新批評(ニュー・クリティシズム)とは何か|意味をわかりやすく徹底解説

新批評(ニュー・クリティシズム)とは何か|意味をわかりやすく徹底解説

アメリカにおける新批評

 イギリスの英語英文学がどのようにして学問としての地位を確立したか。詳細は「文学史 – 文芸批評成立の前史*なるほう堂」を参照してもらうとして、今回はその中からアメリカの新批評にとって重要人物であるF・R・リーヴィスについて確認しておこう。

 リーヴィスはイギリス文学の価値改革運動で中心的役割を果たした人物であった。リーヴィスは文学の中に<生>という言葉に言い表すことのできない存在を感じ取り文学作品の価値づけをおこなった。リーヴィスの改革運動による影響はのちの世代にまで幅広く見られ、さらに新天地アメリカにも波及していく。リーヴィスに加えてI・A・リチャーズもアメリカとイギリスの文学運動の架け橋となった。イギリスで生まれた英語英文学の勃興と運動は、アメリカの新批評へと受け継がれていくのである。

 リーヴィスは文学の中に<生>というあやふやで絶対的な価値を見出した。しかし<生>はあやふやであるがゆえに、見かけのうえでは宗教的なもの変わらなくなってしまう。逆にリチャーズは科学的心理学を基盤に据えて思索を深めていく。リチャーズにとって真の知のモデルは現代科学であった。しかしながら現代科学は「どのようにして?」という疑問には答えることができても、「何故?」あるいは「何であるか?」というアイデンティティに関する問いには答えを用意していないという欠点があった。このような状況でリチャーズが注目したのが詩である。詩は「何故?」あるいは「何であるか?」という問いに回答を与えてくれると思われた。それはある意味で詩が精神療法の役割を担わされたということでもある。

 リチャーズによるイギリスからの橋渡しによって、1930-1950年代のアメリカで一世を風靡したのが新批評である。新批評の名付け親ジョン・クロウ・ランサムは南部社会に科学的合理主義とは異なる選択肢を認めていた。新批評のルーツは経済的に立ち遅れたアメリカ南部社会だったというわけだ。これはT・S・エリオットが求めた有機的社会と似たようなものである。ランサムは詩こそが科学的合理主義に対抗して、詩的反応こそが対象の感覚的統一性を獲得できるとした。

 新批評にとって詩はどのようなものであったのか。一言でいえば、詩は有機的統一を保っている、と考えられた。そしてそれを発見するために厳密に客観的な方法で、詩の中に「パラドックス」「アンヴィアレンス」「テンション」を発見し、相互作用の中で調和が取れている様を炙り出したのだ。この客観的な方法は、詩は作者の心的過程を観察できる透明な媒体という前提によって成り立っていた。つまり詩を読むとは、詩人の精神状態を私たちの頭のなかで再構築するということを意味していたのである。

新批評の問題点と受容

 上記のように詩をみることにはいくつかの問題がある。一つ目は作品すべてが自伝になってしまうこと。二つ目は宮廷恋愛、つまり作者の精神を直接に表すのは到底不可能そうなものを論じるのが難しいとういことである。新批評は取り扱いやすいものだけを論じ、それ以外は不問に付してしまうのである。

 新批評は詩を作者の意図からも読者の反応からも切り離して論じる。詩は透明な媒体で、読者と作者の精神がつながるというわけだ。意味は公的かつ客観的であり書き込まれていることだけが意味であって、作者と読者は存在しないのである。

 これは言い換えるならば、詩を物神に変えたということにならないだろうか。リチャーズが詩を透明なものとして非物質化したとしたら、新批評は再物質化してしまったのである。

 新批評が進化した時代は、アメリカ北部で文芸批評が専門化した時代でもあった。新批評は詩の有機性を発見できる形式的な方法を用いることで、批判していたはずの技術優先社会と同じ姿勢を再生産することになってしまった。

 1940-1950年代にかけて、新批評はアカデミズムの体制へと取り込まれていくことになる。それには主な理由が二つある。一つ目は詩さえあれば機械的に教えることができるため、増加する学生に対処するには手頃であった。二つ目は詩とは互いに斥け合う衝動を中和するという考えが、冷戦という状況でリベラル知識人に魅力的に映った。詩が教えてくれることは「公正無私の姿勢」というわけだ。しかしそれは文学が社会から遠く離れていく姿勢でもある。

 最後に新批評の根本的な問題点はもう一つあげておこう。それは新批評は詩しか取り上げることができなかったということだ。小説一般に応用できない以上、文芸批評として普遍性を得るには難しい。結局、新批評はアメリカで大変な盛り上がりをみせた割に、問題点は多かったのである。

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参考文献

テリー・イーグルトン『文学とは何か』大橋洋一訳、岩波文庫、2014年

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