『タクシードライバー』考察|偶然の正義が隠蔽するもの|あらすじ解説|感想|マーティン・スコセッシ

『タクシードライバー』考察|偶然の正義が隠蔽するもの|あらすじ解説|感想|マーティン・スコセッシ

概要

 『タクシードライバー』は、1976年に公開されたアメリカの映画。監督はマーティン・スコセッシ。主演はロバート・デ・ニーロ。カンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞。

 ベトナム戦争の後遺症があるトラヴィスが、タクシードライーバとして働いているうちに、選挙事務所で働くベッツィーや売春婦アイリスと出会い社会の歪みを認識して、政治家パランタインを殺害しようとする物語。

 ロバート・デ・ニーロは『ジョーカー』に出演している。

 ヴィジランテ映画はほかにクリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『アメイジング・スパイダーマン』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』などがある。

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登場人物

トラヴィス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ):タクシードライバー。26歳。ベトナム戦争から戻ってきた元海兵隊。背中に大きな傷があり、1973年5月に栄誉除隊。不眠症。孤独感を抱えている。ポルノ映画を観にいくのが日課。街の腐敗を嫌悪している。

アイリス(ジョディ・フォスター):売春婦。12歳。ポン引きのスポーツに利用されており、逃げ出したさいは偶然トラヴィスに助けを求めていたが、そのことは覚えていない。その反面、スポーツのことを信頼しており、日常では逃げ出すことを考えていない。

ベッツィー(シビル・シェパード):パランタイン上院議員の選挙事務所で働く。一目惚れされたトラヴィスに喫茶店に誘われ親しくなる。ある日、トラヴィスの望みで映画に行くが、ポルノ映画だったため激怒する。

スポーツ(ハーヴェイ・カイテル):女性を囲い売春をさせている。長髪でマッチョ。本名はマシュー。アイリスを騙し売春をさせている。

ウィザード(ピーター・ボイル):タクシー運転手でトラヴィスの同僚。相談をしてきたトラヴィスに、深く考えるなと助言する。

トム(アルバート・ブルックス):パランタイン上院議員の選挙事務所で働く。ベッツィーのことを好いているが、ベッツィーはトムのことを恋愛対象とはみていない。

名言

Travis Bickle:You talkin’ to me? You talkin’ to me? You talkin’ to me? Then who the hell else are you talking… you talking to me? Well I’m the only one here. Who the fuck do you think you’re talking to?

あらすじ

 舞台はニューヨーク。ベトナム戦争から戻ってきた元海兵隊員と称するトラヴィスは、運転手になるためタクシー会社を訪れる。彼は戦争により不眠症を患っているため、夜間も働くタクシー運転手だと都合が良い。タクシー会社に就職すると、同僚たちからは守銭奴と馬鹿にされ、彼はますます孤立していく。トラヴィスは休みをポルノ映画で過ごし、夜は当てもなく運転していた。

 ある日、次期大統領候補のチャールズ・パランタイン上院議員の選挙事務所の前を通る。トラヴィスはそこで働くベッツィーに一目惚れし、喫茶店でデートをする。次第に仲良くなっていった2人は、トラヴィスの誘いでポルト映画に入る。だがベッツィーは激怒し、それ以来一度も会わず連絡も無視する。

 その仕打ちに我慢できなくなったトラヴィスは、事務所に押しかけベッツィーを激しく罵る。それ以来、不眠症は悪化し孤立感は増していく。そのような荒て日々を送っていたある日、若い女性が助けを求めタクシーに乗り込む。何もできずにいると付き添いの男が現れ、トラヴィスにお金を渡したあと、嫌がる女性を無理やり連れていってしまう。

 そのことをきっかけにして、数丁の拳銃を裏ルートで手に入れ、筋トレを始める。鏡に映った肉体とポーズを見つめながら、「俺に用か?」という台詞の練習をし、拳銃を構えては不適に笑う。筋トレと拳銃のお陰で自信をつけたある時、食料品店で強盗事件と遭遇し拳銃で撃ってしまう。店員が後は任せろと言うので、拳銃を置いてその店を後にする。

 偶然前に助けを求められた少女と再開する。アイリスと名乗る彼女は、学校にも行かず、恋人のような男のために売春で稼いでいた。男に利用されていると理解したトラヴィスは、アイリスにその仕事を止めるよう説得するが取り合ってもらえない。

 トラヴィスはモヒカンにサングラスという特徴的な外見で、パランタインの集会に現れる。彼を殺害しようと近づくと、シークレット・サービスにバレてしまい逃走する。一度帰宅したトラヴィスは、そのままアイリスのもとに向かい、ヒモのスポーツを撃つ。そして用心棒と売春稼業の元締めを射殺する。しかしトラヴィスも銃弾を受け、警察が到着した時には死んだかのように倒れていた。

 その後、トラヴィスは裏社会から一人の少女を救った英雄として祭り上げられ、アイリスの両親からも感謝の手紙がくる。ある夜、トラヴィスのタクシーにベッツィーが乗り込む。だがトラヴィスは彼女に興味を示さず、彼女を降ろして夜の街を走っていった。

解説

『タクシードライバー』の評価と、後世への影響

 『タクシードライバー』は1976年に公開されたマーティン・スコセッシの監督作品である。ニューヨークを舞台に孤独なタクシードライバーの狂気と不条理を描いた本作は世界的に評価され、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した。アカデミー賞ではノミネートにとどまったものの、1994年にはアメリカ議会図書館がアメリカ国立フィルム登録簿に新規登録した。またアドリブということで有名なロバート・デ・ニーロが演じるトラヴィスの「You talkin’ to me?」(俺に用か?)は、アメリカン・フィルム・インスティチュートが2005年に選出した「アメリカ映画の名セリフベスト100」で10位に選ばれている。

 このように輝かしい業績を築き上げた本作は、後世にも多大な影響を与えた。例えば、2019年に公開されたトッド・フィリップス監督の『ジョーカー』は、『タクシードライバー』のオマージュに溢れている。また本作の主人公を演じるロバート・デ・ニーロが出演しており、ホアキン・フェニックス演じるジョーカーに社会の常識を諭す場面は、時代の移り変わりをメタな次元で表している。

アメリカン・ニューシネマとベトナム戦争の影

 内容は狂気のタクシードライバーが社会への不満を爆発させ殺人を犯すも偶然に社会正義を成しいる物語、と簡単にまとめることができるが、当時の社会状況を理解していると何を伝えているかがより明確になるだろう。

 当時のアメリカはベトナム戦争の真っ只中で、多くの兵をベトナムに派遣し多大な被害をだしていた。1955年に始まったベトナム戦争は、冷戦中に起こった資本主義と社会主義の代理戦争であり、1964年にアメリカがトンキン湾事件を機に参戦したことで全面戦争になる。

 そのような政治状況の中で、アメリカの映画界に「アメリカン・ニューシネマ」と呼ばれる映画群が生まれる。アメリカン・ニューシネマとは、ベトナム戦争に入れ込む政府に反対し、兵士として送られた若者たちの反体制の姿を描く映画群のことである。このムーブメントは1967年の『俺たちに明日はない』をはじめ、『イージー・ライダー』や『明日に向って撃て!』などの名作を世に送り出した。そして「アメリカン・ニューシネマ」の最後の作品と言われるのが、本作『タクシードライバー』である。

 本作では戦争の記憶のフラッシュバックやトラウマなどは現れず、冒頭の説明でしかベトナム戦争の帰還兵だとわからない。だがそのような社会状況を前提とすれば、トラヴィスが不眠症に悩み社会に不満を抱えていることは容易に理解できる。トラヴィスはベトナム戦争から帰ってきたあとだからこそ、社会に蔓延する腐敗に怒りが抑えられない。そして彼の敵意は次期大統領候補のパランタイン上院議員へと向かっていくのである。

考察・感想

ヴィジランテ映画の系譜

 そして本作はヴィジランテ映画の系譜でもある。ヴィジランテ映画とは、法では裁かれない者たちに対して、私刑や復讐のために主人公が立ち向かう作品のことを指す。例えば、マーク・ウェブ監督の『アメイジング・スパイダーマン』やクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』、フランシス・ローレンス監督の『コンスタンティン』などがそれにあたる。トラヴィスは司法で裁かれない売春婦の斡旋業者を私怨で殺害するため、ヴィジランテ映画と言えるだろう。

 そもそも、ベトナム戦争に送られた若者たちの反体制の姿を描くアメリカン・ニューシネマは、ヴィジランテ映画と親和性が高い。だが復讐や私刑の背後に、ベトナム戦争という社会情勢が影を落としていることは注意する必要がある。また当時世界的に流行していたサルトルの提唱する実存主義が影響を与えているという説もある。何はともあれ、当時の社会的状況を背景に、政治的な主張がなされていることは間違いない。

 ベトナム戦争は混乱を極め悲惨な日々が続き、多くの帰還兵がPTSDなどの精神的な障害に悩まされていた。それにもかかわらず政府の支援は十分ではなく、またアメリカにとって戦争で初めて勝利を掴めなかったこともあり、社会的な不満は否応なく広がっていたのである。ベトナム戦争の帰還兵のトラヴィスは(自称なので嘘の可能性もある)、不眠症に悩まされ社会の腐敗に悪態を吐くのはそのためだ。彼は戦争の後も後遺症に悩まされ正社員に就くことができず、夜な夜なポルノ映画に入り浸り夜の街を徘徊することしかできない。彼に救いの手を差し伸べてくれる人は一人もいないのである。

政治家と労働者、パランタインとの会話

 したがってトラヴィスとパランタイン上院議員が出会い対話するシーンは、表向き和やかに進行するが緊張感がはしる重要な場面でもある。トラヴィスはパランタイン上院議員の殺害を計画したにもかかわらず、実は一度しか対面していない。それがトラヴィスの運転するタクシーに偶然パランタイン上院議員が乗車した場面である。ベッツィーに一目惚れしたことを機にパランタインの熱烈なサポーターになったトラヴィスは、彼に応援していることを伝えて笑顔で接する。それに対しパランタインはアメリカの現状の問題は何かと問いかける。

Palentine:What is the one thing about this country that bugs you the most?

 アメリカの最も厄介な問題は何か。これに対しトラヴィスは「Whatever it is, you should clean up this city here because this city is like an open sewer.(何はともあれこの街を綺麗にすべきだ、何故なら蓋の開いた下水道みたいだからだ)」と言う。「夜に出歩いてるのは、ケダモノばかりだ」と主張するトラヴィスは、腐敗したニューヨークの街に我慢がならない。政治家がまずすべきことは、この腐敗した街を綺麗にすることだ。だがこの回答がパランタインが求めていたものではないことは明白だ。労働者の具体的な不満を聞き政治に生かそうとしていたパランタインは、この回答に失望を覚えながらタクシーをあとにする。

 このとき二人の意識がすれ違っていることがわかるだろう。トラヴィスは政治的な問題は分からないと言いながら、この街の腐敗を綺麗にしてくれと訴える。だがパランタインは「I think I know what you mean, Travis」と言いながら、この街の腐敗に対処することはない。政治界でのし上がるためにキラキラするサポーターに囲まれながら見栄えのよいことを言うだけで、現在苦しんでいるトラヴィスのような人々を助けることはしないのだ。

偶然に正義をなす物語

 「人生は続いていく。終わりはない。俺の人生に必要なのは、きっかけだ」と主張するトラヴィスは、拳銃を購入し筋トレを始め男性性を回復させるのに必死だ。鏡に映る鍛え上がった肉体を見つめながら、「You talkin’ to me?」と呟くシーンは映画史に残る名場面である。

 「きっかけ」を掴んだ彼は、パランタイン殺害を計画する。モヒカンにサングラスという特徴的な外見で演説に訪れ、拳銃を忍ばせパランタインに近づく。だが彼はパランタインを殺すことができない。それどころか、途中でシークレットサービスに気づかれてしまい、何事も為せず逃走する。彼は全く変わることができていない。

 その持て余したエネルギーは、偶然助けを求めてきたアイリスを救うために使われる。アイリスを騙し売春させるポン引きのスポーツは、街の腐敗の象徴そのものだ。街の腐敗を直視しない政治(=司法)を破壊することに失敗した彼は、司法の代わりに街の腐敗に直接手を下す。彼を見捨てた政治と社会を顧みる必要はもはやない。トラヴィス自ら手を赤く染めるのだ。

 ところが殺害という悪の行為は、メディアの報道によって、正義の行為としてみなされる。街では正義のヒーローと担ぎ出され、アイリスの両親からは感謝の手紙が届き、ベッツィーは謝罪のためにタクシーに乗り込む。彼は偶然にも正義を成したのだ。同僚と和気藹藹と会話する姿に、これまで彼を苦しめていた孤独感の影は見当たらない。だが、何も変わっていないのもまた事実なのである。パランタインの殺害が成功していたら、アイリスの両親が擁護をしなかったら、彼の行為は悪と弾糾されていたはずだ。ベッツィーを降ろしたトラヴィスは、バックミラーで自分の顔を確認し、夜の街を徘徊する。彼は何も変わっていない。偶然成し得た正義が隠蔽するのは、トラヴィスの狂気と社会の腐敗である。狂気、それは変わらずまだそこにあり続けている。

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