ハンナ・アーレントを学ぶためにおすすめの本
アーレント哲学を学ぶといってもいろいろな段階があるので、入門編から上級編まで人気おすすめ著作を紹介することにした。
アーレント哲学を楽しみながら知りたいという人は入門編、アーレント哲学を深く知りたいという人は上級編の著作から読むべしだ。自分のレベルに合わせて読んでみることをお勧めする。
他に、プラトン、アリストテレス、アウグスティヌス、ハイデガー、ベンヤミンのおすすめ入門書・解説本・著作を紹介している。
また、「ユダヤ教・ユダヤ思想のおすすめ入門書・解説書」「本格的な人向けおすすめ世界の哲学書」も紹介している。
ぜひそちらもご覧ください。
超入門編
「ハンナ・アーレント」(映画)
本当に本当の入門として映画から入ってみるのはどうだろうか。
本映画では、アーレントが元ナチス高官アドルフ・アイヒマンの裁判の傍聴記事を執筆・発表し、大論争を巻き起こす過程を追う。
アーレントの生き様を映像で鑑賞したい人におすすめ。
入門編
牧野雅彦『今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢』(2022年)
ざっとアーレントの思想を知りたい場合はこれ。「今を生きる思想」シリーズのハンナ・アレント編である。
入門書の中では一番コンパクトな本となっている。
副題にもある通り、ハンナ・アレントの全体主義に関する考察を概観し、現代への応用の可能性を試みている。
中山元『アレント入門』
数多くの哲学書の翻訳(カント、ルソーなど)を手掛け、フロイトの入門書も書いている中山元氏のアーレント入門書。
この入門書ではアーレントの主要三著作『全体主義の起源』『人間の条件』『イェルサレムのアイヒマン』に焦点を当てる。
アーレントの思想をざっと読み解くには最適の入門書である。
矢野久美子『ハンナ・アーレント 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』(2014年)
ハンナ・アーレントに関する研究書も出版している矢野氏による入門書。
本書は、特にアーレントの生涯を時期別に分けながらその思想を追っていくというスタイルに特徴がある。
ハイデガーとの出会いからアメリカへの亡命、そういったところからアーレント思想を知りたい人は本書がおすすめである。入門書にしてはかなり詳しい。
『人と思想 ハンナ・アーレント』
おなじみ「人と思想」シリーズのアーレント編。アーレントの生涯(とりわけ前半)を概観したあと著作ごとにその思想を見ていく。
扱う著作は『全体主義の起源』や『人間の条件』『イェルサレムのアイヒマン』など。一般的な入門書である。
森分大輔『ハンナ・アーレントーー屹立する思考の全貌』(2019年)
アーレントの主要作品を西洋政治思想史の観点から順を追って解説するのところに特徴がある。
処女作『アウグスティヌスの愛の概念』から解説が始まるので、アーレント思想を総体として理解することができるおすすめの一冊である。
この入門書も入門書にしては結構詳しい。
上級編
仲正 昌樹『今こそアーレントを読み直す』(2009年)
章立てが「悪」や「自由」など、アーレントにとってキータームとなる主題を取り上げて彼女の思想を抽出する構造になっているので非常に分かりやすい。
ただ、アーレントの解説が主なのではなく、アーレント思想を辿りながら現代を見つめ直す試みとなっているので上級編に入れておいた。
『アーレント読本』
「読本」シリーズのアーレント編。アーレントにおける基本概念から、現代世界におけるアーレント、さらには著作解題までアーレントマップとして使うにはかなり便利な著作である。
アーレントに関してより深く探究しようと思った場合は非常に使い勝手の良い本となっている。
著作
ここからは著作の最新翻訳状況や執筆背景を紹介していきたい。興味のあるものから手に取って読んでみることをお勧めする。
『全体主義の起原』大久保 和郎訳
第二次世界大戦におけるナチズムやスターリニズムよって全体主義の未曾有の暴力が明らかとなった。その脅威を1940年代後半から分析し、1951年、その成果として本書を発表する。
三部構成であり、第1部:反ユダヤ主義では、ヨーロッパにおける反ユダヤ主義の歴史的発展と、それが全体主義の基盤となった過程を追っていく。
第2部:帝国主義では、19世紀の帝国主義が、国民国家の枠組みを崩し、全体主義の条件(無国籍者、官僚制、植民地支配)を生み出した過程を論じていく。
そして、第3部:全体主義では、ナチズムとスターリニズムの共通点(イデオロギー、プロパガンダ、テロル、強制収容所)を分析し全体主義の特異性を明らかにする。
2017年にみすず書房から新版が登場。三部構成に合わせて翻訳も3巻本である。
『人間の条件』牧野雅彦訳(2023年)
1951年『全体主義の起源』で全体主義を分析したアーレントは、次にこの全体主義の危機に対する応答として、公共的領域や政治的行為の重要性を再評価しようとする。
そこで1958年に発表されたのが『人間の条件』である。
本書では、人間の能力を「労働」「仕事」「活動」の三つに分け、それぞれの特性と意義を分析する。
いくつか邦訳があるがこれが新訳。「人間の条件」というのは英語版での題名であり、ドイツ語版だと「活動的生」という題名となる。そちらの方は2015年に出版されている(『活動的生』森一郎訳、みすず書房)。
『革命論』森一郎訳(2022年)
『人間の条件』(1958年)で人間の能力を「労働」「仕事」「活動」に分け、「活動」と複数性(plurality)が政治的公共性の核心であると論じた彼女は、革命において「活動」が公共的領域を創出する可能性に着目する。
そして、1961年『革命論』を発表。本書では全体主義の対極にある政治的自由の可能性を、革命という歴史的出来事を通じて探求する。
翻訳は文庫版( 志水 速雄訳、ちくま学芸文庫、1995年)もあり。題名は『革命について』となっている。
『エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】』 大久保和郎訳(2017年)
アーレントが1963年に出版した著作で、ナチス・ドイツのホロコーストの主要な実行責任者の一人、アドルフ・アイヒマンの裁判をめぐる報告書である。
1961年、アーレントは『ザ・ニューヨーカー』誌から裁判の特派員として派遣される。
彼女は裁判を直接傍聴し、膨大な裁判記録、警察尋問調書、証言を基にレポートを作成。連載は1963年2月から5月にかけて掲載され、これを基に同年本書が書籍化された。
悪の「陳腐さ」(banality)という概念を提唱し単なる裁判報告を超えた哲学的考察を加えたものでも有名である。
出版後、ユダヤ人コミュニティから激しい批判を浴び、一大論争を巻き起こした。












