『失恋ショコラティエ』解説|セフレってだめなの?|伝えたいこと考察・感想|水城せとな

『失恋ショコラティエ』解説|セフレってだめなの?|伝えたいこと考察・感想|水城せとな

概要

 『失恋ショコラティエ』は、2008年から連載された日本の恋愛青春漫画。作者は水城せとな。

 チョコレートが好きな先輩サエコと付き合うためにパティシエを目指す小動爽太の物語。

 ほかの漫画・アニメは『ONE PIECE』『3月のライオン』『チ。―地球の運動について―』『しあわせアフロ田中』『君たちはどう生きるか』『ナルト』『僕等がいた』『僕のヒーローアカデミア』などがある。

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セフレは理想の恋人か

 私の友人の知り合いには、セフレ(セックスフレンド)が3人もいるらしい。当然3人のセフレ以外に本命も1人いるのだが……。セフレなどいたこともないどころか周りでも聞いたこのない人にとってはセフレの存在は奇妙で不思議である。なぜセフレが必要なのか?モテまくりで性力旺盛なその知り合いがいうところによれば「セフレには彼氏に言えないことが言える」だそうだ。彼氏には気まずくて言えないこと、言ったら関係が崩れてしまいそうで伝えるのを躊躇してしまうこと、もしかしたら相手を傷つけてしまうような本心、そういった伝えたら関係が変化してしまいそうな微妙な内容でも遠慮なく伝えることのできる相手、それがセフレである。そう言われると、なるほど、セフレは必要じゃんと頷いてしまう。気遣いが必要のないラフな人間関係こそセフレの魅力なのだ。

 ふむふむと納得する反面、考えてみると疑問が沸沸と湧き上がってこないでもない。彼氏よりも気心がしれて性交渉がありなおかつ何でも言い合える仲なら、それはもう彼氏よりも圧倒的に良好な関係であり、あえていってしまえば本物のカップル=理想的なカップルなのではないか!?理想的な恋人との関係は実はセフレとの関係と同じなのではないか!!?

概要ー常識人、井上薫子

 水城せとなの『失恋ショコラティエ』は恋愛テクニックが豊富で周りを翻弄するサエコと、サエコに振り向いてもらうためにショコラティエになった爽太と、その二人の恋愛心理戦に巻き込まれる爽太の職場の仲間を描く恋愛漫画である。2014年には松本潤と石原さとみが主演でドラマ化された。

 登場人物は現実世界ではなかなかお目にかかれない稀有な性格の人が多い。サエコは数多くの男性と付き合ってきたのだが恋愛感情があるようにみえない、と思ったらいきなり結婚をしていたりする。

 爽太も主人公でありながら随分と変わった性格をしている。サエコに彼氏がいると分かれば二股でもいいといい、チョコをサエコが好きという理由だけで文無しでパティシエ修行にフランスにいき、サエコが結婚していても決して諦めず、「悪い男」になってサエコに振り向いてもらうために加藤えれなとセフレになる。執念が尋常でないのだ。

 常識な感性を持っているのは爽太の職場にいる井上薫子だけだ。性に自由で奇妙な感性をもつサエコと爽太のせいでいつもイライラする薫子は、一般読者の心を代弁してくれる存在でもある。性と恋愛に固定観念をもっていると大変イライラしそうな世界なので、サエコや爽太に対する常識人薫子の文句に、我々一般読者は思わずウンウンと共感してしまうと思う。

「ついで」が逆転するとき

 この作品には多くの「ついで」が存在する。サエコにとってのついでは聡太だ。サエコと爽太が会う場所はサエコがチョコ目当てで通う爽太の職場であり、だからサエコにとって爽太に会うことはチョコを買う「ついで」でしかない。

 そして爽太にとってのついではセフレのえれなになる。あくまでサエコと付き合うことが目的であり、そのために爽太はエレナと肉体関係を持つ。またエレナにとっても爽太はついでだ。えれなは1年間一目惚れした男性を追い続けている。爽太はえれなは好きな人を追う者同士、本命の恋が終わるまでの束の間の関係なのだ。

 爽太とえれなはどちらも本命の相手の本心に近づくことができない。好きだからこそ近づくことができず、分からないからこそ求めてしまう。サエコに近づくことができないのは肉体関係をもってあとでも変わらない。爽太がサエコに夫の元に帰らないでくれと懇願したときに感じたサエコの横顔の他人のような冷たさは、本心を語ってこなかった二人の関係性を強く物語っている。

 反対に爽太とエレナは恋の悩みを相談し本心で語り合いお互いを励まし合う。束の間の「ついで」の関係であるからこそお互いを深く知ることができるのだ。だからサエコと同棲した爽太がその間にあったことを伝えないことにエレナは怒る。

ちゃんと心開いて向き合ってもらえないなら本当に冗談抜きのセフレじゃん!

今ここでちゃんと全部話すか、そうでないなら今すぐ帰って二度と現れないでよ!二度とあたしの前に現れないでよっ!

 爽太とエレナは最初は「冗談抜きのセフレ」だったはずだ。しかし「冗談抜きのセフレ」だからこそ心を開いて向き合うことができたのだ。「冗談抜きのセフレ」から「互いに向き合うセフレ」へ。共にいる時間の重みが何処かのタイミングで「ついで」を反転させる。そこに現れる関係は、爽太がサエコに恋をしていた時に得ることのできなかった尊い関係なのだ。

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