概要
『不思議の国のアリス』は、1865年刊行のイギリスの児童文学。作者はルイス・キャロル。本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドドソン。数学者であり小説家。オックスフォート大学で教鞭をとる。原題はAlice’s Adventures in Wonderland。 続編は1871年に出版された『鏡の国のアリス』。
「アリス」のモデルはアリス・リデルという少女。キャロルの上司である学寮長ヘンリー・リデルの三姉妹の次女である。彼女のために即興でつくった物語が元となっている。1862年ごろに『不思議の国のアリス』が誕生、知人の好評もあり1865年に出版された。
7歳の少女アリスが迷い込んだ不思議の国で、個性豊かなキャラクターたちと出会い冒険する物語。
海外文学はほかにカフカ『変身』、ル=グウィン『オメラスから歩み去る人々』、魯迅『故郷』、クンデラ『存在の耐えられない軽さ』、カミュ『異邦人』などがある。
本作は「イギリス文学のおすすめ小説」と「海外小説のおすすめ有名文学」で紹介している。
登場人物
アリス:7歳の少女。白ウサギを追いかけるうちに不思議の国に迷い込み、様々な登場人物に出会いながら冒険をする。モデルはアリス・リデル。
白ウサギ:アリスを不思議の国に誘う。臆病で慌てもの。作中を通して多くの場面で登場する。
ネズミ:二章と三章に登場。アリスに長い「尾話」(尻尾の形をしている)をする。
ドードー鳥:第三章に登場。アリスの涙の池からあがったあと、動物たちとレースを始める。
イモムシ:第五章に登場。水煙管を吸っている。堅物でぶっきらぼうな口を聞く。
公爵夫人:第六章に登場。会った時から不機嫌で、赤ちゃんの子守をアリスに任せる。赤ちゃんのことをお構いなしに行動するので、アリスは赤ちゃんを避難させる。
チャシャ猫:第六章と第八章に登場。常に笑っている。本作でも人気のキャラクター。八章では頭だけで登場しハートの女王を撹乱する。
三月ウサギ:第七章に登場。帽子屋と共にお茶会を開いている。チャシャ猫に狂っていると評される。アリスに空のワインを勧めたり、言動がおかしかったりする。
帽子屋:第七章に登場。三月ウサギと共にお茶会を開いている。チャシャ猫に狂っていると評される。ハートの女王の死刑宣告以来、時間が六時で止まりずっとお茶会をしている。
ハートの女王:第八章に登場。トランプのハートの女王。癇癪もち。「首を刎ねろ」が口癖。しかしトランプの王様が罪人を解放しているので、処刑されたものはいない。
あらすじ
第一章 ウサギ穴をおりると :アリスは川辺で姉と読書をしていた。退屈していると、服を着た喋る白ウサギが目の前に現れ、白ウサギを追いかけて穴に落ちる。長い時間をかけて落ちた場所はテーブルと扉のある広間で、奇妙な小瓶が置いてあった。飲むと体が小さくなり、テーブルに置き忘れた鍵を取れなくなってしまう。
第二章 涙の池:次にケーキを食べると体が大きくなり、アリスは泣き出し涙で池ができてしまう。白ウサギの落とした扇子の力で小さくなると、池にはネズミや動物たちが泳いでいた。
第三章 堂々めぐりと長い尾話:濡れた体を乾かすため、動物たちは円を回るレースをするが勝負はつかない。アリスが飼っていた猫の自慢話をしてしまうと、猫に食われるネズミや鳥たちが逃げ去ってしまう。
第四章 ビルのおつかい:戻ってきた白ウサギとやりとりを交わす。大きくなったり小さくなったり試行錯誤したあと、脱出に成功する。
第五章 イモムシの入れ知恵:森でキノコの上に座るぶっきらぼうな口をきくイモムシに出会う。一方のキノコを齧れば大きくなり、もう一方は小さくなると言い消える。アリスは調整しながら、見つけた小さい家に入る。
第六章 ブタとコショウ:家には公爵夫人、サカナとカエルの従僕、赤ん坊、大量のコショウを使う料理人、さらにチェシャ猫がいた。料理人と公爵夫人の危険なので、赤ん坊と外に出ると赤ん坊は豚になって消えてしまう。歩いているとチェシャ猫が現れ、次の場所の行き方を教えると「笑い」だけ残して消えてしまう。
第七章 め茶く茶会:三月ウサギ、帽子屋、ネムリネズミの、終わらないお茶会に参加する。帽子屋は女王の死刑宣告以来、時間が止まっていた。彼らの言動や振る舞いに付き合いきなくなり、アリスは近くの部屋に入ると、そこは最初の広間だった。大きさを調整して今度は小さな扉を通る。
第八章 女王さまのクロケー城:美しい庭に、庭師のトランプ、ハートの女王と王、賓客が現れる。女王は癇癪持ちで、庭師に死刑宣告をしたり、アリスにクロッケー大会に参加させたりする。しかし、ボールやゲートの代わりを生き物がしていたので混乱に陥る。突然チェシャ猫が頭だけ現れ、女王たちを翻弄し、再び姿を消す。
第九章 ウミガメモドキの物語:海岸でウミガメとグリフォンのナンセンスな話や詩をきく。 現れた公爵夫人は上機嫌で、教訓みつけ教えだす。女王はクロッケーを続けようとすも、ほとんどに死刑宣告をしていたので、参加者がいなくなっていた。女王の命令によって、アリスはウミガメに過去の話を聞くことになる。
第十章 イセエビのダンス:グリフォンが口をはさみ、話が移り変わる。すこしすると、裁判の始まりを知らせる声が聞こえてきたので、アリスは裁判に向かう。
第十一章 だれがパイをとった?:アリスはカードたちに襲われる。 玉座の前では、女王のタルトを盗んだ疑いでハートのジャックが裁判にかけれていた。見学しているとアリスは体が大きくなり始めるも、証人としてアリスが呼ばれる。
第十二章 アリスの証言:アリスは知らないと証言する。しかし証拠がでっち上げられる。怒ったアリスが「トランプのくせに」というとトランプたちに襲われる。するとアリスは姉の膝の上で目を覚ます。自分の冒険を姉に語り去っていく。姉はアリスの将来のことを想うのだった。
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解説
教養小説としての『不思議の国のアリス』
『不思議の国のアリス』の小説として何が偉大かを知るために、発表以前の文学史を確認しておこう。
1832年に生まれ1898年に亡くなったルイス・キャロルは、まさに19世紀を生きた人物であった。19世紀という時代は、「教養小説」とよばれる一大ジャンルが主流であった。「教養小説」で代表的なものは、ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』やチャールズ・ディケンズの『オリバー・ツイスト』などで、簡単に言えば「成長小説」のことを意味している。少年が社会にでて様々な経験を経ながら人格を形成していき、社会に認められ結婚で終わりを迎えるのが典型的だ。
当時主流であった「教養小説」が、「少年」の「成長」であったとすれば、『不思議の国のアリス』はまさにその真逆の位置にいるといっていい。『不思議の国のアリス』が描くのは「少女」の「非成長」だからである。もしかすると「非成長」と言われて、違和感を持たれた方がいるかもしれない。アリスは冒険の途中に体は大きくなるし、なにより冒険のあとお姉さんに不思議の国での経験を語るアリスは「成長」していたのではないのか、と。それについてはのちの考察で考えることにしよう。
成長と非成長
キャロルはなぜ「非成長」を描いたのか。それはキャロルがモデルとなったアリス・リデルに、恋にも近い感情を抱いていたからと考えられている。キャロルは小児性愛者であり、上司である学寮長ヘンリー・リデルの三姉妹のなかでも次女のアリス・リデルに特に愛着をもっていた。毎日アリスに読み聞かせていた物語が『不思議の国のアリス』になったのは感慨深い。刊行までは3年かかり、その間にキャロルとリデル一家は疎遠になるのだが、その原因はアリスへのキャロルの異常な近さを親が警戒したためだとされている。
現実のアリスは物理的にも精神的にも離れていく。小児性愛者でありアリスをとびきり気に入っていたキャロルは、物語の中だけでも「アリス」を幼さの中に留めておきたかったのである。読み聞かせていた当時のアリスは10歳、出版時には13歳になっていたが、物語の「アリス」は7歳の設定である。作中の若く大胆で元気なアリスは、キャロルの理想のアリス像であり、留めて残しておきたい「アリス」なのである。その意味で、物語を通して現れる白ウサギはアリスの対照をなしていて、だからこそアリスは最初に白ウサギを追いかけたのかもしれない。
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考察
ノンセンス文学の最高峰
『不思議の国のアリス』が切り開いたものに、ノンセンス文学というジャンルがある。ノンセンス文学は『不思議の国のアリス』以前にもあるのだが、価値を高め世界的なものにしたのはキャロルの功績である。ノンセンス文学とは、風刺やパロディとは意味合いが異なり、有意味なものと無意味なものの境界をぐらつかせ、論理の一貫性を破壊する文学のことである。
『不思議の国のアリス』にでてくる詩はほとんどノンセンスである。あるいは、言葉の意味のとり違いもノンセンスの典型だ。
「しょうがないのよ。」アリスはしょげちゃってね。「あたし、おおきくなってるんだもの」
(157-158)
「こんなところで大きくなる権利、あるもんか」とネムリネズミ。
「ばかおっしゃい。あんただって毎日大きくなってるくせに」アリスも負けてない。するとネムリネズミは、
「そうだよ、だけどこっちはふつうのスピードで、そんなにやったらめったらじゃないもんね」
ここで「ばかおっしゃい」のもとの単語は「nonsense」で、ノンセンス文学のまさにの場所である。(ちなみに「nonsense」という単語は七回もでてくる)。体が大きくなっているアリスにたいして、大きくなる権利がないとネムリネズミがいうのだが、これがなぜナンセンスなのだろうか。
それは「大きくなる」のもとの単語が「grow」でることに原因がある。「grow」には「大きくなる」と「成長する」の二つの意味がある。ネムリネズミは「大きくなる」の意味で「grow」を使っているのだが、それを聞いたアリスは「grow」を「成長する」の意味でとったのだ。「大きくなる権利」を「成長する権利」だとおもったアリスは、みんなが成長しているのだから文句を言うなと言っているのである。
ネムリネズミの最後言葉は、キャロルの望みがかけられている。アリスの成長はもちろん誇張された身体の拡張なのだが、幼い子供の成長っぷりは精神的にも身体的にも相当早く、キャロにとっては不安であった。この物語をアリス本人に向けて語りかけていたのだから、最後の言葉は「「そんなにやったらめったら」成長するものじゃないよ」という意味になるだろう。
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参考文献
ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』矢川澄子訳、新潮文庫、1994年