ニーチェ哲学を学ぶのにおすすめの本
ニーチェ哲学を学ぶといってもいろいろな段階があるので、超入門者編から専門編(大学生・大学院生)まで難易度別に人気著作を紹介することにした。
ニーチェ哲学を楽しみながら知りたいという人は超入門編、ニーチェ哲学を深く知りたいという人は初心者編の著作から読むべしだ。自分のレベルに合わせて読んでみることをお勧めする。
また、ショーペンハウアーの入門書は「ショーペンハウアーのおすすめ入門書・解説書」、マックス・ウェーバーの入門書は「ウェーバーのおすすめ入門書・解説書」、ハイデガーの入門書は「ハイデガーのおすすめ入門書・解説書」、世界のおすすめ哲学書は「本格的な人向けおすすめ世界の哲学書」で紹介している。ぜひこちらもご覧ください。
超入門編
まんが『ツァラトゥストラはかく語りき』(2018年)
どんな入門書でも結局文字が多くて難しかったということがある。この本はそんなことはない。なぜならまんがだからだ。
本書はニーチェの主著『ツァラトゥストラはかく語りき』(『ツァラトゥストラはこう言った』)をまんが化したものである。『ツァラトゥストラはかく語りき』は、ニーチェの思想で有名な「永劫回帰」や「超人」など、彼の根本思想が書かれた著作である。そのエッセンスをわかりやすく伝えてくれるのが本書だ。
超入門として、ニーチェ思想にまず触れてみたい人におすすめである。
『「最強!」のニーチェ入門』(2020年)
『史上最強の哲学入門』で有名な飲茶氏によるニーチェ入門。
飲茶氏によるオリジナルな言い回しでニーチェの哲学をわかりやすく伝える。対話形式なので「神は死んだ」「奴隷道徳」「超人思想」などニーチェを理解する上では欠かせない概念の意味がすんなり入ってくる一冊。
『毎日5分で学ぶ史上最強の哲学「ゼロ」からの教え! ニーチェの哲学見るだけノート』
図解で分かりやすくニーチェの思想を教えてくれるニーチェ入門。ニーチェの哲学の内容からその活かし方ま教えてくれます。「人生の分岐点で悩む人、必読!」なので、「どう生きるか」に悩んでいる人はこれを手に取ってみるのが良さそう。
入門編
岡本裕一郎『教養として学んでおきたいニーチェ』(2021年)
『哲学と人類』(文藝春秋)、『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)、『フランス現代思想史‐構造主義からデリダ以後へ』(中公新書)、『答えのない世界に立ち向かう哲学講座』(早川書房)、『教養として学んでおきたい哲学』(マイナビ新書)など数々の教養哲学の名著を執筆している岡本裕一郎によるニーチェの入門書。
「神が死んだ」「ニヒリズム」「超人」「ルサンチマン」などニーチェに由来する言葉を理解できるので、入門としておすすめである。
永井均『これがニーチェだ』
哲学者永井均によるニーチェに関する入門書。「本書がニーチェ解釈としてただしいかどうかには、さしたる関心がない」とした永井らしい挑戦的な書物であるが、内容を見ると超一級品の入門書である。
有名な大江健三郎批判からはじまり、ニーチェの生涯を概観したあとニーチェの思想の解釈に移っていくのだが、ほとんどニーチェの根本思想とよばれる後期思想のみを取り扱っているのが特徴だろう。そこではニーチェ後期の根本思想である「ニヒリズム」や「力への意志」「永劫回帰」が主題とされ、「力への意志」によって「ニヒリズム」期の乗り越えを、そして「永劫回帰」によって前者二つの乗り越えを図るという大胆なニーチェ像が示される。20年以上前の著作で少し変わっているはいるが、ニーチェの根本思想を理解したいならまずはこの一冊だろう。
神崎繁『ニーチェーどうして同情してはいけないのか』
「シリーズ・哲学のエッセンス」のニーチェ編。プラトンやアリストテレスなどの古代哲学を専門とする著者が、「同情の禁止」というニーチェの思想をキーワードに、ニーチェの人生と作品を読み解いていく。
竹田青嗣『ニーチェ入門』(1994年)
日本の哲学者竹田青嗣によるニーチェの入門書。ルサンチマンというアリ地獄のなかで「神」や「超越的な真理」に逃避するのか、あるいは「永遠回帰」という「聖なる虚言」に賭け、自らの生を大いに肯定するのか。二十世紀最大の思想家ニーチェの哲学の核心を掴み、その可能性を大胆に提示する。
上級編
『わかる!ニーチェ』
イギリスのニーチェ研究者による入門書。
入門書でありながら、これまでの通常の解釈とは異なった新たなニーチェ像を提示する。ニーチェ研究の最前線が窺い知れるという意味で入門書でありながら専門性が高い。というわけで上級者編に入れておいた。現代ニーチェ論をわかりやすく学びたいなら本書しかない。
清水真木『ニーチェ入門』
2003年の『知の教科書 ニーチェ』が文庫化されたもの。著者によればニーチェ思想の背景には「健康と病気」に関する深い洞察がある。そこを起点に、ニーチェの生涯や思想、キーワードを平明に解説し、その思想のもつアクチュアリティを浮かび上がらせる入門書である。
ある程度ニーチェ哲学についてに理解がある人におすすめだろう。新たな知見を得られるかもしれない。
三島憲一『ニーチェかく語りき』
ニーチェ入門でありながら、ニーチェを介した現代思想入門も兼ね備えている。後世の芸術家や思想家である、イサドラ・ダンカン、ハイデガー、フーコー、ジョルジュ・バタイユ、三島由紀夫、リチャード・ローティ、フランクフルト学派の人々が、それぞれの立場で共感を抱いたニーチェの言葉を紹介する。
探究編
『ニーチェ事典』
弘文堂の『事典』シリーズ(他に、『カント事典』『現象学事典』などがある)の『ニーチェ事典』(1993年)の縮刷版。ニーチェ思想のキーワードや様々な相互影響関係をもつ人物などを解説する。巻末に文献表がついているのも良心的な事典である。
著作
ここからは著作を紹介していきたい。興味のあるものから手に取って読んでみることをお勧めする。
ニーチェの著述期間は1872年〜1888年までの16年間である。一般に初期、中期、後期と分けられ、初期の代表作が『悲劇の誕生』、中期の代表作が『人間的なあまりに人間的な』、後期の代表作が『ツァラトゥストラ』である。初期思想では「芸術」が、中期思想では「認識」が意味の原理として語られ、後期になるとそれが「力への意志」と「永劫回帰」と命名される。
ニーチェは日本で一番人気の哲学者なので、全集もあるし文庫化されているのも結構ある。読むのに困らないが、なかには翻訳が古くさいのもある。とりあえず迷ったら新しい訳のものを買うのをおすすめする。今回は、文庫化されているものに関しては翻訳の最新のものから紹介していくことにしよう。(ちくま学芸文庫版は文庫だが全集の括りにいれてある。文庫化されている著作にない場合は、ちくま学芸文庫の全集版を探してみるのが良いだろう)。
文庫化されているニーチェの著作
偶像の黄昏
1888年の著作。ニーチェの最後の著作で、ニーチェ哲学の究極的な到達点となる本書。自ら「最も本質的な異端思想の要約」と呼び、ニーチェ最後の思想が凝集された究極の書である。
この人を見よ
最晩年の1888年の自伝である。翌年には発狂し、以後執筆はされなくなる。この本は自伝でありながら、それまでのニーチェの著作についての自身による解説であり、それでもなかなか難しいが、ニーチェ思想を深堀りしたいなら買っておいて損はない。
ツァラトゥストラはこう言った
『人間的なあまりに人間的な』以後の主著。1883ー1885年まで全四部が3年かけて執筆されている。「ニヒリズム」「神は死んだ」「超人」「永劫回帰」といったいわゆるニーチェの根本思想と呼ばれている全て詰め込まれている。ツァラトゥストラと共に目的を見失った人間の意味を探求し答えを求める物語でもある。
愉しい学問
他に『喜ばしき知恵』(村井則夫訳、河出文庫、2012年)がある。また、ちくま学芸文庫だと「悦しき知識」であり、それぞれ題名が随分違うようにみえるが、原題は一緒である。
1882年の著作で『人間的なあまりに人間的な』と並び称される中期の代表作。テーマは生の肯定であり、永劫回帰説やあの有名な「神は死んだ」の主張が登場する。
道徳の系譜学
1887年の著作。『善悪の彼岸』の結論を引き継ぎながら、キリスト教的道徳観と価値観の伝統を鋭い刃で腑分けし、新しい道徳と新しい価値の可能性を探った著作である。
善悪の彼岸
1886年の著作。前著『ツァラトゥストラはこう語った』でのいくつもの考えを取り上げ、さらに論理的に詳しく述べている。本書では伝統的な道徳的価値観を乗り越え、その善悪の彼岸へと進もうとする。
悲劇の誕生
1872年に出版されたニーチェの処女作。ギリシア古典悲劇の誕生と死について迫る。そこから現代までのある種の芸術史としての「世界史」を構想する意欲作。
全集版
ニーチェの著作集(全集)は Netzsche Werke: Kritische Gesamutausgabe(Walter de Gruyter, Berlin・ New York, 1967-)というのがあり、これがニーチェの幼少時代の作文からバーゼル時代の講義録も含めたほとんど完全版でグロイター版と呼ばれている。遺稿は編集の手を加えずに編年体でその全てが収録されている。書簡集は別に Briefwechsel: Kritische Gesamtausgabe(Berlin; New York, 1980)がある。
日本だと白水社と新潮社とちくま学芸文庫があるが、白水社は上記の全集を底本としているが、バーゼル大学赴任以降のものが訳出されている。ちくま学芸文庫版は上記の全集以前の版を底本としている(ex. ムザリオン版)。これは、ちくま学芸文庫版が理想社版のニーチェ全集の復刻版であり、理想社版が出版されていた当時はまだグロイター版が刊行されていなかったからである、それゆえ『権力への意志』と『生成の無垢』など、ニーチェの死後こ編者によって手が加えられたとされている著作も、ちくま学芸文庫版はニーチェの著作として組み込まれており問題含みなところがある。他方でちくま版には書簡の翻訳が含まれているという利点もあり、一長一短である。
白水社版『ニーチェ全集』
『ニーチェ全集』I、II期、全24巻、別巻1巻、白水社、1979−1987年。
第一期
- 悲劇の誕生 遺された著作(1870〜72年)
- 反時代的考察第1・2・3篇 遺された著作(1872〜73年)
- 遺された断想(1869年秋〜72年秋)
- 遺された断想(1872年夏〜74年末)
- 反時代的考察第4篇・遺された断想(1875年初頭〜76年春)
- 人間的な、あまりに人間的な:自由なる精神のための書(上)
- 人間的な、あまりに人間的な:自由なる精神のための書(下)
- 遺された断想(1876年〜79年末)
- 曙光:道徳的偏見についての考察
- 華やぐ智慧 メッシーナ牧歌
- 遺された断想(1880年初頭〜81年春)
- 遺された断想(1881年春〜82年夏)
第二期
- ツァラトゥストラはこう言った
- 善悪の彼岸
- 道徳の系譜 ヴァーグナーの場合 遺された著作(1889年):ニーチェ対ヴァーグナー
- 偶像の黄昏;遺された著作(1888〜89年)
- 遺された断想(1882年〜83年夏)
- 遺された断想(1883年5月〜84年初頭)
- 遺された断想(1884年春〜秋)
- 遺された断想(1884年秋〜85年秋)
- 遺された断想(1885年秋〜87年秋)
- 遺された断想(1887年秋〜88年3月)
- 遺された断想(1888年初頭〜88年夏)
- 遺された断想(1888年〜89年初頭)
別巻
- 日本人のニーチェ研究譜
ちくま学芸文庫版『ニーチェ全集』
『ニーチェ全集』全15巻、別巻4巻、ちくま学芸文庫。1993−1994年。
- 古典ギリシアの精神
- 悲劇の誕生
- 哲学者の書
- 反時代的考察
- 人間的、あまりに人間的1
- 人間的、あまりに人間的2
- 曙光
- 悦しき知識
- ツァラトゥストラ(上)
- ツァラトゥストラ(下)
- 善悪の彼岸 道徳の系譜
- 権力への意志(上)
- 権力への意志(下)
- 偶像の黄昏 反キリスト者
- この人を見よ・自伝集
別巻
- ニーチェ書簡集1
- ニーチェ書簡集2・詩集
- 生成の無垢(上)
- 生成の無垢(下)
概念解説
>>意味をわかりやすく解説: ニヒリズム / ルサンチマン / 永劫回帰
参考文献
須藤訓任責任編集『哲学の歴史第9巻 反哲学と世紀末【19−20世紀】』中央公論新社、2007年。