『ゲーテの恋 〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」〜』凡庸な恋|あらすじ解説|内容考察|感想

『ゲーテの恋 〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」〜』凡庸な恋|あらすじ解説|内容考察|感想

概要

 『ゲーテの恋 〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」〜』は、2010年公開のドイツ映画。監督はフィリップ・シュテルツェル。原題は『Goethe!』。

 18世紀のドイツの詩人・小説家のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテゲーテが書いた『若きウェルテルの悩み』の誕生にまつわる伝記映画。ただし、史実と異なる点も多い。

 フィリップ・シュテルツェルはほかに『アイガー北壁』『千年医師物語 ~ペルシアの彼方へ~』で監督を務めている。

 恋愛映画はほかに『華麗なるギャツビー』『ジョー・ブラックをよろしく』『容疑者Xの献身』などがある。

登場人物

ヨハン・ゲーテ (アレクサンダー・フェーリング):詩人。作家志望。父の意向で、ケストナーのもと裁判所で働く。

シャルロッテ・ブッフ(ミリアム・シュタイン):街の舞踏会でゲーテが出会った女性。二人は恋に落ちる。

アルベルト・ケストナー (モーリッツ・ブライプトロイ):ゲーテの上司。参事官。シャルロッテと婚約する。

ヴィルヘルム・イェルーザレム(フォルカー・ブルッフ):ゲーテの親友。裁判所の同僚。人妻に恋をするが破局する。

シャルロッテの父(ブルクハルト・クラウスナー):家庭の貧困を救うために、シャルロッテとケストナーの結婚を画策する。

ゲーテの父( ヘンリー・ヒュプヒェン):法律家。ゲーテに跡を継がせたい。

あらすじ

 舞台は1772年のドイツ。23歳のヨハン・ゲーテは、作家志望であり詩作に励んでいた。その熱心さのあまり法学のテストに落ちてしまい、枢密顧問官の父に叱られる。

 応募していた詩が認められることはなく、父の勧めに従って地方のヴェッツラーで、最高法院の実習生として働き始める。上司の参事官ケストナーは、ゲーテを毛嫌いし無理難題を押し付ける。

 田舎の質素の生活に草臥れたゲーテは、親しくなった同僚のイェルーザレムと共に舞踏会に出掛ける。そこで、美しく溌剌とした女性のシャルロッテと出会い、急速に親しくなる。シャルロッテは地方役人の娘で、母は亡くなり、貧しいなか幼い兄弟の面倒をみていたのだった。

 一方で、裕福な家が出身のケストナーもシャルロッテに恋をする。シャルロッテがケストナーと結婚することで家が救われると喜んだ父は、二人の仲を近づけようと奮闘する。しかし、ゲーテとシャルロッテの恋は日に日に深まっていく。

 ケストナーの恋心を知らないゲーテは、彼に助言を与えてしまう。お金と愛の間に挟まれたシャルロッテはケストナーとの婚約に同意し、ゲーテは深い悲しみに落ちる。

 その横で、イェルーザレムは人妻に恋をする。駆け落ちまで計画していたイェルーザレムであったが、急にフラれてしまう。ひとりで生きていくことに意味を見出せないイェルーザレムは自殺をする。

 ゲーテとの仲を知ったケストナーは決闘を申し込む。そこでゲーテを策略にはめて牢屋に入れてしまう。ゲーテは、恋愛と友人の死から『若きウェルテルの悩み』を書き上げてシャルロッテに送る。それを読んだ彼女はゲーテと再会するも、ケストナーと共に生きることを伝える。

 ゲーテは父に連れられて故郷に戻る。その途中、『若きウェルテルの悩み』が売られていて人集りができているのに遭遇する。『若きウェルテルの悩み』は出版されて一夜にして、ゲーテの名を世間に轟かせたのだった。

解説

『若きウェルテルの悩み』をめぐる誕生秘話

 ゲーテといえば『若きウェルテルの悩み』(1774年)を思い出す人も多いだろう。愛と死がテーマのこの本は当時のヨーロッパに大旋風を巻き起こし、主人国のウェルテルを真似て自殺する若者が急増するなどの社会現象を引き起こした。失恋の悲しみは自殺を踏み切らせる。恋愛とはそれくらい、真剣で、破滅的で、情熱的なものだと多くが共感し思いを馳せ、そしてそれだからこそ人は恋に落ちるのだ。

 『若きウェルテルの悩み』はゲーテの実体験を基にして執筆された。友人となるカール・イェルーザレムとヨハン・クリスティアン・ケストナーとの出会い、シャルロッテ・ブッフとの恋、シャルロッテとケストナーの婚約、イェルーザレムの死、それらを掛け合わせ文学作品に昇華させて出来上がったのが『若きウェルテルの悩み』である。

 そして本作『ゲーテの恋 〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」〜』が描くのは、『若きウェルテルの悩み』の基となった実体験のほう、つまり『若きウェルテルの悩み』の誕生をめぐるゲーテの人生である。

 『若きウェルテルの悩み』では、ウェルテルは失恋の悲しみのために自殺する。ことことからゲーテはウェルテルのように恋愛に命をかけて自殺してしまうような熱い人物だと、なんとなくイメージしていた。だが、よくよく考えてみればわかるように、ゲーテはそのような人物ではない。ゲーテが失恋で自殺してしまうような人物ならば『若きウェルテルの悩み』は書かれるはずがないからだ。ゲーテは普通の人物だった。普通だったからこそ、友人の死に感化されて『若きウェルテルの悩み』を書き上げることができた。本作は、(恋愛に関しては)凡人ゲーテによる、ゲーテが理想とする、破壊的な愛の指南書である。

 ちなみに本作は、主人公のアレクサンダー・フェーリングとミリアム・シュタインの演技が素晴らしいのに加えて、舞台セットや雰囲気に凝っていて、そこも魅力的である。

考察・感想

凡人ゲーテだからこそ見えるものがある

 ゲーテはチャラい。どちらかというと、相手の目を見ることも喋ることさえままならないケストナーを応援したくなってしまう。その点、ゲーテは遊びなれているせいか、ケストナーへの助言も的確だ。相手が文学好きとみるや否や、ロマンチックなセリフを思いつき実践するように勧める。ゲーテの脳内は法律より詩、仕事より恋愛に覆い尽くされている。

 とはいえ、ゲーテが凡人であることは疑い得ない。ゲーテは『ロミオとジュリエット』の二人のように命を賭けることはしない。シャルロッテとケストナーの婚約を知ると、逃げるように家を出てしまう。困難が訪れとき、愛のために乗り越えようとする意志が欠けているのだ。ケストナーとの決闘も、彼の凡さを証明している。そもそもケストナーと対峙してなお彼には覇気すら感じられず、当然のように銃弾を外す。ゲーテは人を殺すのも、殺されるのも怖いのだ。

 一方で、友人のイェルーザレムは、失恋したあとに「ひとりでは生きていく意味がない」と言って自殺を図る。この二人はなんと対称的なことか。ゲーテはイェルーザレムの姿にある種の憧れを抱いたに違いない。だからこそ、自分をモデルにした主人公ウェルテルに、イェルーザレムのような自殺をさせたのである。

 イェルーザレムに憧れ小説の主人公ウェルテルにまでさせた自殺を、ゲーテは現実にやろうとすることで恋愛の破壊的な魔力と失恋の絶望に浸ろうとする。ところが、彼は銃を持ってなお、震える手を抑えることができない。銃の引き金にかけた指は、すぐにでもその事実を否定しようとするかのように、パタパタ動き続ける。彼は最初から死ぬ気などないのだ。

 父に連れられて実家に戻る途中、知らない間に出版された『若きウェルテルの悩み』の大盛況ぶりを知る。意気消沈していたはずのゲーテは、人の感性に思わず笑みが溢れる。彼は一夜にして人気作家になったのだ。ゲーテのサインを求めて群がる人たちに押される形で座った車の上で、嬉しそうにサインをするゲーテの背後に、自殺したイェルーザレムと愛を誓ったシャルロッテの姿がみえることはない。驚くほどの凡である。しかし、凡であるから書けたのだ。駆け落ちもできず、殺すこともできず、死ぬのが怖かったから『若きウェルテルの悩み』が誕生したのだ。凡人だからこそ書ける世界がここにある。

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