『アルゴ』考察|奇想天外な脱出作戦|あらすじ解説|感想|ベン・アフレック

『アルゴ』考察|奇想天外な脱出作戦|あらすじ解説|感想|ベン・アフレック

概要

 『アルゴ』は、2012年に公開されたアメリカの歴史ドラマ映画。監督・主演はベン・アフレック。製作はベン・アフレック、ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロヴ。アカデミー賞の作品賞を受賞。

 1979年から1980年に実際に発生した、在イランアメリカ大使館人質事件を題材としている。

 ベン・アフレックはデヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』に、ジョージ・クルーニーはジェイソン・ライトマン監督の『マイレージ、マイライフ』やスティーブン・ソダーバーグ監督の『オーシャンズ11』『オーシャンズ12』『オーシャンズ13』で主役を演じている。

 史実を基にした映画はほかに『ターミナル』『イミテーション・ゲーム』『アポロ13』『ユナイテッド93』『ワールド・トレード・センター』などがある。

 また「【2023年版】Amazon Prime, U-NEXT の最新おすすめ独占配信映画」はこちらで紹介している。

登場人物

トニー・メンデス(ベン・アフレック);CIA職員。人質救出のプロフェッショナル。偽映画ロケ作戦を思いつき、単身でイランに入国する。

レスター・シーゲル(アラン・アーキン):映画業界の大物プロデューサー。「アルゴ」の映画化を偽装するために、事務所や記者会見を実際にやってしまう。

ジョン・チェンバース(ジョン・グッドマン):特殊メイクの第一人者。トニーに協力を頼まれ、レスターとともに作戦を進める。のちにCIA功労者として表彰される。

ジャック・オドネル(ブライアン・クランストン):トニーの上司。作戦決行の前日に、ホワイトハウスの命令で、作戦中止をトニーに伝える。

あらすじ

 舞台は1979年のイランとアメリカ。2月にホメイニー率いる反体制勢力のイラン革命により、国王モハンマド・レザー・パフラヴィーが国外に亡命した。アメリカはパフラヴィーを受け入れるが、それが原因となり、イランでアメリカへの不満が高まる。

 11月、反米デモ隊がアメリカ大使館を選挙し、その場にいた52人のアメリカ人が人質に取られる。混乱に乗じ逃げ出すことに成功した6人は、カナダ大使の私邸に匿われれる。イランは人質の解放の代わりに元国王の引き渡しを要求する。匿われた6人の存在はイランに知られていなかったが、子供を使いシュレッダーにかけられた資料の復元を急ピッチで行っていたため、バレるのは時間の問題だった。

 CIAは脱出計画を立てるべく自転車で出国するなどの案をだすが、なかなか決まらないでいた。2ヶ月程たったある日、人質救出のプロフェッショナのトニーは、映画のロケハン作戦を思いつく。その作戦とは、偽のロケハンでイランに入国し、隠れている六人を撮影のスタッフに変装させ出国するというものだった。

 トニーは特殊メイクのプロであるジョンと映画プロデューサーのレスターに相談し、ボツになった脚本の中から「アルゴ」というSF作品を選ぶ。彼らは映画制作を本当に進めているようにみせるために、事務所の設立と、キャストの選出、記者を集めた制作発表を行う。

 騙せるだけの準備が整ったところで、トニーはイランへと単身で向かう。彼はカナダ大使私邸で6人と対面し、偽映画ロケ計画の内容を伝える。あまりの奇抜な作戦に、当初6人は反対の意を示すが、トニーを信じて計画の準備を進める。

 計画決行の前日、ホワイトハウスの命令によりトニーの上司から作戦の中止を命じられる。そのため偽の事務所は封鎖、予約していた航空券はキャンセルすることになる。だがトニーは諦めきれず、全責任を負う代わりに作戦を決行すると上司に伝える。上司はキャンセルされた航空券を元に戻すため、どうにか大統領と連絡を繋ぎ許可を得る。

 イランは6人がその場から消えていたことを確認し、トニーたちの出国を止めるべく空港に向かう。トニーたちは空港で怪しまれ足止めをくらっていた。トニーは事務所に連絡するよう頼み、ギリギリでレスターが電話に出ることで、出国の許可が下りる。そしてトニーたちは見事に国境を越えることに成功する。この功績はカナダの手柄になり、1997年になってようやくCIAの関与が公表されたのだった。

解説

見事な演出でアカデミー賞作品賞を受賞

 『アルゴ』は1979年のイラン革命を発端に起きた在イランアメリカ大使館人質事件を基にしたアメリカ映画。イラン人のアメリカ大使館の占拠から運良く逃れ、カナダ大使私邸に逃げ込んだ6人を救出するために決行された「偽映画ロケハン」作戦の全容を描く。

 史実を題材にしながら、緊迫感の演出に長けており全く飽きることがない。序盤の行き詰まった感じから、中盤の葛藤する人間模様、終盤の息もつかせぬ脱出作戦まで、巧みに練られた演出が国境線を超えた後の安堵をより真に迫ったものにしている。これにはトニーの冷静沈着な性格や真意を図りづらい無表情も一役かっているだろう。常識外れの作戦「偽映画ロケハン」の立案者でありながらクールで常識人、それでいて全責任を負い独断で作戦を強行する姿に彼の二面性が現れている。笑うことのなかったトニーの緊張した顔が綻びるとき、そのギャップが作戦の成功を祝うのだ。

 特に、終盤の怒涛の展開は緊張感に溢れている。イランによる逃げ出した6人の捜査、アメリカ政府の突然の作戦中止、トニーの決断に引きずられ奮闘する上司ジャック、そして裏切らないために独断で作戦を決行するトニー。3カ所で繰り広げられるそれぞれの戦いが軽快なテンポで展開されており、独特な疾走感がある。その演出の巧さのおかげで、この作品は2012年のアカデミー賞作品賞を受賞した。

常識外れの「偽映画ロケハン」作戦

 『アルゴ』の最も驚くべき点は作戦内容の奇抜さにある。「偽映画ロケハン」作戦とは、偽の映画「アルゴ」のロケハンのためにイランに訪問した映画スタッフの一員に偽装して出国するというもの。そもそもアメリカと緊迫した関係にあるイランに、ロケハンに訪れるというところからして怪しすぎる。さらに入国審査ではトニーの一人のところが、帰りにはトニーを含め7人に増えているのだから極めて危険と言わざるを得ない。

 この作戦は当初からこれ一本で企画されていたのではない。もともとは自転車で国境を越える計画や、スポーツ関連で偽装するものなどが予定されていた。しかしどれも危険で成功の見込みがない。行き詰まって数ヶ月のある日に、子供と会話しているトニーが思いついたのが「偽映画ロケハン」作戦なのである。だがこの作戦、現代に生きる我々からしたらどう考えても奇抜であり、他の作戦と比べても危険なように見える。ところがトニーを主導に、この作戦一択だ、という雰囲気が作られ、作戦は偽の事務所や記者会見によって大規模に展開されていく。

 なんでなんや、という観客のツッコミは、この作戦の内容を初めて聞いた6人の反応によって代弁される。極め付けは急遽作戦の中止を命令した大統領(?)である。馬鹿げた作戦と一蹴した彼は、作戦決行の前日にかかわらず中止を命令する。曰く、もしこの馬鹿げた作戦を決行して空港で捕まりでもしたら、大変なことになる、というのだ。同意である。同意であると同時に、この急遽の中止命令にも驚く。80年代だからだろうか、なんとも杜撰な命令形態だ。実際これによってトニーは窮地に追いやられ、あわや捕まるという危機に陥ってしまうのだ。

考察

アメリカ視点の映画であることに注意すべし

 このアメリカ政府の動向やトニーの作戦強行によるジャックの奮闘ぶりは詳細に描かれる一方で、イラン政府の動きや国内情勢の描写が明らかに不足している。イランはこの数ヶ月一体何をしていたのか、世論はどのように変化していったのか。それらの描写が殆どないせいで、史実を基にした映画でありながら「偽映画ロケハン」作戦で脱出できたことしか記憶に残らない。人質になっていた52人のアメリカ人や、元国王モハンマド・レザー・パフラヴィーはどうなってしまったのか。

 イラン国内では『アルゴ』が「反イラン的」映画だとの批判がでたようだ。特に歴史背景の描写の欠如が指摘され、この事件を別視点から描くアタオラ・サルマニアン監督による『The General Staff』の制作が発表された。

 どちらが正しいと言うわけではない。ただ『アルゴ』がアメリカ視点の映画であることは心に留めておくべきだろう。

本当のところは……

 トニーらが乗り込んだ飛行機をイラン側が執拗に追いかける。飛行機に乗り込むだけでも一苦労だったのにまだ終わりではないのか。パトカーに乗って爆走する彼らは飛行機にあと一歩まで迫る。だが飛行機は止まることなく国境を超えたというアナウンスでトニーたちはようやく安全圏に到達できる。

 このような奇想天外な出来事が実際にあったのかと驚く。すべてがギリギリで奇跡的だ。イラン側の調査が数秒早ければ、レスターとジョンの歩く速度が少しでも遅ければ、事態は真逆の様相を呈していただろう。

 ところが調べてみるとそうではないようなのだ。まず、「偽映画ロケハン」作戦はこれ一本で計画されたわけではなく、他の作戦と吟味して匿われている6人に選ばせたらしい。つまりあの奇抜な作戦しかないという雰囲気は実際ではないようだ。またロケハンのために街にでて住人と騒動になる緊迫したシーンも嘘である。実際は出かけてすらいない。さらに、観客を代弁するかにみえた大統領による突然の作戦中止。あれも作戦決行の前日ではなくトニーが入国する以前のことで、それも三十分後には取り消された。極め付けは、映画制作を疑われる空港の出国審査の場面だろう。言語の壁がより切迫感を生むこのシーンも実は嘘である。実際は、これお前の写真かと聞かれただけで、難なく出国できたようだ(ここに挙げた史実と異なる点は wikipedia に詳しい)。

 なんてことはない、思わず何でやねんとツッコミを入れ、また動悸が激しくなるハラハラドキドキした場面は、ほとんどが嘘だったのだ。演出の妙である。我々はベン・アフレックにしてやられたのだ!種明かしがあると、当時は相当に切迫した状況であっただろうに、実際は意外にも順調に進んだのではないかと想像してしまう。そして実際は何が起きていたのかを調べようと思っているわけだが、このように観客の好奇心を掻き立てていること自体が、この作品の成功を如実に表している。

created by Rinker
¥299 (2023/02/06 12:27:57時点 Amazon調べ-詳細)

映画カテゴリの最新記事