『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』考察|マルチバースにおける救いとは何か?|あらすじネタバレ感想・伝えたいこと解説|ジョン・ワッツ

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』考察|マルチバースにおける救いとは何か?|あらすじネタバレ感想・伝えたいこと解説|ジョン・ワッツ

概要

 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、2021年に公開されたアメリカのアクションヒーロー映画。監督はジョン・ワッツ。

 本作は2017年の『スパイダーマン:ホームカミング』、2019年の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』に次ぐシリーズ3作目。

 スパイダーマンであることがバレてしまったピーターは、他の世界線のピーターと共に、マルチバースから訪れた敵と戦う物語。

 ヒーロー映画はほかに『ワンダーウーマン 1984』『バットマン ビギンズ』『ジョーカー』『ジャスティス・リーグ』などがある。

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登場人物・キャスト

ピーター・パーカー(トム・ホランド):スパイダーマン。正体が全世界にバレてまう。

ミシェル・ジョーンズ(ゼンデイヤ):MJ。ピーターのガールフレンド。

ネッド・リーズ(ジェイコブ・バタロン);ピーターの親友。

スティーヴン・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ):ドクター・ストレンジ。時間と空間を操る。ピーターの願いを聞き入れるも、呪文が失敗してマルチバースを開いてしまう。
(他の出演作:『1917 命をかけた伝令』『イミテーション・ゲーム』『つぐない』)

ピーター・パーカー(トビー・マグワイア):「ピーター2」の愛称で呼ばれる。
(他の出演作:『華麗なるギャツビー』)

ピーター・パーカー(アンドリュー・ガーフィールド):「ピーター3」の愛称で呼ばれる。
(他の出演作:『アメイジング・スパイダーマン2』)

ノーマン・オズボーン(ウィレム・デフォー):グリーン・ゴブリン。

オットー・オクタビアス(アルフレッド・モリーナ):ドクター・オクトパス。

マックス・ディロン(ジェイミー・フォックス):エレクトロ。

フリント・マルコ(トーマス・ヘイデン・チャーチ):サンドマン。

カート・コナーズ(リス・エヴァンス):リザード。

エディ・ブロック(トム・ハーディ):ヴェノム。
(他の出演作:『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『インセプション』『ダンケルク』『ダークナイト ライジング』『ヴェノム』)

ハロルド・“ハッピー”・ホーガン(ジョン・ファヴロー):元トニー・スタークのボディガード兼運転手。メイと付き合っているも振られる。
(他の出演作:『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』『アイアンマン』)

メイ・パーカー(マリサ・トメイ):ピーターのおば。

名言

ジョーンズ:絶対だよ。じゃないとまた私が見つけるから

あらすじ・ネタバレ・内容

 全世界に正体がバレたピーターは、MJと共に自宅に戻る。そこに報道ヘリが追ってきたので、仕方なく取調べを受けることになる。

 無罪放免になるものの有名になっしまったことで、MJとネッドと共に受験したMITに落ちてしまう。みんなの記憶を消すことを望むようになったピーターは、ストレンジの元に向かう。

 ストレンジは危険を承知で、ピーターに関する記憶を消す魔法を発動するが、途中でピーターが妨害してしまったため、不完全の状態で魔法を発動してしまう。

 ピーターは空港に向かう途中のMIT副学長に直談判しに行く。そこにドクター・オクトパスとグリーン・ゴブリンが襲撃しにくる。ストレンジのポータルを使って間一髪でドクター・オクトパスを捕獲する。

 ストレンジは先の魔法の失敗で、マルチバースに亀裂が入り、他の世界の敵がこの世界にやってきたと告げる。そしてその敵を捕獲するようピーターに指令を出す。

 ピーターはMJとネッドと協力して、エレクトロとサンドマンを捕まえる。ストレンジは敵を元の世界に送り返そうとするが、彼らが殺される運命にあると知るとピーターは反対する。ピーターはストレンジを仮想次元に閉じ込め、自分だけ元の世界に戻ってくる。

 ノーマン・オズボーンがゴブリンヘルメットを破壊するところを見たメイは、ピーターにオズボーンを助けたいと告げる。ピーターは敵の能力を消滅させる治療薬を作ることを決意する。

 ピーターはオズボーンの力を借りてドック・オクを治療する。次にエレクトロを治そうとするが、治療に疑問を持っていたエレクトロとサンドマンは逃亡する。ノーマンはゴブリンに飲み込まれピーターを襲撃し、勢いでメイを殺害する。メイは「大きな力には大きな責任が伴う」と言い残し、ピーターは深い後悔に苛まれる。

 MJとネッドはピーターを探すため、ストレンジのポータルを使ってピーターと呼び続ける。すると違う世界から来たピーターが二人も来てくれた。そしてピーターの行き場所を予想し、彼を見つけることに成功する。

 メイの死を受け入れられないピーターは怒りを滲ませるが、他のピーターたちの後悔を聞き考えを改める。そして三人のピーターたちは、協力して敵を倒すことに決める。

 敵を自由の女神に誘き寄せた彼らは、順々に敵を治療していく。残る敵はゴブリンだけになり、負かされると、怒りに任せて殺せと迫る。メイの復讐のために命を奪おうとするが、他のピーターに説得されてノーマンを治療する。

 敵を倒し安堵していると、空が裂けてマルチバースの向こうに敵が登場する。そこに現れたストレンジにピーターは、全世界から自分の記憶を忘却させるよう頼む。ピーターたちは元の世界に戻り、この世界のピーターはMJとネッドに別れを告げる。

 数日後、ピーターはMJの働くカフェに向かう。そこにはMITへの進学を喜ぶネッドとMJがいた。それを見たピーターは、自分の正体を明かさず店を出る。

 メイの墓にはハッピーがいた。メイとの関係を聞かれたピーターはスパイダーマンを通じて知ったと伝える。ピーターは親愛なる隣人として一人でニューヨークの街を守りに飛び出すのだった。

考察・解説

大いなる責任とプライバシーの問題

 あえて言及するまでもなく「治療」という発想は問題含みではあるのだが、その点についてここで批判することはしない。ただ、『スパイダーマン』シリーズに登場する超人たちが、スパイダーマンを含めて、その力を先天的ではなく後天的に獲得していることは記憶に留めておいていいだろう。スパイダーマンが敵を治療しようとするとき、彼は後天的に獲得してしまった敵の悪の力だけを取り除こうと試みるのだが、後天な力が悪であるならばスパイダーマンも治療しなくてはならない。事実、過去の作品ではスパイダーマンですら悪に手を染めそうになっていた。もし仮に、後天的に獲得した力自体を悪とみなしていたのではなく、その力の使い方によって悪と判断したのであるならば、治療すべきは敵の精神であるべきだ。力を悪とみなすならば敵だけでなくスパイダーマンも治療せねばならず、力を中立なものとみなすならば敵の精神を治療しなければならない。原理的にはこの二択しか存在しないが、前者はもはやヒーロー物語としては成立できず、後者はとても危険な思想と繋がっている。

「大いなる力には、大いなる責任が伴う」

これを現代風に言い換えれば、「大いなる知名度には、大いなる自制が伴う」ということになるだろうか。SNSの一般への普及は個人が持てる力を大きく歪ませてしまった。アテンションエコノミーに支配された現代においては、人々の注意を引き寄せる力がそのまま「大いなる力」に変換され、個人は能力や実力以上に力を得てしまう。

 だからこそ「大いなる自制」が必要になる。「大いなる知名度」とは、その人の人気や出来事の注目度から抽出された脆く不安定な力である。それを守るためには好感度を下げないように細心の注意を払う必要がある。例えば恋愛とか不倫とかがバレるのはご法度。「大いなる知名度」は「大いなる自制」によってどうにか成り立っているのだ。

 「大いなる力には、大いなる責任が伴う」と言うとき、これが意味するのは「力」がある者は必然的に「責任」を負うことになるということだ。だが現代版の「大いなる知名度には、大いなる自制が伴う」はニュアンスがちょっと異なる、というか関係が逆転している。つまり「大いなる知名度」が「大いなる自制」を生み出すのではなく、「大いなる知名度」を維持するために「大いなる自制」が必要になっているのだ。

 「大いなる自制」はプライバシーの侵害にも耐えなくてはならない、ということを含意する。アイドルは恋愛の現場を盗撮され、有名人は不倫を糾弾される。このプライバシーの侵害を正当化する理に叶った根拠は存在しない。強いていうならば「大いなる力には、大いなる責任が伴う」を誤読した現代版「大いなる知名度には、大いなる自制が伴う」の因果関係を逆転させるという歪な方法でしかその根拠を得ることはできない。

 日本のアイドルとか有名人の立ち位置に、アメリカに住むスパイダーマンがいる。スパイダーマンの素顔を公表するという嫌がらせが、ミステリオが残した最後の必殺技であることは興味深い。スマホを手にした現代は、総パパラッチ時代である。この時代においてはもはや敵(スパイダーマン)を倒すことも、敵が大事にしている物を破壊する必要もない。素顔を暴くこと=プライバシーを侵害することで、総パパラッチたちがスマホを掲げスパイダーマンを追撃してくるのである。

ピーターの最後の決断

 だからスパイダーマンが望むことはただ一つ、自分の正体を他の人々に忘れてもらうことになる。だがスパイダーマンが抱くこの希望は、知り合いには忘れてほしくないという欲望によって矛盾をきたしている。自らの正体を他の人に知られないようにするためには、誰にも知られていないことが条件だ。誰かが知っていればその人との関係から他に情報が漏れる可能性が生じてしまう。誰にも知られないことと、誰かには知っていてほしいこと。解消することのできないこの要求によってマルチバースが開かれ、多くの敵と味方をこの世界に招き入れることになる。

 トビー・マグワイア演じる初代スパイダーマンと、アンドリュー・ガーフィールド演じる二代目スパイダーマンは喪失と孤独を抱えた人物であるが故に、三代目スパイダーマンと心を通わせることができる。彼らは同じスパイダーマンというより年の離れた兄弟のようなものだ。特に、トム・ホランド演じる三代目スパイダーマンはその若さ以上に多くの責任を負わされてきた。大学に入る直前の幼い少年に世界の崩壊に立ち向かわせるのは酷なことである。だからこそ彼は忘れられたいと、忘れてほしくないという二つの願いを抱いたのだ。

 これに似た矛盾はヒーローとマルチバースの関係にも現れる。三代目スパイダーマンにとってヒーローとはすべての者を救うことであるが、マルチバースという概念は「すべての者」の手前に「すべての世界の」という無理難題を忍ばせる。ここに微妙に時間の問題も挟み込むから問題は余計に複雑になる。ある世界の者にとっては死んでいた敵が、時間軸がバラバラになって飛ばされたこの世界では生きていることになる。つまり、三代目スパイダーマンがすべての者を救うためには、敵にのしかかる死という運命を捻じ曲げなくてはならない。これはしかし「救う」ということになるのだろうか。

 スパイダーマンたちによる感動的な共闘のあと、三代目スパイダーマンはこの世界と現れたあちらの世界の敵を救うために、自らの正体を人々の記憶から消すという選択をとる。MJは「期待しなければ失望もしない」を口癖にしていたにもかかわらず、記憶を消しても「会いに行くから」と言うピーターに涙を流しながらも期待せずにはいられない。

「絶対だよ。じゃないとまた私が見つけるから」

MJは結局失望することはなかったが、期待していたことも忘れてしまった。彼女にはこれから幸せな未来が待っている、そう感じたピーターは正体を明かさず「またどこかで」と別れを告げる。MJがメイおばさんのような悲しい最後を迎える可能性を根本から取り除くために、スパイダーマンは自らを世界から消去するという大きな代償を払ったのである。

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