『TENET テネット』【徹底解説】10の謎と運命論の問題|意味をわかりやすく考察|あらすじ感想|クリストファー・ノーラン

『TENET テネット』【徹底解説】10の謎と運命論の問題|意味をわかりやすく考察|あらすじ感想|クリストファー・ノーラン

概要

 『TENET テネット』は、2020年に公開されたSFアクション映画(IMAX)。監督・脚本・製作はクリストファー・ノーラン。2020/21年(第93回)米アカデミー視覚効果賞受賞。主演はジョン・デイビッド・ワシントン、出演にロバート・パティンソン、ケネス・ブラナー、エリザベス・デビッキ。

 時間の逆行をテーマに、世界の危機を救う物語。複雑で難解なストーリーが話題を呼んだ。

 ノーラン監督はほかに『メメント』『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』『インセプション』『ダークナイト ライジング』『インターステラー』『ダンケルク』などがある。

 ロバート・パティンソンはほかに『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』、エリザベス・デビッキは『華麗なるギャツビー』、ケネス・ブラナーは『ハリー・ポッターと秘密の部屋』に出演している。

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登場人物

主人公 / ジョン・デイビッド・ワシントン:作中で名前の明かされることのない主人公。アメリカ人。オペラハウス襲撃事件をきっかけにTENETの任務を与えられ、人類を救うべく任務を遂行する。

ニール / ロバート・パティンソン:主人公の任務のパートナー。インドのムンバイで出会って以降、主人公のパートナーとなり度々主人公の窮地を救う。

アンドレイ・セイター / ケネス・ブラナー:『TENET』における悪役の親玉。アルゴリズムを起動させ、人類の滅亡を画策する。

キャサリン”キャット”・バートン / エリザベス・デビッキ:セイターの妻。せいたーとの関係は壊滅的なのだが、アレポの贋作をセイターに渡してしまったことをきっかけに、セイターと別れたくても別れられない状況に陥っている。

プリヤ / ディンプル・カパディア:武器商人。ある人の命令で、部隊を使ってセイターがアルゴリズムを起動させないよう動いている。

アイブス / アーロン・テイラー=ジョンソン:主人公やニールとともに、アルゴリズムの起動の阻止に動く仲間。

あらすじ・ネタバレ

 ウクライナ・キーウの国立オペラハウスでテロリストによる立てこもり事件が発生する。しかしこのテロは偽CIAスパイを暗殺するための偽装テロであり、CIAの主人公はそのCIAスパイを救出するため、ウクライナ国家警察に紛れて潜入する。ウクライナ国家警察はオペラハウスごと爆破する予定であり、スパイを助け出したあと、民間人を救出するため仲間と爆弾処理に向かう。途中変装がばれて殺されそうになるが、逆行弾によって助けられる。助けてくれた彼は、五円玉みたいな紐の赤いストラップを付けていた。爆弾を処理し終えたあと、無事オペラハウスから脱出するが、直後にロシア人に掴まってしまう。拷問にかけられることになり、主人公は自殺ピルを飲む。しかしそれが本当は睡眠薬であったため死ぬことができず、船の上で目を覚ますことになる。目を覚ますと、そこにはTENETを名乗る男がいた。男から任務を託された主人公は、任務を遂行するためにまた地上に戻っていくことになる……

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解説

 『TENET』は「一度観ただけでは理解できない映画No.1」と言われている。逆にいうと、二回以上観て楽しむ映画だということである。それほど一回観ただけではよく分からない。だから解説も人気だ。2020年の作品なので、ネット界隈でも現時点である程度解釈は出尽くしている。作中で明かされる点もあるが、映画の進行に沿って、謎や重要ポイントを場面ごとに振り返っておさらいしてみよう。

 最初に大雑把な進行だけ示しておく。

  1. オペラハウス襲撃事件
  2. 主人公がTENETに救出され、TENETの元で任務を開始。
  3. バーバラのいる研究室で逆行弾の存在を知る。
  4. 弾丸の製造元からインドの武器商人サンジェイ・シンに近づく。そのためにニールを協力者とする。
  5. サンジェイ・シンのホテルに潜入し、黒幕が妻のプリヤだということを知る。プリヤからロシアの武器商人セイターが逆行弾に関与していることを聞かされる。
  6. セイターに接触するために、妻のキャットにまず接触。ゴヤの贋作を盗む約束をする。
  7. ゴヤの贋作が保管されているオスロ空港のフリーポートに潜入(ジャンボジェット機衝突作戦)。
  8. 防護マスクをした兵士に妨害され、ゴヤの贋作を盗むのに失敗(キャットには伝えず)。
  9. 主人公はキャットを介してセイターに接触を図る。そこでアルゴリズム強奪計画をもちかける。
  10. ウクライナ保安局からのアルゴリズム強奪作戦。アルゴリズムはセイターに横取りされ、キャットが死にかける。
  11. 主人公らはオスロ空港でのジャンボジェット機衝突作戦まで逆行しキャットを助ける。
  12. さらにオペラハウス襲撃事件の日まで逆行。
  13. スタルスク12攻防戦。キャットはセイターを殺し、主人公たちは無事アルゴリズム奪還に成功する。
  14. ニールとの別れ。
  15. プリヤを殺害する。任務完了。
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謎1:TENETという題名

 まずは題名から。意味は「主義」。作中では主人公が属する組織名として採用されている。つまり戦いの構造としては、セイターらの地球時間逆行を目論む反テネット派とそれを阻止しようとするテネット派の戦いとなる。

 しかしこれには別の含意もある。実は、この言葉はラテン語の有名な台詞の中に含まれる単語なのだ。それが「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」である。意味は確定的ではなく、一つの解釈としては「農民のアレポが仕事として車輪(鋤)を持っている」というものである。

 さて、お気づきだろうか。『テネット』では、TENET(テネット)以外の他の単語も作中の重要な要素として出現しているのだ。

  • SATOR=悪役の親玉であるセイターの名前。
  • AREPO=贋作を売ってしまった美術家アレポの名前。
  • OPERA=最初のオペラ劇場(キーウ 国立オペラハウス)。
  • ROTAS=フリーポートを警備していた会社の名前。

 それだけではない。この文言は回文となっているのだ。後ろから読んでも前から読んでも「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」である。時間の逆行が扱われているテネットにとっては、まさにうってつけの言葉である。

 さらに補足である。この文言は、実は回文以上のものである。次の図を見て欲しい。

Palindrom TENET

 実はこれはSATORスクエアと呼ばれるもので、回文よりももっと複雑なものだ。回文の場合、右から読んでも左から読んでも、という二つの対称性だけをもつ。このSATORスクエアは左上から右に読んでも下に読んでも、右下から左に読んでも上に読んでも、という四つの対称性を持つ。古代ローマの遺跡で発掘されるなどして歴史は古い。一度、調べてみるのも面白いだろう。

謎2:ワーナーブラザーズのロゴが赤色

 実は開始1秒からいつもと違うところがある。ワーナーブラザーズのロゴが真っ赤である。そして次に映しだされるSYNCOPYのロゴが今度は真っ青である。実は、作品中に赤と青の対比が随所に現れるのだ。一番よく分かるのが回転扉の部屋のシーン。順行の部屋が赤色で、逆行の部屋が青色である。下画像はそのシーンで、主人公とニールがいる部屋が赤色、窓ガラスの向こう側が青色となっている。

TENET (C) 2020 Warner Bros Entertainment Inc. 

 また、スタルスク12攻防戦では、順光の隊は赤色のゼッケンを、逆行の隊は青色のゼッケンをつけている。他にも、ところどころで赤と青の対比が際立つシーンがある。赤と青に注目して観ると内容を理解しやすくなるかもしれない。

謎3:プルトニウム241を奪取したのはどの組織か(オペラハウス襲撃事件)

 さて『TENET』での最初のシーンがオペラハウス襲撃事件である。このオペラハウスでテロが起こるのだが最終的にどういう状況になっているのだろうか。

 話の流れとしては、まずテロが起きる。そして主人公がCIAとしてオペラハウスに乗り込んで、プルトニウム241(本当はアルゴリズム)を奪還しスパイを逃すことに成功するが、自分は敵に捕まり拷問にかけられる。主人公はCIA製の自殺カプセルを飲み込むのだが、それが実はただの睡眠薬で謎の組織に助けられる。そしてその謎の組織から任務を与えられ遂行することになるのだが、その組織がTENETだったという進行である。

 あの場面、実は5つの組織がそれぞれ作戦を遂行しているので理解するのが難しくなっているのだ(うくらないな政府と国家警察コルドも分けるとすると6つになる)。順番におさらいしてみよう。

 一つ目がテロ組織。ただしこのテロ自体が仕組まれたものであり、スパイを抹殺するためにウクライナ政府が雇ったものだ。つまり自作自演である。

 二つ目がウクライナ政府と国家警察コルド。表向きにはオペラハウスでのテロ鎮圧のためにウクライナ国家警察が送りこまれている。しかし裏の本当の目的はCIAのスパイの暗殺とプルトニウム241の奪取である。スパイはおそらくウクライナ政府関係者として活動している。そのスパイを暗殺したいのだが、表向きは政府関係者なので死亡してもらうには何らかの理由が必要である。そこで考えたのが偽装テロである。スパイがたまたまいたオペラハウスでテロが発生し、そこにコルドを派遣するもテロリストは自爆。その自爆テロにスパイも巻き込まれてしまったという段取りである。そしてスパイが持っていたプルトニウム241も回収できればウクライナ政府にとって一件落着である。

 三つ目が主人公が所属しているCIAである。CIAは今回のテロがCIAスパイを暗殺するための偽装テロだという情報を既に掴んでいる。そこで、スパイとプルトニウム241を救出するためにオペラハウスに向かうわけである。そしてスパイとプルトニウム241を無事救出し、さらには爆弾まで撤去して、主人公とスパイに変装したもう一人と退却車へと乗り込むわけである。ところが「違う人間だぞ」と言われ、いきなり殴られてしまう。違う車に乗ってしまったのかなと思わせるシーンであるが実は違う。最初から運転手がセイターの仲間だったのである。拷問シーンで拷問しているのは実は運転手と同一人物である。最初からセイターの手のひらで転がされているだけだったわけであるが、死ぬ前にTENETに救出されることになる。

 四つ目がセイター一派である。先ほども述べたようにセイターたちもこのテロの情報を掴んでいた。彼らの目的はプルトニウム241(アルゴリズム)を奪取することである。そこでCIAスパイが戻ってくるだろうと予測して運転手にセイターの見方を配備して、主人公たちが戻ってくる車で待ち構えていたのだが、なんと戻ってきたのはCIAスパイとは別のスーツの男だった。だから「違う人間だぞ」と殴りかかったのである。そこで主人公に拷問をかけCIAスパイとプルトニウム241の行き先を吐かせようとするが、偽自殺ピルを飲まれて失敗。しかも最終的に、主人公はTENETに救出されるので、彼らは殺されたと見るのが妥当だろう。

もう一つがTENETである。なぜならニールが会場にいたからである。すでに最後まで見た人は知っているはずだが、逆行弾で主人公を救ったのはニールである。彼は主人公たちがいたCIAの車にはいなかったのであり、TENETはTENETである目的のもと動いている。おそらくTENETの目的は「試験」というやつだ。つまり、TENETに引き入れる人材足りうるかというテストをしていたということである。だから影で見張っていたのだろう。そのうち偽自殺ピルを飲んで自白を拒んだのは主人公だけだったので、主人公だけがTENETに向かい入れらることになった。

 さて謎3の問い「プルトニウム241は一体誰の手に渡ったのか」の答えは何だろうか。これは正解があって、ウクライナ政府組織である。というのも、カーチェイスシーンでそれを輸送しているのがウクライナ政府だからである。というわけで、結局CIAスパイたちはウクライナ組織につかまって、プルトニウム241も取られてしまったということになろう。

謎4:主人公は誰と戦っていたのか(オスロ空港)

 TENETに救出された後、主人公は武器商人プリヤと出会い、アンドレイ・セイターの存在を知る。彼がアルゴリズム(プルトニウム241)を欲しがっているというのだ。というわけで、妻のキャットを媒介して接触を図ろうとし、ゴヤの贋作を盗み取ることを約束する。そしてゴヤの贋作が保管されているオスロ空港のフリーポートの場面に移るのである。

 オスロ空港でのジャンボジェット機衝突作戦では、逆行者が登場し順行と戦うことになる。ここでは順行と逆行が戦うので、動きも逆行するのでスリリングでありながらも何が起こっているのか混乱してしまうのだ。

 問いに関しては、答えは簡単だ。主人公と戦っていたのは主人公である。これは作中で明かされることになる。また回転扉から同時に人が出てくるが、それもどちらも主人公である(これも作中で明かされることになる)。順行主人公の視点では、1.回転扉の前から変な男、2.戦闘、3.シャッターの向こう側に吸い込まれるように消えていく、という順序になる。逆に逆行主人公の視点だと、1.シャッタの向こう側で待機していたが、ジャンボジェットの爆発に吹っ飛ばされて期せずしてシャッター内に入ってしまう、2.順行主人公と戦闘、3.逆行扉に入り順行に戻る。ということになる。

 逆行戦闘シーンはこれまで見たこともない奇妙な動きをする戦闘シーンで、『TENET』の魅力の一つとなっている。

謎5:アルゴリズムは結局誰の手に?(トラックでのアルゴリズム強奪作戦)

 さてキャットを介して・・・・ウクライナ保安局が保持しているアルゴリズム(プルトニウム241)の奪還である。これはオペラハウスでCIAが盗まれたものと同じものである。要するにウクライナ政府が奪取したことがここで分かるわけである。

 結論からいうとアルゴリズムはセイターの手に渡る。それではアルゴリズムがどのようにしてセイターの手に渡っていくのかを確認してみよう。

 まず主人公がウクライナ保安局が輸送しているトラックからアルゴリズムを盗み出す。そしてニールとともに車(BMW)で逃走を図るのであるが、そこになんと逆行車が現れ、追いかけてくる。乗っていたのはセイター(逆行)と脅迫されたキャット(順行)であった。そこに第三の車が現れる。またまた逆行車(SAAB)である。セイター逆行車、第三の逆行車、主人公順行車が横並びになったときに、主人公はセイター逆行者にアルゴリズムの箱を投げ渡す。しかし、実は映画をよく見てみると分かるのだが、主人公はアルゴリズムを手に持ったまま!である。でどうしたかというと、実はアルゴリズムをその第三の逆行車に投げ入れているのだ。というわけでアルゴリズムの場所は、ウクライナ保安局の輸送車 → 主人公の車 → 第三の逆行車ということになる。

 さて第三の逆行車は一体誰が乗っていたのか。これも作中で明らかとされるのだが、実は主人公!である。順行主人公は投げ入れる時点ではおそらくそのことに気付いていない。だから主人公は逆行し、おそらく第三の逆行車に投げ入れたという情報をセイターに与えないために、第四の逆行車として向かっていくわけであるが、実は第三の逆行車であり、しかもその情報をセイターに知られてしまったという落ちである。最終的にはその車からセイターがアルゴリズムを抜き取ったのだろう。

 しかし順行中に投げ入れたなら、ずっと第三の車の中にアルゴリズムがあったことになり、主人公もそれに気づけたのではないかということが疑惑の種になっている。というのも逆行主人公は出発する前に後部座席を除くからである。そこにアルゴリズムがあるはずなのだから、アルゴリズムを見つけたのではないか?という話である。しかし驚いているようには見えないのでなかなか映像からでは判断できない。

 しかし『テネット』のシナリオには、このシーンについてきっぱりとこう書かれている。

The Protagonist LOOKS … the back seat – NOTHING.
主人公は・・・後部座席を覗いた ーー 何もなかった。

Tenet: The Complete Screenplay (written by Christopher Nolan), p. 95

 つまりあの車には何もなかったのである。ということはこういうことだ。そのあとのバック走している間に、どういう風なのかは分からないが、セイターが抜き取ったということである。セイターはあの車の中にあるということを知った後、順行してバックで走っていく車からアルゴリズムを奪い返したということである。もちろんやりかたはよくわからない。

謎6:会話がどうして成立していたのか(回転扉の部屋)

 逆行声なのだから、直接聞こえるのはおかしいのではないかという疑問が湧くが、実はこれもよく聞いていると直接は聞いていない。何か聞き取れない逆音声が流れた後、順音声が流れている。つまり逆音声を順音声に変換する機械によって聞こえていただけである。あとはその質問通りに主人公が答えていたということだ。

補足1:なぜキャットは死ななかったのか

 そのあと主人公たちはキャットを救うために逆行する。キャットはもって「あと3時間」といわれており、順行のままでは死んでしまうのだ。しかし、なぜ逆行だと死なないのか。そして、逆行しても傷口は消えないのはなぜか。また、キャットが逆行中に妙に衰弱しているのはなぜか。

 ネット空間の豪華解説陣もあまりこの話題に触れていないのでここからは推察である。一つの仮説は逆行すればその3時間後がこないとする説である。「3時間後」に死ぬにしても3時間後は来ないのだから死なない。つまり傷は今以上に悪化することにはならないということではないか。しかし「起きたことは仕方がない」。つまり打たれたという事実を消すことはできない。だから傷口は消えないわけである。そう考えると、逆行するときに妙に衰弱している理由もわかる。逆行中は3時間後が来ないので死ぬわけではないが、かといって回復するわけでもない。回復が始まるのは順行が始まってからである。

 このように考えると先ほどの三つの疑問が解決されることになる。

謎7:スタルクス12攻防戦ーー死んで生き返ったのは誰か

 セイターがオペラハウス襲撃事件の日に自殺することを突き止めると、TENETチームはその日まで逆行していく。すでに作中では明かされていたのだが、同日にスタルスク12という場所で大規模な爆発があった。それが実はスタルスク12攻防戦のことであった。そこでは、アルゴリズム奪還のためTENETチームが壮大な10分間の挟撃作戦を仕掛けることになる。

 作戦は簡単。赤隊が順行でまずスタートし、その10分後に青隊が逆行でスタートする。赤隊は青隊の、青隊は赤隊の情報(つまり未来の情報)を受け取りながら任務を遂行していく。任務はどちらも10分間なので、順行赤目線だと赤がスタートするときに青が任務を終えているところからスタートし、逆行青目線だと、青がスタートするときちょうど赤は任務を終えているところからスタートする。数字を並べてみるとわかりやすい。

赤隊 → 0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10 →

青隊 ← 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0 ←

 だから、例えば5分のところで赤と青の爆発が重なってビルを破壊するシーンがあっただろう。上の図をみるとわかるように、5分は時間的に重なるのでどちらの時間軸で行ってもほぼ同時なのである。

 さてこのシーンの最大のポイントは穴で死んでたのに生き返って主人公を助けたのは誰なのか、そしてどういうことになっているのか、ということである。誰なのかというとニールである。その死体が赤いストラップをつけていたことがヒントになっている。思い出してみると、そのオペラハウスでそのストラップをつけている人に主人公は助けられていた。別れ際にそのことに気づくことで、主人公はニールが何度も自分を救ってくれていたことを知るのである。

 さてどのようにしてニールは死んだのか?というところが難しい。ニールの動きを確認しよう。さきほどの系列図で考えてみる。

 まず、ニールは青隊である。先頭に入るのは赤が入って10分後、つまり上の図でいうと、青系列の0からスタートだ。そして青系列の6分あたりで不審な動きを見せる男を見つける。ボルコフである。そいつが保管場所の出入り口に爆弾を設置しているのを発見する。さて、アイブスと主人公の方はというと、彼らは5分の同時爆発の後、出入り口に突入する。仮に赤の6分に突入したとしよう。それは青系列だと4分だということになる。ということは、青系列視点からすると、ボルコフが爆弾を設置している時にはもう中に入ってしまっていることになるのだ。ニールはそれを見て、このままいくとアイブスと主人公が脱出できない!ということを悟り、そこから順行に戻ってアイブスと主人公に警告をしようとするわけだ。

 仮に青系列の7分のところで赤系列に移行したとしよう。そのとき赤系列は3分である。そっから車をかっ飛ばして二人に警告しようとするが、赤系列で6分になってしまい少し間に合わない。アイブスと主人公が保管場所に侵入しようとしたときに、後ろでクラクションを鳴らしながら迫ってきた車があっただろう。最初、敵かと錯覚するが、実はあれはニールである。もうちょっと遅めに、例えば青系列9分当たりで順行に入っていれば間に合ったであろうが、やんぬるかな、ニールでも焦る。

 そのあとは、仕方がないので赤系列の10分までロープを垂らして待っていて、10分ちょうどぐらいにロープを引き上げる。主人公とアイブスを救ったところでニールの任務は完了、といきたいところだがそうもいかない。そのあと鍵を開けに行かなければならないのだ。ニールは任務完了後つまり赤系列10分を過ぎた地点のどこかでまた逆行し、鍵をあけたあと(本当は閉めたはずだが)ボルコフに撃たれて死ぬ、ということになる。

 実はネットの豪華『TENET』解説陣も指摘しているが、ちょっとこのストーリにはおかしいところがある。まず、逆行から行くとすれば、順行で鍵を開けた状態にするには逆行では鍵を閉めなければならない。ということは、本当はニールは逆行して鍵を閉めたあと、ボルコフに撃たれて死ななければならない。つまり、鍵は開いていたのにかけたというをしたということになりはしないかというのが一点。もう一点が、どうやって入ってきたんだい!という点である。最後ニールは出入り口の方に去っていくが、出入口が一つしかないとするならば、その出入り口はボルコフにすでに塞がれているはずなのである。逆行から行った場合、仮に出入り口爆発が赤系列6分のところだとしたら、青系列では4分のところ以降からしか入れないことになるが、ニールが死んだのは赤系列の8、9分当たりなので、そのとき出入り口はすでに塞がれている。ここには多分原理的な矛盾がある。しかし、それを感じさせない形でファンタスティックに乗り切るのが映画だ!とも言える。実際、初見ではそんな矛盾にはきづかないだろう。

補足2:逆行中に死んだ場合に逆行扉から入るとどうなるのだろう?

 ニールは逆行中に死んだ。せっかくなのでニールのケース(逆行中に死亡)についてもうちょっと深く考えてみよう。ここでは順行者が逆行者を射殺した場合に絞って考えてみることにする。例えば先ほどの図で、青系列5分のところで逆行者が死ぬとする。順行視点だと5分まで生きていてそれ以後(少なくとも10分までは)死んでいることになり特に問題はないが、例えば青系列の0分のところからその撃たれた人が逆行しようとするとき変な現象が起こる。逆行視点から見ると、なんと自分が逆行扉に入る前から死んでいるのである。青系列の0分から5分のところまでは死んでいるので空白の5分間がそこにあることになる。これがニールのケースだ。これはどういうことになるのか。

 アイブスのどこかでのセリフ「反対の扉に自分が映っていない場合は入ってはダメだ」を思い出そう。これはなぜだろうか。順行から逆行を見た場合、逆行の方は過去を表していることになる。その過去に自分が映っていないということは過去に自分は死んでおり、逆行回転扉を通っていないということだ。だから映ってないときに入ってはダメだということの意味は、逆行中に死んでいるからということを意味することになるだろう。

 しかし、この時間逆行は常に運命論が待ち受けている。すでに過去で自分の死亡が確認されている以上、行かざるを得ないのである。というのも過去に自分は死んでいるはずだからである。それなのに行かないという選択肢がありえるだろうか。ニールの選択も前から決定されていたものになるのだろうか。

謎8:セイターはなぜ生きているのか(ベトナムでの船の場面)

 セイターがキャットに殺されるシーンで、ここでセイターが殺されるということは、時系列的に、そのあとセイターが生きているのはおかしなことではないかという疑問が呈されてきた。しかし、よく考えてみよう。未来から逆行してきたキャットが会うのも逆行してきたセイターのはずだ。というのも、そうじゃないと、まだオペラハウス襲撃事件の日にはアルゴリズムは集まっていなかったので、自殺しようとは考えないはずだからである。

 つまりセイターは生き返ったのではない。あの時のベトナムには順行セイターと逆行してきたセイターの二人がいたということだ。そうするとつつじまが合うはずだ。

 順序を確認してみよう。順行キャットが怒り狂って息子と一緒に船を離れたあと、順行セイターもヘリコプターで仕事のため船を離れる(実際ヘリコプターで飛んでいくシーンがある)。そこに、誰もいないのを見計って逆行してきたキャットが乗り込み、そしてまた、誰もいないのを見計らって逆行してきたセイターも船に乗り込む。しかし、セイターはキャットのことを順行キャットだと思い込んでいることがみそだ(実際は逆行してきたキャット)。だから息子呼び戻そうと電話する。それで息子と順行キャットが戻ってこようとする。もちろん彼らが帰ってきたら自分が逆行してきたキャットだとバレてしまうので、逆行してきたキャットはその前に事を終えなければならない。最後にセイターに傷を見せたのは種明かしだろう。自分は逆行してきたキャットですよとセイターに示しているのである。そこでようやくセイターは罠にはめられていたことに気づき激昂するが、時すでに遅しで逆行してきたキャットに殺されることになる。

 つまり、セイターは生き返ったのではなく、逆行してきたセイターが殺され、順行セイターは普通に生きていたというのが結論である。

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補足3:妙に詩人めくセイターーーノーランとキリスト教的世界観

 実はこれはおそらく私の知るところ初指摘である。もちろん『TENET』を見て気付いた人は僅かながらいるとは思うが。

 スタルスク12攻防戦の最中、ベトナムにいるセイターは自殺することを決めている。それでだと思われるがその場面から妙にセイターは思索的になる。CIAの自殺カプセルを眺めながら、セイターはこんなことを呟く。

The way the world end,
こうして世界は終わる   
Not with a bang but a whimper  
爆発ではなく すすり泣きで

 それに対してキャットは「何のことか分からないわ」と返事するのだが、これは詩人T. S. エリオットの『空ろな人間たち』(The Hollow Men)の中の一節である。字幕だとダブルクォーテーションマークが付いているので、字幕訳者は引用だと気付いていたと思われる。

 ここからは考察・感想の域になってしまうが記しておこう。その後のセイターの会話もやや壮大な話になるのだが、ここは聖書が念頭に置かれているのではないかということである。

 実はキャットにセイターが「何を話してたか想像もつくまい」というシーンがあるが、そこがシナリオではもっと長く、そのセリフの前に次のような台詞が挿入されている。

Tomorrow the sun will rise in that same spot. For the first time in history. Because l’ve told it to. You have no idea what I’m talking about, do you?

明日も同じ場所に日が昇る。それが歴史上初めてのことになる。なぜなら私がそう言ったから。何を話してたか想像もつくまい。

Tenet: The Complete Screenplay (written by Christopher Nolan), p. 137.

 旧約聖書「創世記」の天地創造の場面は思い出さないだろうか。周知の通り、その場面は神が「光あれ」と言い、光が誕生するのである。つまりセイターの頭の中には、自分が神のような位置にあり逆天地創造をするのだという意識があったので、ああいうちょっと壮大な不思議な会話になったのではないかということである。

 実はクリストファー・ノーラン作品をキリスト教的世界観と絡めて論じたものは結構ある。「愛」や「信頼」がテーマだったりするからだ。今回の『テネット』も、例えばTENETという言葉自体宗教的色彩を帯びたものでもあるし、また予定説(運命論)と自由意志といった問題は聖書のテーマでもあるのだ(https://byfaith.org/2021/10/15/christopher-nolan-christianity-the-bible-faith-and-cinema/参照)。主人公の「自己犠牲」ニールの「友情」、セイターの「罪」、キャットの「息子に対する愛情」など重なりそうなテーマがいくつもある。キリスト教文化圏で生きてきてない人には共通の文脈がないのだが、そのような視点からノーラン作品を見てみるのも面白いかも知れない。

謎9:中間地点にいるとはどういうことかーー美しい友情の終わり

 アルゴリズムを奪還したあとニールと主人公が会話する。主人公はそこでニールの赤いストラップに気づき、ニールがこれまで幾度となく自分を救ってくれたことに気づく。そこでニールと主人公の関係も明かされることになるのだが、実はどのような関係であったかを確認しておこう。

 君を雇ったのは誰だ、と聞く主人公に対してニールはこう述べる。

もう気づいているだろ?君だよ。今がそのときでないだけだよ。過去に君の未来があるんだ。僕にとっては数年前、君にとっては数年後だ。

 ニールは未来の主人公に雇われていたのである。ニールは未来の主人公に雇われた地点から逆行してきていたのだ。「過去に君の未来がある」というのは、ニールにとっては過去のことで主人公にとっては未来のことだということである。そして別れ際にこう言われる。

君はまだ中間地点にいる、出発点で会おう、友よ。

 中間地点にいる。つまりこの意味はさきほどの引用からも明らかだ。つまり、まだニールと出会っていないということである。よく考えてみよう。オペラハウス襲撃事件の日にスタルスク12攻防戦も起こっている。そしてその日を主人公たちが生き延びたということは、最初から実はアルゴリズムが起動しないことは決定していたということになる。つまり『テネット』という映画作品は終わり(結末)からスタートしていたのだ。そして今、中間地点におり、このあとの未来に始まりがある。「始まりで会おう、友よ」。全てが逆転しているのだ。

 なお「これは美しい友情の終わりだ」と言う台詞も登場するのだが、それは『カサブランカ』でのセリフ「これは美しい友情の始まりだ」のオマージュだと言われている。

謎10:プリヤはなぜ殺されたのか

 プリヤは、ラストでキャットを殺そうとしているところで主人公に殺される。さて、どうしてプリヤは殺されなければならなかったのか。

 様々な考察があるが、一つはキャットが好きだった説である。異常なまでにキャットを救おうとするからである。なるほど、最初はキャットを騙したりもした。しかし途中から愛が芽生えてしまったということである。もちろんある種の愛情はあるだろうが、だからといってそれがプリヤを殺す直接的な原因にはならない。もう一つが口封じ説である。どういうことかというと、アルゴリズムについて深く知っているのは残りプリヤだけである。彼女の情報を敵に奪われると、アルゴリズムの隠し場所がバレてしまうかも知れない。だから殺したという説である。しかし、そうなると、やはりキャットも殺さないとダメだろう。というよりも厳密にはおそらくプリヤもアルゴリズムの隠し場所など知らないので、やはりこの説も微妙だ。

 第三の説を考えたい。信用できないから、という理由である。以前にプリヤはキャット(と息子)に危害を加えないと「約束」しているのである。そのときにプリヤは「口約束に意味があるの?」と尋ね、実際そんなもの意味がないと考えている。もちろん主人公はそのことを知っているのだが、その約束を重くみているのだ。最後の会話でも「約束したよね?」と聞き返しているので、この約束が果されなかったことが尾を引いているのは間違いない。

 『テネット』はいわゆる「人と人とのきずな」をテーマにした物語でもある。ニールと主人公の関係がまさにそれだ。ニールが明らかに自分に情報を隠していることはわかっていても、主人公はニールを徐々に信頼し始める。それが最後には美しい友情へと結実する。この作品では無知は力だ。だから簡単に情報は明かせない。ということは、そこで最も重要となってくるのが目に見えない信頼である。相手が自分に情報を明かしてないにしても信じるという信頼関係である。フランスの現象学メルロ=ポンティは『知覚の現象学』の最終章「自由」の最後を、『星の王子さま』で有名なサン=テグジュペリの「人間にとってはきずな(関係)だけが重要なのだ」という言葉で締めくくっている。プリヤとは良いきずなを築けなかった。彼女は何よりも信頼が重要となる世界で約束を破った。主人公が最初救われたのも、仲間の情報を漏らさなかったからだ。「信用のできなさ」こそ危険なのである。だからこそ、プリヤは殺されたのだ。

 ちなみにあの息子マックスが未来のニールなのではないかといったマックス=ニール説があるのだが、そこまで根拠の強いものではない。詳しくは参考文献「「ニール=マックス説」の考察と否定意見」などをどうぞ。

考察・感想

運命論の円環から抜け出して

 未来から逆行できるというのは単なる筋の面白さだけにとどまらない。仮に逆行が可能だとすると一つ不思議な事実を突きつけられるのだ。それが運命論の問題である。

 これは単純かつ複雑な話で、未来から逆行してきている人はすでに過去となった世界を行くわけなので、原理的に行く前から逆行の人たちの行動は決められているのだ。これは順行の人たちもそうで、仮に逆行している人たちと戦闘になったとよう。その時順行の未来はすでに逆行の人たちが通り過ぎてきた未来である。つまりすでに起こることは決まっているとする運命論である。普通は未来だけの話だが、今回は逆行できるので過去にも適用される。つまりこの運命論ということでいいたいのは、過去に遡ってももうすでにやることが決まっている、ということである。自分は確かに何をやるのか知らないが、もう過去にやることが刻み込まれているので、何をやるかは決まっている。What’s happend, happend. 起きたことは仕方がない、とはそういうことだ。

 この問題は作品中でも重要なテーマとなっている。時系列を見ると分かるように、セイターが自殺に失敗した日、つまりアルゴリズムの起動に失敗した日の次の日をすでに主人公たちは生きているのである。だからアルゴリズムが起動に失敗したことを、後から考えれば、決定済みなのである。それだから問題は本当に世界を救ったのか?ということになる。他の道がありえたのか?全部予定調和なのではないのか?主人公やニールはその問題に気づいている。

Neil: Just saved the world. Can’t leave anything to chance. ーー 世界を救ったんだ。偶然に委ねるなんて出来ないことだ。

Protagonist: But can we change things if we do it differently…? ーー でも、違った風にしたら別の結果にできた?

Neil: What’s happened’s happened. Which is an expression of faith in the mechanics of the world. It’s not an excuse to do nothing. ーー  ”起こったことは仕方がない”。これは世界の仕組みに対する信頼を表現している。けど、何もしないという言い訳にはならない。

 主人公の動揺が分かる台詞である。本当に変えたと言えるか?もし違った風にやっていたらこうならなかったといえるのか。もし変えたといえないなら、そのような現実は運命論でしかない。それに対してニールはなんと答えるか。

Protagonist: Fate? ーーー 運命?

Neil: Call it what you want. ーー 好きなように呼べ

Protagonist: What do you call it. ーー なんて呼ぶ?

Neil: Reality. ーー 現実さ

 ある種の俯瞰した視点から見れば、行動は全て先に決められている。それは運命だということになる。しかし、そこには運命だけでなく、選択や自由や意志もある。自分のあらゆる思考・行動は現実だ。しかし、この言葉をニールが述べていることに意味がある。というのも、このあとニールは自分が死ぬことになる運命を知っているからだ。これから死ぬのは確実(運命)である。それでもこの人生をリアリティだと言い切る。未来が決まっていようがいまいが関係ない。

 映画の最後はニールのこの言葉で終わる。

爆弾は爆発しなかった。危機が現実(real)であったことは誰も知らなかった。爆弾は世界を変えるほどの現実(real)の威力を持っていたのだ。

 リアリティは運命論の外側にある。

最新作『オッペンハイマー』はどんな作品になるのか

 オッペンハイマーは実は『TENET』でも登場する。プリヤと主人公が話す場面である。そこでマンハッタン計画の話になり、オッペンハイマーが登場する。プリヤ曰く、オッペンハイマーは初の原爆実験で連鎖反応がでてくることを恐れたということである。そのオッペンハイマーが、どうやら次回作『オッペンハイマー』の主役なのだ。

 演じるのはキリアン・マーフィー。『インセプション』で若社長を、『ダンケルク』では救出された謎の英国兵を演じていた人物である。期待高まる。

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参考文献

「ニール=マックス説」の考察と否定意見 https://www.youtube.com/watch?v=JJYbNTvYUpE&t=15s

「オペラハウステロ襲撃事件」完全解説 https://www.youtube.com/watch?v=LTAJJgqHq7o 

「奇妙で興味深いシーン」を語る https://www.youtube.com/watch?v=B4didImSLQc&t=0s

「銃弾の跡はいつからあったのか?」問題の考察 https://www.youtube.com/watch?v=xc24Tf7aWf4&t=0s

Tenet: The Complete Screenplay (written by Christopher Nolan) https://script-pdf.s3-us-west-2.amazonaws.com/tenet-script-pdf.pdf

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