『ゴーン・ガール』感想|あらすじ解説|内容考察|演じるというゲーム

『ゴーン・ガール』感想|あらすじ解説|内容考察|演じるというゲーム

概要

 『ゴーン・ガール』は、2014年公開のアメリカ映画。監督はデヴィッド・フィンチャー。 原題は「GONE GIRL」。原作は2012年に発表されたギリアン・フリンの同名小説。ハリウッド映画賞を含めて数々の賞を受賞した。

 デヴィッド・フィチャーは、『ゲーム』『ドラゴン・タトゥーの女』などが有名。

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登場人物

ニコラス・ダン(ベン・アフレック):バーの経営者。愛称はニック。無愛想。妻のエイミーの関係が良好ではない。エイミーが失踪した時は、ニックの犯行と疑われる。

エイミー・エリオット・ダン(ロザムンド・パイク):ニックの妻。5周年の結婚記念日に失踪する。完璧主義者。ニックが浮気をしていることに気づき、偽装失踪を計画する。

デジー・コリングス(ニール・パトリック・ハリス):エイミーの元彼。エイミーを匿う。束縛が強く、粘着質な性格。

タナー・ボルト(タイラー・ペリー):ニックの弁護士。失踪はエイミーの策略だというニックの話を信じて戦ってくれる稀有な弁護士。

マーゴ・ダン(キャリー・クーン): ニックの双子の妹でバーの共同経営者。 ニックと仲が良く、いつも気にかけている。

ロンダ・ボニー刑事(キム・ディケンズ):優秀な警察官。わずかな手がかりから、着実と捜査を進めていく。

あらすじ

 結婚5年目のニックとエイミーは、記念日の朝に毎年恒例の宝探しクイズを始める。解けないニックは、双子の妹マーゴの店から自宅に帰ると異変に気づく。割れた家具とエイミーが見当たらないことから、エイミー失踪事件として全国的な捜査が始まる。

 エイミーがある児童文学のモデルで有名であることから、ボランティアが全国から集まるが、無愛想なニックは疑いの目を向けられる。一方で、エイミーの日記に綴られた夫婦の回想シーンでは、出会いから結婚して数年間の幸せと、徐々に崩壊していく結婚生活が描かれる。夫婦ともに職を失い、ニックの母のために彼の地元に引っ越す。しかし母が亡くなってしまい、やる気をなくすニック。

 警官のボニーは捜査を進めるうちに、エイミーが拳銃を買っていたこと、ニックの暴力と金銭の問題があったことが判明する。また、台所に大量の血が拭き取られた痕があり、ニックへの嫌疑が高まる。

 しかし、これはエイミーのニックへの復讐であり、すべてが策略だった。エイミーは疑いがニックに向くように現場を偽装し、仲良くなった隣人にニックの暴力をほのめかし、さらには妊娠の診断まで偽装していた。エイミーは車で移動し、変装をしたのちモーテルで生活を始める。

 エイミーの目的に勘付いたニックは、ボルト弁護士に協力を仰ぎ、エイミーの元彼から証言を得るために行動する。状況を打開すべく、ニックの不倫をテレビで公開しようとした矢先、相手のアンディが不倫の事実を先に告白してしまう。状況は悪化したが、ニックは名演技でテレビ放送を終えて、視聴者から同情の声を集める。

 エイミーはモーテルで知り合った人にお金を盗まれてしまう。途方に暮れたエイミーは、高校時代に付き合っていたコリングスに接触し、彼の別荘に匿ってもらう。そこでニックのテレビ放送をみたエイミーは、完璧な演技をするニックに心が戻り、コリングスにレイプされたように偽装したあと、殺害して脱走する。

 失踪から30日経ち、報道関係者の目の前で、血まみれになったエイミーが自宅に帰ってくる。その後の警察の聴取もなんなくやり過ごしたエイミーは、ニックとの生活を再開する。ニックに詰問されるも、悪びれる様子もなく、このまま完璧な夫婦を演出することを望む。

 すべてを捨てて事実を公表しようとするニックに、エイミーは妊娠したと告げる。エイミーは精子バンクに預けたニックの精子をつかったのだった。諦めたニックは、マーゴに心配されながらも、エイミーと共に生きることを選択する。放送された夫婦のインタビューでは、妊娠を喜ぶ二人の姿が映し出されていた。

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解説

エイミーの策略で誘導される人たち

 カップルで、あるいは夫婦で本作を観てしまった人たちは、背中に嫌な汗をかきながら、隣にいる人を横目に盗み見たに違いない。この人は、もしかすると、エイミーなのではないか、と。

 ニックとエイミーは、世間的には文句のつけようのない、幸せな夫婦関係を築いていた。父が出版した児童文学のモデルであるエイミーは、優秀で容姿端麗、まさにその小説で描かれるような「完璧な」人物で、ニックも容姿の良く大学で働く立派な人物である。二人は出会ってすぐに意気投合し、結婚後も幸せな生活が続いていた。結婚記念日には毎年恒例の宝探しクイズがエイミーから出題され、2年目には互いのプレゼントが同じという、相性の良さを示すようなハプニングもあった。

 しかし、ふたりの幸せが長く続くことはなかった。職を失い母を亡くしたニックは復職せず、浪費癖がついた。子どもを作ることを拒否し、暴力を振るうようになり、挙げ句の果てに、教え子の若い女性アンディと浮気をするようになった。結婚生活が4年目にはいると、ニックに殺されるかもしれないという疑いが頭をもたげ、身を守るために銃を購入することになる。

 このストーリーは、エイミーが日記に綴った創作物に過ぎない。ニックを犯罪者に仕立て上げるために用意された決定的な一撃。エイミーは突然さらわれたのではなく、数年にわたってニックの殺意が宿った目に晒されていたという筋書きに、世間も警察も翻弄される。だが、気を付けなくてはならないのは、この創作物が完璧なフィクションではないということだ。序盤の幸せな部分は事実が多め、後半になるにつれて主観と創作が多くなり、ニックを追い詰めるのに都合がいいように書かれている。相手を信じ込ませるためには、7割の事実と3割の作り話がいいのだと聞いたことがある。事実を織り込むことによって、その話に信憑性が増すらしい。それを証明するかのように、ボニー刑事が読み上げる日記の大半の内容にニックは正しいと同意し、ボニーはこの日記の信憑性を確信する。だが、ニックにとって問題となるのは、否定しなくてはならない3割の作り話の方なのだ。ニックを犯罪者に仕立て上げる巧妙な手がかりは、作り話のほうに自然におかれている。しかし、それをニックが否定してもあとの祭り。日記の信憑性を信じる警官たちは、日記が間違っていると疑うのではなく、ニックが嘘をついていると確信するようになる。

考察・感想

演じるというゲームに参加せよ

 エイミーは結婚五年目の記念日に、復讐という名のゲームを仕掛ける。家に残された手がかりを辿っていけば贈りものが手に入る。勿論その贈りものとは、喜びを与えるものではなく、ニックの「罪」に対する「罰」である。しかし、ニックの「罪」とは一体何なのだろうか。夫婦関係を壊したことだろうか、それとも、アンディと浮気をしていたことだろうか。

 エイミーは幼少期からの二重の生活を営んできた。父の児童文学に登場する「完璧アメイジングなエイミー」と、それになりきれないコンプレックスを抱えた「完璧アメイジングでないエイミー」。そんな彼女にとって重要なのは、コンプレックスを受け入れてくれる包容力ではなく、「完璧アメイジングなエイミー」を演じる世界を共有してくれる男性である。「完璧アメイジングなエイミー」にひれ伏すのでも、「完璧アメイジングなエイミー」を受け入れるのでもない。演じていることを知りながらそのゲームをともに遊んでくれる人、それがエイミーの求める男性像なのだ。ニックはエイミーに出会ったその日、顎を隠すポーズをとって本心を語る。しかしこのポーズを本心を語る証だととると、事態を見誤る。あくまでこのポーズが示していることは、本心を語る演技をするよ、ということである。ニックとエイミーの関係は、メタな次元で行われているのだ。

 もう一度確認すると、エイミーがニックを選んだのは、彼なら「完璧アメイジングなエイミー」を共有し、演じきるとふんだからである。すると、彼女がニックに苛立った理由も、おのずと明らかになる。エイミーはニックがアンディと浮気をしている現場を目撃する。しかし、彼女にとってニックの浮気などさして問題ではない。むしろ問題は、顎を隠すあのポーズを、つまり、ここからは演技ですよと宣言するあのポーズを、演技の次元を共有しないアンディにも使っていたことが問題なのだ。われわれの「完璧アメイジングなエイミー」と幸せな夫婦を演じるこのゲームは、もっと高尚でメタなハズなのに。アンディがメタな次元をニックと共有していないことは、不安になった彼女が耐えきれずニックのもとに訪れることからもはっきりしている。だからこそ、アンディはニックの言葉に裏切られたと感じて、浮気の事実を公表してしまうのである。

エイミーとニックの共依存関係

 無愛想で、仕事もせず、マザコンのニックが好かれたのは、演技の次元をエイミーと共有していたからだった。それは「完璧アメイジングなエイミー」を強いられながら、むしろそこに快感を覚える「完璧アメイジングでないエイミー」が強いたゲームである。演技をしなくなればそこで用無し、ニックは罰せられることになる。それは演技を怠った罪であるから、エイミーが罰するのは現実の罪ではなくて、あくまで作られた偽りの罪である。

 現実の罪ではなくて、偽りの罪であるから、復帰の道も用意されている。それはゲームにもう一度参加し、メタコミュニケーションを復活させ、作られた夫婦関係を演じきる道だ。ゲームに参加するチケットは目の前にある。結婚5周年記念の宝探しゲーム、これに参加した時から、偽りの夫婦の再生の端緒が開かれる。

 ニックは妻への贖罪をテレビで流す。それはボニーもマーゴも喜ぶ、完璧な演技だった。ニックはカメラの先にいるエイミーに語りかけるとき、顎を隠すことを忘れない。その仕草があまりにさりげないために、ニックの発言はよりメタ性を増している。ニックが伝えようとしていることは、君のためにもう一度本気で演技をします、ということなのだ。この映像を観るエイミーは、そのわずかな仕草を見逃さない。ニックの完璧な演技とさりげない仕草は、ニックへの愛を復活させる。あの素晴らしい演技をもう一度、というわけだ。

 コリングスを殺害しニックのもとに戻ってきたエイミーは、何事もなかったかのように偽りの夫婦生活を再開する。このことにニックは耐えられない。

Yes, I loved you. And then all we did was resent each other, and try to control each other. And cause each other pain.

That’s marriage.

互いに支配し苦しめあっているというニックに、それこそが結婚だと応えるエイミー。妊娠が理由でエイミーとともに暮らすことを決心するニックなのだが、エイミーの狂気にニックが取り込まれたわけではない。

I’ve killed for you. Who else can say that? You think you would be happy with a nice Midwestern girl? No way, baby. I’m it.

そう。ニックもエイミーの狂気を求めているのだ。エイミーが演技も求めるように、ニックは狂気を求めている。二人は共犯関係であり、共依存なのである。ニックはエイミーの後頭部を眺めながらこう呟く。

What are you thinking? How are you feeling? What have we done each other? What will we do?

ニックはエイミーのことを理解することはない。あの衝撃的な事件の後で、エイミーの謎はますます深まった。しかし、だからこそ、マーゴの反対を押し切って、彼女とともにいることを選択する。子供ができたからではない、他の女性では満足できないからだ。エイミーは何を考え、何を感じているのか。彼は彼女の後頭部をじっとみる。エイミーが振り返っても、答えはでない。彼は狂気に魅せられている。

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