ニーチェを読もう【おすすめ入門・解説・研究書、著作、概念紹介】

ニーチェを読もう【おすすめ入門・解説・研究書、著作、概念紹介】

ニーチェを学ぶ人のために

フリードリヒ・ニーチェとは

 フリードリヒ・ニーチェ(1844〜1900)は19世紀のドイツの思想家。フロイト、マルクスと並び現代思想(20世紀以後の思想)の源流に数え上げられる。その中でも実存思想の先駆とみなされており、19世紀の最も重要な思想家の一人である。

 1844年に誕生。21歳のライプツィヒ大学の古典文献学の学生だった時にショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』を偶然読み、衝撃を受ける。この時の衝撃がその後のニーチェ哲学を貫くこととなった。他方で古典文献学者としてメキメキと頭角を現し、1869年に24歳の若さで、スイスのバーゼル大学の員外教授に抜擢される。1872年に古典文献学者として出版されたのが処女作の『悲劇の誕生』である。しかしながら1879年には体調を崩し大学を辞職。以後は在野の思想家として活動することとなった。その後は旺盛な執筆活動を開始し『ツァラトゥストラはこう言った』や『善悪の彼岸』、『道徳の系譜学』などを書き上げる。しかし生前はほとんど売れなかった。病気の発作が激しくなる中、1888年には『この人を見よ』など計五冊の著作を書き上げたが、1889年にはついに発狂する。以降11年間は精神が健康に回復することなく、1900年8月25日に死去する。

ニーチェの後世への影響

 ヤスパースやサルトルなどの実存の哲学の先駆けとなったのはいうまでもない。在野だったこともあって生前はあまり注目されなかったが、後世の哲学者による研究はたくさんある。

 一番有名なのが、ハイデガーの『ニーチェ』でのニーチェ論である。そこでは、ニーチェこそ存在忘却(形而上学)の極限としてのニヒリズムとして批判している。他にもドイツ語圏では、オイゲン・フィンク『ニーチェの哲学』、カール・ヤスパース『ニーチェとキリスト教』、カール・レーヴィット『ニーチェの永劫回帰の哲学』などの研究著作がある。フランス語圏では、バタイユ『ニーチェについて』、ドゥルーズ『ニーチェと哲学』、デリダ『他者の耳』、フーコー『ニーチェ、系譜学、歴史』などがある。戦後はフランスでの研究が盛んだったようだ。また小説家のトーマス・マンも「われわれの経験から見たニーチェの哲学」というニーチェ論を発表している。

概念紹介

>>意味をわかりやすく解説: ニヒリズム / ルサンチマン / 永劫回帰

おすすめの入門・解説書、事典

『「最強!」のニーチェ入門』(2020年)

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 誰よりも楽しく、わかりやすく哲学を伝えてくれる飲茶が鉄板「ニーチェ」に挑む意欲作。孤独、将来への不安、世間とのズレ・・・不条理な世界に疑問を感じるあなたに。心に響くニーチェ哲学入門書

『ニーチェかく語りき』(2016年)

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 ニーチェ入門でありながら、ニーチェを介した現代思想入門も兼ね備えている。後世の芸術家や思想家である、イサドラ・ダンカン、ハイデガー、フーコー、ジョルジュ・バタイユ、三島由紀夫、リチャード・ローティ、フランクフルト学派の人々が、それぞれの立場で共感を抱いたニーチェの言葉を紹介する。

清水真木『ニーチェ入門』(2018年)

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 2003年の『知の教科書 ニーチェ』が文庫化されたもの。著者によればニーチェ思想の背景には「健康と病気」に関する深い洞察がある。そこを起点に、ニーチェの生涯や思想、キーワードを平明に解説し、その思想のもつアクチュアリティを浮かび上がらせる入門書である。

神崎繁『ニーチェーどうして同情してはいけないのか』(2002年)

 「シリーズ・哲学のエッセンス」のニーチェ版。プラトンやアリストテレスなどの古代哲学を専門とする著者が、「同情の禁止」というニーチェの思想をキーワードに、ニーチェの人生と作品を読み解いていく。

須藤訓任『ニーチェ〈永劫回帰〉という迷宮』(1999年)

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 西洋近・現代思想を研究している須藤訓任氏によるニーチェ思想の解説書。この本ではニーチェの「永劫回帰」と「神は死んだ」の二つの思想に焦点を当てて解き明かしている。「永劫回帰」思想が明かす「世界の鏡」の謎とは。

永井均『これがニーチェだ』(1998年)

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 哲学者永井均によるニーチェに関する入門書。「本書がニーチェ解釈としてただしいかどうかには、さしたる関心がない」とした永井らしい挑戦的な書物であるが、内容を見ると超一級品の入門書である。

 有名な大江健三郎批判からはじまり、ニーチェの生涯を概観したあとニーチェの思想の解釈に移っていくのだが、ほとんどニーチェの根本思想とよばれる後期思想のみを取り扱っているのが特徴だろう。そこではニーチェ後期の根本思想である「ニヒリズム」や「力への意志」「永劫回帰」が主題とされ、「力への意志」によって「ニヒリズム」期の乗り越えを、そして「永劫回帰」によって前者二つの乗り越えを図るという大胆なニーチェ像が示される。20年以上前の著作であるが、ニーチェの根本思想を理解したいならまずはこの一冊だろう。

竹田青嗣『ニーチェ入門』(1994年)

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 日本の哲学者竹田青嗣によるニーチェの入門書。ルサンチマンというアリ地獄のなかで「神」や「超越的な真理」に逃避するのか、あるいは「永遠回帰」という「聖なる虚言」に賭け、自らの生を大いに肯定するのか。二十世紀最大の思想家ニーチェの哲学の核心を掴み、その可能性を大胆に提示する。

『ニーチェ事典』(2014年)

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 弘文堂の『事典』シリーズ(他に、『カント事典』『現象学事典』などがある)の『ニーチェ事典』(1993年)の縮刷版。ニーチェ思想のキーワードや様々な相互影響関係をもつ人物などを解説する。巻末に文献表がついているのも良心的な事典である。

研究書

ニーチェーー人と作品

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ルー・ザロメ「ニーチェーー人と作品」(『ルー・ザロメ著作集3』)原佑訳、以文社、1974年。

 ルー・ザロメはニーチェと直接親交のあったニーチェの親友。その人の手によるニーチェ解釈という意味で、かなり重要な研究書。

ニーチェは、今日?

 1972年にフランスで開催されたニーチェをめぐるコロックでの発表から、代表的な4名(J・デリダ、G・ドゥルーズ、J・F・リオタール、P・クロソウスキー)のニーチェに関する発表を選んで訳出した論集。「ポストモダン」的なニーチェ解釈を知るにはうってつけの論集である。

著作

 ニーチェの著述期間は1872年〜1888年までの16年間である。一般に初期、中期、後期と分けられ、初期の代表作が『悲劇の誕生』、中期の代表作が『人間的なあまりに人間的な』、後期の代表作が『ツァラトゥストラ』である。初期思想では「芸術」が、中期思想では「認識」が意味の原理として語られ、後期になるとそれが「力への意志」と「永劫回帰」と命名される。

 ニーチェは日本で一番人気の哲学者なので、全集もあるし文庫化されているのも結構ある。読むのに困らないが、なかには翻訳が古くさいのもある。とりあえず迷ったら新しい訳のものを買うのをおすすめする。今回は、文庫化されているものに関しては翻訳の最新のものから紹介していくことにしよう。(ちくま学芸文庫版は文庫だが全集の括りにいれてある。文庫化されている著作にない場合は、ちくま学芸文庫版を探してみるのが良いだろう)。

文庫化されているニーチェの著作

偶像の黄昏

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ニーチェ『偶像の黄昏』村井則夫訳、河出文庫、2019年。

1888年の著作。(執筆中)

この人を見よ

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ニーチェ『この人を見よ』丘沢静也訳、光文社古典新訳文庫、2016年。
おすすめ度:★★ 難易度:★★

 他に『この人を見よ』(手塚富雄訳、岩波文庫、1969年)や『この人を見よ』(西尾幹二訳、新潮文庫、1990年)がある。

 最晩年の1888年の自伝である。翌年には発狂し、以後執筆はされなくなる。この本は自伝でありながら、それまでのニーチェの著作についての自身による解説であり、それでもなかなか難しいが、ニーチェ思想を深堀りしたいなら買っておいて損はない。

ツァラトゥストラはこう言った

ニーチェ『ツァラトゥストラかく語りき」佐々木中訳、河出文庫、2015年。

おすすめ度:★★★★★ 難易度:★★★★★

 他に岩波文庫版の『ツァラトゥストラはこう言った(上)(下)』(氷上英廣訳、1967(1970)年)や光文社古典新訳文庫版の『ツァラトゥストラ(上)(下)』(丘沢静也訳、2010(2011)年)がある。

 『人間的なあまりに人間的な』以後の主著。1883ー1885年まで全四部が3年かけて執筆されている。「ニヒリズム」「神は死んだ」「超人」「永劫回帰」といったいわゆるニーチェの根本思想と呼ばれている全て詰め込まれている。ツァラトゥストラと共に目的を見失った人間の意味を探求し答えを求める物語でもある。

愉しい学問

ニーチェ『愉しい学問』森一郎訳、講談社学術文庫、2017年。

 他に『喜ばしき知恵』(村井則夫訳、河出文庫、2012年)がある。また、ちくま学芸文庫だと「悦しき知識」であり、それぞれ題名が随分違うようにみえるが、原題は一緒である。

1882年の著作で『人間的なあまりに人間的な』と並び称される中期の代表作。(執筆中)

道徳の系譜学

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ニーチェ『道徳の系譜学』中山元訳、光文社古典新訳文庫、2009年。

他に『道徳の系譜』(改版、木場深定訳、岩波文庫、1964年)がある。

1887年の著作。(執筆中)

善悪の彼岸

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ニーチェ『善悪の彼岸』中山元訳、光文社古典新訳文庫、2009年。

他に『善悪の彼岸』(木場深定訳、岩波文庫、1970年)がある。

1886年の著作。(執筆中)

悲劇の誕生

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ニーチェ『悲劇の誕生』秋山英夫訳、岩波文庫、1966年。

おすすめ度:★★★ 難易度:★★★

 1872年に出版されたニーチェの処女作。ギリシア古典悲劇の誕生と死について迫る。そこから現代までのある種の芸術史としての「世界史」を構想する意欲作。

全集版

 ニーチェの著作集(全集)は Netzsche Werke: Kritische Gesamutausgabe(Walter de Gruyter, Berlin・ New York, 1967-)というのがあり、これがニーチェの幼少時代の作文からバーゼル時代の講義録も含めたほとんど完全版でグロイター版と呼ばれている。遺稿は編集の手を加えずに編年体でその全てが収録されている。書簡集は別に Briefwechsel: Kritische Gesamtausgabe(Berlin; New York, 1980)がある。

 日本だと白水社と新潮社とちくま学芸文庫があるが、白水社は上記の全集を底本としているが、バーゼル大学赴任以降のものが訳出されている。ちくま学芸文庫版は上記の全集以前の版を底本としている(ex. ムザリオン版)。これは、ちくま学芸文庫版が理想社版のニーチェ全集の復刻版であり、理想社版が出版されていた当時はまだグロイター版が刊行されていなかったからである、それゆえ『権力への意志』と『生成の無垢』など、ニーチェの死後こ編者によって手が加えられたとされている著作も、ちくま学芸文庫版はニーチェの著作として組み込まれており問題含みなところがある。他方でちくま版には書簡の翻訳が含まれているという利点もあり、一長一短である。

白水社版『ニーチェ全集』

『ニーチェ全集』I、II期、全24巻、別巻1巻、白水社、1979−1987年。

第一期

  1. 悲劇の誕生 遺された著作(1870〜72年)
  2. 反時代的考察第1・2・3篇 遺された著作(1872〜73年)
  3. 遺された断想(1869年秋〜72年秋)
  4. 遺された断想(1872年夏〜74年末)
  5. 反時代的考察第4篇・遺された断想(1875年初頭〜76年春)
  6. 人間的な、あまりに人間的な:自由なる精神のための書(上)
  7. 人間的な、あまりに人間的な:自由なる精神のための書(下)
  8. 遺された断想(1876年〜79年末)
  9. 曙光:道徳的偏見についての考察
  10. 華やぐ智慧 メッシーナ牧歌
  11. 遺された断想(1880年初頭〜81年春)
  12. 遺された断想(1881年春〜82年夏)

第二期

  1. ツァラトゥストラはこう言った
  2. 善悪の彼岸
  3. 道徳の系譜 ヴァーグナーの場合 遺された著作(1889年):ニーチェ対ヴァーグナー
  4. 偶像の黄昏;遺された著作(1888〜89年)
  5. 遺された断想(1882年〜83年夏)
  6. 遺された断想(1883年5月〜84年初頭)
  7. 遺された断想(1884年春〜秋)
  8. 遺された断想(1884年秋〜85年秋)
  9. 遺された断想(1885年秋〜87年秋)
  10. 遺された断想(1887年秋〜88年3月)
  11. 遺された断想(1888年初頭〜88年夏)
  12. 遺された断想(1888年〜89年初頭)

別巻

  1. 日本人のニーチェ研究譜

ちくま学芸文庫版『ニーチェ全集』

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『ニーチェ全集』全15巻、別巻4巻、ちくま学芸文庫。1993−1994年。

  1. 古典ギリシアの精神
  2. 悲劇の誕生
  3. 哲学者の書
  4. 反時代的考察
  5. 人間的、あまりに人間的1
  6. 人間的、あまりに人間的2
  7. 曙光
  8. 悦しき知識
  9. ツァラトゥストラ(上)
  10. ツァラトゥストラ(下)
  11. 善悪の彼岸 道徳の系譜
  12. 権力への意志(上)
  13. 権力への意志(下)
  14. 偶像の黄昏 反キリスト者
  15. この人を見よ・自伝集

別巻

  1. ニーチェ書簡集1
  2. ニーチェ書簡集2・詩集
  3. 生成の無垢(上)
  4. 生成の無垢(下)

参考文献

須藤訓任責任編集『哲学の歴史第9巻 反哲学と世紀末【19−20世紀】』中央公論新社、2007年。

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