現象学のおすすめ入門書・専門書を八冊紹介。難易度別に解説。

現象学のおすすめ入門書・専門書を八冊紹介。難易度別に解説。

現象学を学ぶためにおすすめの本

 現象学を学ぶといってもいろいろな段階があるので、超入門者編から専門編(大学生・大学院生)まで難易度別に人気著作を紹介することにした。現象学を楽しみながら知りたいという人は超入門者編、現象学を深く知りたいという人は初心者編の著作を読むべしだ。自分の欲求とレベルに合わせて読んでみることをお勧めする。

 また、プラグマティズムの入門書は「プラグマティズムのおすすめ入門書・解説書」、現代思想の入門書は「現代思想のおすすめ入門書・解説書」、哲学の入門書に関しては「哲学初心者向けの人気おすすめ入門書」、倫理学の入門書は「倫理学のおすすめ入門書・解説書」で紹介している。ぜひこちらもご覧ください。

超入門者編

漫画『現象学の理念』(2020年)

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 どんな入門書でも結局文字が多くて難しかったということがある。この本はそんなことはない。なぜなら漫画だからだ。

 「現象学の理念」は現象学の創始者フッサールの本の題名だ。それは現象学的還元という思想が明確に打ち出された著作(もともと講義)で、現象学の入門的性格を併せもつ。それでその『現象学の理念』を元ネタにして、ラーメン屋を舞台にしながら、現象学的還元とはこういうものだ!を描いたのがこの漫画なのだ。

 だから面白いし、ラーメンが実例となるので分かりやすい。現象学的還元はフッサールだけでなく現象学にとって超重要概念だ。この漫画版『現象学の理念』から、現象学が具体的に何を言っているのかイメージするところから入門してみてはいかがだろうか。

>>詳しい内容紹介: 『現象学の理念』紹介|内容解説とおすすめな点、次読むべき著作は?

初心者編

谷徹『これが現象学だ』(2002年)

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講談社
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 『現象学入門』とならぶ二大現象学入門書。『これが現象学だ』では現象学の誕生を巡りながら(第一節)、現象学が心理主義から論理学を経て(第二節)現象学となる過程(第三節)を詳しく語り(これはフッサールが現象学に至るまでの歩みでもある)、そこから対象の構成の問題、世界の構成の問題、時間と空間、そして他者の現象学的な様相を示していく。最後にはフッサール現象学に衝撃を与えた事実学としてのフロイトの精神分析の話題にまで広がっていく。

 中身はほとんどフッサール研究書のような様相を呈しており、幾分難解に感じられるが、この入門書を読めば現象学的思考がどのようなものかはっきりと理解できるだろう。あとがきで著者は「現象学は、自分に見えるものを、その始原から語ることを可能にする学問」であると述べている。その言葉通り、本書では段々と意識の始原へと、深く深く降りていき、その究極的な深層で直面する問題にまで光を当てている。現象学の深みを知りたい人にはこの本を買うしかないだろう。

竹田青嗣『現象学入門』(1989年)

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 これもフッサール現象学を前提とした現象学入門書であるが、『これが現象学だ』とはまったくスタイルが異なる。竹田によれば、現象学とは〈主観ー客観〉図式が生み出す謎を「独我論的前提」にたって解き明かそうとする学問であり、それこそフッサールの現象学だということである。それゆえ、現象学に対する俗流批判、例えば現象学は独我論だ!などの批判は現象学を理解してないと逆に批判されるというなんとも破天荒な入門書となっている。

 フッサール現象学に忠実な『これが現象学だ』と違い、サルトルやメルロ=ポンティ、ハイデガーが登場して、ハイデガー存在論と現象学を結びつけたりする。最後にエロス的現象学の項目もあり、彼の哲学である欲望論との接続も見られる。現象学的還元から構成の問題、生活世界間主観性の問題など基本概念も幅広く網羅しており、また用語解説が結構くわしいところもおすすめである。

木田元『現象学』(1970年)

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 基本的な現象学の歴史を知るためにはこの本が一番良いかもしれない。ハイデガーやメルロ=ポンィの翻訳者・研究者として知られる「現象学とは何か」入門である。

 ちょっとしたメルロ=ポンティまでの現象学運動史でもある。著者がハイデガーやメルロ=ポンティ研究者であったこともあり、フッサールに偏っているわけではない。扱われている現象学者はフッサール、ハイデガー、サルトル、メルロ=ポンティであり、最終章ではヘーゲルやレヴィ=ストロース、フーコー、マルクス主義や精神分析との関係の中で現象学の可能性が追究される。

 やや古臭い感は否めない。メルロ=ポンティまでしか扱っていないのもこの本の初版が1970年だからであり、構造主義などの関係で現象学の可能性が追究されるのも、現象学の時代が一旦終わったあとに出版された本だからである。ある意味で時代を感じる本ではあるが、入門としては網羅的なので一度は読んでみたい本として買っておくのも良いだろう。

上級者編

植村玄輝 編集『現代現象学ー経験から始める哲学入門』(2017年)

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 この本は現象学の解説をした本ではなく、現象学を現代哲学として蘇らせようとした著作である。副題にある通り、現象学は経験から始まる哲学である。そのことを前提にして、基本編(第1部)では「現象学とは何か」について概説され、応用編(第2部)では志向性、存在、価値、芸術、社会、人生という伝統的・現代的な哲学のトピックを現象学の立場から考察していく。

 もちろん土台となっているのはフッサール現象学なので、現象学の入門書としても読むことができる。フッサールの著作を読んだりして現象学の用語に慣れ親しんだ後、現象学をどのように現代に活用すれば良いのだろうかと考えたことのある人はこの本がおすすめである。

ダン・ザハヴィ『初学者のための現象学』

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 現代を生きる哲学者が書いた入門書。しかし哲学者が書いたものゆえにやはり難しい。ダン・ザハヴィはフッサール研究者であり、この著作でもフッサール現象学を下敷きに現象学を解説しているが、そこにメルロ=ポンティ的な現象学も混ぜ合わせようとするなど、現代に即した現象学を示そうとしている。

 翻訳でもあり、文体もいささか難しいのであるが、本書を読めば新たな現象学の可能性が開けるかもしれない。

田口茂『現象学という思考』(2014年)

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 「確かさ」と「自明性」をキーワードにフッサール現象学を下敷きにしながら、現象学の考え方を提示した著作である。しかし、フッサールが用いてない概念や言葉遣いも用いられ、フッサール現象学の域を超えた田口茂の現象学の本でもある。

 現象学という思考プロセスが現代にどう活かされ、どう発展したか、フッサールの現象学を学びながらも新たな刺激を得られる良書である。

専門編

ヴァルデンフェルス『フランスの現象学』

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 現象学はドイツで開始(フッサール、ハイデガー)されたあと、フランスに渡りそこでさらなる隆盛を図った。そのハイデガー以後の現象学の歴史をフランスに絞って解説したのが、ベルンハルト・ヴァルデンフェルスの『フランスの現象学』(法政大学出版局、2009年)である。

 サルトル、メルロ=ポンティ、リクール、レヴィナスらにおける現象学の独自の発展を辿り、またマルクス主義や構造主義との交錯からデリダに至るまで多様な運動を射程に収めた大著である。フランス現象学の全貌を知るためには、この著作がうってつけである。

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