『3時10分、決断の時』考察|ダメ人間は西部劇の夢をみる|あらすじ解説感想|ジェームズ・マンゴールド

『3時10分、決断の時』考察|ダメ人間は西部劇の夢をみる|あらすじ解説感想|ジェームズ・マンゴールド

概要

 『3時10分、決断のとき』は、2007年に公開されたアメリカの西部劇アクション映画。監督はジェームズ・マンゴールド。アカデミー賞は作曲賞と録音賞の2部門にノミネート。1957年のデルマー・デイヴィス監督による『決断の3時10分』のリメイク版。

 クリスチャン・ベールはクリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイト ライジング』で主役を演じている。

 アクション映画はほかにガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ』『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』や、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』『バトル・ロワイアル』が、歴史物はほかに『鎌倉殿の13人』『1917 命をかけた伝令』『ダンケルク』などがある。

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登場人物

ベン・ウェイド(ラッセル・クロウ):強盗団の長。3時10分ユマ行きの列車に乗るため護送される。

ダン・エヴァンス(クリスチャン・ベール):牧場の主。護送団に加わり、ベンと行動を共にする。

ウィリアム・エヴァンス(ローガン・ラーマン):ダンの息子。父を尊敬している。

チャーリー・プリンス(ベン・フォスター):強盗団の二番手。躊躇せず人を殺す非道さがある。

バイロン・マッケルロイ(ピーター・フォンダ):賞金稼ぎ。ピンカートン探偵社に雇われている。

名言

バイロン:絞首台がお前を待っている。吊るされて地獄に落ちろ
ベン:生きているほうがよっぽど地獄だ

あらすじ

 舞台は南北戦争直後のアリゾナ州。南北戦争で北軍に属しその時の怪我で片足を悪くしたダン・エヴァンスは、息子ウィリアムと妻アリスと共に暮らしながら、牧場を経営していた。その土地から動こうとしないダンを疎ましく思う街の有力者たちは、日々嫌がらせを仕掛けていた。

 ある日、ダンは町の有力者に抗議をするため街に向かう。その途中、無法者ベン・ウェイドが率いる強盗団が、馬車を襲撃している場面に遭遇する。ダンは唯一生き残っていた、ピンカートン探偵社に雇われの身の賞金稼ぎバイロンを救助する。

 街に着いたダンは、さっそく有力者たちと交渉するが上手くいかない。酒場に入ると、ベンが保安官に捕まる場面に遭遇する。ベンによって度重なる損害を被っていた鉄道会社は、ベンを処刑するよう要求し、明後日の3時10分発、ユマ行きの汽車に乗せようとする。

 移動中に強盗団の仲間たちに襲われる危険性があるため、バイロンを含めた数人の護送団を結成する。ダンは見返りを求めて、この護送団に同行することを決意する。

 ベンの護送中、予想通り強盗団が襲いかかる。またベンは拘束されていながらも、隙をついて護送団員を殺しにかかる。何人もの犠牲を伴い、ダンとベンはコンテンションに到着するが、泊まっているホテルを強盗団が包囲する。さらに副団長は、護送員を殺害したものには報償金をだすと民衆を煽動し、町中の人々が敵に回る。

 命の危険や保身にはしった鉄道会社の重鎮や保安官は、強盗団に屈服する。そのような状況で、ベンはダンに開放すれば助けてやる、と交渉する。しかしダンは報酬金を得るためではなく、偽りの権威を保ってきた自分を情けなく感じ、息子に威厳を示したいという思いで、この任務についたのだと訴える。

 この告白を聞いて、ベンはダンに協力することにする。強盗団をかいくぐり、なんとかベンを刑務所行きの列車に乗せるが、その直後、ダンは副団長に銃撃される。それをみたベンは怒り、手下たちを自ら射殺する。ダンを追ってきた息子ウィリアムは、ベンに銃口を向けるが撃つことはできず、ダンは息を引き取ってしまう。

 ベンはウィリアムを尻目に、刑務所へと向かう汽車に乗り込む。汽車はベンを乗せて動き出すのだった。

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解説

非道で人情深い悪役ベン

 これまで観てきた西部劇の中でも1位2位を争うくらい面白い映画だった。

 序盤に息子思いで農夫の主人公ダン・エヴァンスと悪徳非道な強盗団の頭のベン・ウェイドが出てくると、一般的な西部劇のように主人公は良いやつで敵は悪党で、とミスリードされるのだが、むしろ逆で、ベンのほうが良いやつで魅力的であったりする。強盗団の仲間がルールを破っても躊躇なく射殺するのは勿論彼の恐ろしさを体現しているのだが、それは自分にも当てはまることであり、むしろ躊躇いのなさはベンが芯の通った平等の人であることを示している。

 彼を貫く芯の部分は悲惨な過去の経験から培われたものであって、それゆえ強靭な思想になっている。彼の非情さは世界の不条理を生き抜くために鍛えられたものであった。その前では本来正義の側にあるはずの賞金稼ぎや鉄道会社のエージェントの主張が浅はかだ。根っからの悪党であると自認しながらも情に厚い、というか情に厚いからこそこの世の非情さに嫌気がさしている。だから賞金稼ぎに対するベンの回答は重い。

賞金稼ぎ:絞首台がお前を待っている。吊るされて地獄に落ちろ

ベン:生きているほうがよっぽど地獄だ

3時10分、決断のとき(セリフのシーン)

考察

見栄っ張りで気弱な主人公ダン

 魅力的な悪役の横で主人公ダンのダメダメさが際立つ。注意深く観ていると冒頭から適当なところで躓いたり地味にダサい。金への執着も強いし、妻に嫌味を言ったりする。ベンと初めて会ったときは歴戦の戦士の如く冷静に振る舞っているが子供の手前見栄を張っているだけで、顔がこわばっているようにもみえる。

 時折信念をみせたり、誰かがやらなきゃいけないと覚悟をみせたりもするのだが、どうも言葉が上滑りしている。結局ダンを動かしているのは何なのか。息子か。土地か。妻か。金か。

 そうではない。実は護送を完了させることそれ自体が目的だったのだ。何事もうまく行かず戦争でも足を怪我しただけで功績を得られなかったダンは、命をかける護衛という任務の完了で自信の回復を願っているのだ。

 西部劇で描かれるのは大抵強面の冷静でどっしりした強靭な男性だが、ダンはそれとは真逆と言っても過言ではない。虚栄心が強く自信がないか弱い存在の彼は、妻と子供がいて土地を持ち逃げることもできず父であらねばならない。

 どの時代にも気弱な人間もいたはずで、これまでの西部劇が偏っていたのだ。西部劇のような生き死にが関わる場面で、気弱な人間はどのように行動し、何に悩むのか。ベンに魅了されながらもダンのダメダメさに共感してしまう、そこがこの映画の最大の魅力だと思う。

ベンとダンの奇妙な友情=愛

3時10分、決断のとき(ベンがダンの首を締めているシーン)

 定番ながら主人公と敵が窮地では共闘し奇妙な信頼関係を築いていくのは引き込まれる。護送中は殴り合ったりするのだが、死の危険が迫ると阿吽の呼吸で窮地を切り抜ける。

 仲が極まるのはダンが自分の卑屈さを告白するところだろう。それを理解し護送するという任務を完遂するため、護送されるベンが列車に向かって走るのは奇妙な友情を越えて愛の領域に近い。列車に向かうためにこれまで連んでいた強盗団の仲間を打ち負かしていくのだから尚更だ。ダンが殺されたあとでも護送任務を完了させるために列車に乗るのは、ダンが欲しかった功績と自信を与える死者への最大の弔いだろう。

 ベンの二重性と屈折は、例えば極悪でありながら聖書に詳しく何かあれば引用するところにもあらわれている。他にも人に冷淡でありながら、すぐ人を好きになりもする。偶然居合わせたバーの店長とか。

 思えばダンの弱さの告白や死を待たずしてベンはダンに好意を持っていたようだ。ダンが殺されそうになれば自らの命を賭して助けたり、敵に囲まれればダンが逃れるように交渉したりする。隠れてダンの座っている姿を絵に収めるのも好意の現れだ。最後までこのことを口にせず、ダンの名誉のために奔走する彼の姿は、二重性と屈折するベンの魅力をそのまま伝えている。

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