『ワールド・トレード・センター』感想|あらすじ解説|内容考察|死の無意味さに抗って

『ワールド・トレード・センター』感想|あらすじ解説|内容考察|死の無意味さに抗って

概要

 『ワールド・トレード・センター』は、2006年のアメリカ映画。監督はオリバー・ストーン。

 アメリカ同時多発テロ事件を元にしたノンフィクション。飛行機が追突し崩壊した世界貿易センタービルの下敷きになった人々を描く。ジョン・マクローリンとウィル・ヒメノも特別出演している。

 オリバー・ストーンは『7月4日に生まれて』や『JFK』で有名。

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登場人物

ジョン・マクローリン(ニコラス・ケイジ):警察官。班長。1993年の爆破事件で救急班として活躍した経験があり、部下からも慕われている。

ウィル・ヒメノ(マイケル・ペーニャ):警察官、ジョンの部下。ジョンとともに崩壊したビルの下敷きになる。

ドナ・マクローリン(マリア・ベロ):ジョンの妻。

アリソン・ヒメノ(マギー・ジレンホール):ウィルの妻。

デイブ・カーンズ(マイケル・シャノン): 元海兵。一人で救助に向かう。

あらすじ

 2001年9月11日、ニューヨーク。港湾警察局の職員はジョンを班長として、バスターミナルの警備をしていた。大きな爆発音の後、本部に戻るよう指令が入る。そこで見たニュースは、噴煙を上げる世界貿易センタービルを映し出していた。

 正確な情報が掴めぬまま、ジャンたちは現場に向かう。ビルの一階は消防隊や警察官と負傷者でごった返していた。酸素ボンベを確保しタワー1に向かう途中、轟音と共にビルが崩壊する。

 目を覚ましたジョンは状況を確認すると、ジョンとウィルは瓦礫の下敷きになり身動きごとれず、ドミニクはどうにか動けるようで、ほかの隊員の生存は不明であった。ジョンは近くにいるウィルを助けるようドミニクに指示する。

 しかし再び崩壊がはじまり、ドミニクは瓦礫に挟まれ命を落とす。そのころ事件の様子は世界中に広まり、家族は彼らの安否を心配していた。友人たちも駆けつけるが彼らの安否が分からず苛立ちはじめる。その頃、ジョンとウィルはお互いに寝てしまわないように、家族のことや他愛のない話を交わす。しかし、痛みに襲われたり火事に見舞われたり、幾度となく危機に見舞われる。

 二次被害を恐れて救助活動ができないところに、元海兵隊のカーンズが現場に駆けつける。カーンズは途中で出会ったトーマスとともに被害者を探す。ウィルは手元の金属パイプを鳴らすと、偶然カーンズの耳に入り、応援部隊と共にジョンとウィルの救助活動が始まる。

 救出したという情報が家族に伝えられ病院に向かうも、まだ救助されていないことを知り落胆する。勇敢な救助隊員によってウィルが救助される。

 ジョンは体力の限界が近く、意識も混濁としていた。夢に妻のドナがあらわれて、家に帰りたいと思う。懸命な救助活動のおかげでジョンも救出される。

 2年後、ジョンとウィルは感謝の会を開く。犠牲者は2749名。救出されたのは20名であり、ウィルとジョンは18、19番目だった。

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解説

アメリカに激震を与えたアメリカ同時多発テロ事件

 2001年9月11日、世界貿易センタービルに飛行機が追突した。アメリカ同時多発テロ事件である。この時、真っ先に救護に当たった警官たちの様子をノンフィクションで描いたのが本作だ。崩壊前にジョンが最後に会った人物の職業までも正確に再現しているらしい。本作の正確さと意気込みが窺える。

 アメリカ同時多発テロ事件を題材にした映画は、他に『ユナイテッド93』がある。『ユナイテッド93』では、ハイジャックされた飛行機で唯一目的地に着く前に墜落したユナイテッド93便の様子が描かれる。ハイジャックされた飛行機の乗客は、わずかな情報からハイジャック犯と対決する道を選ぶ。相手を制圧するも、機体を上昇させることはできず墜落してしまう。こちらもノンフィクションである。

 この2作は、一つはハイジャックされた飛行機の中。もう一つは追突したビルの下敷きになった人々。シチュエーションは違えど、どちらも悲惨であることに変わりはない。2作とも観ると、現場が如何に過酷であったが、わずかながら想像できるようになる。

 より一層やるせなさが増してしまうのは、救助のために駆けつけた人々が、ほとんど意味もなく亡くなってしまったからだろう。世界貿易センタービルに飛行機が衝突したという第一報を聞きつけ、多くの警官や救助隊が駆けつける。犠牲になった多くは、正義感に溢れた人たちだったのだ。その勇敢な行いで助かった命があるならば、まだ救いがあっただろう。だが、彼らは一人も救うことができていない。到達してまずしたことは、酸素ボンベの確保だったがそのすぐ後にはビルは倒壊し、ジョンとウィルは瓦礫の下敷きになっている。彼らは何もできていない。そのことが言葉に言い表せないやるせなさにつながっている。

 あとになって考えてみれば、犠牲者を減らすためにより良い行動を取れたかもしれない。倒壊の恐れを考慮に入れていれば。もっと早く避難していれば。ドミニクにウィルの救助をさせなければ。あそこにはいくつもの「もし」が漂っている。

考察・感想

無意味な死の有意味化

 アメリカに激震を走らせた事件でありながら、意外にも動きが少ない。地上では政治家や機関の職員が慌ただしく働いていただろうし、街は喧騒にまみれていただろう。だが、本作はあくまで下敷きになったジョンとウィル、加えて彼らの家族にとどまる。彼らが動けない以上、多くの時間はジョンとウィルの苦悶の表情を映すだけになる。

 ジョンとウィルの個人に焦点をあてたのには訳がある。アメリカ同時多発テロ事件は、規模の大きさゆえに固有名が剥奪されていた。テロ犯がイスラーム過激派テロ組織アルカイダとわかると、戦いは国内をとびでることになった。世界貿易センタービル倒壊による死者数2,763人と言う数字も、それぞれに固有の死の意味を希薄にしている。アメリカ同時多発テロ事件や9.11という呼び名も、仕方がないとはいえ、そこで実際に亡くなった人々の固有性を覆い隠している。

 前述のように、彼らの行為は実質的には無意味だった。救助に駆けつけたジョンたちは誰も助けることができていない。そしてあろうことか、隊員のほとんどが瓦礫の下敷きになり亡くなってしまった。そして彼らの死はのちの記録においても、数字化されるか、大きい固有名に覆い隠されてしまう。その意味で彼らは二度の無意味な死を経験しているのだ。

 だから、本作は彼らの死の、徹底的な有意味化にこだわる。というより、生き残った者たちによって死の意味を作り替える。彼らは危険と知りつつ、勇敢にも駆けつけた。そして二人は奇跡的に生き残った。ウィルは瓦礫に埋れながら、夢にイエスが現れ彼を導いた。ジョンは妻との思い出と家族への愛に、生きて戻る意味を見出した。彼らの勇敢な行為は、実際に何もなし得なかったとはいえ、共助に向かったというその行為によって意味があるのだ。

 事件後、建てられた看板には行方不明者の名前が載せられた。しかし、彼らの死は一行におさまるものではないはずだ。ジョンとウィルに降りかかった出来事を知ることで、その裏に何千といる、語られることのなかったそれぞれの死の物語に想いを馳せること、それが重要なのである。

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