『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』考察|SFアニメの傑作|あらすじ感想・伝えたいこと解説|押井守

『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』考察|SFアニメの傑作|あらすじ感想・伝えたいこと解説|押井守

概要

 『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』は、1995年に公開されたSFアニメ映画。監督は押井守。原作は士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』。

 邦画は他に『記憶にございません!』、『怒り』、『翔んで埼玉』、『君の名は。』、『君たちはどう生きるか』、『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』、『薬屋のひとりごと』などがある。

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登場人物・声優

草薙素子(田中敦子):

バトー(大塚明夫):

トグサ(山寺宏一):

イシカワ(仲野裕):

荒巻大輔(大木民夫):

解説・感想

世界各国で高い評価を得た

 本作が公開されたのは1995年である。なんと28年前と遠く昔のことのようなのだが、問われているテーマは今日も全く色褪せていない。2017年にルパート・サンダース監督が実写化したことからも分かるように、攻殻機動隊は世界中でカルト的人気を誇っている。ちなみにルパート・サンダース監督の『ゴースト・イン・ザ・シェル』で主役を演じているスカーレット・ヨハンソンは、結末で本作と似た世界観を提示する2014年に公開されたリュック・ベッソン監督の『LUCY / ルーシー』でも主演を務めている。ぜひこちらも観ておこう。

 原作は士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』なのだが、アニメ化された本作の内容は監督の押井守によって大幅に改変されている。押井は9年後の2004年に続編となる『イノセンス』を制作した。この作品は第57回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にて上映されており、カンヌのコンペ部門に日本のアニメーションが選出されるのは史上初の快挙であった。

 これまたちなむと本作は同年の毎日映画コンクールアニメーション映画賞の受賞を逃している。驚くべきことにこの年の受賞作品は、同年に制作された宮崎駿監督の『ハウルの動く城』ではなく、新海誠監督の『雲のむこう、約束の場所』であった。国外で押井が高く評価された年に、日本では次の世代の想像力が脈々と育ってきていたのである。

 舞台となる都市は香港の街を参考にしている。香港では高層ビルが密集して建ち並びそれが街の一つの魅了を作り出している。先進的なSF物語がゴミゴミして古めかしい街で展開される。そこには本来交わるはずのない二項が共存しているのだが、それが同時にあるところに不思議と惹きつけられる。雑多な街という地がSFという図を引き立て、逆に図が地を立体的に浮き上がらさせる。本作の妙なリアリティーはこうして作られているのだ。

考察

ネット空間の可能性

 ネット空間の可能性はどこにあるのか。

草薙素子:もし電脳それ自体がゴーストを生み出し、魂を宿すとしたら。その時は、何を根拠に自分を信じるべきだと思う?

ゴーストとは自我や意識などのことで、人間が固有に持つと考えられている。人間を肉体と精神に分けたときの後者がそれにあたる。題名の”GHOST IN THE SHELL”とは殻の中にあるゴーストという意味で、精神の所在を問うものだ。機械は殻、つまり精神の入れ物となる肉体を手に入れた。いまや機械と人間の見分けがつかないどころか、人間は機械化をしてその境界は混じり合っている。肉体の一部を機械化し、内臓を機械化し、そして脳まで機械化した。肉体を機械化し電脳化した人間は、どこまでが人間でどこからが機械と言い得るのか。

 人間とAIを分けるものはゴーストを持つか否かであった。しかし電脳がゴーストを生み出す可能性があると知ったとき、電脳化を果たした草薙素子は自分が人間である根拠を疑い出す。それは確かに難解で哲学的な問いである。これは1982年に公開されたSF映画の傑作『ブレードランナー』でも主題にされていた。それから13年後に本作が公開されているのだが、さらにそこから28年後の現代でも、この問題のアクチュアリティーは全く色褪せていない。

草薙素子:さて、どこへ行こうかしらね。ネットは広大だわ。

 草薙素子はネット空間に溶け合い、広大なネットの海に旅立つところが幕を閉じる。その間には人工知能の生殖の問題やアイデンティティーが問われ、答えのない問いを観客に突きつける。素子の宣言通り、ネット空間はその後爆発的に拡大し、Chat-GPTの登場で自己増殖する段階にまであと一歩のところまで到達している。広大なネットの海はこの映画が公開された当時、どちらかというと肯定的に捉えらていた。しかし今はどうか。ネットサーフィンという言葉が懐かしい。今やサーフィンをするための波はネット空間に存在しない。そこは海というより宇宙という比喩が相応しくなったのかもしれない。さて、どこへ行こうかしらね、と陽気に言う時代は遥か遠くへと消えかかり、現代は宇宙の広大さに恐れ慄き絶望している。

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