『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』考察|猿と人間を超えるものたち|あらすじネタバレ感想・面白さ解説|原恵一

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』考察|猿と人間を超えるものたち|あらすじネタバレ感想・面白さ解説|原恵一

概要

 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』は、2000年に公開されたヒューマンドラマアニメ映画。監督は原恵一。『クレヨンしんちゃん』の劇場映画シリーズの8作目。キャッチコピーは「野生のおバカが目をさます!」。

 次作は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』、次々作は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』。

 興行収入は11億円で、劇場映画シリーズの第一作から減り続けていた興行収入は本作で初めて持ち直した。

 「アクション仮面」の最新映画の公開記念ツアーをパラダイスキングとその配下の猿たちが襲撃し、それによって強制労働に従事させられることになった大人たちを、しんちゃんたち春日部防衛隊が救出する物語。

 アニメ映画はほかに『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』『幻のポケモン ルギア爆誕』『君の名は。』『雲のむこう、約束の場所』『怪盗グルーの月泥棒』『ミニオンズ』などがある。

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登場人物

パラダイスキング:格闘家。ジャングルに住む猿たちを手懐けている。猿たちを使って豪華客船に乗っていた大人たちを連行し、自分の漫画や像を作らせようとしている。

:パラダイスキングに従う猿。無人島に現れたパラダイスキングに負けて服従するようになる。

ワニ:無人島に生息していたワニ。しんのすけたちを食べようとする。

キャプテン:豪華客船の船長。みさえとひろしたちと共に、拘束されてロッカーに詰め込まれる。

名言

キャプテン:ナイスなアイデアかもしれない

あらすじ・ネタバレ・内容

 『アクション仮面』の最新映画「南海ミレニアムウォーズ」の予告が公開される。この最新作にしんのすけ含め、幼稚園の子供たちは夢中になっていた。予告はアクション仮面の敗北と、人質がマグマに落とされるところで終わるため、しんちゃんたちはアクション仮面がどうなるのか気になっていた。

 映画の完成を記念した豪華客船ツアーに、野原一家、風間トオル一家、桜田ネネ一家、佐藤マサオ一家とボーちゃんが参加する。野原一家以外、父親がきておらず、ボーちゃん家は両親とも不在だった。しんちゃんたちは豪華客船の旅を存分に楽しみ、自分たちの不在を春日部の住人は悲しんでいるだろうと予想するが、平和になったことを春日部の人々は喜んでいた。

 その夜、船の上で最新映画の上映会が始まる。だが、結末の場面で上映が止まってしまい、子供たちは混乱する。実は、近くの島にいたパラダイスキングの配下である猿たちが船を襲撃し、大人たちとアクション仮面役の郷剛太郎を島に強制連行していたのだった。

 取り残された子供たちは、大人がいない状況で途方に暮れる。そんな中、しんちゃんたち春日部防衛隊は、島に上陸することにする。船にあった水上オートバイで島に上陸したしんちゃんたちは、さまざまな危機に見舞われながら、ジャングルの中を前進する。残されたひまわりはシロと協力して島に上陸し、夜に野営しているしんのすけたちに追いつき、再会を喜び合う。

 囚われた大人たちは、猿に虐待されながら強制的に労働させられていた。パラダイスキングを主人公にしたアニメやパラダイスキングの巨大な像の建設、食事の提供などが主な仕事である。仕事で失敗を犯すと、拘束されロッカーに閉じ込められていた。

 しんのすけたちはバナナを発見し、久しぶりの食事に喜ぶ。しかしそこに猿たちが現れ、泣き喚くひまわりと抱っこするしんのすけ以外を連れていってしまう。残されたしんのすけたちは、自力でパラダイスキングの城に潜入する。そこで拘束されたみさえとひろしを発見し、同じく捕まっていた船長たちとともに、ケツを使って直進する技を使って脱走する。この移動方法の迫力に気をされ、猿たちは逃げ惑い、捕まっていた人間をすべて解放する。

 一方、パラダイスキングは郷剛太郎と対決していた。凶暴な猿と生死をかけて戦い従えてきたパラダイスキングは、郷剛太郎を圧倒する。しかししんちゃんたちの声援と手助けで、勝負は拮抗する。そこに猿たちが参戦するが、解放された人間たちのケツ行進で猿を撃退する。猿たちを懲らしめようとする人間を見て、ひまわりは泣き叫び、自らの行動を顧みて人間たちはいじめることをやめる。そしてみんなで船に帰る。

 そこに飛ぶ機械に乗ったパラダイスキングが再度現れ、ダイナマイトを用いて船を鎮めようとする。それに気付いた郷剛太郎としんのすけは共に戦い、パラダイスキングを撃破する。平和になった船の上で、最新映画の上映会が始まる。予告ではアクション仮面はやられていたが、その後敵を倒しハッピーエンドを迎えていた。そしてしんのすけたちは春日部に帰るのだった。

解説

興行収入をV字回復させた一発逆転の作品

 春日部を日本中に知らしめた漫画『クレヨンしんちゃん』が、世に発表されたのは1990年8月のことだった。破廉恥で下品な奇行と周りの大人たちの掛け合いで急速に人気を集めると、1992年にはアニメ化が決定し、翌1993年には初めて劇場映画製作された。その記念すべき第一作『アクション仮面VSハイグレ魔王』が公開されたのは、7月24日のことである。それ以降、毎年4月になると新作が発表され、2023年3月現在休みなく続いている。

 『アクション仮面VSハイグレ魔王』は初の劇場作品ということもあって、大きな期待とともに迎えられた。配給収入と興行収入はそれぞれ12.5億円と22.2億円。同じ年に公開された『ドラえもん のび太とブリキの迷宮』の配給収入が16億5000万円であることからも成功が窺える。

 しかし続けて劇場作品を成功させるのは茨の道だった。次作『ブリブリ王国の秘宝』で興行収入20.6億円を記録すると、以後、前年度を上回ることは一度もなく、1999年に公開された『爆発!温泉わくわく大決戦』で、史上最低の興行収入9.4億円を記録してしまう(そしてこの記録は最新映画まで含めて最低の記録である)。1997年の『暗黒タマタマ大追跡』から監督を務める原恵一は、三作連続で興行収入を減らしていくことにショックを受けていた。アイデアが出てこず納得のいく作品を作れていないという焦燥感に駆られていた原は、次の映画を最後の監督作品だと考え、これまでとは違った物語を作ろうとした。それが本作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』である。

 そんな窮地に追いやられた状態で製作された本作は、図らずも大成功を収めた。興行収入は11億円と上昇し、観客からの評判も上々だった。その結果から次回以降も原が監督することになり、製作されたのが『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』と『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』である。どちらも「クレヨンしんちゃん」シリーズの歴史に名を残す名作であり、後者は草彅剛主演で実写化されるに至った。

考察

動物と人間の脱構築

 権力の二つのピラミッドが存在する。一つは、しんのすけたちが所属する人間界で、アクション仮面の演者・郷剛太郎がその代表である。もう一つは、猿たちが作る弱肉強食の動物界で、その中で勝ち抜いたパラダイスキングが頂点に君臨する。一見するとこの二つのピラミッドは、人間と動物の秩序の違いを反映していて質を異にしているように思われる。しかし、事態は真逆である。

『クレヨンしんちゃん』は平成と共に産声をあげた、平成初期のある地域の雰囲気を体現する漫画・アニメであった。父ひろしは一時間以上かけて東京に出社するサラリーマンで、母みさえは娘ひまわりを育児する専業主婦。高度経済成長期に東京のベッドタウンとして発展した春日部に住む野原一家は、犬を飼う典型的なしがない核家族である。

 そんな一般的な家庭である野原一家は、その実、新しい世界(ありえた平成)を生きていた。この世界において大人と子供、さらには赤ちゃんまでもが、本質的に同じ地位にいる。そこでは体格さや知性に差はあれど、窮地に追いやられた子供たちは大人たちの手を借りる必要はない。大人たちがいなくなるという一般的な子供にとっては明らかなピンチにおいて、しんのすけのひまわりは動じることはなく、むしろ子供を代表するしんのすけが窮地の大人たちを救い出す。

 さらに注意すべきは、シロ(犬)の地位である。シロは行動や知性や扱われ方において、人間と遜色なく描かれる。しんのすけがいるこの世界では、大人だけでなく子供・幼児・動物にも、独立した能力と対等な権利、それに偏見のない視線が注がれている。

 したがって、上述した二つのピラミッドは対立の関係にはなく、同型と言える。動物は人間よりもはるかに劣っ、隷従して当然の存在ではない。動物は人間と対等であり、それ故に人間と同様に、奴隷としても扱われる。パラダイスキングに支配された猿軍団と、猿ににこき使われる人間たちは、本質的に同じ存在なのだ。

理解不能な奇妙なものに出会う

 それはこれらの立場が逆転したときに、より一層明らかになる。人間はケツを使った奇妙な動きで、猿たちに反撃する。猿の集団を人間の集団が、追い詰めるのである。追い詰められて怯えた猿たちに、人間は冷淡である。こんにゃろう!懲らしめてやれ!というわけだ。しかしそれは、物理的な力の優位によって、人間を従わせていた猿たちとやってることは同じである。その立場が逆転したとき、図らずも人間は猿の同一性を露呈する。

 猿(=人間)が恐れるものは何か。それは自らよりも低い知性の奇抜な、それゆえに、意味を解することの難しい行動である。人間たちは猿の襲撃になすすべなく拘束された。それは猿たちの物理的な力の大きさによるところが大きい。しかし結果から見れば、それは勘違いであった。襲撃されたあの場で、人間たちが集団で立ち向かえば、猿たちを撃退することができたかもしれないのである。それでも人間たちの足が竦んだのは、本来ありえないはずの、猿が襲撃してきたからである。人間たちは、この奇妙さにやられてしまった。

 これは猿(=人間)にも言える。猿は人間を武力と集団性で制圧するが、ひまわりの泣き声には対応できず無視するしかできなかった。この自らよりも低い知性だと思われるがゆえに、意味を解し難い行為は、猿たちを怯えさせる。

 捕らえられた人間たちの叛逆。それはこの地点から始まる。つまり、ケツを使った行進という奇妙な人間たちの叛逆は、この思考の延長線上で考えなくてはならない。これらの行為が猿たちを怯えさせたのは、決して、人間の集団性でも、行進のスピードでもない。猿にとってそれらの行為が、単に理解できなかったからである。この理解不能性は、猿たちを不安にさせた。目の前にいる人間たちは、何をしているのか、と。その人間たちの奇行は、拘束を解かれた彼/彼女らが、それでもケツで行進した時に極限に達する。猿にとってそれは不思議でしかない。何故、彼/彼女らは、足が自由に使えるのに、ケツを使うのか。理解できない、だから、怖い。

 その恐怖は、相手を理解できる存在だと想定していることから、つまり、二つのピラミッドが鏡写しであることから生じる。言い換えれば、その想定外は相手のピラミッドの中にだけはなく、自らの中にも存在している。

 そしてこれこそが、今作が明らかにした最も大事なことである。人間と動物、大人と子供(赤ちゃん)の境界を揺るがすのは、うちに潜む想定外を見つめることから始まる。みさえとひろしたちは、ケツで進むしんちゃんの奇行に倣って猿を撃退した。猿を懲らしめようとした大人たちは、ひまわりの泣き声に猿への憐れみの心を取り戻した。パラダイスキングは対等な力を持つ郷剛太郎を倒すべき敵と見誤り、動き回るしんのすけに翻弄されて敗北した。すべてはそこから始まるのだ。そしてこの不気味なものとの会遇は、キャプテンが発した「ナイスなアイデアかもしれない」と共に受け入れることから、次のステップへと繋がるだろう。

関連作品

評価(批評・評論・レビュー)

「ハイグレ魔王」のアクション仮面はビームも撃つことが出来る本物のヒーローですが、「嵐を呼ぶジャングル」のアクション仮面は俳優の郷剛太郎が演じている特撮ヒーローという設定になっています。その設定が「ハイグレ魔王」と …… 全文

ーー taida5656.hatenablog.com(taida5656)

加筆中(おもしろい評論、または、載せてほしい論考などがありましたら、コメント欄にてお伝えください)

動画配信状況

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』配信状況比較

配信サービス配信状況無料期間月額料金
U-NEXT✖️31日間2,189円
Amazon Prime✖️30日間500円
TSUTAYA DISCAS30日間2,052円
Hulu✖️2週間1,026円
dTV✖️31日間550円
FOD✖️✖️976円
ABEMAプレミアム✖️2週間960円
Netflix✖️1,440円
クランクイン!ビデオ✖️14日間990円
mieru-TV✖️1ヶ月間990円
dアニメストア✖️31日間550円
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