サイモン・ウェルズ『タイムマシン』あらすじ解説|内容考察|新たな家を見つける旅

サイモン・ウェルズ『タイムマシン』あらすじ解説|内容考察|新たな家を見つける旅

概要

 『タイムマシン』は、サイモン・ウェルズ監督によるアメリカ映画。2002年に公開。原作は1895年に発表されたH.G.ウェルズの小説『タイム・マシン』。監督はH.G.ウェルズの曽孫にあたる。『パイレーツ・カリビアン』シリーズを手掛けたゴア・ヴァービンスキーは共同監督。

 本作は原作『タイム・マシン』の2度目の映画化で、1度目は1960年に公開されたジョージ・パル監督の『タイム・マシン 80万年後の世界へ』である。内容は原作から大幅に変更されている。

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登場人物

アレクサンダー・ハーデゲン(ガイ・ピアース):科学者。タイムマシンを発明。

エマ(シエンナ・ギロリー):アレクサンダーの恋人。

マーラ(サマンサ・マンバ):未来の住人。アレクサンダーを助けてくれる。

ケイレン(オメーロ・マンバ):マーラに育てられている少年。

あらすじ

 舞台は1890年代のニューヨーク。アレクサンダーは時間を忘れるほど研究に熱心な科学者だった。彼は恋人エマにプロポーズをするも、エマは強盗に撃たれ死んでしまう。

 一度は意気消沈したアレクサンダーも一念発起し、四年の歳月を経てタイムマシンを作る。過去に戻りエマを助けようと奮闘するが、何度試してもエマが死ぬ運命を変えることができない。

 過去を改変することができない理由を探すべく未来にとぶと、そこは2030年、月への移住を進めていた。しかし月面爆発実験に失敗し、月が崩壊する。急いでタイムマシンに乗り込むも頭を殴打し、目を覚ましたら80万2701年の未来に来ていた。

 地上に住む「エロイ」という種族のマーラとケイレンに助けられたアレクサンダーは、地下に住み「エロイ」を襲う「モーロック」という種族の存在を知る。「モーロック」にさらわれたマーラを救出に向かい「モーロック」の長ウーバー・モーロックと対峙し、タイムパラドックスについて語られる。

 過去は改変できず、エマを助けることができないことを悟ったアレクサンダーは、未来でマーラたちと共に生きていくことを決意し、ウーバーと対決する。

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解説

予言的な作品+ループものの感性

 1895年に発表された原作であるH.G.ウェルズ『タイム・マシン』は、時間遡行という設定を取り入れた初期のフィクションとして高く評価されている。それまでのフィクションでも巨人や小人が現れる『ガリヴァー旅行記』や(解説はこちら:『ガリヴァー旅行記』第一篇を読む――リリパットにおける禁止の過剰について)、自分と瓜二つのドッペルゲンガーによって生活が崩壊していく『ウィリアム・ウィルソン』など(解説はこちら:ドッペルゲンガーは良心なのか – 『ウィリアム・ウィルソン』ポー)、あり得ない設定を楽しむ小説は数多く存在したが、こと「時間」となると想像力を羽ばたかせるには19世紀末まで待たなくてはならなかった。

 19世紀末の小説ということをふまえると実は不思議な点がある。従来、時間は過去から未来への一方通行であり、時間の進み方も不変かつ人に依らないと考えられてきた。その前提をひっくり返したのがアインシュタインの相対性理論である。相対性理論によれば、時間は伸びも縮みもするし時間の進み方は人に依って異なることになる。タイムマシンの原理は、時間が伸び縮みすることを理論的に解明した相対性理論を理論的支柱においている。ところが、相対性理論が発明されたのは1905年なのだ。『タイムマシン』にでてくるタイムマシンという機械は、理論的な可能性の発見以前の純粋に想像的なものだったのである。

 小説が現実を予言するということはしばしば起こる。『タイム・マシン』も時間遡行の思考実験から成り立っているが、十年後にアインシュタインが相対性理論を発表したという事実は、『タイム・マシン』の予言的側面を明らかにしているように思える。

 原作では未来世界でのドタバタが主なプロットを占めるが、本作はエマとの恋愛が重要な位置を占めている。科学者である以前に恋をするものであったアレクサンダーは、エマが死ぬという過去を改変するためにタイムマシンを開発する。しかし、ループをする中で過去を変えられないことを悟ったアレクサンダーは、答えを探すべく未来へと旅に出る。ここには、最愛の人が死んでしまう運命を変えることができないという運命に争う、ループものの感性がみられる。アニメ『シュタインズゲート』や『魔法少女まどか☆マギカ』などもこの感性の延長線上にある(シュタインズゲートには重要な装置としてタイムマシンがでてきていた)。

考察・感想

勧善懲悪な世界

 だが、『タイムマシン』のアレクサンダーはアニメのループものにいるような、ナイーブで内省的な主人公ではない。エマを救うことは無理だと悟れば、答えを探すべくすぐ未来へと旅立つ決断力のある主人公なのだ。

 人間の未来を方向付ける決定的な出来事(本作では月の破壊)を経験したあと、降り立つのは80万2701年の未来。科学技術の発展のあと、それが仇となり人間が死に絶え、自然とともに原始的な生活に戻るのはよくある話。本作では、人間が二種に分岐し「エロイ」と「モーロック」が存在するわけだが、地上/地下、善/悪、非搾取/搾取、美形/奇形と分類されているのはどうなのだろうか。善悪が綺麗に分割されている社会では敵がはっきりしていて分かりやすいが、物語に深みが失われるという欠点もあり、本作は欠点の方が目立ってしまった印象がある。

 科学技術の結晶であるVOXシステムが、機械でありながら人間性と非人間性の両方を兼ね備えているのが面白い。80万年の歳月を生き残ったVOXシステムは「モーロック」から逃げてきた「エロイ」と何年も語り合ったというエピソードは人間的な暖かさを感じさせる。ところが彼は機械なので、電子の板から動くことはできずそのかわり半永久的に生きることができる。語り部のような役割をもった彼は、最後には「エロイ」の子供達に歴史を教える教師という天職を見つけるのである。

 価値観が単調単純でそれぞれの登場人物も魅力的に描けているかは疑わしいが、最後の過去と未来が交差するシーンは良かった。エマを失ったアレクサンダーは生きるための拠り所を失った。未来への旅は、生きることをもう一度前向きにとらえるための旅であった。エマが死なない世界ではタイムマシンは生まれず、エマを助ったらなくなってしまうタイムマシンでエマを救うことはできない、というよく知られたタイムパラドックスにたいして、アレクサンダーは解決を目指すのではなく、悲しい過去を受け入れるkとおを決意する。そしてそこが未来であろうと目的を見つけ新たな生活を始めるアレクサンダーは、エマが可哀想ではあるが、とてもポジティブな生き方を提示しているようにも思える。

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