『アメリカン・ビューティー』考察|予告された殺人|あらすじネタバレ感想・伝えたいこと解説|サム・メンデス

『アメリカン・ビューティー』考察|予告された殺人|あらすじネタバレ感想・伝えたいこと解説|サム・メンデス

概要

 『アメリカン・ビューティー』は、1999年に公開されたアメリカの心理恋愛映画。サム・メンデスの初監督作。出演はケヴィン・スペイシー、クリス・クーパー、ウェス・ベントリー。

 第72回アカデミー賞で作品賞を受賞した。

 家族関係がうまくいかず娘や妻から煙たがられていたレスターは、ある日娘の親友に一目惚れし、生活が次第に崩壊していく物語。

 サム・メンデスはほかに『007 スカイフォール』や『1917 命をかけた伝令』で有名。

 心理映画はほかに『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『ゲーム』『アイズ ワイドシャット』などがある。

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登場人物・キャスト

レスター・バーナム(ケヴィン・スペイシー):太っていてハゲかかった冴えない中年男性。家族からは嫌悪されている。アンジェラに気に入られようと筋トレを始める。
(他の出演作:デヴィッド・フィンチャー監督セブン』)

キャロライン・バーナム(アネット・ベニング):レスターの妻。仕事人。優柔不断なレスターのことを嫌悪している。不倫をしている。

ジェーン・バーナム(ソーラ・バーチ):レスターの娘。父を毛嫌いしているが、愛に飢えてもいる。

アンジェラ・ヘイズ(ミーナ・スヴァーリ):レスターの娘の友人。レスターを誘惑し好意を持たれる。のちに処女であることが明かされる。

リッキー・フィッツ(ウェス・ベントリー):フランクの息子。ドラッグの売人をしている。ジェーンと恋に落ちる。
(他の出演作:クリストファー・ノーラン監督インターステラー』)

フランク・フィッツ大佐(クリス・クーパー):元海軍大佐。ゲイを嫌悪している。しかし自分がゲイであることが、後半に明かされる。
(他の出演作:『アメイジング・スパイダーマン2』)

名言

レスター:今日という日は、残りの人生の最初の一日
Lester:Today is the first day of the rest of your life.

レスター:するとその気持ちは雨のように胸の中を流れ感謝の念だけが後に残る。僕の愚かな取るに足りぬ人生への感謝の念が。たわ言に聞こえるだろう?大丈夫。いつか理解できる。

あらすじ・ネタバレ・内容

 広告代理店に勤めるレスター・バーナムは、妻キャロラインと娘ジェーンと一見すると幸せな家庭を築いていた。しかし実際は、中年太りの体型で頭がハゲあがっているレスターは、キャロラインとジェーンから馬鹿にされていた。一方で、キャロラインは見栄っ張りな性格で自分の成功しか頭になく、ジェーンは今時の女の子のように振る舞い反抗期を迎えていた。

 ある日、レスターはジェーンのチアガールの踊りを観にいくと、ジェーンの友人でチアガールのアンジェラ・ヘイズに一目惚れする。友人であるアンジェラに気のあるそぶりみせるレスターに、ジェーンは嫌悪感を募らせる。

 元海軍大佐でゲイ嫌いのフランク・フィッツと息子のリッキーが、近所に引っ越してくる。ジェーンはリッキーに恋をしする。一方で、リッキーが裏でしているドラッグの販売を知ったレスターは、ドラッグを買うようになる。

 ある日、アンジェラが家に泊まりにくる。レスターがマッチョなら寝てもいいと言うアンジェラたちの会話を盗み聞きしたレスターは、アンジェラとセックスをするために筋トレを始める。それ以来、レスターに変化が訪れ、キャロラインとの喧嘩でも折れることはなく、さらには会社まで退社してしまう。

 レスターとリッキーが二人でいるところを見て息子がゲイである勘違いしたフランクは、リッキーを殴る。リッキーはジェーンと駆け落ちを計画する。それを止めようとするアンジェラは、リッキーに怒られ意気消沈する。アンジェラは慰めてもらおうとレスターに近づくが、彼女が処女であることを知り彼はセックスを断念する。

 実はフランクはゲイであり、レスターとの関係を望むも断られる。また、キャロラインはレスターを殺害しようと家に向かう。だが、思いとどまったキャロラインはレスターの和解をのぞみ、アンジェラやジェーンもレスターと仲直りの兆しが見え始め、レスター本人もそれを望む。

 しかし、突然銃声が鳴り響き、レスターはフランクに殺されてしまう。レスターは「僕の愚かな取るに足りぬ人生への感謝の念が。たわ言に聞こえるだろう?大丈夫。いつか理解できる。」と言い残して幕を閉じる。

解説

冴えない中年男性の生き残る道——マチズモの復権

 本作は一見すると、ロリコンすけべオヤジの単なる妄想物語であるかのように思われるが、後に詳しく述べるように、実は社会的問題やさまざまなモチーフが組み込まれている。

 主人公のレスターは、普通の家庭を持ったどこにでもいるハゲかかった中年オヤジ。だがそれは、レスターが望んだ理想の姿ではない。彼は外では労働力としてこき使われ、家庭内ではキャリアウーマンの妻キャロラインに見下され、娘ジェーンに生理的嫌悪感を示される。レスターはそんな毎日に鬱憤を抱えながら、しかしその現状を変える力も気力も持ち合わせていない。このまま冴えない中年親父として一生を過ごすのか、そんな漠然とした不安がレスターにのしかかっている

 これは何もレスターだけのリアルではない。女性が社会進出をし発言権を強化していく一方で、これまでマチズモを謳歌してきた男性が糾弾され去勢された時代。子供の時は許されていたオラオラした夫の地位を許されなくなった狭間の世代に、1999年に家庭を持ったレスターが位置している。会社でも家庭でも冴えないレスター(とその頃の現実の男性たち)は、生きる明意味を失いつつ、なすすべなく後退戦を強いられていた。

 悲惨な状況にいるレスターは、ジェーンの友人のアンジェラに一目惚れする。ここで注意すべきは、レスターが一方的なロリコン野郎なわけではなく、アンジェラも彼を誘惑し性的に見られることに快楽を覚える。二人は共犯関係なのだ。

 アンジェラの性的視線によって、レスターは性的主体として復活する。夫としても男としても見下されてきたレスターは、これによって「男」として生きること道が開けたのだ。筋トレ、若造り、偉そうにする、そのようにマチズモに浸ることで彼は元気溌剌となる。要するに彼はアンジェラに、生きる意味を与えられたのだ。

予告された殺人——誰に殺された

 本作が、冴えない中年男性の単なるつまらない社会映画とならなかったのは、冒頭にあるレスター自身による死の宣告のおかげである。物語の始まりから終わりは決まっている。レスターは死へと向かって歩いているのだ。

 この宣言は、推理的快楽という副次的な効果をもたらしている。マチズモを復権させたレスターが生んだ軋轢は、周囲に等しく不快感を与えたからだ。妻のキャロライン、妻の不倫相手のバディ、娘のジェーン、ジェーンの彼氏のリッキー。彼/彼女らには全員に、レスターを殺害する動機がある。レスターがキャロラインと喧嘩をすれば彼女が犯人になるのかと疑い、ジェーンと喧嘩すれば勢い余って殺してしまうシーンを想像する。特に、ジェーンがリッキーに父レスターの殺害が依頼したときは、リッキーの異常な性格も鑑みて彼がレスターを殺すのだと思い込んでしまった。騙された、実によくできている。

 誰がレスターを殺害したのか。そのような推理小説を読むときと似た面白さが、物語に深みと広がりを与えてくれている。

考察・感想

家庭の外部に癒しを求めると、内部は崩壊する

 90年代のアメリカの状況を確認しておこう。

 1999年のアメリカでは、レスター家のように崩壊しかかってる家庭は多かった。そして父親は「マッチョ」から「ヘナチョコ」へ、統率する者から虐げられるものへと転げ落ち、長いあいだ保持していた父の権威を維持できなくなっていた。だから視聴者はレスター家の問題を自分たちの問題のように受け取っていたはずである。レスターが変態だったからではない、どの家庭も等しく壊れかけていた。誰にも言えないがうちもそうなんだよ、と、外面を取り繕っていたレスターやキャロラインのように、当時の観客は誰しもが心の内で弁解していたはずだ

 レスターの解決策は、若い女性アンジェラに性的に見られることであった。彼は家庭の崩壊から目を逸らし、外部の性的承認に精神的な回復を求めたのだ。だがそれは勿論、家庭の回復にとって根本的な解決にならない。レスターの行為は家庭の崩壊を加速させる。そして妻と娘は家庭の外に男性を発見することで、この亀裂を埋め合わせようとする。

大丈夫。いつか理解できる。

 家族三人が内ではなくそっぱを向くことは、しかし、愛情の裏返しにすぎない。ジェーンは、レスターにかまってほしいだけとリッキーに心の内を明かし、キャロラインも寂しいがゆえにレスターと真逆のマッチョなバディに近寄る。愛したいし愛されたい、でも亀裂の入った関係を直視することはできない。そうやって目を背けることで崩壊はさらに進んでしまい、最後には殺したいという真逆の感情が生じてしまう。キャロラインは自分で、ジェーンはリッキーに依頼して、レスターを殺害しようとする。愛したいと殺したいの両極の感情は、否応なく結びついている。

 だからこそ「殺したい」が一瞬で「愛」に変化することもある。愛が永遠でないように、怒りも永遠ではないのだ。レスターは物語の最後、死の直前にその真理を発見する。

美の溢れる世界で怒りは長続きしない。美しいものがありすぎるとそれに圧倒され僕のハートは風船のように破裂しかける。そういう時は体の緊張を解く。するとその気持ちは雨のように胸の中を流れ感謝の念だけが後に残る。僕の愚かな取るに足りぬ人生への感謝の念が。たわ言に聞こえるだろう?大丈夫。いつか理解できる。

アメリカン・ビューティーの最後のシーン

 本作が伝えたいことは、これに尽きる。平凡に見えるこの世界は、美しいもので溢れている。美しいものに囲まれているから、緊張して負の感情が現れ関係が壊れてしまうこともある。そういうときは体の緊張を解こう。そしてら負の感情は押し流され、感謝の念が残るだろう。何故ならこの世界は美しいものに溢れているのだから。大切な人と喧嘩した時、関係が壊れそうになった時、これを実践してみよう。そのときこそがレスターの言う「いつか」である。大丈夫。いつか理解できる

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評価(批評・評論・レビュー)

2000年に観た時の衝撃と言うか、これぞ本物の大人の映画が来ました。って感じのアメリカの一般家庭内で起きている偽りの家庭感を演出され圧倒された事が思い出されます。……… 全文

ーー livedoor.jp(ムービー・マスター)

山田玲司氏(以下、山田):それ(『アメリカン・ビューティー』)がなぜすごいのかっていう話を、ちょっとこれからしますね。 ……… 全文

ーー logmi.jp(山田、ほか)

加筆中(おもしろい評論、または、載せてほしい論考などがありましたら、コメント欄にてお伝えください)

動画配信状況

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dTV✖️31日間550円
FOD✖️✖️976円
ABEMAプレミアム✖️2週間960円
Netflix✖️✖️1,440円
クランクイン!ビデオ14日間990円
mieru-TV1ヶ月間990円
dアニメストア✖️31日間440円
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