新海誠『ほしのこえ』感想|あらすじ解説|内容考察|「届かないメール」とセカイ系

新海誠『ほしのこえ』感想|あらすじ解説|内容考察|「届かないメール」とセカイ系

概要

 『ほしのこえ』は、新海誠監督のアニメ映画。2002年に公開。キャッチコピーは、「私たちは、たぶん、宇宙と地上にひきさかれる恋人の、最初の世代だ。」。公開時間は25分。新海にとっては初の劇場アニメーション。新海誠の作品はほかに『星を追う子ども』などがある。

 自主制作でありほとんどを新海誠一人で制作した。マック一台で作った。

 この頃に発展した「セカイ系」作品の代表作の一つ。他のセカイ系作品に、高橋しんのマンガ『最終兵器彼女』、秋山瑞人の小説『イリヤの空、UFOの夏』がある。

 クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』は、『ほしのこえ』に影響を受けて制作されている。オリジナル版の声優の二人は当時付き合っていた。

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登場人物

長峰 美加子:オリジナル版の声優は篠原美香。中学三年生の少女。ある日、国連宇宙軍の選抜メンバーに選ばれる。ノボルに好意を抱いている。

寺尾 昇:オリジナル版の声優は新海誠。ミカコのクラスメイトで剣道部の友人。宇宙にいるミカコとメールでやりとりをする。ミカコに想いを寄せている。

あらすじ

 舞台は近未来。2039年に、NASAは火星付近で突如現れた知的生命体タルシアンと交戦し、全滅させられる。このときからタルシアンと人類との戦いが始まる。人類はタルシアン文明の遺跡からテクノロジーを学び、戦闘機を作り対抗する。

 2046年、中学3年生のミカコとノボルは、同じ高校への進学を希望していた。互いの淡い恋心をよそに、ミカコは国連宇宙軍のタルシアン調査隊のリシテア艦隊の選抜メンバーに選ばれる。

 2047年、ミカコたち国連宇宙軍は地球を旅立つ。地球と宇宙に引き裂かれたミカコとノボルはメールでやりとりをするようになる。しかし、ミカコが地球から遠ざかるに連れて、メールのやり取りに何日も要するようになる。ノボルはメールを書く時間よりも、送受信をしながら待つ時間のほうが長くなっていく。

 探査から半年、冥王星付近でタルシアンと遭遇、戦闘になる。タルシアンから逃げるために、1光年先にワープする。これによってノボルとのメールは届くのに一年かかることになる。ショックを受けるミカコのもとに、艦隊はシリウスα・β星系にワープするという伝令が伝わる。その距離は8.6光年。しかも、戻るために必要なショートカット・アンカーは、まだ発見されていない。ワープ前に、「わたしたちは、宇宙と地上にひきさかれる、恋人みたいだね」というメールを送る。

 シリウスの第四惑星アガルタに降り立ったミカコは、ノボルに「24歳になったノボルくん、こんにちは! 私は15歳のミカコだよ。ね、わたしはいまでもノボルくんのこと、すごくすごく好きだよ。」から始まるメールを送る。 突然、タルシアンが現れ再び戦闘になる。大きな損害を被りながら決死の覚悟で戦い、相手を撃退する。

 8年後、ノボルはミカコからのメールを受け取る。それは冒頭の一文以外ノイズになっていた。しかしノボルは晴々とした気分で自分のやるべきことを決心し、宇宙勤務に向かうのだった。

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解説

セカイ系としての『ほしのこえ』

 「世界」という言葉がある。この地球に住む我々にとって「世界」は、地球全体や人間社会を意味する。だけれども、これは決して自明なことではなかった。近代以前において「世界」は、共同体や社会や国であった。江戸時代の農家の住民にとっての「世界」は、せいぜい半径100kmに収まるものであっただろう。「世界」という概念は歴史的なものなのである。

 鉄道という交通機関の発展は、人類の移動の距離を大幅に飛躍させた。馬を使うと数日かかる行程を、鉄道なら1日もかからず移動できた。「世界」が自分の知れる領土の範囲を指すならば、鉄道の発達は「世界」の領域を格段に広げたといえる。鉄道で行けるところまでが、その人にとっての「世界」となったのだ。

 では、電子メールは「世界」にどのような影響を与えたのだろうか。『ほしのこえ』は国連宇宙軍の選抜メンバーとして宇宙で活動しているミカコの印象的な言葉から始まる。

世界、っていう言葉がある。私は中学の頃まで、世界っていうのはケイタイの電波が届く場所なんだって漠然と思っていた。でも、どうしてだろう。私のケイタイはだれにも届かない。

電子メールは「世界」の概念を一変させた。電波の届く範囲が「世界」になったのだ。しかも鉄道と違い、時間のズレは極限まで短くなっていて、世界の反対側にいる人に宛てたメールですら一秒もかからず届いてしまう。相手がどんなに離れていようと距離も時間も感じさせない。電子メールによって、「世界」はほとんど無限を意味するようになった。だが、これによって「世界」の外部が生まれることになった。「ケイタイの電波が届く場所」の外部は「世界」の外部になる。

 新海の作品には三つの「セカイ」があらわれる。無限に広がる空としてのセカイ、鉄道が行ける範囲のセカイ、そして電子メールが届く範囲のセカイ。新海が得意とする青い空の描写は未分化なセカイを示す。綺麗で壮大な空は未分化であるが故に外部を示さず、したがってセカイを感じさせることもない。その点、鉄道と電子メールは、空とは異なる。鉄道と電子メールは世界の境界を再定義し、その外部を示すことで、セカイが立ち現れる。新海にとって、空と鉄道と電子メールは重要なモチーフなのだ。

考察

「届かないメール」がもし届くとしたら何を伝えるのか

 そこからさらに二つのモチーフが生まれる。鉄道と電子メールのセカイが生じたとき、それらが正常に働かない現象があらわれる。それが「すれ違う電車」と「届かないメール」だ。「すれ違う電車」は二人が不可逆に遠ざかるときあらわれる。感情が揺れ動くような事態が発生すると、「電車」が目の前を通り過ぎたりするのだが、これは二人の感情と将来が「すれ違う」ことを暗示している。他の作品では電車が遅れたり、他の電車に乗っていて離れ離れになったりすることもある。

 「届かないメール」は、さらに重要な位置を占めている。電子メールは、とても遠い距離の相手に、一瞬でメッセージを送ることができる。誰にでも一瞬で届くという感覚は、「近さ」を感じさせる。しかし、「近い」からこそ、届かないときに、無限の「遠さ」があらわれる。これまでにない「近さ」に一体感を感じたミカコとノボルは、届かないことで生じたあまりの「遠さ」に目眩を覚える。近いからこそ遠い、という逆説が生じているのだ。

 二人の距離が離れるにつれてメールのやり取りにかかる時間が長くなることで、この「遠さ」は際立つ。ミカコが地球から離れれば離れるほど、メールが届くまでの時間は長くなり、「届かないメール」を待つことのほうが増えていく。それでもメールを送ってしまうのは、「届かないメール」が「届いてしまうメール」になることがあるからだ。

ごめんね。
ねえ、私たちは、宇宙と地上にひきさかれる、恋人みたいだね。
このメールが無事にノボルくんに届くといいな。 長峰美加子』

 このメールですら届くのに一年かかったし、その間にノボルはメールを待つのをやめてしまっていた。このメールを送った直後にミカコは8光年先までワープをしたので、返信しても8年かかり、さらに送り返すとしたら16年かかる。それはもう永遠と言っても過言ではない。

でも、光の速さで8年かかる距離なんて、永遠ていうのと何も変わらない。
ぼくとミカコの時間はどんどんずれていく。

 電子メールのあまりの速さは、あらゆるものに「近さ」を感じさせた。だが、電子メールが「届かないメール」に変わることで、「近さ」はすぐさま「遠さ」に一変する。「遠さ」は「永遠」を、さらには二人の時間がずれていくことを意味している。近づけば近づくほど遠ざかりずれていくという無力感がここには生じているのだ。

 「届かないメール」は「届いてしまうメール」になるという一点において、希望が生まれる。8年ぶりにノボルに届いたメールは、「24歳になったノボルくん、こんにちは!私は15歳のミカコだよ。」以降の文章がノイズになっていた。しかしノボルは「でも、これだけでも……奇跡みたいなものだと思う」。

ミカコ「ねえ、ノボルくん? わたしたちは遠く遠く、すごくすごーく遠く離れているけど」
ノボル「でも想いが、時間や距離を越える事だって、あるかもしれない」

 永遠の距離と時間を隔てているとしたら、それは無いに等しい。永遠に「届かない」のなら、そのメールはそもそも無かったのと変わらない。セカイの外部は存在しないのだ。それでももし「奇跡みたい」なことがおきて、「想いが、時間や距離を越える」ことがあるとしたら、自分が存在していることを伝えるだろう。セカイからみたら無だとしても、セカイの外部が存在していることは確かなのだ。だからミカコとノボルは「ここにいるよ。」と伝えるのである。

感想

タルシアンは未来の自分?

 『ほしのこえ』で成し遂げられなかったことの多くは、ノーラン監督の『インターステラー』に引き継がれている。その一つにタルシアンの正体の謎がある。単なる敵かと思われていたタルシアンなのだが、戦闘中に子どものミカコとしてあらわれる。それは、ミカコの幻想のようにもみえるし、タルシアンのみせた幻影にもみえる。対峙するミカコ(タルシアン)は言う。

子ミカコ:ねえ、やっとここまで来たね!大人になるには痛みも必要だけど、でもあなたたちならずっとずっと、もっと先まできっと行ける。他の銀河へも、ほかの宇宙だって。

大人ミカコ:ね?だからついてきてね。託したいのよ、あなたたちに。

ミカコ:でも、私はただノボルくんに会いたいだけなのに!好きって言いたいだけなのに……!

大人ミカコ:大丈夫、きっとまた会えるよ!

 ミカコはタルシアンを追ってここまできた。だが、タルシアンは敵であると同時に、敵である理由も、目的もわかっていない。もしかしたら、ミカコたちはタルシアンに導かれていたのかもしれないのだ。『インターステラー』では、このタルシアンが未来の自分になる。地球を救うために、未来の時自分が時空を超えて、過去の自分を導いていたのだ。しかし『ほしのこえ』ではそこまでは明らかにしていない。このような物語は、本来ならノーラン監督ではなく、新海がやるべきことだったように思う。そう思うと、ちょっと悲しくなった。

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