飲茶『史上最強の哲学入門』書評|わかりやすく要約・解説、おすすめ次読むべき著作は?

飲茶『史上最強の哲学入門』書評|わかりやすく要約・解説、おすすめ次読むべき著作は?

概要

 飲茶『史上最強の哲学入門』(マガジン・マガジン)は2010年に出版された哲学の入門書。古代ギリシアから現代哲学までの哲学の歴史を射程に納めている。後に文庫化される(河出文庫、2015年)。

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内容要約

 大雑把な内容は哲学の通史である。ただし区分が独特で、単に時系列順に哲学者が登場するのではなく、4つのステージ「真理の『真理』」「国家の『真理』」「神様の『真理』」「存在の『真理』」に分けて哲学の歴史が語られる。「真理」では順に、プラタゴラス、ソクラテス(無知の知)、デカルト、ヒューム、カント、ヘーゲル、キルケゴール、サルトル、レヴィ=ストロース、デューイ、デリダ、レヴィナスが登場し、国家では、プラトン、アリストテレス、ホッブス、ルソー、アダム・スミス、マルクスが、「神様」では、エピクロス、イエス・キリスト、アウグスティヌス、トマス・アクィナス、ニーチェが、「存在」では、ヘラクレイトス、パルメニデス、デモクリトス、ニュートン、バークリー、フッサールハイデガー、ソシュールが登場する。

 その具体的な内容はというと、例えば「真理の『真理』」のラウンドでは、デカルトやカントなどの哲学者が登場してきて、真理について彼らがどう語ったのかが明らかにされる。国家のラウンドではプラトンやマルクスが、神様のラウンドではイエス・キリストやニーチェ(ニーチェの概念:ニヒリズムルサンチマン永劫回帰)が、存在のラウンドではニュートンやハイデガーが登場する。もちろん哲学者同士で主張は異なる。それゆえちょっとした哲学の議論史にもなっている。

 哲学者ごとの内容は至って簡単。主著や略歴、有名概念(得意技)が最初に語られ、次に思想の説明へと移っていく。例えば不安の概念で知られるキルケーゴルの得意技は実存主義だ。また彼は「真理の『真理』」の項目で登場し順番的にヘーゲルの次なので、ヘーゲルの弁証法的真理観と対立する真理観として説明される。その真理観も作者がかなり噛み砕いて分かりやすく説明しているので、難しいと感じることはない。

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おすすめ&面白い点

各々の哲学者の思想がワンポイントで分かりやすく理解できる

 この入門書のおすすめの理由の一つ目は、ワンポイントで急所を抑えて哲学者の思想を知ることができる点である。

 哲学者は実はさまざまなことを語っている。途中から思想ががらりと変わってしまう人もいる。すると書き手としては、ああも言っているしこうも言っているしと色々盛り込みたくなるが、それだと分かりにくくなってしまう。この入門書では急所のポイントだけを抑えているので非常に分かりやすい。

 例えばカント(「真理」の『真理』で登場)の思想の説明では、哲学概念は「もの自体」しか出てこない。彼の真理観とは要するに「真理は人間によって規定されている」ということなので、専門用語は「もの自体」だけで十分なのである。このように簡潔に無駄を省いて説明されるので非常に読みやすくなっている。

各々の哲学者の思想の対決が理解できる

 四つの項目に分けたことで、様々な哲学思想家の対決を知ることができるのも本入門書の魅力である。

 例えば真理のラウンドを読みと、真理をめぐる哲学史を簡単に知ることができる。神話的な真理観に対して、絶対的な真理なんて無いとしたプラタゴラス。そのグロタゴラス的相対主義に対して、それでも絶対的な真理を追求することに意味はあるはずだといったソクラテス。しかし絶対的真理は見つからず、人間理性だけでは真理に到達できず、神の信仰が必要であるとなった中世神学。その後また理性の時代になって唯一確実な真理を追い求めたデカルト。このように思想の発展を明確に追えることができるのだ。

 個人的に面白かったのはソクラテスの項目である。ソクラテスは哲学の土台(真理の追求)を作った人だけれども、それは相対主義への対抗だったと述べられている。一般的にソクラテスの前の時代はソフィストの時代と言われてるが、真理の追求としての哲学は相対主義に対する抵抗として生まれたのだという哲学史観はとても興味深い。すごく新鮮な解釈だと思う。

感想・考察:物足りない点、注意すべき点。

 思想家の少なさ

 他方で、4つのラウンド(真理、国家、神様、存在)という項目に絞って思想史を語るという方法はデメリットもある。この系列に入りにくい思想家は排除されてしまうのである。

 有名どころでいうと、ライプニッツ、フィヒテ、シェリング、ベルクソン、メルロ=ポンティ、ウィトゲンシュタインなどである。例えば、ドイツ観念論というとフィヒテ、シェリング、ヘーゲルとなるが、細かくこの三人の思想を述べてしまうと煩雑になる。盛り込みすぎると難解になってしまうので、意図的に省いたのだろう。逆にイエス・キリストやニュートンが登場したりするのが面白い点ではあるのだが。

 各々の思想家の奥行き

 こちらは注意してほしい点であるが、例えば真理の項目にカントがいるからって国家とか神様とか存在について何も語っていないというわけではない。どの哲学者も結構網羅的にいろいろなことを述べているので、それしか語っていないと思いこむのは早計である。

 またプラトンやアリストテレスは普通なら真理の項目に入れても良い哲学者だが、そうすると国家の項目にいる哲学者が少なくなってしまう。目次を見てもらうと分かるが、真理ラウンドには12人、存在ラウンドは8人なのに対して、国家ラウンドは6人、神様ラウンドは5人である。これはかなり仕方ないことではある。哲学者は基本的には真理について語っているのだから。ただし例えばプラトンだったら、真理、国家、神様、存在、全てについて何かしら語っているので、重要なポイントだけを抑えている入門書であるということは念頭に置いておいた方が良い。

ステップアップ:次に読むべき著作はこちら

 『史上最強の哲学入門』に物足りなさを感じたらステップアップだ。次に何を読んだら良いのか、おすすめ著作を紹介するぞ。

方法序説

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 『史上最強の哲学入門』の各哲学者の項目にはその哲学者の主著が載っている。その主著に挑んでみるのも一つの手だ。

 おすすめはデカルトの主著とされる『方法序説』だ。有名な概念である方法的懐疑などが説明されている。方法序説自体が一般向けに書かれた本なので、各哲学者の主著の中ではかなり読みやすい著作だ。

これがニーチェだ

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 入門書にせよ、基本的に最後に参考文献が載せられている。参考文献というのは、執筆する上で参考にした著作ということなので、執筆に関して多大な影響を与えている。そして『史上最強の哲学入門』の参考文献の一つがこの『これがニーチェ』だ。

 この本は著者である永井均のニーチェ論なのだが、著者が読み込んだニーチェ論として独特かつ面白い。こういった見方・書き方に影響を受けて『史上最強の哲学入門』も執筆したのかもしれない。『史上最強の哲学入門』が面白いと思った人はこの本も面白く読めるはず。

ヨーロッパ思想入門

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 一風変わった哲学史入門である。ヨーロッパ思想はギリシャの思想とヘブライ(イスラエル)の信仰を基盤として成立しているという視点から書かれた本であり、ギリシャ思想とヘブライ信仰の言及を経て哲学史へと至る。

 『史上最強の哲学入門』もちょっと変わった視点からの入門書であった。今度はまた別の視点からの入門書を読むことで、さらに開けた哲学の理解を進めることができるのではないだろうか。

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