『マイノリティ・リポート』考察|殺人予知の正当性と倫理的問題|あらすじ解説|感想|スティーヴン・スピルバーグ

『マイノリティ・リポート』考察|殺人予知の正当性と倫理的問題|あらすじ解説|感想|スティーヴン・スピルバーグ

概要

 『マイノリティ・リポート』は、2002年に公開されたアメリカのSFサスペンス映画。監督はスティーヴン・スピルバーグ。主演はトム・クルーズ。原作はフィリップ・K・ディックの短編小説『マイノリティ・リポート』。

 殺人予知ができるようになった近未来、殺人を予知されたジョンが、システムの不正を暴くため予知の少数意見(マイノリティ・リポート)を手に入れるため奮闘する。

 スティーヴン・スピルバーグはほかに『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『ターミナル』『A.I.』『宇宙戦争』などの監督作品がある。

 トム・クルーズはほかに『トップ・ガン』『アイズ ワイドシャット』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『M:I-2』に出演している。

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登場人物

ジョン・アンダートン(トム・クルーズ):刑事。犯罪予防局に所属。6年前に息子ショーンを誘拐殺害され、それ以降仕事にのめり込むようになった。殺されたショックから薬物に手を出している。

ダニー・ウィットワー(コリン・ファレル):司法省調査官。殺人予知システムの全国運用に向けて、倫理的に問題がないか犯罪予防局を調査する。

アガサ(サマンサ・モートン):未来予知者。プリコグと呼ばれる。プリコグはほかに二人いるが、その二人よりも未来予知の精度が高い。過去に殺害された誰かの映像をジョンに見せる。

ラマー・バージェス局長(マックス・フォン・シドー):犯罪予防局の局長。未来予知のシステムの設立者。ワシントンD.C.で運用され実績を出した未来予知システムの全国展開を目論む。

アイリス・ハイネマン博士(ロイス・スミス):未来予知のシステムの設立者の一人。植物に囲まれた庭にいる。未来の殺人容疑をかけられ助けを求めにきたジョンに、的確なアドバイスを与える。

エディ・ソロモン医師(ピーター・ストーメア):闇医者。ジョンの依頼で他人の目を移植する。

名言

ジョン:未来は自分のものだ。望めば変えられる。まだ選択肢は残ってるぞ、僕がそうしたように

あらすじ・ネタバレ

 舞台は殺人予知ができる近未来。西暦2054年、プリコグと呼ばれる予知能力者3人で構成された殺人予知システムのおかげで、ワシントンD.C.の殺人事件は全く起こらなくなっていた。

 犯罪予防局に所属する刑事ジョン・アンダートンは、取締りのリーダーとして活躍していた。ジョンは6年前に起こった息子ショーンの誘拐殺害事件をきっかけに、この仕事に病的にのめり込むようになり、苦痛から逃れるために薬物にも手を出していた。

 ある日、システムの全国的な導入のために国民投票が行われることになり、司法省調査官のダニー・ウィットワーが、システムの安全性を調査するために施設を訪れる。そのときプリコグの一人アガサが、「エコー」と呼ばれる現象を起こし、過去の事件の映像をジョン見せる。その事件を調査したジョンは、アガサの予知の記録だけ紛失していることを発見し、そのことをラマー・バージェス局長に報告する。

 後日、新たな予知で、ジョンが見ず知らずの他人リオ・クロウを射殺する場面が映し出される。咄嗟に罠にはめられたと悟ったジョンは、同僚であるウィットワー達の追跡から逃れる。そして助けを求めてシステム考案者アイリス・ハイネマン博士の元に向かうと、ニューロンという麻薬の中毒者から生まれた子供達の中で12歳以上になっても生き続け予知能力を得た者がプリコグであり、偶然の産物であることを知らされる。そして予知は3人の間で食い違うことがあり、少数意見(マイノリティ・リポート)は破棄されることで、システムの不完全性を隠蔽していた。

 マイノリティ・リポートはプリコグの脳に保存されていると教えられたジョンは、アガサを奪うことを決意する。施設に行くまでに張り巡らされた網膜スキャナーを無効化するために、闇医者エディ・ソロモンに頼んで他人の眼球を移植する。

 アガサの誘拐に成功したジョンは、システムを設計したルーファスに頼んでアガサの脳内を探るがマイノリティ・リポートは見付からず、再び過去の事件の映像を見せられる。仕方なく殺害を予知されたクロウの元に向かうと、誘拐した少年少女の写真がベッドに散らばっていて、その中に息子ショーンもいた。激怒したジョンは殺害しようとするが思いとどまる。するとクロウがは家族に金を渡すという報酬でこの演出を誰かに依頼されたといい、ジョンに無理やり撃たせて死亡する。

 現場検証にきたウィットワーは状況が仕組まれたものであることを悟り、さらに過去の事件のエコーの映像を調べると、同一場所の異なる時間の事件が二つあったことに気づく。つまり、雇われた殺人犯が犯した一度目の殺人を未然に防ぎ、同じ場所異なる時間の殺害の予知はエコーとして処理され、犯行が行われたというのだ。システムに詳しい者の犯行だとバージェス局長に伝えると、ウィットワーは局長に射殺される。

 ジョンは捕まり、システムは全国導入される。しかしバージェス局長を不審に思ったジョンの妻ララは、ジョンの眼球を用いて彼を脱獄させる。システム全国導入の祝賀会で、ジョンたちはバージェス局長の犯行を暴露する。局長が殺害したのは、薬物中毒から更生しアガサを取り戻しにきた母アン・ライブリーだった。

 バージェスはジョンを追い詰めると、プリコグはバージェスがジョンを射殺すると予知する。射殺すれば捕まり、射殺しなければシステムの不完全性が暴かれるというジレンマに悩んだバージェスは自死を選ぶ。

 この事件をきっかけに、システムは廃止、プリコグの三人は穏やかに暮らし、システムによって捕らえられた犯罪者は冤罪として解放された。ジョンは身篭ったララと共に生きていく。

解説

殺人予知システムの確実性と倫理と意思の問題

 舞台は殺人予知ができるようになった近未来。プリコグと呼ばれる殺人予知能力をもつ3人の犠牲によって完成したシステムと、運用のために新たに設立された犯罪予防局の予防的拘束のおかげで、ワシントンD.Cの殺人事件の件数は0件に抑えられている。この功績を元手にシステムの全国展開を目論むバージェス局長、システムの不完全性と倫理的な問題を疑問視する司法省調査官ウィットワー、システムと人間の悪意に翻弄される主人公ジョン、そしてシステムの根幹であるアガサ、この4人を軸にシステムの嘘と過去の事件の真実を暴くのが物語の筋である。

 本作で問われるのは、未来予知された殺人は罪になるのか、という倫理的な問題である。勝手に予知されて突然逮捕されてしまうディストピアの、問題点と突破口はどこにあるのか。システムの全国展開を前にプリコグの調査にきたウィットワーは、システムの完全性にも倫理的にも問題があるのではないかとジョンに詰め寄る。ジョンはボールをウィットワーに向けて転がし、落ちそうになったボールをウィットワーに受け止めさせて、未来予知の正当性をこう主張する。

ジョン:だが落ちなかった。君が取ったから。君が落ちるのを防いでも、落ちようとしていた事実は変わらない

 ボールの落下は殺人の、受け止めたウィットワーは犯罪予防局のアナロジーになっていて、落下を防いでも落ちようとした事実は残る、つまり、殺人が起ころうとした事実は変わらないと主張する。確かにウィットワーが受け止めていなかったら、ボールが落下しただろうことは間違いない。だが問題はこのアナロジーが正確かどうかだ。近くにいたウィットワーではない人物が落下を防いだら、あるいは、突風が吹いてボールが止まってしまったら、ウィットワーが止めるまでもなくボールが落ちることはない。そして人間と殺人とボールの落下には、意思の有無という根本的で決定的な違いがある。殺人を犯すその直前に、予言された人間は意思をもって止まることはできないのだろうか。

 つまり予知システムの問題は二つある。予知の確実性、そして、人間の意思の不定性だ。

考察・感想

三つの問題:システムの不完全性、人間の意思、運用側の悪用

 殺人事件を0件に抑えたという事実は、プリコグによる未来予知と犯罪予防局の行動が十分に機能したことを証明した。しかしだからと言って、冤罪事件までも誤逮捕している可能性が排除されたわけではない。そのことはシステムの側にいるジョンが、身をもって体験することになる。

 突然現れた殺人予知の映像には、銃を発砲したジョンと見覚えのないクロウという人物が映っているのだ。システムの完全性を疑ったことすらないジョンは、すぐさまハメられたと判断し逃亡するが、システムの設立者アイリス・ハイネマン博士から、システムの不完全性を隠蔽するためにマイノリティ・レポート(少数意見)を破棄している事実を知らされる。システムは完璧ではなく、予知された殺人にはほかの可能性も存在していたのだ。

 そしてこの殺人予知の映像は、ジョンを殺人事件の現場へ向かわせる。予知によって現在が、予知した未来へと進んでいく。ジョンはデジャヴュを覚えながら、殺人現場の扉を開ける。しかしここに至ってもクロウという人物について何一つ情報がない。それでもジョンが殺害を犯そうとするのは、クロウこそが6年前にジョンの息子ショーンを殺害した犯人だからである。

 「君は言っただろう。マイノリティ・リポートはないと。僕には別の未来なんてないんだ。僕はこの男を殺す」と激昂するジョンに、アガサは「あなたにはまだ選択肢がある」と答えるが、ここにはシステム(=アガサ)を超越する人間の意思の次元がある。予知された未来は、意思によって覆すことができるのだ。

 システムの不完全性、人間の意思、この二つだけでも殺人予知による逮捕の危険性が判断できるが、さらに不味いことに、使用する人間の危険性に対するウィットワーの指摘が的中する。

ウィットワー:完璧。そうだな。だが、欠陥があるのは人間の方だ。いつもそうだ

 ジョンを罠に嵌めたのは、システムの特性を熟知した創設者のバージェス局長なのだ。さらに彼は運用の初期にシステムを存続させたいがために、アガサを引き取りにきた母を殺害していた。しかも予知を利用することで、殺害自体を隠蔽していたのである。つまり殺人予知の倫理と正当性には、その原点からして三つの問題、予知の確実性、人間の意思の不定性、そして予知システムを悪用しようとする人間が存在していたのだ。

バージェス局長に迫られた決断の行方

 だからこそ最後に決断を迫られるのは、システムの不完全性と人間の欠陥を最初から理解していたバージェス局長である。予知されたジョンの殺害を実行すれば刑務所に行くことになり、踏みとどまればシステムの不完全性が示され、これまで捕まえてきた数多くの未来殺人犯に冤罪の可能性があることになる。

ジョン:未来は自分のものだ。望めば変えられる。まだ選択肢は残ってるぞ、僕がそうしたように

 もう一つのシステムの欠陥である人間の意思の介入が、反転して希望に変わる。彼はいまこの瞬間、未来を手にしているのだ。しかしバージェスはジョンのこの助言を、ジョンの意図するようにとることはない。彼はジョンを殺害するのでも、踏みとどまるのでもなく、自らの死を選ぶのだ。

 マイノリティー・レポート。この少数意見の破棄が、システムの不完全性を隠蔽し、システムの偽りの完全性を作り上げた。だからシステムの不完全性を暴くのも、またマイノリティー・レポートである。もう一人の創設者ハイネマンは「誰も信用してはいけないわ。とにかく、マイノリティ・リポートを探すのよ」と助言した。完璧なシステムの小さな傷、そこにシステムを脅かす大きな力が隠されている。

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