『ダークナイト』考察|善悪を超えた狂気の悪|あらすじ解説|感想|クリストファー・ノーラン

『ダークナイト』考察|善悪を超えた狂気の悪|あらすじ解説|感想|クリストファー・ノーラン

概要

 『ダークナイト』は、2008年に公開された英米合作のSFアクション映画。監督はクリストファー・ノーラン。『ダークナイト トリロジー』の第2作目。前作は『バットマン ビギンズ』、次作は『ダークナイト ライジング』。アカデミー賞は8部門でノミネート、2部門で受賞した。

 ノーラン監督はほかに『メメント』、『インセプション』、『インターステラー』、『ダンケルク』、『TENET テネット』などがある。

 クリスチャン・ベールは『3時10分、決断の時』、ゲイリー・オールドマンは『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』『ハリー・ポッターと死の秘宝PART2』、アーロン・エッカートは『ザ・コア』、マギー・ジレンホールは『ワールド・トレード・センター』、モーガン・フリーマンは『セブン』『LUCY / ルーシー』に出演をしている。

 ヴィジランテ映画はほかにスコセッシ監督の『タクシードライバー』、『アメイジング・スパイダーマン』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』などがある。

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登場人物

ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール):バットマン。表の顔は大富豪。レイチェルに恋心を抱く。

ハービー・デント(アーロン・エッカート):地方検事。悪に屈しない強い信念をもつ。物事の判断をコインで決定するのが、そのコインは両面表という細工が施されている。ジョーカーの策略にはまり顔の片面が火傷を負ったあとは、トゥーフェイスと名乗りゴードンたちに復讐をする。

ジョーカー(ヒース・レジャー):ピエロのメイクをした犯罪者。欲望の見えない凶悪な犯罪者で、マフィアも手玉にとる。口元の裂けた傷跡について複数回説明するが、その度に内容が変わっている。

レイチェル・ドーズ(マギー・ジレンホール):検事。ブルースの幼馴染。ハービーに好意を持つ。

アルフレッド・ペニーワース(マイケル・ケイン):執事。ブルースが信頼する数少ないうちの一人。

ジェームズ・“ジム”・ゴードン(ゲイリー・オールドマン):警部補。実直で誠実な性格。ジョーカー逮捕の功績で本部長に昇進。

ルーシャス・フォックス(モーガン・フリーマン):バットマンの装備を開発する科学者。

名言

ジョーカー:お前はルールだらけで、それがお前を守ってくれると思ってる
ブルース:ルールは一つだ
Joker : You have all these rules, and you think they’ll save you.
Bruce : I have one rule.

ゴードン:彼はヒーローじゃない。沈黙の守護者。我々を見守る監視者。“暗黒の騎士”だ
Gordon:Because he’s not our hero. He’s a silent guardian… a watchful protector. A dark knight.

あらすじ・ネタバレ

 ジョーカーに雇われた道化師のマスクを被った集団がゴッサムの銀行を襲撃する。彼らはジョーカーの命令で役割を終えた仲間を殺害していく。残った一人はジョーカー本人で、マフィアの資金を盗んで逃走する。

 バットマンとゴードン警部補は犯罪撲滅に取り組んでいたが、ゴッサムは犯罪が増える一方でジョーカーも捕まえられずにいた。そんな中、新人の地方検事ハービーが彼らに協力するようになる。ハービーは正義感の強い理念のある人物で、ブルースは選挙協力をすると約束する。ブルースはハービーこそゴッサムが欲する真のヒーロであり、彼自身はバットマンを引退しようと考えていた。

 ジョーカーの犯行によって隠し資金を警察にバレたマフィアたちが対策を練っているところにジョーカーが現れる。彼は資金の半分を報酬としてバットマンの殺害を提案し消える。マファアのボスの一人ギャンボルはジョーカーに懸賞金を懸けるが、返り討ちにあい組織を乗っ取られる。

 ブルースは香港で資金を隠す役回りの中国人実業家ラウを拘束し、ゴードンに引き渡す。ラウは身の安全のために仲間を売り、マフィア関係者は次々に逮捕される。この現状を危険視したマフィアたちは、バットマンの殺害をジョーカーに正式に依頼する。ジョーカーはバットマンの変装をした自警団員を殺害し、バットマンが正体を明かすまで市民を殺すと脅す。そしてローブ市警本部長とサリロ判事を殺害、さらにハービーを殺害するためにブルース主催のパーティーに乱入するも、バットマンに止められる。

 次にジョーカーはハービーとゴッサム市長ガルシアの殺害を予告する。ローブ市警本部長の葬儀で警官に扮したジョーカー一味が発砲、ゴードンが市長を庇い撃たれる。ブルースは正体を明かそうとするが、記者会見でハービーが自分がバットマンだと名乗りを上げる。拘置所に護送されるハービーをジョーカーが襲撃するが、バットマンと生きていたゴードンによりジョーカーを捕まえる。この功績でゴードンは本部長に昇進する。

 しかしハービーが行方不明になる。バットマンに尋問されたジョーカーは、ハービーとレイチェル別々の場所に拘束し、どちらかは死ぬと告げる。バットマンをレイチェルを、ゴードンはハービーを救出に向かうが、ジョーカーが伝えた場所は逆で、バットマンはハービーを助けレイチェルは助からなかった。ハービーは逃げるときに火の粉を被り、顔の左半分が火傷を負う。またジョーカーとともに捕まった囚人の腹に埋め込まれていた爆弾が爆発、刑務所は壊滅し、ジョーカーはラウを連れて逃げる。

 ハービーはレイチェルの死のショックで火傷をそのままにし、かつての呼び名トゥーフェイスを体現した存在になる。ジョーカーは報酬の金とラウを焼き、自分がボスであると宣言する。ウェイン産業の顧問弁護士リースはバットマンの正体に気づきテレビで告発しようとするが、ジョーカーの反感を買い殺されそうになる。ゴードンとバットマンのおかげでリースは助かるも、この機に乗じてジョーカーはハービーのいる病院に潜入し病院ごと爆破する。

 脱出したハービーは復讐を開始、やり方はコインの裏表で生死を決める。まず刑事ワーツを殺害、マフィアのボスマローニはコインが表で撃たれなかったものの、運転手が撃たれ車が破壊される。次に女刑事ラミレスを問いつめ、ゴードンを呼び寄せる。

 ジョーカーはゴッサムの支配を宣言、市民の退去を命じるが、橋とトンネルに危険があるとほのめかす。ゴードンはフェリーで囚人を移送するが、そこと市民を乗せた1隻に爆弾を仕掛けたとジョーカーはいう。しかも爆弾のスイッチはお互いが持っており、0時までに残っていた方は助ける告げる。

 バットマンは倫理に反した傍受システムを発動、ジョーカーの位置を特定する。SWATの潜入前にジョーカー一味を制圧し、人質を安全なようにする。ジョーカーを追い詰め0時を迎えるが、フェリーの人たちはお互いに起爆スイッチを押していなかった。失望したジョーカーは自ら押そうとするが、バットマンに阻まれ吊るされる。ジョーカーは逮捕される直前に、ハービーは悪に堕ちたと告げる。

 ゴードンはハービーに呼び出されレイチェルの死んだ建物にいた。部下の汚職を放置したゴードンの責任を問い、同じ目に合わせようとゴードンの息子ジミーに銃を向ける。バットマンが現れるも、コインの裏が出たため撃たれる。ハービー自身は表でゴードンの番になった瞬間、バットマンはハービーを掴み飛び降りる。ハービーは死亡するも、ゴッサムの希望が復讐者になるのは市民が耐えられないとふんだバットマンは、ハービーの全ての罪を背負い警察に追われる立場になり幕を閉じる。

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解説

ジョーカー役のヒース・レジャーの怪演でアカデミー助演男優賞を受賞

 『ダークナイト』は、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト トリロジー』シリーズの2作目である。物語の軸をなす登場人物は、前作『バットマン ビギンズ』でゴッサムシティの守護者であり象徴にもなったバットマン、彼に立ちはだかるの理性を超えた狂気の宿敵ジョーカー、さらに正義に魅せられた新任検事ハービー。本作はこれら三人による三つ巴の戦いを描いたダークファンタジーである。

 ジョーカー役のヒース・レジャーは2004年に公開された『ブロークバック・マウンテン』での好演を機に、世界的な評価を得ていた若手演技派俳優だった。だがプライベートでは不眠症に陥るなど精神的に追い込まれており、不幸にも『ダークナイト』の公開を待たずして睡眠薬などの薬物併用摂取が原因で急死してしまう。ヒースの演じたジョーカーは不気味な雰囲気と狂気の演出が絶賛され、死後ではあるものの、28歳という史上4番目の若さでアカデミー助演男優賞を受賞した。現在でも実写化された数多くのジョーカーの中で1位2位を争う素晴らしい演技である。

 アカデミー賞にはヒース・レジャーの助演男優賞に加え8部門でノミネートされた。結果は助演男優賞と音響編集賞の2部門で受賞。これらの素晴らしい成果にもかかわらず、アカデミー賞に対して観客から強い批判が起きた。実は作品賞は受賞を逃しただけでなく、ノミネートすらされていなかったのだ。批評家の評判からみても興行収入の観点からしても、作品賞へのノミネートは妥当であった。この結果は波紋を広げ、これ以降、作品賞のノミネート作品数は5作品から10作品へと拡大されることになる。

それぞれの世界観を体現する三つの存在、ジョーカー、バットマン、ハービー

 これまでに描かれてきた「バットマン」シリーズとの大きな違いは、ヒーロー映画に必須のエンターテインメント性を保持しながら、善悪二元論を超えた根源的な問いをテーマにした点である。

 この作品にはそれぞれの世界観を体現する三人の登場人物がいる。裏舞台で正義をなす仮面のダークヒーローバットマン、表舞台で悪と戦う誠実な検事ハービー、そして理性を超えた狂気の敵ジョーカーである。この三者の関係は可変であり極めて曖昧である。正義と悪という軸で言えば、ハービーとバットマンにジョーカーが対立している。ところがマスクを装着し影に隠れた存在という意味においては、バットマンはジョーカーと相補的な関係にある。

Jocker:バットマンのいない世界を想像してみた。マフィアが小金を稼ぎ、警察が奴らを少しずつ潰す。そんな街は退屈だからバットマンの正体を暴かないことにした

 ジョーカーはバットマンの正体を暴こうとするが、彼のいない世界の退屈さを憂い、市民にリースを殺害させようとする。闇と光、正義と悪は、どちらが欠けても存在し得ないコインの裏表なのだ。

 そのような観点でみれば、絶対的な正義を標榜するハービーと狂気を体現するジョーカーは対極に位置する。ハービーはコインの裏表で正義を執行するが、実は両面とも表の細工コインだということが後々発覚する。彼にとって正義は確率の問題ではなく絶対的なものなのだ。その信仰のあまりの強さに、ブルースはハービーこそがゴッサムの光の騎士だと確信し、バットマンの引退を考える。ジョーカーへ太刀打ちできるのは、仮面の下に隠れた影のヒーローではなく、陽の下を歩く光のヒーロだけなのだ。

考察・感想

法と秩序の外部にいるジョーカーの存在

 ジョーカーの行動原理は理性の範疇を超えている。冒頭の銀行強盗の場面、ジョーカーは雇った傭兵に取り分を増やすために用済みの仲間を射殺するよう命令している。少しでも金を儲けたいという欲望を逆手に取ったこの作戦の勝者は一人、ジョーカーだけである。驚くべきことにジョーカーは誰にでもある金儲けの欲望を利用しながら、その実本人にはその欲望が存在していない。マフィアから奪い山積みにされた紙幣の山を躊躇いもせず燃やし尽くす彼に姿に、正義をなす法の執行者ゴードンたちはおろか、悪をなすマフィアの関係者ですら理解が追いついていない。彼は一体何を目的とし、何を為そうとしているのか?

 正義と悪にかかわらず、ルールの範疇に囚われている者たちにジョーカーを捕まえることはできない。ジョーカーは正義と悪の二元論の外部に、理性と法の秩序の外側に立っているのだ(この点、トッド・フィリップス監督の『ジョーカー』のジョーカーとは一線を画する。彼はむしろ秩序の中で不条理に抗い社会を攻撃する)。ゴードンの死を偽装した一連の作戦は、奇抜さの点において確かにジョーカーを驚かせたかもしれない。しかし仲間の腹に爆弾を仕込むというジョーカーの逆転劇に状況は一転、ゴードンが本部長に昇進したのも束の間、警察署は壊滅状態に陥ってしまう。

ジョーカー:お前らはルールだらけだぜ
Jocker : You have all these rules, and you think they’ll save you.

 「お前らはルールだらけだぜ」。ルールに縛られていては、ルールを持たないものに勝つことができない。しかしルールこそが正義や法の正当性を担保しているのだ。ここにルールを破ることが自らの正当性を破壊してしまう正義のジレンマがある。勝つためにはルールを破らなくてはならない、だが、ルールを破るためには悪に染まらなければならない。正義が正義のままで悪に勝つことは、原理的に不可能なのである。

規則を破らなくては勝つことができないというジョーカーの命題

 このジョーカーが突きつけた命題はどのようにして乗り越えられるのだろうか。

 図式的にまとめれば、これまでの世界は、ゴードンが代表する警察権力的な正義と、マフィアが代表する悪の二項対立の図式のうちにあった。だがジョーカーの登場によって事態は一変する。ジョーカーは正義と悪の二元論の外部にいるため、ゴードンやマフィアといった既存の善悪二元論システムにいる集団には彼を捕まえるとができない。そして捕まえるためには、自らもルールを破り悪へと身を染めなくてはならない。

 バットマンが辿り着いた答えは、自らも善悪二元論の外部へとでることだ。ただし、一度だけ、制御はフォックスに任せ、相手を殺害しない、という厳重な制限のもとにおいて。この制限は悪に堕ちながらも悪の快楽に溺れないために課されている。この超法規的な措置から自らの意思を排除することによって、バットマンは一回きりの限りなく透明な悪を執行するのである。

 そしてもう一つ別の場所から、ジョーカーに思わぬ回答が寄せられる。犯罪者と一般人をそれぞれに乗せた二つのフェリーには爆弾が詰め込まれている。起爆スイッチが互いに与えられ、先に押した方が生き残る。制限時間は0時まで。スイッチを押せば加害者にはなるが、それでも生き残ることはできるという極限の状況において、ゴッサムシティの住民は決断する。スイッチを押さない。それどころか囚人の一人はスイッチを海へ投げるのだ。彼らは選択を迫るゲームの選択それ自体を放棄することによって、ジョーカーの思惑の裏をかくのだ。ちなみにレイチェルとハービーの位置をバットマンに逆に伝えたジョーカーであるならば、起爆スイッチが繋がっている爆弾が自分たちのいる船に乗っているということはありうる。ジョーカーの企みは常識やルールで測ることはできない。

正義は運で執行される——トゥーフェイスの命題

 だが物語はこれだけでは終わらない。レイチェルを失い顔面の片方を火傷したハービーは、過去の呼び名トゥーフェイスを名乗り、レイチェルの死に関わった人物たちを裁き始める。両面が表である細工されたコインは、いまや本当に運を委ねる普通のコインになった。トゥーフェイスは裁き手であるが、裁きを決定する者ではない。裁きは運が決める。その確率は2分の1。そこにハービーの意思はない。

 これはジョーカーへの回答である。欲望や意思を排した正義。そこに贖罪や赦しが入る隙はない。正義を突き詰めた先に、これまでの善悪では語ることのできない、理性を超えた正義が現れたのだ。もちろんこの正義は同時に悪でもある。ハービーはコインの決定に従い、バットマンを含め関係者を容赦なく撃つ。そしてゴードンに裁きを与えるため、彼の息子までも手にかけようとする。このことにバットマンは耐えられない。ゴッサムシティの象徴、光の騎士となるはずのハービーが、コインを免罪符に悪を執行するトゥーフェイスへと変身してしまったのだ。彼はハービーを殺害し、彼の罪を被ることで、象徴としてのハービーを生き存えさせる。

 この隠れた罪によって、ハービーは正義の象徴となり、ゴッサムシティに平和が訪れる。平和の原点に、一つの嘘が存在しているのだ。だがこのことはジョーカーとの闘いで、バットマンが身を以て理解したことでもある。一つのルール破りがなければ、ジョーカーが体現する悪に太刀打ちすることはできない。そして原点に存在する暴力(=ルール破り=嘘)を隠蔽するために、バットマンは闇へと隠れ逃走者になる。

Gordon:Because he’s not our hero. He’s a silent guardian… a watchful protector. A dark knight.

 バットマンは闇の騎士として、暗闇からゴッサムを守るのだ。そしてこの報いは次作『ダークナイト ライジング』で受けることになる。

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