『ビフォア・サンセット』考察|関係とは波のようなもの|あらすじネタバレ解説・伝えたいこと解説|リチャード・リンクレイター

『ビフォア・サンセット』考察|関係とは波のようなもの|あらすじネタバレ解説・伝えたいこと解説|リチャード・リンクレイター

概要

 『ビフォア・サンセット』は、2004年に公開されたアメリカの恋愛ヒューマン映画。監督はリチャード・リンクレイター。前作は『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』、次作は『ビフォア・ミッドナイト』。

 アカデミー賞では脚色賞に監督と主演の三人がノミネート

 9年ぶりに再開した男女が、数時間後に出発する飛行機を待つ間に、パリを歩きながら会話する物語。

 ヒューマン映画はほかに『寝ても覚めても』『ライムライト』『GO』『華麗なるギャッツビー』『容疑者Xの献身』『グラン・トリノ』『イエスマン “YES”は人生のパスワード』がある。

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登場人物・キャスト

セリーヌ(ジュリー・デルピー):パリ在住。環境保護団体で働いている。彼氏は戦場カメラマン。

ジェシー・ウォレス(イーサン・ホーク):9年前の出来事を描いた小説『This Time』を出版。現在は結婚し息子がいる。

書店員(ヴァーノン・ドブチェフ):ジェシーの講演の場を提供した。

中庭にいた女性(マリー・ピレ):セリーヌの近隣住人。

バーベキューをする男(アルバート・デルピー):セリーヌの近隣住人。

名言

セリーヌ:でも今日の再会で12月16日の思い出も変わる。もう悲しい結末じゃない
ジェシー:ああ。生きている限り思い出は変えられる

セリーヌ:飛行機乗り遅れるよ
ジェシー:わかってる

あらすじ・ネタバレ・内容

 舞台は、ウィーンでの出会いから9年後のパリ。ジェシーはあの夜のことを描いた小説『This Time』を販売し、その宣伝のためにパリの書店で小さな講演を開いていた。

 小説の結末ではその後について曖昧にしていたため、インタビュアーから質問を受けるもジェシーははぐらかす。彼がふと横を眺めると、そこにセリーヌが立ってこちらをみていた。ジェシーはすぐにインタビューを切り上げ、飛行機までの時間が1時間以上あると知ると、その間をセリーヌと過ごすことにする。

 久しぶりの再会を喜ぶセリーヌとジェシー。二人は秋のパリを歩き回りながら会話をする。9年前に約束したあの日、セリーヌは祖母が亡くなって葬儀があったため、ウィーンに行くことができていなかった。ジェシーはその日ウィーンに向かっていて、セリーヌが来ないことに悲しんでいた。

 その後、セリーヌはニューヨークに留学し彼氏を作っては別れ、現在は戦場カメラマンと付き合い環境団体で活動をしていた。一方ジェシーは、結婚し男児を儲けていたが、夫婦との関係はうまくいっていなかった。

 再開した当初は警戒心から本音を出せずにいたが、会話を重ねるうちに次第に本音が洩れだしてくる。二人はカフェや遊覧船で過ごしているうちに、飛行機の出発の時間が近づいてくる。

 空港に向かう前にセリーヌを家に送ると提案するジェシー。二人は送迎車の中で言い争いを始める。セリーヌもジェシーもお互いのことを忘れられずにいたのだった。

 セリーヌの家の前に着き別れの挨拶で二人は抱き合う。ジェシーはせっかくなのでセリーヌが作った曲を聴かせてほしいと頼み家にあがる。セリーヌはギターを弾きながらワルツを歌う。

 もう一曲と要求するジェシーをセリーヌは拒む。紅茶を入れる間、ニーナ・シモンの『ジャスト・イン・タイム』をかけながら、曲に合わせて踊り出す。シモンを真似ながら飛行機に遅れるよと言うと、ジェシーはわかっていると答え、そのまま動かないのだった。

解説

「ビフォア」シリーズの二作目

 『ビフォア・サンセット』(2004年)は「ビフォア」シリーズと呼ばれる三部作の二作目である。一作目が『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995年)、三作目が『ビフォア・ミッドナイト』(2013年)で、訳せば「夜明け前」「夕暮れ前」「夜中前」となる。この三部作は9年おきに制作されていて、作品の世界も現実世界と同様に9年ずつ歳月が過ぎている。

 主に登場するのはジュリー・デルピーが演じるセリーヌと、イーサン・ホークが演じるジェシーの二人だけ。ほかにはあるとしてもカフェの店員や送迎車の運転手が少々喋るくらいで、基本は散歩しながらの会話が中心に話が進む。この二人は脚本にも関わっていて、アカデミー賞の脚色賞には監督を含めた三人が受賞している。

 シリーズの三作ともセリーヌとジェシーの会話が中心にあり、本作はその中でもその密度が濃くより洗練されている印象を受ける。上映時間は77分と比較的短いが、映画中の時間はほぼ現実の時間の流れと同じで、その間会話が途切れることはない。つまり、ジェシーが飛行機を待つ小一時間のうちに二人の間に起きたすべてを観客は観ていることになる。

次作の構想が現実とゆるく繋がる

 冒頭はジェシーが本屋で行われるインタビューに答えるシーンから始まる。9年前のウィーンでの出来事を描いた小説『This Time』の結末の後はどうなったのか、二人は会うことができたのかと問われると、それを言ったら台無しになるとジェシーははぐらかす。のちに分かることだが、実際二人は約束の日に出会うことはなかった。その日、ジェシーは海を越え約束の場所を訪れたにもかかわらず、セリーヌが現れることはなかったのである。誰もいないその場所で、ジェシーはセリーヌのことを疑っただろうか。あるいは、日付や場所に間違いがあったかと不安に陥っただろうか。どちらにしろ、それは遠く昔に過ぎ去ってしまった苦い過去の記憶である。

 インタビュアーに次の本の構想を聞かれたジェシーは、ポップソングが一曲流れている間に起きる物語について語り出す。現在に何か欠けていると感じている男性が、娘を眺めているうちに過去にあった恋人との甘い時間を同時に経験する物語である。そこでは過去と現在が同時に存在し、時間はまやかしだと解く。

 このジェシーの創作物は、現実とゆるく繋がっている。ここで語られる男性は、ジェシーの現在の状況そのものである。ジェシーは未だに9年前の出来事に囚われたままで、妻との結婚式の当日ですらセリーヌと再会することを夢見ていた。9年前の約束の日にセリーヌがその場に訪れなかったことで、ジェシーは根本的な喪失を経験しているのだ。

 そしてポップソングが一曲流れている間に時間を超越するという物語は、この映画の最後の場面と繋がっている。この映画のラスト、ジェシーはセリーヌに自作のワルツを歌ってもらう。その時、彼はただ聴いているだけではない。歌詞と過去の出来事を重ねながら、過去と現在に想いを馳せているのだ。冒頭に語った次作の構想が、図らずも現実のものとなったのである。

考察・感想

聖地巡礼でパリを楽しむ

 セリーヌとジェシーの会話はパリの街を散歩しながらなされる。このパリの風景は現実のものだ。冒頭の書店、途中で休憩するカフェ、ベンチがある庭園、観光客用の遊覧船はどれも実際のパリに存在している。したがってこの映画は聖地巡礼にうってつけである。セリーヌとジェシーの散歩コースを探してみるのも面白い(実際は一時間で歩けるコースではなく、場所も点々としている)。

 唯一、作中で登場するノートルダム大聖堂が2019年に火事で無くなってしまった。セリーヌはノートルダム大聖堂も永遠ではないと作中で発言するのだが、悲しいことにそれが現実となってしまったのだ。今聖地巡礼をすると書店の位置から見えたノートルダム大聖堂は工事中になっている。

関係とは波のようなものだ

 ところでセリーヌとジェシーは驚くほど似た境遇に陥っている。9年前の出来事を機に喪失を経験した二人は、何かが違うと感じながらも別々の道を歩んできた。セリーヌは恋人を取っ替え引っ替えし、ジェシーは結婚し子供を持つが、それでもどちらも現状に収まりきらない何かを感じている。つまり二人ともお互いのことを忘れることができていないのだ。そのためジェシーは9年前の出来事を描いた本を出版し、セリーヌはそれを見つけて彼の講演に駆けつける。

 だが再会したそのとき、二人は心の傷を相手に見せることはない。ある種の警戒心を持ち平静を装う二人は相手に嘘をつく。ジェシーは約束の日にウィーンを訪れていないと言い、セリーヌは9年前セックスはしていないと主張する。二人が恐れていることは、自分だけがあの出来事に囚われているということを知ることだ。だから二人は直接その話題に飛びつくことはせず、この9年間の生活や現状や思想について語り合いながら、緩やかに本題へと近づいていく。

 これらの会話は恋愛関係の本質の一つを見事に表現している。結末からみれば、最初から互いに意識していることは分かりきっている。何故本を出版したのか、何故書店にセリーヌは現れたのか。だがそのことは再会したばかりの二人にはわかることではない。だから二人は互いに、本題へ一歩踏み出しては後退し、より深く突っ込んでは元の位置に戻る。いうならばこれは波のようなものだ。押しては引いていく波。しかしこれは単なる反復ではなくて、ときに大きな波を起こす。そしてそれがある閾値を越えたとき、本音がポロリと漏れ出してくる。

揺れることでしか中心には辿り着けない

 それは例えば庭園で、セリーヌが「私たち2人だけが今日死ぬとわかっていたら、どんな話をする?」と聞いた時によく現れている。セリーヌがことあるごとにセックスの話題を持ちだしてくるのが、現状の不満を反映しているのか、思想と現実のギャップから生じてくるものなのかさておき、彼女は9年前に性行為をしたことを認めた後に上の質問をする。それに対してジェシーは「環境問題や僕の本の話はしないだろうね。だけどこの世の不思議については語るだろう。場所はホテルで。それも死ぬまで続けるファックの間に。」と言う。

セリーヌ:それなら別にホテルまで行かなくていいじゃない、そこのベンチですれば?

 このセリーヌの突っ込みにジェシーは彼女の手を取ってベンチに引っ張っていくが、彼女は「今日はまだ死なない」と拒否する。まさに押しては引いていく波のようだ。いい感じかと思えばやり過ぎてしまい結局元の場所に戻ってしまう。そして関係とはこの波の繰り返しだ。

 この波はまた送迎車の中でも見事に表現されている。そして今回はその波が大きくて、ジェシーとセリーヌは現状の不満をぶちまける。だが重要なことは大きい波がきたあとは、より大きい大きい窪みがくるということだ。雰囲気がぶち壊された時、それが良いものであればあるほど、その後に訪れる嫌な感じはより大きくなる。だからこの不満をぶちまけた後に訪れるのは、不満の減少ではなく、より大きくなった親密感である。

 結局、最後からみれば、ジェシーがセリーヌの家に残ることはどちらにとっても分かりきったことだった。彼は時間がないにもかかわらずセリーヌを家の前まで送り、彼女の自宅にあがり、自作の曲まで弾いてもらう。もちろん時間はないことはセリーヌも重々承知だ。ジェシーが空港に向かわないことを知りながら、セリーヌは「飛行機に遅れるよ」と聞き、ジェシーは「分かっている」と答える。

 しかし互いの意思が最初から同じであったとしても、パリを散歩しながら一時間も続けた会話を外すことはできない。君は私のことが好きで、私は君のことが好きだと言ったらそこで終わってしまう。関係が波のように揺れながらでしか、互いの気持ちを知ることはできない。そしてその揺れがなければ、自分の気持ちを知ることもできない。

 前作『ビフォア・サンライズ』は、愛の本質を大いなる過去の作り変えだと提示した。本作は愛の関係を波のようだと説く。次作『ビフォア・ミッドナイト』は愛についてどのような切り口で語ってくれるのだろうか。

関連作品

評価(批評・評論・レビュー)

ジュリー・デルピー、イーサン・ホークが主演した、リチャード・リンクレイター監督による『ビフォア・サンライズ/恋人までの距離(ディスタンス)』(95)。フランスの大学生セリーヌ(ジュリー・デルピー)とアメリカの青年ジェシー …… 全文

ーー cinemore.jp(小野寺系)

加筆中(おもしろい評論、または、載せてほしい論考などがありましたら、コメント欄にてお伝えください)

動画配信状況

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FOD✖️✖️976円
ABEMAプレミアム✖️2週間960円
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