東京オリンピック2020/開会式で私たちは何を見たのか②

東京オリンピック2020/開会式で私たちは何を見たのか②

 前回と同じく、評価基準は以下のとおりとする。

①技術点…パフォーマンスに優れた技術が使われているか。
②演出点…パフォーマーやコンテンツの魅力が十分引き出されているか。
③構成点…開会式全体の流れや、調和が取れたものになっているか。
④独自点…世界の中で日本の固有性を伝えられるものになっているか。
⑤ゼロ点…0(ゼロ)をアピールできているか。

ポイントは5(とてもよくできている)4(よくできている)3(少しできている)2(普通)1(全くできていない)の五段階。

 各セクションの番号はこのシリーズの記事を通して振ることとし、開始時間やスクリーンショットはyoutubeにアップロードされている、
Olympics.”The Tokyo 2020 Opening Ceremony-in FULL LENGTH!”.による。

3.媒介を“見える化“する(0:18:11〜0:25:22)

【内容】

 暗闇の中、一人でランニングマシンで走る選手に、スポットライトが当たる。続いて二人、離れた場所でトレーニングをしている選手の姿が浮かび上がる。(エアロバイク、ローイングマシン)
 ランニングマシンからは足跡、エアロバイクからは風の軌跡?、ローイングマシンからは波のような白い光を、プロジェクションマッピングで表現。(画像①)

 三方向からさらに複数のパフォーマーが入場。パフォーマーたちも3人の選手と同じようにトレーニングを始める。光は白単色から模様と色を変える。(19:00)
 ハープの音が入り、光が弾け、波紋のように広がる。光の広がりはスタジアム全体に展開する。三つのトレーニングマシンそれぞれから出ていたカラフルな光の模様は、入り混じって花が開くようにスタジアム全体に散らばる。(19:32)それらと弾ける光の波紋が重ね合わされていく。(画像②)

 鈴の音?と共に、パフォーマーからパフォーマーへボールをパスしたような動き。(20:11)
ボールを追いかけて、弾ける白い光の軌跡が追いかける。白い光のパスはどんどん他のパフォーマーへつながっていく。最初は投球、次はテニスラケットで打ち返したような動き、(画像③)
 その次はバットで打ったような動き、と変わっているように見える。(画像不鮮明で正確に追えず。)

 パスされていた白い光は弾け、スタジアム全面がカラフルなドット模様に。小さなドットはスタジアムの対角線上に集まっていく。ドットが集まる線上の始点には走り続ける選手。
 走り続ける選手に、再びこのパフォーマンスの始まりと同じように白くスポットライトが当たる。スポットライトを横切ってスタジアム全体を走るように映されていたカラフルなドットはフェードアウト。

 光の色が次第に赤みを帯び、このパフォーマンスの間中ずっと走っていた選手もランニングマシンを降りる。そのままランニングマシンに腰掛け、項垂れるような仕草。
 ピアノの音が入った瞬間に、今まで選手と同じように走っていたパフォーマーたちが行進のように整然と歩き出す。(21:38,画像④、⑤)

 琴?とピアノの音楽が入る。プロジェクションマッピングは赤単色で、交差し、重なり合う、ピンと張られた糸のような模様を映し出す。(21:39,画像⑥)

 糸の密度が一番高い部分に赤いドレッドヘアのような髪型の四人のパフォーマー(白をベースとし、赤い線の模様が入っている。パフォーマーは肌まで衣装と同じように白く化粧している。)全体の光が赤から青へと変わり、四人のパフォーマーは他のパフォーマーたちの方へ向かって歩いていく。
 四人を1ユニットとして、大きな赤い紐でプロジェクションマッピングが写している糸のような模様を現実にも作り出す。(ユニットを構成するパフォーマーの衣装は、赤い線の模様が無い。髪型は白の房のよう。)(画像⑥)

 プロジェクションマッピングの一部が紐として実体化したようだったが、白いパフォーマーたちが紐で作る四角形から投影された影が、網のように周りへ広がる。(23:23)
 ぐにゃぐにゃと曲がり、線の密度が高くなり、曲がっているように見えていた線は直線の重なりに回帰。(パラメーターをどんどん変えてグラフシミュレーションを行うよう。)(画像⑦)

 光の色調が赤く変わる。影の投影は再び網のようになり、音楽に合わせながら万華鏡のように模様を変える。(23:33)
 紐ではなくパフォーマーたちの影にフォーカスが移っていく。交差し、重なる影。(画像⑧)

 赤ドレッドの四人がパフォーマンスの輪から抜ける。スタジアム全体が赤くなり、白い光の流れが集まり、ランニングマシンに腰掛けていた選手の方に向かっていく。白い光の起点がパフォーマーから選手に移動。(23:54,画像⑨)

 選手は再び顔をあげ、ランニングマシンに戻り、走り出す。ランニングマシンから白い光が放射状に伸び、パフォーマーたちは円形ではなく光の線上に配置。(画像⑩)

 冒頭と同じく、白いスポットライトがランニングマシンで走る選手に当たる。背後にはパフォーマーたち。選手に背を向け、一人残して退場していく。

①技術②演出③構成④独自⑤ゼロ
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【講評】

 このセクションのテーマは「媒介」だと考えられる。選手たちを媒介するものを光やパフォーマンスで表現し、可視化している。コロナ禍で断絶されていても、スポーツが人々をつなぐ。というメッセージだろう。

 前半では、プロジェクションマッピングの光の模様が競技の練習を行う人々の媒介となっていた。ランニングマシンとエアロバイクとローイングの三つがセレクトされていたが、途中から多種多様な競技が急に登場する。
 色々な競技を拾いたいのか、拾わずにスポーツの基本として走ることにスポットを当てたいのかが不明。

 少しミステリアスな雰囲気の後半に入る瞬間、さっきまで一生懸命に一緒に走っていた仲間たちが、急に真顔で整然と歩き出すのは少しどきりとする。
 赤い紐、赤ドレッドの四人が媒介となり、赤い光の中でパフォーマンスを展開していく。赤、赤、赤。赤で媒介と言えば、筆者は赤血球を連想する。選手が運動する際の、躍動する血流の表現だろうか。

 後半では、パフォーマンス自体の技術は高いのだろうと思われるし、ミステリアスな雰囲気は印象には残るが、セクション全体として何だったのか、やはり分かりにくい。テーマは前セクションと若干重複しており、「離れていても繋がっている」をほぼ同じやり方で表現しているところが、構成としても甘い。

 一般的に、プロジェクションマッピングには立体的で大きなもの(例えば建物など)に映像を投影できる利点があると思うが、このパフォーマンスではゼロで囲まれたグラウンド部分しか使われていない。(プロジェクションマッピングの光はグラウンド部分の端で切れている。)
 今回、無観客なのだから、観客席や屋根まで使い放題だったはずなのだが、平面的にゼロの形の中で綺麗に収めていたのは、本記事の評価基準においては高評価であるが、少し残念に思った。

続く

<参考>

Olympics.”The Tokyo 2020 Opening Ceremony-in FULL LENGTH!”.2022/4/14.

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