『ザ・ウォーク』考察|全ては夢のように儚い|あらすじネタバレ感想・伝えたいこと解説|ロバート・ゼメキス

『ザ・ウォーク』考察|全ては夢のように儚い|あらすじネタバレ感想・伝えたいこと解説|ロバート・ゼメキス

概要

 『ザ・ウォーク』は、2015年に公開されたアメリカの伝記ヒューマン映画。ケイパー映画。原作はフィリップ・プティのノンフィクション『マン・オン・ワイヤー』。監督はロバート・ゼメキス。

 主人公のフィリップ・プティは実在するフランスの綱渡り大道芸人で、1974年にワールドトレードセンターで実際に綱渡りをした。

 綱渡りをするフランス人の大道芸人が、ワールドトレードセンターで綱渡りをするために、仲間達と奮闘する物語。

 ロバート・ゼメキスはほかに『フォレスト・ガンプ/一期一会』を監督している。

 ワールドトレードセンターが登場する映画はほかに『ワールド・トレード・センター』、『ファイト・クラブ』が、ケイパー映画はほかに『オーシャンズ11』『オーシャンズ12』『ミニミニ大作戦』がある。

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登場人物・キャスト

フィリップ・プティ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット):フランス生まれの大道芸人。幼少期に綱渡りに魅了され、当時建設中であった世界一高いワールドトレードセンターで綱渡りすることを夢見るようになる。
(他の出演作:『インセプション』『ダークナイト ライジング』、『プレミアム・ラッシュ』)

パパ・ルディ(ベン・キングズリー):フィリップの師匠。綱渡りの第一人者。観客に感謝をしないアーティスト気取りののフィリップを一度破門する。

アニー(シャルロット・ルボン):歌手を目指す学生。公園でギターを演奏していたところ、フィリップと出会い付き合う。彼の夢を応援し支援する。

ジャン=ルイ(クレマン・シボニー):学生。校内で綱渡りしているフィリップと出会い、彼の夢を支援する。カメラマンを担当。

ジャン=ピエール(ジェームズ・バッジ・デール):通信器具を売る店員。フィリップ達がフランス語で話す計画を聞き取ったため、仲間に引き入れられる。

ジャン=フランソワ(セザール・ドンボワ):ジャンに誘われフィリップに協力する。高所恐怖症。フィリップと共に機材を運ぶ。

アルバート(ベン・シュワルツ):アマチュア写真家。フィリップに協力する。

デイヴィッド(ベネディクト・サミュエル):大麻常習犯。フィリップに協力する。

バリー・グリーンハウス(スティーヴ・ヴァレンタイン):生命保険のセールスマン。フィリップのファンで協力を申しでる。

あらすじ・ネタバレ・内容

 舞台はフランス。8才のフィリップ・プティは、偶然目撃したサーカスの綱渡りに魅了され、独学で綱渡りをするようになる。彼はジャグリング、手品などの技を身につけ、綱渡りの高さはみるみるうちに高くなっていった。

 フィリップが青年になったある日、サーカス団員がいなくなったステージに登り、そこにあった綱渡りロープに挑戦しようとする。その場は、綱渡りの第一人者であるパパ・ルディに見つかってしまうが、彼に弟子入りする。パパは綱渡りを見世物とみなし観客への感謝の気持ちを持たなくてはならないと教えるが、フィリップは自分はアーティストだといい、頑として聞き入れない。結局パパは生意気なフィリップを破門にする。

 1973年、パリで大道芸人として活動していたフィリップは、ワールドトレードセンターがニューヨークで建設されていることを知る。彼はその高さに魅了され、ワールドトレードセンターで綱渡りをすることを夢見るようになる。

 ある日、パリの広場で活動していると、同じ広場でギター演奏をしていたアニーと知り合いになる。より高い場所を探した結果、彼女の学校に植えられていた木を使って練習しているうちに、そこの学生でカメラ好きのジャン=ルイと親しくなる。

 ワールドトレードセンターでの綱渡りを成功させるため、高度な技術を持つパパにもう一度師事してもらう。パパは教える代わりに、一つを教えるごとに金を請求する。本番に向けて、公園の湖の上で綱渡りをするが、人の声が気になって失敗する。そこでノートルダム大聖堂で綱渡りに挑戦し、見事成功する。

 ワールドトレードセンターが完成したという情報を知り、仲間達とアメリカに渡る。すぐさま調査を開始すると、すでに企業は入っていたが、最上階はまだ工事中だった。作業員や記者、従業員に紛れて、物資の輸送経路や、ビルの間の距離などを調べる。パパはフィリップに止めるよう提言するが、言うことを聞かない。そこで貯めていた技術料としてもらっていた金を渡し、再度協力することを決意する。さらにビルの中で働く人物や、通信器具に詳しい人物を仲間に引き入れる。

 1974年8月7日、フィリップ達は南棟に機材を運び、仲間達が北棟に侵入して、弓矢を使ってロープをかける。途中、バレそうになるなどの事故も起き、予定よりも遅くなったが、出勤し始める時間に綱渡りを開始する。

 見事渡り切るが、その後南棟に向けまた歩き出す。その内、両サイドに警察も駆けつける。そんな中、フィリップは最高の気分になり、ニューヨークやタワー、観客への感謝を捧げる。そして何周かの往復ののち、綱渡りは終わりを迎える。その光景に市民は拍手を送るのだった。

 仲間達は解散し、アニーは今度は自分が夢を追う番と言ってパリに帰る一方で、フィリップはアメリカに残る。彼は綱渡りの功績を讃えられ、永遠に屋上に入れる券をもらり、その後も何度も通ったのだった。

解説

ジョセフ・ゴードン=レヴィットはカッコいい

 1974年8月7日、ワールドトレードセンターの屋上で、東棟と南棟の間で綱渡りを成功させた人物がいた。その名はフィリップ・プティ。彼は幼少期から綱渡りに魅了され、ワールドトレードセンターでの綱渡りを夢見たフランスの大道芸人である。

 フィリップ・プティを演じるのは、名俳優ジョセフ・ゴードン=レヴィット。ゴードン=レヴィットはどの役を演じてもとにかくカッコいい。『インセプション』ではディカプリオの影に隠れながらしっかりと存在感を放つ脇役を好演し、『(500)日のサマー』では好きな相手に翻弄され一喜一憂する姿見事に演じ切った。最近では『スノーデン』も大変良かった。挙げ句に、パトリック・ヴォルラス監督の『7500』では、内容がイマイチにも関わらず、ジョセフ・ゴードン=レヴィットが主人公を演じたおかげで、テロに遭遇したパイロットの絶望感と緊迫感がこちらにまで伝えってきてかなり楽しめた。とにかく演技が上手でカッコいいので、ゴードン=レヴィットが出演している作品は観ておくに越したことはない。

 今作でもジョセフ・ゴードン=レヴィットの演技は冴えわたっている。例えば、冒頭でフィリップが観客に向けて話しているように、フランス訛りの英語を使う。フランスで生まれ育ったフィリップが、ワールドトレードセンターでの綱渡りに向けて英語を勉強するうちに、徐々に馴れてくる様子もかなり上手い。他にも生意気な自尊心、決行前日の高ぶる精神状態など、演じるのが難しい場面を彼は華麗にやり遂げる。

超高層ビルでの綱渡り

 この映画は、ワールドトレードセンターの屋上417mからの映像が一つの売りである。一歩間違えれば、死は免れない。命綱がない状態で一本の細いロープに立つ姿に、こちらの方が足が竦む。

 ワールドトレードセンターでの綱渡りに興奮のピークが来るよう、ロープの高さを徐々に上げていくのは、演出の妙である。地上数十センチの高さから始まり、木の幹やノートルダム大聖堂の屋上を経て、ワールドトレードセンターに到達する。当初は不安や恐怖心を抱かなかった綱渡りも、ノートルダム大聖堂で決行する段になると既にかなり怖い。

 ということで、怖いものみたさで観たとしてもかなり満足できる、と思う。フィリップがロープの上で首を垂れたり、寝っ転がって天を仰いだりするシーンは、怖さも相まって度肝を抜かれた。

考察・感想

ワールドトレードセンターの崩壊を巡って

 周知の通り、2001年9月11日、ワールドトレードセンターはテロによって崩壊した。フィリップが綱渡りをした世界一の高さを誇るビルは、いまはもう存在しない。

 綱渡りを成功させたフィリップに、ニューヨークの市民は拍手を送り、ワールドトレードセンターの屋上にいつでも登れる券を贈呈した。その券に期限はなく、永遠に使えるものであった。フィリップはその券を使って何度も屋上に登ったようである。だが、ワールドトレードセンターが崩壊した今、その券を使うことはできない。

 あの綱渡りがは一回限りの行為であって、だからこそ、屋上に登ることを「永遠」に保障された。綱渡りを開始した南棟に立ち、フィリップはあの日のことを何度も思い返したに違いない。あの綱渡りが一回限りの出来事であることと、ワールドトレードセンターが既に存在しないことは、どこか繋がっている。どれも夢のように儚く、再び戻ってくることはない。

永遠の儚さ

 さらに言えば、そのことはフィリップとアニーの結末とも関係している。ワールドトレードセンターは、フィリップにとって夢見る対象であった。そして同じ夢を、アニーや仲間達は共有していた。しかし、綱渡りが終わればその夢も終わり、再び元いた場所に戻らなくてはならない。アニーはフィリップの夢を共有していたが、フィリップと人生を添い遂げることは選ばなかった。アニーとフィリップの恋愛の儚さは、一回限りの綱渡りや崩壊したワールドトレードセンターの儚さと同じものである。

 だから物語の最後、ワールドトレードセンターの屋上にいるフィリップの様子は、どこか物寂しい。フィリップは綱渡りの現場を見渡しながら、そこにあったもの、これから失われるもの、その両方を見ている。一回限りの行為だからこそ与えられた永遠は、ワールドトレードセンターの崩壊とともに無惨にも消え去った。ワールドトレードセンターの崩壊に、永遠の儚さを想う。

P.S 本作はワールドトレードセンターの懐古的である一方で、予見的な映画でもある。フィリップはワールドトレードセンターで綱渡りをする前、ノートルダム大聖堂でそれを決行した。奇しくも、2019年4月15日に、ノートルダム大聖堂は焼失してしまった。ワールドトレードセンターは無くなり、ノートルダム大聖堂もフィリップが登ったものとは変わってしまった。懐古的かつ予見的。期せずして、永遠の儚さが、二重にこだましている。

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