ぬくもりを与える家族——ブレット・ラトナー『天使のくれた時間』

ぬくもりを与える家族——ブレット・ラトナー『天使のくれた時間』

概要

 『天使のくれた時間』は、2000年に公開されたアメリカのファンタジーヒューマン映画。監督はブレット・ラトナー。主演はニコラス・ケイジとティア・レオーニ。原題は「The Family Man」。

 フランク・キャプ監督の『素晴らしき哉、人生!』(1946)をモチーフに、ありえたかもしれないもう一つの人生を描いている。

 ニコラス・ケイジは『ワールド・トレード・センター』で主役を演じている。

 ヒューマン映画はほかに『ターミナル』『トゥルーマン・ショー』『A.I.』などがおすすめである。

登場人物

ジャック・キャンベル(ニコラス・ケイジ): 金融会社の社長。独身で仕事第一。クリスマスイブに偶然立ち寄ったコンビニでキャッシュに出会い、翌日目覚めるとケイトと結婚した世界で生活をすることを余儀なくされる。

ケイト・レイノルズ(ティア・レオーニ):弁護士。ジャックと結婚して、無償の弁護士活動を行っている。ジャックと結婚しなかった世界では、弁護士として成功し高給取りである。

キャッシュ・マネー(ドン・チードル):天使。理不尽な対応をしてきた店員に怒るも、ジャックに諌められる。ジャックの心意気に感心し、彼をケイトと結婚した世界線に飛ばす。

アニー・キャンベル(マッケンジー・ヴェガ):ケイトとジャックの娘。ジャックの変化にいち早く気づき、いまのジャックを宇宙人だと思い込み、彼が生活に馴染めるよう協力する。最後にはジャックを父として認める。

あらすじ

 1987年のある日、ジャックはロンドンに向かおうと空港に来ていた。海外での銀行研修に意気込んでいると、恋人のケイトがもう二度と会えなくなる気がするので行かないでほしいと引き止める。しかしジャックは、仕事の成功を優先しロンドンへと旅立つ。

 13年後、ジャックはウォール街にある金融会社の社長になっていた。恋人や人間関係よりも仕事を愛し独身生活を満喫していたジャックは、企業合併のための会議をクリスマス・イブに行う。その日、十数年ぶりにケイトからの連絡がはいっていたが、それを無視し帰路に着く。

 偶然立ち寄ったスーパーで青年キャッシュが、店員から理不尽な対応を受け激怒し銃を突きつける。それを目撃したジャックは交渉を名目に命がけの仲裁に入り成功する。ジャックはキャッシュに仕事に就けるよう助言する。しかし会話の中で、何でも持ってると言ったジャックに対し、これかのことは全て君の責任だという言葉を残してキャッシュは去る。

 翌朝目覚めると、普通の家に2人の子供とケイトと暮らしてた。驚いて勤めていた会社に向かうも誰もジャックのことを覚えておらず、現れたキャッシュは、答えは自分で探せと告げて消えてしまう。

 家に戻るとクリスマスを台無しにしたことをケイトに怒られる。その日は友人たちとパーティーに出掛けて翌日を迎える。娘のアニはジャックの様子が変なことから宇宙人と思い、手助けしてくれるようになる。ジャックの仕事はタイヤの小売りで、この世界は13年前にロンドンに行かなかった世界であることを知る。

 最初は庶民の生活に馴染めなかったが、徐々にこの生活に満足感を覚えるようになる。ある日、元の世界で勤めていた会社の会長が、タイヤ交換のために今の会社を偶然訪れる。この機会を逃さず、ジャックは金融会社への転職に漕ぎ着ける。だがそれはケイトが望むようなものではなかった。

 ケイトの意図を知り今の生活を続けることを決心する。アニーにも父として認められ、幸せな生活を送る。しかし再びキャッシュが現れ、元の世界に戻されることになる。

 元の世界のクリスマスの朝に目覚めたジャックは、会社のトラブルを片付けているうちに自分は一人であることを自覚する。ケイトのもとを訪れると、弁護士として活躍していてパリへの移動の準備で忙しかった。荷物を持って帰らされたジャックは一度は諦めるも、ケイトとの生活を望み空港へ向かう。

 呼び止められたケイトは、二人が結婚した生活を必死に伝えるジャックに心が動かされて、ロンドンに行く飛行機を見送ることにする。空港のカフェには、楽しそうに会話をするケイトとジャックの姿があった。

解説

天使が起こす奇跡、パラレルワールドにようこそ

 『天使のくれた時間』は1946年に公開されたフランク・キャプ監督の名作『素晴らしき哉、人生!』からインスピレーションを得て制作された。13年前に彼女のケイトと破局して以来、仕事一筋でウォール街の大富豪に成り上がったジャックが、天使キャッシュの力によってケイトと別れなかった世界線を経験する、というのが本作の大筋である。

 題材にされた『素晴らしき哉、人生!』は、不幸な人生を送る誠実なある男性を落ちこぼれの天使が救う、人生の素晴らしさを謳ったヒューマニズムの名作である。この名作はそもそも、19世紀のイギリスの小説家チャールズ・ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』に影響を受けて作られたものだった。この三作に共通するのが、不幸な男性と奇跡による救済のモチーフである。

 本作で天使が起こす奇跡は、あの決定的な瞬間にもう一つの選択肢を選んでいた世界、つまりパラレルワールドを体験させてくれるというものだ。もちろんこれは誰にでも起きるものではない。部下がクリスマスを家族と過ごそうとすることにも無頓着なジャックは、一見すると人間性が低いダメな奴なのだが、交渉という名の下でキャッシュに親切を働いたのだった。ウォール街で成功し会社の社長になったジャックにも、貧困な風貌の人に親切を働く優しさは残っていて、その一瞬にジャックの優しさが見え隠れする。

 彼が体験するパラレルワールドは、13年前にケイトと別れず結婚し二人の子供と犬と、平凡な家に暮らす家族の生活だ。元の世界では仕事一筋で人間関係の乏しかったジャックは、こちらの世界で周囲の煩わしさに辟易とする。しかし温かさも与えてくれるのだ。欠落した13年間を身体に馴染ませるように、ケイトや子供たちと共に過ごす時間は、彼に人間関係の温かさを教えてくれる。元の世界に戻ったジャックが、自分は一人ぼっちだ、と嘆くとき、彼は失ってしまったものの大きさに打ちひしがれている。一度知ってしまった人間の温もりを失うのは耐え難い。温もりはお金に勝るのだ。

考察・感想

冒頭と対照的なラストの場面。ケイトの選択はどっちだ!?

 ところで原題「The Family Man」からも明らかなように、本作は「家族」が全面的に推されている。それも裕福ではない平凡な家族が。ウォール街に向かう長い道のりが示すように、ここに横たわっているのは格差の問題だ。お金持ちになれず家族を作りながら平凡な生活を送る多くの人たちは、繰り返される変わることのない日常のなかで、こう問わずにはいられないはずだ。あの時、違う選択肢を選んでいたら、この道の先にあるウォール街で裕福な暮らしをしていたのではないのだろうか。

 本作はこれを真逆の立場から映し出すことで、裕福でない平凡な人々を肯定している。大事なことは、金ではなく、家族だ。家族の有り難みを知ってなお、ウォール街で働くことが家族のためだと考えるジャックにケイトは反対する。そこで言われているのはこういうことだ。ウォール街で働くことも裕福であることも、決して幸せなことではない。家族とともに穏やかに暮らすことが幸せなのだ。そして何より、あの生活をわれわれは、選択したのだし選択しているのだ。

 しかしこの物語は危うい。何故ならこの物語は貧困である大多数のアメリカ人を元気付けることはあれど、人生の素晴らしさを謳っているわけではないからだ。この映画の根底にあるのは、貧困でも家族といることが大事だという、極めて乏しい想像力なようにもみえてしまう。

 この映画の素晴らしさは、むしろ、現実世界でケイトも弁護士として大成功していることのほうかもしれない。二人は別れたあと、ジャックが社長になったようにケイトも裕福になっていたのだ。彼女は裕福で充実していて自立している。だから会いに来たジャックに対して素っ気無いのは仕方がない。結婚したパラレルワールドをみてきたジャックと違い、ケイトは13年前に別れたこの世界しか知らないのだから。それでもケイトはジャックに引き止められて、止まることを選ぶ。ここは最初の場面と見事な対称をなしている。13年前ロンドンに向かったジャックと違い、ケイトは共にいることを選ぶのだ。空港のカフェで会話を交わす二人の姿は、二人の明るい将来を暗示している。

P.S.ケイトと娘アニーの演技が素晴らしかった。父親が宇宙人だとしても協力してくれるアニーにほっこりする。あと「La la la la means I love you」を歌うジャックにグッときた。

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