『ラ・ラ・ランド』考察|ありえた過去と並行世界|あらすじネタバレ・伝えたいこと解説|デイミアン・チャゼル

『ラ・ラ・ランド』考察|ありえた過去と並行世界|あらすじネタバレ・伝えたいこと解説|デイミアン・チャゼル

概要

 『ラ・ラ・ランド』は、2016年に公開されたアメリカのロマンティック・ミュージカル映画。監督はデイミアン・チャゼル。出演はライアン・ゴズリングとエマ・ストーン。

 第74回ゴールデングローブ賞で7部門を受賞、第70回英国アカデミー賞で11部門をノミネート、6部門を受賞。第89回アカデミー賞で13部門をノミネート、監督賞、主演女優賞を含め6部門を受賞。

 ロサンゼルスで女優を目指すミアと、古き良きジャズを流す自分の店を開くことを夢見るセブの恋愛を描いた物語。

 デイミアン・チャゼル監督はほかに『セッション』がある。

 音楽映画はほかに『レ・ミゼラブル』『スクール・オブ・ロック』が、恋愛映画は他に『エターナル・サンシャイン』『ビフォア・サンセット』がある。

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登場人物・キャスト

セバスチャン・ワイルダー(ライアン・ゴズリング):ジャズミュージシャン。ジャズの演奏の技術は高い。将来は古典的なジャズを流す、自分の店を持つことを夢見ている。

ミア・ドーラン(エマ・ストーン):女優志望。片っ端からオーディションを受けているが、落とされ続けている。
(他の出演作:『アメイジング・スパイダーマン2』)

キース(ジョン・レジェンド):セブの旧友。新しいバンドにセブを誘う。

ビル(J・K・シモンズ):セブが働くレストランのオーナー。用意した曲を演奏しないセブに、クビを言い渡す。
(他の出演作:『マイレージ、マイライフ』『セッション』『ジャスティス・リーグ』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』)

ローラ(ローズマリー・デウィット):セブの姉。

トレイシー(キャリー・ヘルナンデス):ミアのルームメイト。

アレクシス(ジェシカ・ローテ):ミアのルームメイト。

ケイトリン(ソノヤ・ミズノ):ミアのルームメイト。

グレッグ(フィン・ウィットロック):ミアのボーイフレンド。セブと約束した『理由なき反抗』を観に行こうとしたミアに振られる。

デヴィッド(トム・エヴェレット・スコット):5年後のミアの夫。

ミアの母親(ミーガン・フェイ):ミアの母親。

名言

ミア:これからもずっと愛してる(I’m always gonna love you)
セブ:私も愛してる(I’m always gonna love you, too.)

あらすじ・ネタバレ・内容

 舞台はロサンゼルス。渋滞している高速道路で、イラついたドライバーたちが歌って踊り出す。俳優志望のミアは、渋滞に巻き込まれた車の中で台詞を練習しているが、後続の車にいたセブに煽られる。

 ミアはワーナー・ブラザースの撮影所の近くにあるカフェで働きながら俳優になる夢を目指すが、オーディションは落とされてばかりだった。セブはジャズピアニストとして古典的なジャズを楽しめる店を開くことを夢見ているが、売れない状況が続いていた。

 ある日、オーディションに落ちたミアはルームメイトに誘われて、顔を売るためにパーティーに参加する。しかしそこでも上手くいかず、さらに車をレッカーされてしまったので、歩いて帰ることにする。その途中、流れてきた音楽が気にかかりレストランに入ると、セブが演奏をしていた。オーナーと喧嘩して解雇されたセブに、ミアは話しかけようとするが無視されてしまう。

 オーディションに落ち続けていたミアは、ある日参加したパーティーで、バンドで演奏するセブを見つける。しつこい脚本家を撒くために、ミアはセブと一緒に外に出るが、自分の車が見つけられない。二人は歩いて坂の上に着くと、夕焼けの美しさに見惚れながら恋が始まる。

 ミアとセブはその後も交流を続ける。あるときミアがジャズを嫌いだと言うと、セブが本物のジャズを教えるためにクラブに連れていく。さらに『理由なき反抗』を知らないというミアを、リバイバル上映に誘う。しかし、観にいく約束の日、ミアはボーイフレンドと会食する用事を先に入れていた。仕方なく会食に向かうが、意を決してボーイフレンドと別れ、セブの元に向かう。

 映画はトラブルによって途中で終わってしまったため、映画のロケ地になったグリフィス天文台を訪れる。そこで二人は歌を歌い、付き合い始めることになる。

 二人は同棲を開始する。しかしセブもミアも仕事はうまくいかずにいた。ミアはセブの助言で、一人芝居の脚本を描き始める。セブの店名は「Chicken On A Stick」より「Seb’s」がいいとミアが主張するも、セブは譲らない。

 ある日、セブは友達のキースから、バンドの誘いを受ける。そのバンドは古典的なジャズではなく、先進的で斬新な音楽だった。セブは一度は断ろうとするが、ミアが母と電話している会話の内容を聞いて、参加することを決意する。

 ミアはライブを聴きにいくと、セブの目指していた音楽でないことに気付く。しかし、バンドは人気を博し、ミアとセブは次第に雰囲気が悪くなっていく。

 セブは売れっ子になり、ツアーで各地を回っていた。ミアは一人芝居の公演に向けて、準備をしていた。

 ある日、サプライズでセブは夕飯を作りに家に帰っていた。すぐツアーに戻らないといけないセブは、ミアに一緒に来ないかと誘うが、芝居があるため断る。ミアは求めていた音楽性と違うことをしているセブに、店を開くという夢はどうするのかと問いかける。そこから二人は口論になり、ミアは外に出ていく。

 公演当日、セブは撮影の用事が入っていた。公演は人も入らず、セブも来ず、評判もイマイチだった。ミアは遅れてやってきたセブに、別れることと故郷に帰ることを告げる。

 数日後、セブの元に公演を観ていた制作予定の映画の担当者から連絡が入る。セブはミアの元を訪れ、オーディションに出るよう説得する。ミアはオーディションで、夢を追うことの素晴らしさを語る。オーディションの後、恋に落ちた坂に着き、復縁せず様子をみることに決める。

エピローグ・5年後の冬

 ミアは大女優になり、結婚して子供がいた。セブは自分の店を開き、求めていた古きジャズを奏でていた。

 ある日、夫と出かけたミアは渋滞に巻き込まれる。高速を降りて夕飯を食べることにすると、音楽に惹かれてバーに入る。そこはセブの店で、店名は「Seb’s」だった。セブは思い出の曲を弾き、二人が結ばれた並行世界の映像がダイジェストで流れる。

 曲が終わり、ミアは夫と共に店を出る。店を出る直前、ミアは後ろを振り返り、セブと目が合う。二人は目で想いを確かめ合い、それぞれの生活に戻るのだった。

解説

鬼才デイミアン・チャゼルと、『セッション』と『ラ・ラ・ランド』の評価

 2014年、弱冠29歳の映画監督デイミアン・チャゼルは世界を大いに沸かせた。ジャズドラマーの音大生と鬼教師の罵詈雑言が飛び交う奇妙な関係を描いた映画『セッション』が公開されたのだ。この映画には、音楽の真髄が描けていないなどの批判がなされたものの、大半は好意的に受け止め、一部は絶賛し、アカデミー賞では作品賞を含む5部門にノミネート、3部門で受賞した。

 そんな鬼才デイミアン・チャゼルが次に制作したのが『ラ・ラ・ランド』(2016年)である。本作は、ロサンゼルスで女優を目指すミアと、古き良きジャズを流す店を開くことを夢見るセブの恋愛を描く。

 前作とは雰囲気をガラッと変えてきたのだが、それにも増して高く評価された。第89回アカデミー賞では史上最多タイの13部門でノミネートし(1950年の『イヴの総て』と、1997年の『タイタニック』が同数ノミネート)、監督賞を含めて6部門を受賞した。世界各国で絶賛の嵐である。

ダイナミックなミュージカルが魅力的

 ミュージカル映画の傑作を継承しつつ、デイミアン・チャゼルの趣味嗜好を盛り込ませたところが、本作の最大の魅力である。特に、渋滞に巻き込まれた運転手がダンスに歌う冒頭の場面は、ダイナミックで心が踊った。夕焼けの綺麗な坂の上で、二人が踊るところもカットを挟まずリズミカルでなかなか良かったし、終盤の並行世界で二人が抱き合った後に、周りにいた人たちが指パッチンでリズムを取って祝福してくれる場面も私の好みだった。

 また、ミアがオーディションに通い続け、多種多様な役柄を演じている場面もグッときた。報われない、けど、やるしかない。顔を売るためにパーティーに参加してみたものの人脈は広がらない。話しかけてくるのはしつこくてウザい脚本家くらい。しかも、脚本から公演まで自力で準備した一人芝居は、「大根役者だったな」という顔の見えない声によって一笑される。この公演を観た担当者によってミアは映画のキャストに選ばれたのだから、彼女の演技が問題なのではなく、大根役者と評価した匿名の目が節穴だったのだが、もうたくさんだ、となって実家に帰るのも無理はない。自信もない、誰も助けてくれない、人も来ない、恋人はクズ、それでも大女優になったのだから、努力が実を結んで大変喜ばしい。

考察・感想

夢に敗れて恋愛が成就する前半と、夢を掴んで破局に向かう後半の、鏡写の関係

 この物語は構造的に、前半と後半に分けることができる。前半は金がなく夢を追い続けるが故に恋愛が成就する物語、後半は金が手に入り夢を追わなくなったがために破局する物語。夏の終わりから秋の初めの頃が恋愛のピークで、大体そこらへんで上映時間の半分に当たる一時間くらいが経過している。

 前半と後半は鏡写の関係にある。前半ではミアがセブの元に駆けつけていたが、後半ではセブがミアを鼓舞するために会いにいく。恋愛の始まりとなるロマンチックな坂の上は、後半になると未来を見据え破局を決定づける場所に変わる。他にも幾つもの対応関係があって、よく練り込まれた作品だと思う。

 ところで、セブは現代日本で言うところの、バンドマンというやつである。オレいけるっしょ、という無根拠な自信と、好きなものに対する異常な拘り。ジャズ好きに対して「ジャズは嫌い」というミアもどうかと思うが、待ってましたとばかりにコアな音楽を聴かせようとするセブも嫌なやつである。その後も『理由なき反抗』を後学のためと評してミアに観せようとするが、女優を目指しているミアが知らないはずがない。憶測だが、ミアはこのちょっとヤバい男に合わせて、知らないフリをしているのではないかと疑っている。

ありえた過去とどう折り合いをつけるか、その軌跡が人生だ

 それはさておき、ラストのシーンで私は泣いた。あり得たかもしれない過去と現在、その並行世界がダイジェスト版で展開される。出会いの場面で二人はそのままキスをして、キースの誘いを断り、ミアの公演に駆けつける。セブがミアの収録についてパリに向かい、子供を授かり、ある夜ドライブに出かける。そして渋滞の高速道路から降りて、流れてきた音楽に引き寄せられて地下にあるバーに入っていき……。

 人生を左右するような決定的な瞬間、この現在に至るまでとは違った選択をしていれば、二人が幸せに暮らせる人生がありえた。程度の差はあれど、このような瞬間を誰しもが経験している。ああしていればどうなっただろう、こうしていればよかった、と思い悩むとき、この人生とは異なった別の人生が目の前に浮かび上がる。可能性としての並行世界がそこにはあるのだ。その悩みは都合の良い妄想ではない。何故なら、その並行世界を経験することは決してできないのだから。二人は絶対に辿り着くことのできないありえた過去と現在を夢想し、その妄想を心の中でどうにか飲み込む。別れ際に見つめ合うとき、二人は互いの目の奥に諦念を認めることで、それぞれの生活に戻ることができるのである。

 実際、ありえた過去と現在に折り合いをつけることが、人生の全てである。この現在/過去とは別に、可能性としての現在/過去があり、その並行世界の現在/過去には到達できないが故に、人は人生を賭けて、この現在を肯定するよう努力する。その努力の軌跡が人生と呼ばれるのだ。

 だが、この並行世界が二人の間に存在しているわけではない、ということに注意しなくてはならない。この並行世界は、あくまでセブの夢であり妄想である。まず第一に、これはセブが弾く音楽と共にある。言い換えれば、セブがあってほしかった可能性としての過去・現在を、音楽にのせてミアに届けているということである。第二に、並行世界でおこるその後を左右する決定的な場面は、すべてセブの選択である。出会いの場面、キースにバンド加入を誘われた場面、ミアの公演の場面において新しくなったのは、どれもセブの選択であってミアのそれではない。第三に、生まれた子供を撮ったホームビデオ風の映像があるが、どれも被写体は子供とミアであって、セブが映る時はミアも映っている。即ち、このビデオを撮っているのはセブか、セブの心を理解している第三者であり、セブの視点から見た妄想の世界である。

 おそらく、ミアはセブとの過去に対して、そこまで後悔していない。というよりする場面がない。強いて言えば、公演に来なかったセブを突き放した場面だが、セブのヤバめの性格を鑑みると一緒にならなくてよかったと思っている可能性が高い。現在の夫にも子供にも仕事にも、ミアは満足しているだろう。見つめあった時の二人の笑みは、そのような認識の差異と共に理解しなくてはならない。そして、ミアを追いかけず、微笑して頷いたセブの最後の強がりに、万雷の拍手を送りたい。セブはミアのいない5年の間に、ここまで成長したのだ。

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