『ほしのこえ』考察|届かないメールとセカイ系|あらすじネタバレ感想・伝えたいこと解説|新海誠

『ほしのこえ』考察|届かないメールとセカイ系|あらすじネタバレ感想・伝えたいこと解説|新海誠

概要

 『ほしのこえ』は、2002年に公開された新海誠監督の恋愛アニメ映画。公開時間は25分。前作は『彼女と彼女の猫』、次作は『雲のむこう、約束の場所』。キャッチコピーは「私たちは、たぶん、宇宙と地上にひきさかれる恋人の、最初の世代だ」。

 新海にとっては初の劇場アニメーションであり、自主制作のためマック一台でほぼ一人で制作した。オリジナル版の声優の二人は当時恋人同士だった。

 「セカイ系」作品の代表作の一つ。他のセカイ系作品に、高橋しんのマンガ『最終兵器彼女』、秋山瑞人の小説『イリヤの空、UFOの夏』がある。

 選抜メンバーに選ばれ宇宙に向かうことになったミカコと、地球に残されたノボルの恋の物語。

 新海誠はほかに長編『天気の子』『君の名は。』『星を追う子ども』、中編『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などがある。

 アニメ映画はほかに『千と千尋の神隠し』『ミュウツーの逆襲』『怪盗グルーのミニオン大脱走』『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』などがおすすめである。

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登場人物

長峰 美加子:オリジナル版の声優は篠原美香。中学三年生の少女。ある日、国連宇宙軍の選抜メンバーに選ばれる。ノボルに好意を抱いている。

寺尾 昇:オリジナル版の声優は新海誠。ミカコのクラスメイトで剣道部の友人。宇宙にいるミカコとメールでやりとりをする。ミカコに想いを寄せている。

名言

ミカコ:世界、っていう言葉がある。私は中学の頃まで、世界っていうのはケイタイの電波が届く場所なんだって漠然と思っていた。でも、どうしてだろう。私のケイタイはだれにも届かない。

ミカコ:ねえ、ノボルくん?わたしたちは遠く遠く、すごくすごーく遠く離れているけど
ノボル:でも想いが、時間や距離を越える事だって、あるかもしれない
ミカコ:ノボルくんはそういうふうに思ったことはない?
ノボル:もし、一瞬でもそういうことがあるなら、ぼくは何を想うだろう。ミカコは、何を想うだろう

あらすじ・ネタバレ・ストーリー

 舞台は近未来。2039年に、NASAは火星付近で突如現れた知的生命体タルシアンと交戦し、全滅させられる。このときからタルシアンと人類との戦いが始まる。人類はタルシアン文明の遺跡からテクノロジーを学び、戦闘機を作り対抗する。

 2046年、中学3年生のミカコとノボルは、同じ高校への進学を希望していた。互いの淡い恋心をよそに、ミカコは国連宇宙軍のタルシアン調査隊のリシテア艦隊の選抜メンバーに選ばれる。

 2047年、ミカコたち国連宇宙軍は地球を旅立つ。地球と宇宙に引き裂かれたミカコとノボルはメールでやりとりをするようになる。しかし、ミカコが地球から遠ざかるに連れて、メールのやり取りに何日も要するようになる。ノボルはメールを書く時間よりも、送受信をしながら待つ時間のほうが長くなっていく。

 探査から半年、冥王星付近でタルシアンと遭遇、戦闘になる。タルシアンから逃げるために、1光年先にワープする。これによってノボルとのメールは届くのに一年かかることになる。ショックを受けるミカコのもとに、艦隊はシリウスα・β星系にワープするという伝令が伝わる。その距離は8.6光年。しかも、戻るために必要なショートカット・アンカーは、まだ発見されていない。ワープ前に、「わたしたちは、宇宙と地上にひきさかれる、恋人みたいだね」というメールを送る。

 シリウスの第四惑星アガルタに降り立ったミカコは、ノボルに「24歳になったノボルくん、こんにちは!私は15歳のミカコだよ。ね、わたしはいまでもノボルくんのこと、すごくすごく好きだよ。」から始まるメールを送る。突然、タルシアンが現れ再び戦闘になる。大きな損害を被りながら決死の覚悟で戦い、相手を撃退する。

 8年後、ノボルはミカコからのメールを受け取る。それは冒頭の一文以外ノイズになっていた。しかしノボルは晴々とした気分で自分のやるべきことを決心し、宇宙勤務に向かうのだった。

解説

環境的かつ歴史的な「世界」という概念

 「世界」という言葉がある。この地球に住む我々にとって「世界」は、地球全体や人間社会を意味する。だけれども、これは決して自明なことではない。近代以前において「世界」は、共同体や社会を意味しするのであって、我々が思い描くようなものではなかったのだ。江戸時代の農家の住民にとって「世界」とは、せいぜい半径100kmに収まるものであった。「世界」という概念は、環境的かつ歴史的なものなのである。

 環境的というのは交通機関や移動手段のことを指す。例えば、飛行機がある世界と馬車しかない世界では、「世界」が指す領域も大きく異なるだろう。

 鉄道という交通機関の発展は、人類の移動の距離を大幅に飛躍させた。馬を使うと数日かかる行程を、鉄道なら1日もかからず移動できた。「世界」が自分の知れる領土の範囲を指すならば、鉄道の発達は「世界」の領域を格段に広げたといえる。鉄道で行けるところまでが、その人にとっての「世界」となったのだ。

セカイ系としての『ほしのこえ』

 では、電子メールは「世界」にどのような影響を与えたのだろうか。『ほしのこえ』は国連宇宙軍の選抜メンバーとして宇宙で活動しているミカコの印象的な言葉から始まる。

ミカコ:世界、っていう言葉がある。私は中学の頃まで、世界っていうのはケイタイの電波が届く場所なんだって漠然と思っていた。でも、どうしてだろう。私のケイタイはだれにも届かない。

電子メールは「世界」の概念を一変させた。電波の届く範囲が「世界」になったのだ。しかも鉄道と違い、時間のズレは極限まで短くなっていて、世界の反対側にいる人に宛てたメールですら一秒もかからず届いてしまう。相手がどんなに離れていようと距離も時間も感じさせない。電子メールによって、「世界」はほとんど無限を意味するようになった。だが、これによって「世界」の外部が生まれることになった。「ケイタイの電波が届く場所」の外部は「世界」の外部になる。

 新海の作品には三つの「セカイ」があらわれる。無限に広がる空としてのセカイ、鉄道が行ける範囲のセカイ、そして電子メールが届く範囲のセカイ。新海が得意とする青い空の描写は未分化なセカイを示す。綺麗で壮大な空は未分化であるが故に外部を示さず、したがってセカイを感じさせることもない。その点、鉄道と電子メールは、空とは異なる。鉄道と電子メールは世界の境界を再定義し、その外部を示すことで、セカイが立ち現れる。新海にとって、空と鉄道と電子メールは重要なモチーフなのだ。

考察・感想

「届かないメール」がもし届くとしたら何を伝えるのか

 そこからさらに二つのモチーフが生まれる。鉄道と電子メールのセカイが生じたとき、それらが正常に働かない現象があらわれる。それが「すれ違う電車」と「届かないメール」だ。「すれ違う電車」は二人が不可逆に遠ざかるときあらわれる。感情が揺れ動くような事態が発生すると、「電車」が目の前を通り過ぎたりするのだが、これは二人の感情と将来が「すれ違う」ことを暗示している。他の作品では電車が遅れたり、他の電車に乗っていて離れ離れになったりすることもある。

 「届かないメール」は、さらに重要な位置を占めている。電子メールは、とても遠い距離の相手に、一瞬でメッセージを送ることができる。誰にでも一瞬で届くという感覚は、「近さ」を感じさせる。しかし、「近い」からこそ、届かないときに、無限の「遠さ」があらわれる。これまでにない「近さ」に一体感を感じたミカコとノボルは、届かないことで生じたあまりの「遠さ」に目眩を覚える。近いからこそ遠い、という逆説が生じているのだ(この「届かないメール」問題は『秒速5センチメートル』で「書いては消すメール」問題へと引き継がれている)。

 二人の距離が離れるにつれてメールのやり取りにかかる時間が長くなることで、この「遠さ」は際立つ。ミカコが地球から離れれば離れるほど、メールが届くまでの時間は長くなり、「届かないメール」を待つことのほうが増えていく。それでもメールを送ってしまうのは、「届かないメール」が「届いてしまうメール」になることがあるからだ。

ごめんね。
ねえ、私たちは、宇宙と地上にひきさかれる、恋人みたいだね。
このメールが無事にノボルくんに届くといいな。長峰美加子

 このメールですら届くのに一年かかったし、その間にノボルはメールを待つのをやめてしまっていた。このメールを送った直後にミカコは8光年先までワープをしたので、返信しても8年かかり、さらに送り返すとしたら16年かかる。それはもう永遠と言っても過言ではない。

ノボル:でも、光の速さで8年かかる距離なんて、永遠ていうのと何も変わらない。ぼくとミカコの時間はどんどんずれていく。

 電子メールのあまりの速さは、あらゆるものに「近さ」を感じさせた。だが、電子メールが「届かないメール」に変わることで、「近さ」はすぐさま「遠さ」に一変する。「遠さ」は「永遠」を、さらには二人の時間がずれていくことを意味している。近づけば近づくほど遠ざかりずれていくという無力感がここには生じているのだ。

 「届かないメール」は「届いてしまうメール」になるという一点において、希望が生まれる。8年ぶりにノボルに届いたメールは、「24歳になったノボルくん、こんにちは!私は15歳のミカコだよ。」以降の文章がノイズになっていた。しかしノボルは「でも、これだけでも……奇跡みたいなものだと思う」。

ミカコ:ねえ、ノボルくん? わたしたちは遠く遠く、すごくすごーく遠く離れているけど」
ノボル:でも想いが、時間や距離を越える事だって、あるかもしれない

 永遠の距離と時間を隔てているとしたら、それは無いに等しい。永遠に「届かない」のなら、そのメールはそもそも無かったのと変わらない。セカイの外部は存在しないのだ。それでももし「奇跡みたい」なことがおきて、「想いが、時間や距離を越える」ことがあるとしたら、自分が存在していることを伝えるだろう。セカイからみたら無だとしても、セカイの外部が存在していることは確かなのだ。だからミカコとノボルは「ここにいるよ。」と伝えるのである。

タルシアンは未来の自分?

 『ほしのこえ』で成し遂げられなかったことの多くは、ノーラン監督の『インターステラー』に引き継がれている。その一つにタルシアンの正体の謎がある。単なる敵かと思われていたタルシアンなのだが、戦闘中に子どものミカコとしてあらわれる。それは、ミカコの幻想のようにもみえるし、タルシアンのみせた幻影にもみえる。対峙するミカコ(タルシアン)は言う。

子ミカコ:ねえ、やっとここまで来たね!大人になるには痛みも必要だけど、でもあなたたちならずっとずっと、もっと先まできっと行ける。他の銀河へも、ほかの宇宙だって。
大人ミカコ:ね?だからついてきてね。託したいのよ、あなたたちに。
ミカコ:でも、私はただノボルくんに会いたいだけなのに!好きって言いたいだけなのに……!
大人ミカコ:大丈夫、きっとまた会えるよ!

 ミカコはタルシアンを追ってここまできた。だが、タルシアンは敵であると同時に、敵である理由も、目的もわかっていない。もしかしたら、ミカコたちはタルシアンに導かれていたのかもしれないのだ。『インターステラー』では、このタルシアンが未来の自分になる。地球を救うために、未来の時自分が時空を超えて、過去の自分を導いていたのだ。しかし『ほしのこえ』ではそこまでは明らかにしていない。このような物語は、本来ならノーラン監督ではなく、新海がやるべきことだったように思う。そう思うと、ちょっと悲しくなった。

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評価(批評・評論・レビュー)

あれから10年以上の月日が流れた。仮設住宅で暮らしていた被災者の大半は復興公営住宅に移り、メルトダウンした福島第一原子力発電所の廃炉作業も地道に進められている。唯一、全住民の避難が続いていた福島県双葉町では2022年8月に避難指示が一部解……… 全文

ーー worldend-critic.com(てらまっと)

最新長編『すずめの戸締まり』が公開されたばかり、今や日本を代表するアニメーション作家のひとりとなった新海誠。そのデビュー作である短編『ほしのこえ』(2002年)の冒頭を飾るモノローグだ。同作は超光速航行する宇宙船に乗った少女と地上に残された少年との……… 全文

ーー ohtabookstand.com(北出栞)

加筆中(おもしろい評論、または、載せてほしい論考などがありましたら、コメント欄にてお伝えください)

動画配信状況

『ほしのこえ』配信状況比較

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Amazon Prime30日間500円
TSUTAYA DISCAS30日間2,052円
Hulu2週間1,026円
dTV31日間550円
FOD✖️976円
ABEMAプレミアム✖️2週間960円
Netflix✖️✖️1,440円
クランクイン!ビデオ14日間990円
dアニメストア31日間550円
:おすすめ、○:無料、□:実質無料、△:別途有料(レンタル)、✖️:配信なし(2023年2月時点の情報。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください)*実質無料とは、毎月の無料ポイント付与により別途料金を払わずに視聴できるということ。詳細:『ほしのこえ』の無料視聴方法

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