊した文明の羊飼い。後頭部に彗星型の痣がある。

ルーファス・シックススミス(ジェームズ・ダーシー):1931年と1973年の両方の時代に登場する唯一の人物。物理学者。フロビシャーの恋人でありルイサ・レイに重要な報告書を託す。

あらすじ・ネタバレ

 6つの時代の物語が複雑に絡み合い共鳴し合いながら進行する物語を、隻眼のザックリーが子供たちに語り聞かせる。

波乱に満ちた航海の物語 1849年、米国の弁護士ユーイングは奴隷貿易に関わっていた。南洋で商談をまとめると、医者グースと共に帰国するために航海にでる。そこで鞭打ちされていたときに目のあったオトゥアと出会う。彼は脱走奴隷で、密航のために協力してほしいと懇願する。ユーイングの協力のもと航海の水夫として働けることになる。その後、奴隷貿易の利益を狙うグースがユースを毒殺しようとし、機転を利かせたオトゥアに救われる。この出来事をきっかけに、奴隷商人の義父ハスケルに別れ、妻ティルダと共に奴隷解放運動へと向かう。

幻の名曲の誕生秘話 1931年、舞台はイギリス。音楽家を目指すフロビシャーは恋人シックススミスの下を離れ、大作曲家エアズのところで採譜係として雇われる。ユーイングの航海日記を愛読書とするフロビシャーは、エアズの採譜係の仕事の傍ら、『クラウド・アトラス六重奏』の作曲に取り掛かる。だがこの曲を盗もうとしたエアズを殺害してしまい、逃亡生活を送る。そして『クラウド・アトラス六重奏』の完成後、シックススミスに遺書を残して自殺する。

巨大企業の陰謀 1973年。米国で物理学者となったシックススミスは、フックスらと共に計画していた原子力発電所に欠陥を発見する。シックススミスは偶然知り合ったジャーナリストのルイサ・レイに告発するための報告書を渡そうとするが、原発事故を望む石油会社に雇われた殺し屋ビルに殺される。ルイサは残された報告書とフロビシャーの手紙を手に入れるも命を狙われる。そこで亡き父の戦友ネピアと協力して戦いビルを殺害、シックススミスの姪メーガンと協力して報告書を公開し真実を明るみに出す。

ある編集者の大脱走 2012年、舞台はイギリス。編集者のカヴェンディッシュは新人作家の原稿『ルイサ・レイ事件』を所持していた。カヴェンディッシュが編集を務める作家ダーモットは、敵意のある批評家を公衆の面前で殺害したことをきっかけに本が売れる。それによりカベンディッシュに大量の金が入るが、盗んだ金をダーモットの舎弟に脅され大富豪の兄デニーに助けを乞う。しかしカヴェンディッシュに恨みを持つデニーは、彼を騙して老人介護施設に入所させる。半監禁状況にある入居者仲間と、看護師ノークスに戦い脱出する。その後、自伝小説『カヴェンディッシュの大脱走』を執筆しながら、若き日の恋人アーシュラと共に暮らす。

伝説のクローン少女と革命 2144年。舞台はネオソウル。給仕係のソンミ451は、過去の映画『カヴェンディッシュの大脱走』を観て自らの状況に疑問を持つ。ソンミは革命家チェンに助けられ、自分のような複製種が純血種により殺害され、複製種の食事にされていたことを知る。解放のために真実を明るみに出す決心をしたソンミは、革命軍が占拠した放送施設で全世界に向けて演説を行う。その場を政府軍に攻められ、チャンを含めた革命軍は戦死してしまう。捕らえられたソンミは、派遣された官僚にこれまでの真実とチャンへの愛を語り終えると処刑される。

崩壊した地球での戦い 2321年。舞台は文明の崩壊した地球。ザックリーは女神ソンミを崇めながら、人食い族に怯えて暮らしていた。ある日、「昔の人」の技術をもつプレシエント族のメロニムが、「悪魔の山」へのガイドを求めて村を訪れる。オールド・ジョージーの幻覚に悩まされるザックリーは、巫女アベスから三つの啓示を得る。啓示を守ることで、人食い族から逃れメロニムと共に「悪魔の山」に辿り着き、地球外コロニーへの救難信号の送信に成功する。メロニムは地球が滅びることを知っていて、宇宙に救援を求めるのが目的だった。村に戻ると人食い族によって姪以外殺害されていた。最後の啓示を破ってしまい人食い族から襲われるが、メロニムのおかげで助かり、姪と共にプレシエント族の施設に移る。

エピローグ 2346年。舞台は地球ではない別の惑星。ザックリーは沢山の子供たちにこれまでの物語を語っていた。そしてザックリーはメロニムと寄り添っていた。

解説

未来へと繋がる壮大な物語

 『クラウド アトラス』は、異なる時代と舞台で展開される6つの物語が、ランダムに描かれながらもゆるやかに繋がるという複雑なストーリー展開をみせる。数百年の時間スケール、地球と宇宙という空間スケールで描かれる本作は、極めて壮大な物語だ。

 ゆるやかに繋がるのはストーリーだけではない。キャストも性別や性質(主役、悪役、脇役)を超えて、各エピソードで異なる人物として登場する。「波乱に満ちた航海の物語」の主人公アダム・ユーイングを演じるジム・スタージェスは、「幻の名曲の誕生秘話」では宿を追い出される客に、「ある編集者の大脱走」ではスコットランド人のラグビーファンとして登場する。あるいは、「巨大企業の陰謀」の主人公ルイサ・レイを演じるハル・ベリーは、「ソンミの首輪を外す闇医者オビッド」ではソンミの首輪を外す闇医者オビッドに、「波乱に満ちた航海の物語」では農園で働くマオリ族として登場する。あるエピソードで主人公を演じたキャストが、他の時代では脇役や悪役となり物語の進展にゆるく関わっているのだ。

 この各エピソードの間にあるゆるやかな繋がりは、主人公たちが作る音楽や日記、映像などによっても紡がれている。「波乱に満ちた航海の物語」のユーイングが記した航海日記を愛読するのは、「幻の名曲の誕生秘話」の主人公で音楽家のロバート・フロビシャーであるし、フロビシャーが作曲した『クラウド・アトラス六重奏』に懐かしさを感じるのは「巨大企業の陰謀」の主人公でジャーナリストのレイである。また「伝説のクローン少女と革命」の主人公で複製種のソンミ451が自らの境遇に疑問を持つのは、「ある編集者の大脱走」の主人公で編集者だったカベンディッシュの自伝映画を偶然観たからだし、「崩壊した地球での戦い」の主人公のザックリーが崇めるのは約200年前に革命を起こしたソンミ451の偶像なのだ。彼/女らの行動は誰にも記憶されることはない。だが彼/女らが残した物は未来へと紡がれていく。そして次の世代の行動に少なからず影響を与えていくのだ。

考察・感想

人生と歴史

 各エピソードの主人公たちは体のどこかにホウキ星のアザを持つ。彼/女らは歴史の中で選ばれた者たちなのだ。だがそこに登場人物を導く大きな歴史の力が働いているわけではない。彼/女らはそれぞれに懸命に生き、それが偶然に歴史の中で繋がりをもっていくのである。

 だからそれぞれのエピソードは繋がりながらも独立している。奴隷解放運動に向かう青年、『クラウド・アトラス六重奏』を完成させた作曲家、原発の欠陥を告発したジャーナリスト、お金にルーズな編集者、革命を起こす複製種、原始的な生活を送る男性。それらは時代も舞台も全く異なるし、歴史的な重大事件でもない。ユーイングの航海日記は世に出回っていないし、『クラウド・アトラス六重奏』は全く有名になってはいない。

 それでも彼/女らの行為は時空を超えて繋がっていく。私的で些細な行いも、記録にすら残らない行為も、誰かに影響を与え、未来へと紡がれる。それこそが人生であり歴史になるのだ。

愛から生まれる変化

 もう一つのテーマは「愛」である。しかしこの愛は異性愛に留まるものではなく、人類愛、同性愛、友人愛、共同体愛など、様々な形で描かれる。

 例えば、ユーイングは航海中に助けられた黒人のオトゥアに友人愛を感じ、これまでの奴隷貿易を止めて奴隷解放運動へと向かう。複製種のソンミ451は革命家チェンに助けられ恋に落ちたあと、複製種に対する純血種の搾取の現実を知って人類愛に目覚める。

 誰かを愛した時、人はこれまでとは違った存在になる。何故なら愛するということは、理解することのできない他者を、それでも知ろうとすることだからだ。どのような形であれ、愛を知った人は、否応なく変化を迫られる。価値観や世界の見え方が変化し、これまでとは違う発想が生まれ、行動を起こし、その行為自体や残された物が未来に届き、次の世代に影響を与える。水平的な愛が垂直的な時間を越えていくのだ。そしてこれは決して映画の中だけの話ではないだろう。現実に生きる我々の人生も、そのように未来へと繋がっている。

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