フェミニズムとは何か|歴史と意味をわかりやすく解説

フェミニズムとは何か|歴史と意味をわかりやすく解説

概略

基本的な戦略と簡単な歴史

 フェミニズムとは、女性解放の思想であり社会運動の総称である。

 古くは女性参政権の獲得に始まり、雇用の平等、家制度の批判・検討、ジェンダー規範への抵抗など、批判対象を変化させながら現代まで続く長い運動史をもつ。今日、若い世代がソーシャルネットワークを用いながら展開しているツイッターフェミニズムも、フェミニズムの運動史に連なるものである。

 フェミニズムの基本的な戦略は、(i)差別を暴き、(ii)改善することである。(i)は差別の告発や教育であり、(ii)は社会運動に属する。

 例えば、街中を歩いているとヒールを履いた女性が歩きにくそうにしている場合を考えてみよう。ヒールは女性が好き好んで履いているのだろうか、それとも、社会が女性に強要していて嫌々履いているのだろうか。強要していると考えるならば、ヒールに女性差別の社会的な構造を発見したことになる。先程の戦略でいえば(i)にあたる。ここからヒールを履かなくていいように社会構造を変革するべく、国民に問題提起をしたり制度的な改革を行うための運動をするのが(ii)にあたる。

 フェミニズムの運動における最初期に現れた、女性参政権の獲得運動を思い起こせばより明確になるだろう。フェミニズムの運動以前は、男性だけが参政権を持ち女性に与えられていないのは当たり前であった。その状況に違和感を持ち暴き立てるのが(i)であり、実際に女性参政権の獲得のために運動するのが(ii)である。

 したがってミクロとマクロな視点をもつのがフェミニズムである。生きづらさや違和感の原因が性差による差別にあり、それを暴き立てるならばその一連の運動はフェミニズムであるといえる。ようは差別のない性別に関わらず生きやすい社会を作ろう、というのがフェミニズムの根幹にあるのだ。

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錯綜するフェミニズムと混乱の原因

 フェミニズムが、女性差別を是正する思想およびその思想に基づいた社会運動、とすれば多くの人が同意するだろう。差別も不平等も無くしたほうがいいのは自明なことだからだ。しかし今日、フェミニスト(フェミニズムに同調する者)と一般人との間で、亀裂が生じ対立が先鋭化している。

 対立が先鋭化する原因の根幹には、「女性解放の思想」と「女性差別の是正」という言葉の曖昧さがある。解放とは何を意味するのか。何が差別と認定されるのか。是正すべき対象が定まっていないばかりか、差別への感度が人それぞれであるためフェミニストの間でも論争が生じている。

 これはフェミニストの歴史を知ると理解できるかもしれない。フェミニストの運動は歴史上、第一波フェミニズムから第四波フェミニズムの4つに大別される。ここでは概略を示しておこう。

 第一波フェミニズムは19世紀から20世紀前半、女性の精神的・経済的自立、教育の平等、参政権の獲得を求めた。第二波フェミニズムは1960年代から、ウーマンリブ(女性解放運動)の名のもとに、性別の役割分業や社会的なジェンダー不平等を告発、家庭の問題を対象に含めた。第三波フェミニズムは1990年代から、多様性などを重要視し「自分らしさ」を求めた。第四波フェミニズムは2010年代後半から、現在進行形で広がる新たなフェミニズムである。

 概略を眺めるだけで運動の幅広さに驚く。「女性差別を是正する思想およびその思想に基づいた社会運動」という一つの目標から、これだけのやり方が生じるのだ。歴史を経るにつれ批判の対象が公的制度から社会的な制度・慣習にり変化し、また人によって差別の認定が異なるため、外からみているだけだと複雑で戸惑ってしまう。

 これはフェミニストとその他の対立だけではない。日本のフェミニズム運動初期、1918年から1919年の間に、平塚らいてうと与謝野晶子の母性保護論争がある。どちらも女性の解放を求めたフェミニストだ。平塚らいてうは妊婦出産期の女性の国家による保護を求め(母性中心主義)、与謝野晶子は平塚の母性中心主義に反対し国家の保護に依存すべきでないと説いた。女性の解放と簡単にいっても、国家による保護を求めるか否かですら自明なことではないのだ。

フェミニズムにおける最も重要な「態度」

 だからといってフェミニストを面倒くさいとか理解できないとかと揶揄するのは早計だ。個別の対象で論争があるとはいえ、女性差別を無くそうという主張には、誰しもが同意する。つまり母性保護論争にしろ現代の論争にしろ、やり方や感じ方が異なるだけで、我々は到達目標を共有する同士である。

 ある対象を差別と認定するかは人によって異なる。だが、大事なことは「女性差別を無くそう」という主張に同意することだ。そしてこの主張を共有する相手を、意見が異なるからという理由で馬鹿にしないことだ。そうしないと議論は相手を貶すだけのメタ取り合戦になってしまう。

 もう一つフェミニストにとって大事なことは「態度」である。社会学者の上野千鶴子はフェミニストについてこう述べている。

フェミニストとは、みずからのミソジニーを自覚してそれと闘おうとしている者のことだからである。

上野千鶴子『女ぎらい』p.266

 自らのうちにミソジニー(女性嫌い)を発見すること、これこそがフェミニストの最も重要な態度である。勘違いしてはならないのは、女性だからといってミソジニーがないとはいえないことだ。いや、むしろ、こう断言してもいい。すべての人間にミソジニーが内包されている。男性だろうと女性だろうとである。

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歴史

 フェミニズムには歴史的に数度にわたり、運動の大きな波がきた。第一波は公的な制度、第二波は社会的な制度や習慣、第三波は自分らしさ、に重点が置かれている。

第一波フェミニズム

 第一波フェミニズムは19世紀中頃から20世紀初頭にかけて起きた、女性参政権や精神的・経済的自立、教育・職業の機会を求める運動である。

 とはいえこれが女性解放運動の最初ではない。1789年に起きたフランス革命では、フランス人権宣言に記された「人間」が「男性」を意味していることから、女性の権利を求めて抗議がおきた。自由を求めた人民による革命の初期から、女性の権利の問題は燻っていたのだ。

 この第一波フェミニズムの起源はアメリカと欧州にある。アメリカで奴隷解放に関わった人たちが女性の解放も求めたのだ。1848年、アメリカのセネカフォールズにおいて女性の参政権が認められたのを皮切りに、フランスやイギリスの各地で女性参政権が認められる。特に、第一次世界大戦の間に工場で女性が働いたことから権利を求める運動が盛んになり、多くの国で女性参政権が認められるようになる。

 戦中工場で働いていた女性たちは、政府のプロパガンダによって専業主婦が称揚され、家庭に入ることを幸福に感じる割合が増えていった。だが一方で、家庭の仕事と子育てに明け暮れることに不満を持つ者も増えた。参政権を得ただけでは女性解放は中途半端であり、家庭からも解放されなくてはならない。そのような意識が蔓延し、第二波フェミニズムに引き継がれることになる。

第二波フェミニズム

 第二波フェミニズムは1960年代後半から1970年代前半に広がった女性解放運動である。ウーマン・リブと呼ばれて日本にも輸入された。

 この運動の先駆けとなったのが、フランスの実存主義者ボーヴォワールの『第二の性』(1949年)である。「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」。この名言を画面に穴の開くほど見つめよう。ここでいう「女」とは社会規範としての「女」、つまり家事や子育てが得意で、男性を支えるという役割を与えられた人のことである。女性に求められる役割や属性は先天的なものではなく、歴史的、文化的、社会的に構築されたものなのである。

 この理論を基盤に置き第二波フェミニズムが誕生した。参政権や教育の機会均等を求めた第一波フェミニズムが公的制度批判であるとすれば、第二波フェミニズムは社会に蔓延する差別意識を暴き立てる。第一波が逃してしまった社会に蔓延する差別の構造を、第二波は告発し明るみにだすのだ。

 したがって運動は多岐にわたる。出産の自己決定権、性欲の自己決定権、家庭での役割、子育ての役割などなど、多くの対象が見直され是正されていった。一言で言えば「女性らしさ」からの解放といえるだろう。社会で前提とされる「女性らしさ」は、歴史的・文化的な構築物だった。この「女性らしさ」という規範から抜け出すこと、それが第二波の肝である。

 またこの時期のフェミニズムは理論的な発展が著しい。女性の権利を訴えるフェミニズムはほかの理論、例えばマルクス主義の資本主義批判や環境問題と結びつくことで、いくつもの新たな理論が生まれた。リベラル・フェミニズム、マルクス主義フェミニズム、ラディカル・フェミニズム、エコロジカル・フェミニズム。これらの理論は互いの欠点や有効性を批判しあいながら、それぞれの主張を鍛え上げることになる。

第三波フェミニズム

 第三波フェミニズムは1990年代からアメリカで広がった運動である。

 第二波は社会的権利を獲得してきた。このことが前提となった若い世代が次に目指したのが、「自分らしさ」の自らによる獲得である。理論的には個人主義と多文化主義を重視していて、運動の内容は多岐にわたる。

 誤解を恐れずに言おう。第二波が「女性らしさ」からの解放を目指したとすれば、第三波の目標は「女性らしさ」の構築である。第三波は第二波の真逆ではないか、と即断してはいけない。第三波のいう「女性らしさの構築」は自ら作り出す、自分だけの定義だからだ。

 例えば化粧を考えてみよう。第二派が注目するのは、男性社会における女性への圧力である。女性が身嗜みを整え綺麗な格好を強制されるのは、男性社会が求める「女性らしさ」に原因があると暴く。では第三波はどうだろうか。第三波はこの「女性らしさ」を男性の視線や社会の圧力に屈服せず自ら定義する。化粧をするのも身嗜みを整えるのも、自分のためであり選び取ったものである。

 日本でいえば1990年代に流行ったガングロを思い起こしておけばよい。当然ながら、ガングロは男性を喜ばせるためにやっているのではない。自分の好きなように着飾り、自分の好きなように定義を作り変えていく。このような軽やかで力強い独立した運動が第三波の魅力である。

第四波フェミニズム

 第四波は2010年代後半から本格化するようになった、SNSを用いた新たな運動である。

 特に有名なのが「#Me Too」運動である。有名人によるセクハラや過去の性的暴行をSNSで告発し、社会的な制裁が行われた。ハリウッドの女優や数多くの著名人がこの運動に参加したため、一躍注目が集まり世界的な運動になったのも特徴の一つだ。

 日本では「#Me Too」に影響を受けて、ハイヒールやパンプスを義務化する会社に抗議をする「# Ku Too」という運動がSNSを中心に2019年に起きた。「苦痛」と「靴」を掛け合わせた洒落た運動である。

 これまで表沙汰にならなかった性被害やセクハラが、今後もSNSを中心に告発されるのは間違いない。しかし第四波が今後どのような運動へと進むかは未だ未知数である。

 この運動とかぶる形で、男性の弱さを研究する男性学も注目されている。男性の弱さは「非モテ」の研究から発展し、強くあれという規範から如何に抜け出すかを考察している。

関連項目

母性のディストピア
不可能性の時代
動物論

参考文献

上野千鶴子『女ぎらい』紀伊国屋書店、2010年

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