中動態とは何か|意味をわかりやすく徹底解説

中動態とは何か|意味をわかりやすく徹底解説

昔は能動態ー中動態だった?

 中動態とは何か。

 中動態の字面だけみると能動態と受動態の中間だと勘違いしてしまうかもしれない。強制されていながらも意志をもっておこなう行為、自発的でありながらも非自発的行為、中動態をそういった曖昧で中間で便利な行為の表現だと思い込んでいる人も多いと思う。

 しかしそれは完全な間違いだ。中動態の「中」に惑わされはいけない。

 能動態は「する」で受動態は「される」、能動態は「do」で受動態は「be done」で表現される。現在、動詞の態はこの二つしかない。ところが8000年以上前の時代、英独仏露語のもとになったインド=ヨーロッパ語には能動態でも受動態でもない中動態が存在していた。さらにプラトンやアリストテレスが用いていた古代ギリシャ語やサンクリット語にも中動態はみられるらしい。

 だとすれば古代ギリシャでは能動態と受動態に中動態を加えた、能動態ー中動態ー受動態システムだったのかというとどうやらそうではないらしい。受動態が存在しなかったのだ。動詞の態に受動態が存在せず、能動態と中動の二つからなる能動態ー中動態システムであった。どうやら受動態は後から生まれて中動態にとってかわったらしいのだ。

 動詞の態は、能動態ー中動態システムから、能動態ー受動態システムへと変化していた。とすると現在の能動態ー受動態システムの観点から中動態を説明するのはどうやっても無理が生じてしまう。それは新幹線がある現代の視点からみて、参勤交代で歩いた大阪から江戸までの距離を大したことがないと断じるくらい頓珍漢な話だ。

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中動態の定義

 能動態ー受動態システムの窮屈さを多くの言語学者や哲学者が感じていた。能動態でも受動態でも説明できない行為が日常に溢れているからだ。歩くという行為一つをとってみても、環境や意識を詳細にみてみると歩かされているのか自発的なのか、そもそも意識しているのかすら怪しくなってしまう。普段の行為すら能動態と受動態だけではしっくりこない。だから能動態や受動態ではない態、中動態が研究されるようになった。

 多くの学者が中動態を定義しているのだが、國分功一郎は『中動態の世界』の中で、その定義のほとんどが能動態ー受動態システムから逃れていないことを指摘し、能動態ー中動態システムのなかでなされる定義が正しいと推察する。そこで参考になるのがバンヴェニストの定義だ。

能動では、動詞は主語から出発して、主語の外で完遂する過程を指し示している。これに対立する態である中動では、動詞は主語がその座となるような過程を表している。つまり、主語は過程の内部にある。

バンヴェニスト, 1996

 ここで注意すべきは能動態の定義が現代のと異なることだ。能動態に意志や自発性は関係ない。能動は行為が主語から始まり主語の外で終わる過程のことである。この能動と対立する態として中動態がある。つまり中動は主語が過程の内部にあるのだ。これを踏まえて國分は中動と能動の対立を簡潔にまとめる。

能動と受動の対立においては、するかされるかが問題になるのだった。それに対し、能動と中動の対立においては、主語が過程のが問題になる。

國分功一郎『中動態の世界』医学書院、2017年、88頁

 失われてしまった中動態を復元し、中動態ー能動態の観点から物事を眺めることのポテンシャルはかなり大きい。このあと國分は中動態の観点からハイデガーやスピノザの読み解いていく。彼らが中動態という態を知らなかったがために言語化できなかった思想の可能性を國分は明らかにしていく。

 もう一つ注目されるのは中動態ー能動態の世界では、能動に付き纏っていた意志という概念が存在していなかったという事実だ。意志は責任につながったり時間に接続されたもする。こちらの展開もとても面白い。読んだことがない方は國分功一郎『中動態の世界』を是非確認してほしい。

参考文献

國分功一郎『中動態の世界』医学書院、2017年

こちらは哲学用語特集 – 〇〇とは何か – に収録されています。こちらもぜひご覧ください。

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