アルケーの意味
ギリシャ語で書くと ἀρχή(アルケー)となる。アルカイックという言葉の語源でもある。
LSJ(古希英辞書)だと基本義として「biginning」「origin」と出てくる。日本語に訳せば「根源、起源、始まり、発端」など訳されることになるだろう。始まりとか起源とか言っても通じないので、「アルケー」と言ってしまうことも多い。
狭義には「first principle, element」という意味がある。「origin」とおそらく同じような意味だが、ここではつまり哲学的な意味での第一原理や根源という意味を指している。そしてこの言葉を使用した最初の人が、古代ギリシアの哲学者アナクシマンドロスであるとされている。
著作読解
「第一原理」という意味でのアルケー
アルケーという言葉を最初に使ったのは、シンプリキオスによればアナクシマンドロスであるらしい。しかしその意味はいまいち判然としない。というのも一般的な意味では、他の人も使っていそうだからである。おそらく哲学的な意味で使用したのはアナクシマンドロスが最初、という意味なのではいかと推察される。
さてそれではそのアナクシマンドロスがアルケーという言葉を使った原典を見てみよう。古代ギリシアの哲学者の断片がまとめられているのは『ソクラテス以前哲学者断片集』しかない。
存在する所持物の元のもの(アルケー)は、無限なるもの(”τὸ ἄπειρον“(ト・アペイロン))である。・・・存在する諸事物にとってそれから生成がなされる源、その当のものへと、消滅もまた必然に従ってなされる。なぜなら、それらの諸事物は、交互に時の定めに従って、不正に対する罰を受け、償いをするからである。
『ソクラテス以前哲学者断片集 第1分冊』181頁。
ただし注によれば、前半部分はアナクシマンドロスの著作からの引用ではなく、内容を要約したものだろうとされている。そうだとすると、実際はアナクシマンドロスが最初の人だと断定できないということになる。
アナクシマンドロスでは、アルケーが「無限なるもの」であるとされている。これは、それまでの自然哲学者が「水」だとか「火」などの物質的要素をアルケーとしていたのに対し、それらを超えた非物質的なところをアルケーとしたということである。ここがアナクシマンドロスの哲学の特徴的な部分である。
なお万物の根源を「水」としたのがタレスであり、万物の根源を「火」としたのがヘレクレイトスであり、「空気」だとしたのがアナクシマンドロスの弟子アナクシメネスである。
「始め」という意味でのアルケー
他にもアルケーという言葉は至る所で使われている。『七十人訳聖書』と呼ばれるギリシア語訳の旧約聖書の「創世記」冒頭を見てみよう。
始めに神は天と地を作った。
Septuaginta(LXX),Genesis1.1
“Εν ἀρχῇ(アルケー) ἐποίησεν ὁ θεὸς τὸν οὐρανὸν καὶ τὴν γῆν.“
最初の部分を「始めに」と訳すのか「冒頭」と訳すのかなどそういった議論は尽きないわけだが、とりあえずアルケーという言葉をここでは使用している。
新約聖書の「ヨハネによる福音書」の冒頭を見てみよう。
始めに言葉があった。
Novum Testamentum Graece,John1.1
“Ἐν ἀρχῇ(アルケー) ἦν ὁ λόγος.“
ここも創世記の冒頭と全く同じ形でアルケーが使われている。「始めに言葉があった」という有名な箇所なのだが、この「始めに」の部分も「エン アルケー」である。要するに、探そうと思えばアルケーという言葉は結構簡単に見つかるということである。