カント哲学を学ぶためにおすすめの本
イマヌエル・カントを学ぶといってもいろいろな段階があるので、超入門編から専門編(大学生・大学院生)まで人気著作を紹介することにした。
カント哲学を楽しみながら知りたいという人は超入門編、カント哲学を深く知りたいという人は入門編の著作から読むべしだ。自分のレベルに合わせて読んでみることをお勧めする。
他に、アリストテレス、デカルト、ルソー、フィヒテ、ヘーゲル、ショーペンハウアーなどのおすすめ入門書・解説本・著作を紹介している。
また「倫理学のおすすめ入門書・解説書」「本格的な人向けおすすめ世界の哲学書」も紹介している。
ぜひそちらもご覧ください。
超入門編
『純粋理性批判 (講談社まんが学術文庫 28)』
どんな入門書でも結局文字が多くて難しかったということがある。この本はそんなことはない。なぜならまんがだからだ。
本書は『純粋理性批判』をまんが形式で解説した入門書である。
このまんが版はアンドロイドと人間の恋物語というユニークな設定を通じて、感性、悟性、理性、物自体、現象、コペルニクス的転回といったカントの核心概念を説明してくれるという構図になっている。
主人公がアンドロイドに恋をし、人間らしい感性や理性を教育する過程を通じて哲学を学ぶ物語なので、ストーリを追うことで主人公と一緒にカント哲学を学ぶことができる。
そのストーリーも目次を見てみると、第一章が「感性と悟性」、第二章が「コペルニクス的転回」、第三章が「理性」と『純粋理性批判』の順番通りに進んでいくので、誤解しにくい。
カントには三批判書と呼ばれるものがあり、それぞれ『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』となるのだが、その中でも特に『純粋理性批判』が重要でこれを理解しないとカント哲学に入門することすらできない。
掴みとして、本書のまんがから入ってみるのはいかがだろうか。
入門編
西研『カント 純粋理性批判:答えの出ない問いはどのように問われるべきか?』
「100分de名著」シリーズのカント『純粋理性批判』編。
大著『純粋理性批判』の細かいところにこだわるのではなく、カントの問題意識(何のために書かれたのか)に焦点を当てて、『純粋理性批判』の大筋を示してくれるので、全体を掴みやすい。
巻末には「カント哲学を読むためのキーワード集」も付録としてついている。
全体像が掴めないと哲学書を読むのは困難なので、本書から読み始めるのが非常におすすめである。
また、このシリーズでは、カントだと他に『永遠平和のために:悪を克服する哲学』がある。そちらもおすすめである。
竹田青嗣『超解読!はじめてのカント『純粋理性批判』』
哲学者竹田青嗣による超解読!シリーズのカント編。扱うのはカントの主著『純粋理性批判』である。
超解読シリーズの良いところは、解読される著作の順番通りに解説がなされることである。
本書の『純粋理性批判』だったら、まず最初に超越論的(先験的)原理論で感性論と論理学が扱われ、次に超越論的(先験的)方法論が扱われる。要するに『純粋理性批判』の順番通りだ。
竹田青嗣の解説書はどれもわかりやすいことで有名でハズレがない。ただ、自分の哲学に惹きつけて考えたりするので、他の人とは異なった一般的ではない独自の解釈がなされることある。
そこは注意が必要だ。
御子柴善之『シリーズ世界の思想 カント 純粋理性批判』
カントの専門家(日本カント協会会長)による『純粋理性批判』の入門書。
これさえあれば『純粋理性批判』の難解さも乗り越えることができる。抜粋しながら一文一文丁寧に読みていくので、初学者でもカントの主著を自分で読めるようになる。
最終的には自力で『純粋理性批判』を読んでみたいという気骨のある人におすすめの入門書。
同じ著者で『実践理性批判 シリーズ世界の思想』もあるので、倫理学に興味がある人はそちらをどうぞ。
御子柴善之『カント哲学の核心―『プロレゴーメナ』から読み解く』
カントの『純粋理性批判』の要約版である『プロレゴーメナ』を丁寧に読み解き、カント哲学の根本を初心者から中級者向けに解説した入門書である。
『プロレゴーメナ』自体が『純粋理性批判』への入門書・解説書なので、比較的に平易にわかりやすく書かれたものである。
だからこそ『純粋理性批判』の核心部分を多く含んでいる。
ということは『プロレゴーメナ』が理解できれば、『純粋理性批判』の全体像も掴めることになるだろう。
全くの初心者には難しいという評価もあるので、カント『純粋理性批判』に一回挫折した人におすすめである。
石川文康『カント入門」
カント研究者の石川文康による入門書。石川氏には『純粋理性批判』の翻訳もあり信頼できる研究者である。
内容はというと、カント哲学の核心はアンチノミーの発見だったというテーゼから始まるのが本書の特徴である。そこから『純粋理性批判』の解説となり、内容をわかりやすく噛み砕いて伝えてくれる。
どちらかというとちょっと『純粋理性批判』を読んで、なんでこんなこと考えたんだろう、と疑問に思った人におすすめの著作か。
この著作を読むとその疑問が解決されスッキリするかもしれない。
発展編
中島義道『カントの読み方』
カントを語る上で、日本だったら中島義道を無視することはできない。中島義道は日本の哲学者でありカント研究の第一人者。軽快なエッセイなどでも知られ著作も非常に多く面白い。
本書は誰よりも深くカントに接してきた中島義道氏によるカント入門書。というよりも『純粋理性批判』の難しい文章をどのように理解していったらいいのかを指南している導き書である。
だから『純粋理性批判』をわかりやすく解説してほしいという人よりも、これから『純粋理性批判』を読んでいくぜという意気込みのある人におすすめである。
御子柴善之『自分で考える勇気 カント哲学入門』
カント研究者によるカント哲学の入門書。岩波ジュニア新書で簡単そうにみえるが、それなりに凝った著作なので発展編に入れた。
第一章でカントの生涯が、第二章で『純粋理性批判』が、第三章で『実践理性批判』が、第四章で『判断力批判』が、第五章で『永遠平和のために』が扱われる。
網羅的ではあるが『永遠平和のために』を解説するあたりに本書の特徴がある。
ここはジュニア新書であることを意識したか、あるいはカント倫理学に重きを置いたかのいずれかだろう。
「自由」や「善」はカント倫理学を理解する上では欠かせない概念だ。カントの倫理学方面に興味がある人はこの著作で理解を深めていくのがいいのではないかと思う。
坂部恵『カント』
坂部恵といえば独自の「ペルソナ論」で有名な日本の哲学者。それだけでなくカント哲学にも精通しており、カント全集の『実践理性批判』を訳したりしている。
本書の特徴は三批判書だけでなく最初期から最晩年までの著作『オプス・ポストムム』を扱っているところ。
入門書でありながらカントの人間学、道徳哲学、自然哲学、宗教哲学などその全体像を掴める。とてつもない良書であり、読んでおいて損はないだろう。
探究編
永井均『『純粋理性批判』を立て直す カントの誤診1』(2025年)(New!)
哲学者永井均によるカント『純粋理性批判』に対する注釈本。彼曰くカント哲学の入門として「使うこともできる」(はじめに)。
そうなのかもしれないが、もちろん単純に『純粋理性批判』の内容を知りたい方にはおすすめしない。
ある程度、カントの哲学と永井の哲学を知っているという前提条件がないと理解するのがちょっと難しい本である。
永井のカント批判を通じて、そして永井の哲学を通じて哲学を入っていきたい人にこそおすすめしたい。
著作
ここからは著作の最新翻訳状況や執筆背景を紹介していきたい。興味のあるものから手に取って読んでみることをお勧めする。
カントの哲学というのは、理性の限界と可能性を探究し、認識、倫理、美学、政治などの分野で体系的な哲学を構築したものである。
著作では、特に三大批判書(『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判断力批判』)が重要で、近代哲学の転換点とされている。
これらの作品は難解だが、哲学、倫理学、美学、さらには政治学や法学に深い影響を与え、現代思想の基礎を形成しているため、少しでも齧っておいた方が良い作品達だ。
著作に関しては、全集もあり文庫化されているのも結構あるので読むのに困らないが、なかには翻訳が古くさいのもある。とりあえず迷ったら新しい訳のものを買うのをおすすめする。
熊野純彦訳『純粋理性批判』(2012年)
批判書の一冊目。古典中の古典であり最重要著作。人間の認識能力の限界がどこにあるのか、認識の可能な範囲を問い直す。1781年に第一版が、1787年には大幅に手を加えられた第二版が出版された。
ライプニッツらの大陸合理論とヒュームらのイギリス経験論の問題点を解消し統合した著作で、のちのドイツ観念論のフィヒテ・シェリング・ヘーゲルやショーペンハウアー、フッサールなど多くの哲学者に影響を与えた。
文庫では、光文社古典新訳文庫版(全7巻、中山元訳、2010-11年)や平凡社ライブラリ(全3巻、原佑訳、2005年)が翻訳として出版されている。岩波文庫版もあるがかなり古い。
篠田英雄訳『プロレゴメナ』
『純粋理性批判』(第一版、1781年)で、認識の仕組みや形而上学の可能性を根本的に問い直す「コペルニクス的転回」を提唱したカント。
しかし、この著作は難解で長大(約800ページ)だったため、当時の読者や批評家から十分に理解されず、批判や誤解を受ける(1782年のガルヴェ=フェーダー書評(Göttinger Rezension)など)。
この誤解を解消し、自身の批判哲学の核心をより平易に伝えるため、カントは『プロレゴーメナ』を執筆。『純粋理性批判』の「入門書」として、一般読者や哲学者向けに1783年に出版した。
翻訳は他に、中公クラシックス版(土岐邦夫訳)がある。
大橋容一郎訳『道徳形而上学の基礎づけ』(2024年)
1781年に刊行された『純粋理性批判』では、認識論と形而上学の基礎を検討し、経験を超えた知識の可能性を探った。
そしてカントは倫理学においても同様に普遍的で合理的な基礎を確立しようと計画する。その第一歩として1785年『道徳形而上学の基礎づけ』を出版する。
本書はのちの『実践理性批判』(1788年)や『人倫の形而上学』(1797年)でさらに発展する倫理学の基礎を築くための準備的な著作となった。
翻訳は他に、光文社古典文庫版(中山元訳、2012年)や人文書院(御子柴善之訳、2022年)、作品社版(「実践理性批判」の付録として掲載)がある。
熊野純彦訳『実践理性批判』(2013年)
批判書の二冊目。
1781年『純粋理性批判』を出版し、認識論や形而上学の基礎を描いたカント。
しかし、理論的理性(純粋理性)だけでは道徳や倫理の領域を十分に扱えないと考え、道徳哲学における理性(実践理性)の役割を明確にする必要があった。
それらを背景に1788年に出版したのが、この『実践理性批判』である。
付録に『倫理の形而上学の基礎づけ』(「道徳形而上学の基礎づけ」や「人倫の形而上学の基礎づけ」と訳されることもある)がついている。
翻訳は他に、光文社古典新訳文庫版(全2巻、中山元訳、2013年)がある。
中山元訳『判断力批判』(2023年)
批判書の三冊目。
カントは『純粋理性批判』(1781年、改訂版1787年)で認識論と形而上学を再構築し、科学的認識の基礎を説明した。続いて『実践理性批判』(1788年)では道徳哲学を体系化し、自由と倫理の基盤を提示した。
しかし、これら二つの領域(自然と自由、理論と実践)は分離されており、両者をつなぐ橋について論じる必要があった。
カントは、自然界の因果法則(必然性)と道徳的自由(自律性)の間の調和を説明する理論を求め、『判断力批判』でこの課題に取り組むことになる。1790年刊行。
美や崇高を論じることで、のちの美学に決定的な影響を与えることになる。
翻訳は他に、作品社版(熊野純彦訳、2015年)がある。
丘沢静也訳『永遠平和のために』(2022年)
1795年の著作。副題は「哲学的考察(Ein philosophischer Entwurf)」。
1795年のバーゼルの和約が永遠の平和樹立のためには不完全なものであると考えたカントが、永遠平和のための具体的な実現可能性の計画を記したもので、国際連盟の樹立などに影響を与えた本である。
訳者は『善悪の彼岸』(ニーチェ)や『論理哲学論考』(ヴィトゲンシュタイン)などを翻訳した丘沢静也氏。
翻訳は他に、光文社古典新訳文庫版(2006年、他に「啓蒙とは何か」を収録)や岩波文庫版(宇都宮芳明訳、1985年)がある。
熊野純彦訳『人倫の形而上学 第一部 法論の形而上学的原理』(2024年)
すでに『純粋理性批判』以前の1760年代から構想され、最終的に晩年の1797年に公刊された本書。
『人倫の形而上学の基礎づけ』(1785年)で提示した定言命法や『実践理性批判』(1788年)で深めた道徳の自律性・自由の概念を基礎として議論をさらに展開させる。
具体的には『人倫の形而上学の基礎づけ』での定式化を、法体系(法論)と倫理体系(徳論)に適用し、道徳的規範を体系化しようとした。
岩波文庫では2巻本となっており、1巻が「第一部 法論の形而上学的原理」で、2巻が「第二部 徳論の形而上学的原理」となっている。第二部は訳者が宮村悠介となっている。
第一部の訳者の熊野純彦は他に、『存在と時間』(ハイデガー)や『全体性と無限』(レヴィナス)なども訳している。

















