映画『メッセージ』考察|あなたの物語の始まりの場所|あらすじ解説|感想|ドゥニ・ヴィルヌーヴ

映画『メッセージ』考察|あなたの物語の始まりの場所|あらすじ解説|感想|ドゥニ・ヴィルヌーヴ

概要

 『メッセージ』は、2016年に公開されたアメリカのSFドラマ映画。原題は「Arrival」。監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。原作はテッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」。これを基にエリック・ハイセラーが脚本を執筆。

 突如到来した地球外生命体とコミュニケーションを取るため、言語学者ルイーズと物理学者イアンが奮闘する物語。

 SF映画はほかに『インセプション』『マイノリティ・レポート』『マトリックス レザレクションズ』『キューブ』『タイムマシン』『ジュラシック・ワールド/炎の王国』『アメイジング・スパイダーマン』『ブレードランナー』などがある。

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登場人物

ルイーズ・バンクス(エイミー・アダムス):言語学者。独身。異星人ヘプタポッドの言語を解読するため奮闘する。未来で生まれる娘との日々がフラッシュバックする。

イアン・ドネリー(ジェレミー・レナー):物理学者。独身。ルイーズと協力して解読に励む。

ウェバー大佐(フォレスト・ウィテカー):アメリカ軍の大佐。異星人ヘプタポッドとのコミュニケーションをとる作戦の責任者。ルイーズとイアンを呼び寄せた人物。

ハルペーン捜査官(マイケル・スタールバーグ):CIA捜査官。ヘプタポッドの言語の解釈でルイーズと対立する。ヘプタポッドの目的を世界各国で戦争させることだと予想している。

マークス大尉(マーク・オブライエン):アメリカ軍の大尉。解読に励むルイーズとアインに協力する。

シャン上将(ツィ・マー):中国の軍人で責任者。各国への影響力が強く、いち早く異星人との戦いに備える。

名言

ルイーズ:人生のすべてが始まりから終わりまで分かったとしたら、変えたいと思う?
イアン:自分が感じたことをもっと口に出すようにするかもな、わからないけど
Louise:If you could see your whole life from start to finish, would you change things?
Ian:Maybe I’d say what I felt more often. I-I don’t know.

ルイーズ:ハンナ・・・これがあなたの物語の始まりの場所。出発の日。人生の旅がどうなるか、どこに行き着くかが分かっていても、私は喜んで受け入れる。人生のすべての瞬間を大切にする
Louise:So, Hannah… This is where your story begins. The day they departed. Despite knowing the journey… and where it leads… I embrace it. And I welcome every moment of it.

あらすじ

 突如、世界各地に謎の宇宙船が12船現れた。アメリカはアメリカ軍大佐ウェバーの指揮のもと、言語学者のルイーズと物理学者のイアンに協力を仰ぎ、宇宙船の調査を始める。

 世界各国と連携しながら調査をしているが、進展は全くなかった。ルイーズとイアンは宇宙船の中に入り、「ヘプタポッド」と名付けられた二体の地球外生命と接触する。当面の目的は、ヘプタポッドが地球に訪れた理由を聞き出すことである。当初は意思疎通が困難に思われたが、試行錯誤の末、墨で書かれたようなヘプタポッドの文字を見せられ、解読を開始する。

 精力的な調査の途中、ルイーズは娘の成長と若くして死ぬ様子、それに悩まされる自分の光景がフラッシュバックする。しかしルイーズは独身で子供がいないため、何の光景なのか分からず悩む。

 アメリカ政府は結論を急ぎ、ルイーズは急遽ヘプタポッドに目的を尋ねると、人類に武器を与えるため、と告げる。言語の理解が乏しいために誤訳した可能性や、ヘプタポッドに武器の概念がなく道具を与えると伝えようとした可能性が残されていたが、中国人民解放軍は宣戦布告と受け取り、各国との通信回路を閉じる。それに続き、12カ国の通信回路が全て封鎖され、各国で戦争の準備が始まる。

 ルイーズは真意を聞き出すためにもう一度ヘプタポッドの元に向かう。そこでヘプタポッドからこれまでにない複雑で膨大なメッセージを与えられる。それと同時に、ヘプタポッドを恐れた将校の一部が、独断で爆弾を持ち込み爆発させてしまう。ヘプタポッドの重力操作で二人は助かるが、アボットと呼ばれる異星人の一体が「死の過程」に入ってしまう。

 与えられたメッセージの解読は困難を極めたが、実は全体の12分の1しか与えれらておらず、各国に与えられたものを統合して一つのメッセージになることが発覚する。しかし各国との通信は切断されていて、異星人との戦争は待ったなしの状態になっていた。

 ルイーズは一人で宇宙船に乗り込み、ヘプタポッドの到来の本当の目的を知る。ヘプタポッドは3000年後に人類に助けられるため、贈り物を渡しに来たのだった。それは過去・現在・未来がフラットにあるヘプタポッドの時間感覚であり、武器=道具とは言語のことだった。ルイーズはヘプタポッドの言語を学ぶうちに、ヘプタポッドの時間感覚も習得しており、そのために未来のフラッシュバックを見ていたのだ。

 戦争が間近に迫る中、ルイーズは中国人民解放軍のシャン上将と対面する未来を見る。そこでシャン上将は彼の電話番号と、妻が死際に発したメッセージを伝える。アメリカ軍の目を盗んでシャン上将の携帯電話に連絡したルイーズは、未来のフラッシュバックで聞いた妻のメッセージを伝え、開戦しないよう説得する。それが成功したのち、再び各国の回線が復活した。世界が一つに繋がったことを確認したヘプタポッドたちは、宇宙船ごと霧に包まれどこかに消える。

 宇宙船が消えた跡を眺めながら、イアンはルイーズに結婚を申し込む。生まれる娘は若くして亡くなることを知りながら、ルイーズは子供を産む決意をする。

解説

言語を主題にした一風変わったSF

 特徴的な宇宙船に乗って地球外生命体が地球を訪れた。出現した場所は世界各国の12箇所。現れたのはいいものの、宇宙人は一切行動を起こさない。正体不明、目的不明、言語不明。謎に包まれた宇宙人の正体と目的を暴くために、言語学者ルイーズと物理学者イアン協力して宇宙人との意思疎通を図るというのが大まかな内容となる。

 地球外生命体が地球に到来する本格的なSF映画だが、他のSF作品とは趣を異にしている。例えばスティーブン・スピルバーグ監督の『宇宙戦争』のように地球外生命体に侵略されることもなければ、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』のように壮大な冒険へと旅立つこともない。異星人との戦闘は起こらず、また、友情が芽生えるほどの親密な関係も持たない。それらの作品に比べると物語の起伏は乏しく、殆どの時間が人間と地球外生命体の会話と、ヘプタポッドの言語の解読に費やされる。

 したがって本作は地球外生命体を登場させながら、物語の中心は人間の側にある。地球外生命体と接触し影響を受けたルイーズが、将来に向けて、どのような決断をするのかが問われている。

可逆で双方向で円環する時間

 ルイーズが異星人から受ける影響は、主に時間感覚についてである。ヘプタポッドが知覚する時間の流れは、過去・現在・未来のように一方向かつ不可逆ではなく、並列かつ円環として存在している。未来は未だ到来せぬものではなく、過去はすでに過ぎ去ったものではない。そうではなくて、未来も過去も現在も、いまこの瞬間、そしてどの瞬間においても、同時に感じることができるのだ。

 このような一方向の時間を超越した感覚は、異星人が使用する言語化から既に示唆されている。ヘプタポッドの言語は、表意文字で、時制が存在せず、円環で表現される。作中でも紹介されるサピア=ウォーフの仮説とは、言語が使用者の世界観の形成に関与するという仮説であり、その立場をとれば、円環で示されるヘプタポッドの言語が、時間を超越した知覚を形成していることがわかるだろう。ヘプタポッドにとって時間とは、円環で表現される言語のように、始まりも終わりもない閉じた円を成しているのだ。

ルイーズ:この日があなたの物語の始まりだと思っていた。記憶とは不思議なもの。思ってもみなかった働きをする。私たちは時間と時間の流れに縛られている

 冒頭にあるこのルイーズのナレーションは、すでにヘプタポッドの時間感覚を理解したのちのセリフである。そしてこのセリフが冒頭にあり、稀に未来で誕生する娘との生活が映されるのは、映画の構成自体が単線的な時間を成していないからだ。物語の始まりに終わりがあり、そして、その概念すら意味をなさないのが、ヘプタポッドの時間感覚である。

考察・感想

3つある題名と『スローターハウス5』との類似性

 題名は原題「Arrival」、原作「あなたの人生の物語」、邦題「メッセージ」の三つが存在している。「Arrival」は「到来」くらいの意味で、地球外生命体が突如地球に現れたことを指している。題名はそれぞれ異なるが、主題から大きく外れているものはない。「Arrival」は異星人の到来に、「あなたの人生の物語」はルイーズと娘の物語に、「メッセージ」は異星人と人間の交流に、物語の重点を置いている。

 邦題の「メッセージ」の問題は、決して異星人と人間の間だけにあるものではなくて、ルイーズと娘、ルイーズとイアン、ルイーズとシャン上将の間にも存在している。何故ならルイーズだけが、過去と現在と未来を自由に移動し、未来で与えられたメッセージを現在へと持ち帰ることができるからだ。この時間感覚は、時系列をゴチャ混ぜにして語られるカート・ヴォネガットの『スローターハウス5』と非常によく似ている。そこでも時間は単線的ではなく、過去・現在・未来を自在に移動できる。

人生のすべての瞬間を大切にする

 本作のクライマックスは、異星人の宇宙船が消えた後にある。宇宙船がいた広野に残されたルイーズとイアンは、二人の将来について語り合う。出会った当初「文明の礎は言葉じゃない。科学だ」と自分の専門分野の優位性を誇示していたイアンは、ルイーズとの共同作業の中でいつしか愛が芽生えていた。

イアン:僕がもっとも驚かされたことは何だと思う?彼らと会ったことじゃない。君と出会ったことだ

 しかしこの愛の告白の前から、ルイーズはすでにイアンと結ばれることを知っている。何故ならルイーズにとって未来は現在のように認識できるからだ。だが彼女はイアンと結婚し娘を出産し離婚することも知っている。ルイーズにとって二人の関係は、イアンの告白の瞬間、関係の始まりにおいて、すでに終わることと同時にある。

 クリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』で主人公の相棒ニールは、運命と現実を同一視し、「起こったことは仕方がない。これは世界の仕組みに対する信頼を表現している。けど、何もしないという言い訳にはならない」と言うが、それと同じことがここでも起きている。イアンと離婚することも、娘を若くして失うことも決まっていることだ。だが、何もしなくていいということにはならない。

ルイーズ:人生の旅がどうなるか、どこに行き着くかが分かっていても、私は喜んで受け入れる。人生のすべての瞬間を大切にする

 だからこそルイーズは「人生のすべての瞬間を大切にする」と決意する。ルイーズはこれから喪失を抱えて生きていく。その喪失は過去ではなく未来にあり、目の前にいる娘は喪失した/する存在になる。だからフラッシュバックに映る未来のルイーズは、娘を前にしてもどこか寂しそうである。ルイーズは未来に起こる確実な喪失に怯え「人生のすべてが始まりから終わりまで分かったとしたら、変えたいと思う?」と問いかけ、イアンは「自分が感じたことをもっと口に出すようにするかもな、わからないけど」と答える。運命も現実も変えることはできない。

 だがそれは諦めなどではなく、ニールの言葉を借りるならば、「世界の仕組みに対する信頼」の証である。そしてその運命と呼ばれうるような現実に対して我々ができるのは、「人生のすべての瞬間を大切にする」ことであり、「自分が感じたことをもっと口に出すようにする」ことだけなのだ。それは取るに足らない、些細で、無意味で、無価値なことかもしれない。だがそれが全てでもある。避けることのできない遠くにある大きな喪失を、いまここで、引き受けたとき、イアンとの生活が、娘との出会いが、儚くて幸せな三人の生活が、物語の終わりにようやく幕を開ける。

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