『ナルト』26巻.229話感想|繋がりがあるから苦しいんだ!|伝えたいこと解説・考察

『ナルト』26巻.229話感想|繋がりがあるから苦しいんだ!|伝えたいこと解説・考察

概要

 『NARUTO -ナルト-』は、1999年から連載されていた日本のアクション忍者漫画。作者は岸本斉史。全72巻。

 心に傷を負った少年ナルトが里の長である火影を目指して奮闘する物語。

 ほかの漫画・アニメは『ホムンクルス』『ONE PIECE』『3月のライオン』『チ。―地球の運動について―』『しあわせアフロ田中』『失恋ショコラティエ』『君たちはどう生きるか』『僕等がいた』『僕のヒーローアカデミア』などがある。

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サスケの喪失ー繋がりがあるから苦しいんだ

 里を抜けようとするサスケ、それを追うナルト。終末の谷で交わされる激闘は互いの本音を引き出していきます。

 成績優秀で容姿に恵まれ写輪眼という特殊な目を持つサスケ、劣等生で親の顔も知らず里の皆から蔑まれるナルト。こうしてみると本来であるならば、サスケがナルトにイライラする理由は見当たりません。しかし拳を交えるうちにナルトを軽くあしらっていたはずのサスケは、余裕がなくなり激昂する感情を抑えられなくなります。ナルトの何処に苛つき何に焦っているのか、サスケは胸の内を明かした上でナルトに問い掛けます。

親も兄弟もいねえお前に俺の何がわかるってんだよ…。初めっから独りっきりだったてめーに!!オレの何が分かるんだってんだ!!!アア!!!?

繋がりがあるからこそ苦しいんだ!

それを失うことがどんなもんか。お前なんかにわかってたまるか!

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 サスケの心の叫びはナルトに普遍的ふへんてきな問題を突き付けます。。サスケは所有物を失うこと、だといいます。ないこと=無が辛いのではない。なくなる=失うことが辛いのだ。もともと何も保有していない、繋がりのないナルトにとって、無の辛さは知っているかもしれないが、喪失の苦しみは知らないだろう、と問うのです。

 物心ついた時から孤独だったナルトは、此処まで苦しみを理解する存在でした。桃地再不斬、白、日向ネジ、我愛羅、綱手と苦しみ傷ついてきた者たちを、単に倒すだけでなく共感し、理解し、新たな生き方を提示する、そうやって救ってきたのが本作の主人公なのです。その姿を間近でみてきたサスケは、ナルトの功績を認めながらも、今回はナルトの理解が及ばないところだと主張しています。

 この問いかけにナルトは明解な形ではなく婉曲的に答えます。

ホントの親子や兄弟なんて、確かにオレにゃ分かんねェ。
けど、イルカ先生と一緒にいる時、想像して思うんだ。
父ちゃんってのがいるのって、こんな感じかなぁって。

 ナルトは無だって苦しんだ、とは主張しません。なぜならサスケは孤独は苦しいことは織り込み済みで、そうではない苦しみについて問いかけているからです。それに対するナルトの回答は要約すると、あること/あったことを想像するんだ、ということになります。

 一見すると答えになっていないこの発言が、どうしてサスケへの回答になるのでしょうか。

負の亡霊ー喪失から生まれる死の亡霊

 ナルトのセリフを読み解く前に、なぜサスケがこれほどまでに苦しんでいるのかについて考えてみます。

 喪失を経験した人が、必ずしもサスケのように悲しみ続けるわけではありません。むしろ喪失を克服する人が大半です。親が亡くなったり、大切な友人が亡くなったりしても、一時的に無気力状態になるかもしれませんが、長い時間が悲しみを和らげ日常に戻ることができるのです。この喪失を受けれいて自己に取り込むプロセスを喪の作業と言います。人は喪失を感じると、大なり小なり喪の作業をするのです。

 ではサスケの場合はどうなのでしょうか。サスケは喪の作業に明らかに失敗しています。親が死んだこと、兄が親を殺したこと、家庭の幸せの消失、そのどれもが受け入れがたいのです。だから今でも水面に親の顔や兄の顔が映り、死者の亡霊(負の亡霊)を追い払うことができません。

 喪失から回復すること、それの失敗が亡霊を出現させる。サスケはまさにその亡霊に苦しめられています。サスケの発言は、このことを踏まえて読み解かなくてはなりません。「繋がりがあるからこそ苦しいんだ」というのは、喪失するから苦しいのではなくて、正確には喪失を受け止めることに失敗して死者の亡霊が出現するから苦しいのです。

正の亡霊ー想像から生まれる生の亡霊

 ここまでくるとナルトの言いたかったことがぼんやりとみえてきます。

 喪失の回復から失敗した先に現れる亡霊の存在を、ナルトは深層の部分で感じとっています。存在と消滅に生じる差分こそが、喪失に特有の苦しみであり、それだけが元々存在したものを思い出させてしまう。下世話な話ですが、大金持ちが貧乏になるのと、元から貧乏では、苦しみという面においてはどちらが強いかといったら、金を失ったほうでしょう。食べたいものとか持っていたものとかも、それの類比で考えれられそうです。

 ナルトは喪失によって生じる亡霊の苦しみを理解した上でこう反論します。それは確かに苦しいことかもしれない、だが喪失の回復の失敗だけが亡霊を出現させるのではない、と。そして、存在するとはこうかもしれない、と想像してしまうこと、これも亡霊の出現なんだと主張するのです。有ったことを思い出すことではなく、有ることを想像すること、それも亡霊(正の亡霊)の出現なのです。

 この回答はサスケの心に響きます。だからサスケはナルトを、真の苦しみを知るもの=亡霊に取り憑かれるもの、と認めるのです。

追記

 この感覚は可能世界を想像することではありません。そうではなくて、不可能なことを想像することなのです。つまり、イルカは親でサスケは兄だったかもなあ、ではなくて、親って兄ってこんな感じかなあ、と想像するということなのです。

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