東京オリンピック2020/開会式で私たちは何を見たのか③

東京オリンピック2020/開会式で私たちは何を見たのか③

 いつの間にか七月が始まっている。当初、7月23日、東京オリンピック2020開会式の行われた日を目標に書き終える予定であったが、なかなか物事は計画どおりに進まないものだ。

 前回と同じく、評価基準は以下のとおりとする。

  • ①技術点…パフォーマンスに優れた技術が使われているか。
  • ②演出点…パフォーマーやコンテンツの魅力が十分引き出されているか。
  • ③構成点…開会式全体の流れや、調和が取れたものになっているか。
  • ④独自点…世界の中で日本の固有性を伝えられるものになっているか。
  • ⑤ゼロ点…0(ゼロ)をアピールできているか。

ポイントは5(とてもよくできている)4(よくできている)3(少しできている)2(普通)1(全くできていない)の五段階。

各セクションの番号はこのシリーズの記事を通して振ることとし、
開始時間やスクリーンショットはyoutubeにアップロードされている、
Olympics.”The Tokyo 2020 Opening Ceremony-in FULL LENGTH!”.による。

4.令和天皇臨席、日本国旗入場と掲揚。(0:25:31〜0:32:47)

【内容】
IOCバッハ会長の案内で令和天皇臨席。日本国旗入場。国旗は老若男女多様な過去のメダリストおよび、ドラマーの酒井響希氏、(男女で襟の合わせが逆になっている長袖のデザイン。)救急隊員のアサバミズキ氏(救急隊員の制服着用)に運ばれる。前を歩く8人の子供たちは袖の長さとボトムスのデザインが異なる。
 掲揚台に上がる直前で、国旗は自衛隊員に渡され、軍隊の行進のように規律正しく掛け声をかけながら、一歩ずつ全員足並みを揃え、段を上がっていく。
 自衛隊員の代表者が日本国旗を掲揚する。虹色の衣装を着た歌手のMISIAが君が代を歌う。

①技術②演出③構成④独自⑤ゼロ
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【講評】
 構成は可もなく不可もなく、開会式として導入となるセクションから、式典の中心になる典型的なセクションへと移る部分と考えられる。内容的に、日本独自の物しか使わないので、独自点は最高点をつけた。
 天皇臨席の際、IOCバッハ会長が案内、と紹介されていたが、令和天皇と逆側から入場して席の中央で並ぶのは「案内」しているのかよく分からない。

 さて、このセクションの演出に関して、以下のとおり多様性の尊重を意識している点が見られる。
・国旗を運ぶメンバーにメダリストだけでなく、ドラマーや救急隊員を入れる。
・国旗は大人が運ぶだけでなく、子どもが先導する。
・ユニフォームのデザインは一つではない。

 一転、自衛隊員が国旗を引き受け、その代表者が掲揚するという流れは、単純に、多様性の尊重を否定しているように見えると思うのだが、それは演出の意図どおりなのだろうか。

 君が代独唱については、歌唱力の技術点が評価できる。衣装の色が虹色なのは、セクシュアリティの多様性にスポットライトを当てる意図だろう。君が代のメロディはMISIA氏の楽曲を思わせるアレンジがされている。

 このセクションに関しては、始まるタイミング及び終わるタイミングで、特に意味もなく競技場の全景が映されており、ゼロをアピールする意図がしっかりと感じられる。

(筆者メモ:国旗を運ぶ際、メンバーの左手に二名一緒に歩いてきているのはスタッフ?何の為の?)

5.死者の追悼(0:32:47〜0:36:30 )

(男性の声で場内アナウンス)

As we join together here in the olympic stadium across japan, and around the world .
Let us all take a moment to remember all those friends and loved ones who are no longer with us.
In particular, because of the covid-19 pandemic they were forever have a special place in our hearts.
We, the olympic community, also remember all the olympians and the members of our   community who have so sadly left us.
In particular, we will remember those who lost their lives during the olympic games.
One group still hold a strong place in all our memories and stand for all of those we have lost at the games.
The members of the Israeli deligation at the olympic games Munich, 1972.

森山未來氏のダンス(0:33:49〜)
 照明の色が青から白へ変化。舞台中央にうずくまる森山氏。立ち上がれず砂埃が舞い、水音が聞こえる。
 森山氏にスポットライトが当たり、身体が立ち上がり始める。(0:34:15)髪型はオールバック、眉毛は剃られている。白い法衣?袴?のような衣装の上に、オフホワイトの薄い生地、端は切りっぱなしのローブを羽織っている。トップスはローブと同じ生地のノースリーブ。裸足。
 スタジアム上階の通路部分?に黄色い光が流れる映像が映される。腕を広げて一回転した後、両手を上に捧げるような動きをし、飛び跳ねて床に片膝をついて四回横向きに着地する。その後一回正面を向いて着地。手を使わず上体をゆっくりと傾けていき、最初のうずくまったポーズに戻る。(〜0:35:38)

For all those we have lost, we invite everyone around the world to respect a moment of silence wherever you are. And for all of us here in the stadium, we invite you to stand for this moment of silence.
黙祷
来賓席を照らしていたライトが暗転、五輪のマークだけが点灯し浮かび上がる。

①技術②演出③構成④独自⑤ゼロ
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【講評】
 どう考えても、森山氏の身体能力は尋常ではない。あんなダンスは誰もできない。飛び上がって膝をつく形で着地してみてほしい。あなたの膝はただでは済まないはずだ。技術が高いことは疑いようがない。
 余白の美という言葉があり、多ければ多い方がいいとは筆者も思っていない。広いスタジアムの中、孤独な死者の魂を演出するのは悪くはないのではと思うが、9つのユニットからなる舞台を照らしてしまうと、どうにも小ささが目立つ。どちらかというと、スモークを焚いたりして、スタジアムの大きさに舞台を馴染ませてしまう方が、より印象的で良かったのではないか。
 また、このセクションでは急に、アナウンスが英語のみになる。
 死生観や死者の追悼に対する日本の文化は反映されていない。

 わざわざ色味も異なり、舞台との絡みもない黄色い光の流れを、スタジアムの形状に沿わせて写しており、ゼロ点は高い。
 余談ではあるが、上階部分を活用することができるのなら、記事②で取り上げた、プロジェクションマッピングのパフォーマンスの際にもう少し活用すれば良かったのではないか。

続く

<参考>

Olympics.”The Tokyo 2020 Opening Ceremony-in FULL LENGTH!”.2022/4/14.

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